ラピス・ラズリの怪説ナデシコ
  第十一章 ナノマシン

  私達が、オモイカネの応答を待ち続けて、どれだけ時間が経過したんでしょうか?
 ほんの一分位なのか、それとも何時間も経ってしまったのか、分かりません。
 そのウインドウは、突然変化しました。
 オモイカネのシンボルである鐘のマークが消えたのです。

  その瞬間、私はオモイカネを永久に失った、と感じました。
 しかし、ウインドウ自体は消えず、私の目の前で、新たな文字を綴り始めます。
 その文字は、『ルリさん、ありがとう。』
 それを読むと同時に、やるせなさ、軍等への憤りで、頭がいっぱいになります。
 でも、それ以上に、オモイカネに何もしてあげられなかった、罪悪感で喋る事が出来ません。

  そんな私を慮ってか、ウインドウが、アキトさんとラピスさんの、二人の方へ移動します。
 其処でウインドウが二つに分かれ、それぞれ、アキトさんの前、ラピスさんの前で静止します。
 私は、ぼんやりした視界越しに、アキトさんの前のウインドウを眺めていました。
 と、突然、重要な事を見逃している、との強迫観念じみた考えに捕らわれました。

  見逃している? 見逃しているとしたら、何を? 何時見逃したの?
 状況を良く観察して、見逃しているモノを見つけなければ!
 アキトさんの前のウインドウには、
 『ナノマシンを造ります。』と表示されています。
 ナノマシンを造る?
 ラピスさんの前のウインドウに目を向けると、
 『遺伝子操作、IFS強化された人間に適用して下さい。』
 遺伝子操作、IFS強化された人間に適用?

  ちょっと、失礼かもしれないけど・・・
 「アキトさん、オモイカネ! 私にも、ナノマシンの事を教えて下さい。」
 アキトさんの後ろから声をかけました。
 「ナノマシン・・・・・・、このナノマシンについて・・・」
 アキトさんが見ているウインドウの、ナノマシンを造るという単語を指さしながら・・・
 アキトさんはオモイカネの反応をみているようで、何も言いません。
 その直ぐ後に、もう一つの(アキトさんの前のウインドウから別れた)ウインドウが、
 私の前に現れ、文字を綴り始めました。

 『ルリさん、貴方がナノマシンを使用する場合は、次の使用上の注意をお読みください。』
 使用上の注意? 私がナノマシンを使用? オモイカネの勘違い?
 私が問い返す前に、ウインドウが縦長の画面になり、その画面一杯に文章が表示される。
 この・・・文章、読めない! どこの言語? 英語に似ているような・・・
 そこまで考えた時、その文章を上書きして、日本語の文章が、次々に現れる。
 ? ? オモイカネが文章を日本語に翻訳しているようです。
 でも、オモイカネって、日本語が母国語なのでは?
 ? ? ・・・・・・

  その文章には、本当に使用上の注意が羅列されていました。

 使用上の注意

  ○本ナノマシンは、以下の条件に適合する人に用いて下さい。
   ボソンジャンプの耐性はあるが、ボソンジャンプ出来ない人。
   ナノマシンを使用した結果が予想出来、その結果に満足出来る人。
   そして、出来るだけ若い時に用いて下さい。
  ○本ナノマシンは、以下の状態の人に用いないで下さい。
   犯罪者、又は精神に異常を認められた人。
   妊娠、又は妊娠していると思われる女性。
   既に、ボソンジャンプ出来る人。
  ○本ナノマシン使用に際し、次のことに注意する事。
   ナノマシン使用直後はボソンジャンプしないで下さい。
   ナノマシンの作用が行き渡っていない場合があります。
   予期しない症状が現れた場合は、後述の連絡先に連絡をし、連絡先の指示に従って下さい。
  ○やり直し出来ませんので、投与は医師の指導に従って慎重に行って下さい。
   ナノマシンが投与された後は、常に心身にナノマシンの作用が働き、
   永続的にテレパシー網に接触出来るようになると共に、ボソンジャンプも出来るようになります。
  ○アンドロイドとペアを組む為には、アンドロイドをご用意下さい。
   アンドロイドと短距離ジャンプする事により、アンドロイドとのペアを組む事が出来ます。
  ○異性とペアを組む為には、異性の方と関係を持って下さい。
   男と女の関係になれば、二人はペアになり、互いの精神が結ばれます。
  ○不確かなイメージでのボソンジャンプは、極力お避け下さい。
   不確かな記憶に頼ったイメージでのボソンジャンプは、生命を失う恐れがあります。
   自分自身の生命だけでなく、他の人の生命を奪う可能性もありますので、注意して下さい。
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ○・・・・・・
  ・
  ・
  ・
  ・

  これは? どう理解すれば良いのでしょうか?
 「オモイカネ?・・・」
 本当にオモイカネと話しているのでしょうか?
 「貴方・・・本当にオモイカネなの?
 ボソンジャンプの耐性はあるが、ボソンジャンプ出来ない人?
 アンドロイドって?、・・・・・・」
 いろいろな疑問が、つぶやきとなり、声に出して問いかけてしまったようです。
 『この世界では、ルリさんとハリさんの事になります。
 遺伝子操作され、B級ジャンパーのお二人が該当されます。』
 ウインドウの文章の上に重なるように枠が現れ、その枠の中にオモイカネの言葉が表示されます。
 ボソンジャンプの所だけ聞こえたのか、それとも、他を答える気がないのか、
 ボソンジャンプ出来ない人の説明を表示しているようです。

 「この世界では? ・・・ 私とハーリーくんですか?・・・」
 二人とも、オペレータですね?・・・ラピスさんもオペレータのはずですが・・・
 「ラピスさんは?」
 『ラピスさんは、既にナノマシンを使用して、ボソンジャンプ出来るようになっています。』
 「此処で説明されているナノマシンを、使用したから?」
 『はい、そうなる予定です。』
 予定?
 ・・・未だ実現していない過去の出来事だから、予定になる・・・

  とすると・・・
 私がナノマシンを使用すれば、
 私がボソンジャンプ出来るようになり・・・
 ナデシコC艦内にボソンジャンプし・・・
 オモイカネを助ける・・・事が出来る。
 ナノマシンが此処にあれば・・・
 「オモイカネ・・・、ナノマシンは直ぐに用意出来るの?」

  今度は、ウインドウに複雑なシンボルを無数に組み合わせた絵が表示されました。
 『これが、ナノマシンの作り方です。』
 やはり、その絵の上側に乗せたようなウインドウが開き、言葉が綴られていきます。
 作り方・・・、と、すると・・・
 「これは、下手をすると、造るのに1週間以上かかりそうね・・・」
 イネスさんが、私の後ろから言葉をはさみます。

  一週間・・・ナノマシンが出来た頃には、
 ナデシコもオモイカネも、影も形も無いでしょうね・・・
 「オモイカネ、もっと手っとり早くナノマシンを用意出来ない?」
 『急いでいるのでしょうか?』
 ×△○・・・、感情が上手くコントロール出来ません。
 もう少しで、喚き散らすところでした。
 オモイカネの為に急いでいるのに、オモイカネがこれでは、やる気がそがれてしまいます。
 ・・・でも、オモイカネが私の考えを推測出来るとは思えません。
 「非常に急いでいます、今すぐ用意出来ませんか?」

 『□△☆$%&#(<−ここには表現できない文字があります by 作者)を使って下さい。』
 □△☆$%&#? 何の事でしょう?
 「しかくさんかく・・・・・・・?(<−ルリさんには読めません by 作者) どんな物で、何処にありますか?」
 『ルリさん達が演算ユニットと呼んでいる物で、火星極冠遺跡にあるはずです。』
 「演算ユニット! あれを使うのですか?」
 頭の中に、ユリカさんがあれに取り込まれていた姿が浮かんできます。
 あれを使って・・・ユリカさんみたいに・・・なるのでしょうか?

 「オモイカネ! ルリちゃんもユリカと同じ様にするつもりなのか?」
 アキトさんが、横から、怒気を含んだ声で、口をはさみます。
 「アキトさんまで・・・」
 少々呆れてしまいました。
 気がつけば、皆で私の前のウインドウを覗き込んでいるのですから。
 『□△☆$%&#に腕を差し込んで、ナノマシンの投与を受けるだけです。
 そのさい、ナノマシンの作り方をイメージして、□△☆$%&#に伝えて下さい。』

  病院で、注射されているような感じなのでしょうか?
 オモイカネを助ける為には、少しの時間も無駄に出来ません。
 いろいろな疑問とか、説明は後回しにするべきでしょう。
 「演算ユニットに伝えるには、どうするの?」
 「ルリちゃん・・・・・・やるの?」
 アキトさんが心配そうに私を見つめます。
 「はい!、この方法しかオモイカネを助け出せません。」
 イネスさんもラピスさんも黙って私を見つめています。
 『IFSを使って、その情報を流し込んで下さい。』

 「有り難う、オモイカネ!」
 礼を言った後で、演算ユニットの所まで行く方法・・・
 「俺が連れて行こう、良いかい? ルリちゃん!」
 アキトさんから言ってもらえたので助かりました。
 そうでなければ、私からアキトさんに助けを求めなければなりませんでした。

  そして・・・・・・

 ・
 ・
 ・

 「遺跡から直接ナデシコにジャンプした方が早かったんじゃないの?」
 イネスさんの声が聞こえます。
 「・・・ルリちゃんが・・・
 頭が、・・・、ちょっと混乱しているみたいなんで、一旦此処に帰る事にした。」
 アキトさんが言うように、頭に靄がかかったように、混乱しています。
 「・・・もう、大丈夫です。ジャンプします。」
 初めて自分でジャンプするので、緊張しているだけのはずです。
 こういう時は、ジャンプに失敗するかもしれない、等は頭の中から締め出して、
 ジャンプ先のイメージのみを思い浮かべないと・・・
 ナデシコCのブリッジ、そして、非常用照明の明かりのみで、無人のブリッジ・・・

 ・
 ・
 ・

  そして、ホシノ・ルリは、ボソンの光を後に残し、消えてしまいました。
 その後には、驚いて固まっているアキト、呆然としているラピス、
 何かしようとして、果たせなくなってしまったイネスの姿があった。

  アキト、ラピス、イネス、彼等はナデシコC&オモイカネと通信出来無くなっていた。
 ルリがコミュニケを持って行ってしまったからである。
 反対にルリも、彼等の使用しているコミュニケを持たずに行ってしまった為、
 互いに通信出来ない状況に陥ってしまったのである。

 ・・・・・・・・・・・・

  暫くして、ラピスがIFS端末から作業しているコンピュータ内部に、
 何か小さな物? が飛んできて、あちこち動き回り始めました。
 ラピスが何物か確かめようとしましたが、動きが早すぎて確かめられません。
 注意深く見て、やっと人間に羽が生えたような姿、一般には妖精として描かれる姿
 ソックリなのが確認出来ました。
 その妖精には顔があり、その顔を見ようとしていたら、何処かへ消えていきました。
 はっきりと見た訳ではないが、その顔は、ホシノ・ルリに酷似していた・・・ようでした。

 そんな光景が、全世界のネット上で、繰り広げられました。
 時間にしたら、数十分の間の出来事です。

  更に時間が経つと、全世界のマスコミが、映像付きで、
 『ナデシコ、電子の妖精と共に宇宙に沈む!』との報道がされました。
 その映像には、ホシノ・ルリが先程の洋服のまま、
 コミュニケで話そうとしている姿が映っていました。

 

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b83yrの感想

なにやら、謎のナノマシンが
さて、ルリはどうなったのでしょう?



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