ラピス・ラズリの怪説ナデシコ
  第九章 記憶マージャン

  長い時を経て、人が誕生する。
 二本足で直立し、歩行する。そして、道具を使用出来る手。
 その道具の作成と工夫から脳が発達する。それから言葉が生まれる。
 産業革命、原子力の開発、宇宙への挑戦等を経て超科学時代へ。

 「アキト、これはアキトの記憶なの?」
 「! ラピス、どうした?」
 ラピスがアキトに牌を見せる。その牌の絵柄はアキトの顔らしきものである。
 「俺の記憶か? ん〜〜〜む、超科学時代って?」
 「相転移エンジン、ディストーションフィールド、グラビティブラスト等の事?」
 「俺の記憶じゃないような・・・」
 「・・・・・・」

  アキト達は、記憶マージャンをしている最中である。
 記憶マージャンで使用する牌は、牌の中に誰かの記憶が入った物である。
 その牌の絵柄は、記憶の持ち主の顔等である。
 此処で記憶マージャンをしているメンバーは、
 ラピス・ラズリ、ミスマル・ユリカ、テンカワ・アキトと謎の青年である。
 そして、テンカワ・アキトと謎の青年の顔がそっくりなので、
 牌の絵柄で、テンカワ・アキトと謎の青年の区別がつかない状態となっているのである。

 「ラピス! これは奇怪しいぞ。」
 今度はアキトがラピスに牌を見せる。
 「これは・・・・・・私達の歴史・・・で、これは有り得ない。」
 その牌には、人が成長し、男と女が結ばれた時、互いに精神が繋がる。
 ようするに、その男女は互いに考えた事が分かり合えるようになる。
 そして、その男女のどちらかが別の相手と結ばれた場合、
 精神の繋がりが、新しい相手に変更され、
 あふれた男か女は、精神の繋がりを失う。

  アキトとラピスは、席が隣り合っている事を利用し、
 関係していると見られる牌を選んで互いに見せあっている。
 そんな彼等の事等を気にかける余裕も無いほど、青ざめた表情で牌を見つめているのが、
 アキトの対面に座っているミスマル・ユリカ。
 そして、ラピスの対面に座っているのが、能面のように無表情、無口なアキトのそっくりさん。
 今は、アキトもそっくりさんも再びバイザーをかけている。

  アキトとラピスが見た牌から分かった事は・・・
 超科学時代の大まかな事柄。
 ディストーションフィールド、グラビティブラスト、相転移エンジン等から始まり、
 人間とそっくりなロボット−アンドロイドの登場。
 そのアンドロイドとの精神的な繋がりを可能にする技術。
 人間と人間、人間とアンドロイドとの精神的な繋がりを太陽系全域で可能にした、テレパシー網。
 物質を瞬時に違う場所に移動させる、物質転送機。
 そのテレパシー網と物質転送機を組み合わせることにより可能となったのがボソンジャンプ。

  当初、ボソンジャンプは短距離しかジャンプ出来なかった。
 長距離をジャンプしようとしたら、異世界にジャンプしていた。
 長い期間、長距離ジャンプ出来ない時代が続くが、ついに長距離ジャンプが可能になる。
 だが、それらを築き上げた彼等に、種族滅亡の危機が訪れる。
 子供が生まれなくなったのだ。その解決法を求め、彼等は異世界を探索するようになった。

 ・ ・ ・

 「他のはアキトの記憶?」
 「ナデシコAの時のものか、俺の・・・」
 ・・・・・・
 「?」
 「? 俺はナデシコAには乗っていたけど・・・
 ナデシコBやナデシコCには乗っていなかったはずだが・・・」

 「アキトの記憶ではないの?」
 「ああ、俺の記憶ではない物が多いな。」
 「そうすると・・・」
 二人はバイザーに黒いマント姿の青年を見つめる。
 「この男・・・・・・何者なんだ?」
  アキト達は、記憶マージャンを続けることにより、
 黒いマント姿の青年の事が他にも分かるのではないかと他の二人に注意を戻す。
 黒いマント姿の青年は相変わらず無口、無表情だが、
 アキトがユリカの青ざめた表情に気がつく。
 「ユリカ! 顔色が悪いぞ!」
 「あっ、私? な、何でもないよ。」
 苦しそうな表情で言われると、何かがあるのを確信してしまう。

  アキトは、ユリカが未だ自分の事を見知らぬ者のように見ているので、
 ユリカの事は無視しても良いのだが、そうもいかずユリカの事を考えてしまう。
 まず、ユリカの顔色が悪くなったのは、牌を見たのが原因と思われる。
 ユリカが見ていた牌は、ラピス以外の三人の記憶の何れか。
 黒いマント姿の青年とユリカの関係は不明なので除外できないが、
 ラピスとユリカは会うのは初めてのはずだから、この場合は除外出来るはず。

  記憶マージャンが再開された時、アキトはユリカが見ていた牌を何処に戻すか
 注意深く見ていた。
 そして、ツモした牌を入れる位置と、捨て牌を出す位置から、
 ユリカが見ていた牌は、ユリカ自身の記憶だと推測。

  今回もラピスに協力を求め、今度はユリカの記憶の牌を二人して集めだした。
 その結果・・・
 「アキト・・・・・・」
 「・・・ラピス、我慢しなくていいぞ、このユリカの記憶は出来るだけ見るな!」
 「・・・そうする。」

  アキト達が集めたユリカの記憶には、アキトとユリカが新婚旅行でシャトルの事故に
 遭ってからの記憶が入っていた。
 多分、遺跡の演算ユニットへのイメージ翻訳をしている時に見た夢と思われる。
 問題は、その記憶のされ方、その記憶にはアキトとユリカが登場するが、
 アキトとユリカの二人ではなく、アキトとユリカの二人組が、同時に何百組と登場し、
 その二人組が最後にそれぞれ違う目的地をイメージして消えてゆく。

  二人組のひとつだけを見ると普通の夢と変わらないが、それが同時に何百組となると、
 普通の人間が見る夢とは思えない。
 それも、鏡に写っている様に同じ状態の二人組が何百組ではなく、
 それぞれ異なる状態の二人が、何百組も現れる。
 ひとつの組が開始する・・・そして少し時間を置いて別の組が開始する・・・
 その状態が延々と繰り返される。
 この状態も永遠に続く訳ではなく、終わりがやってくる。
 ひとつの組が目的地をイメージして消えてゆく、そして少し時間を置いて別の組が消える。
 ついには最後の組が消える。

  その夢も一回では終わらず、何百回と繰り返される。
 一人の人間が見る夢としては異常である。
 アキトは火星の後継者達の実験中、何も情報を与えられない状態にされたが、
 ユリカの場合は、逆に異常に多くの情報を与えられたと考えられる。

  アキトとしては、何とかしたいのだが、これはユリカの過去の記憶である。
 既に経験している過去を変える方法をアキトは知らない。
 ボソンジャンプして過去に行っても、既に過去の事柄になってしまった事を
 変える事は出来なかった。

  アキトはこれ以上ユリカの夢を見ていても得る物はないと判断、
 それに、その夢を見れば苦痛を伴うので、
 ユリカの夢の記憶が入った牌は、全て捨てる事にした。
 ラピスにも苦しい思いをさせたので謝り、同じ様に牌を捨てるように言う。

 ・
 ・
 ・

 「あれ? 何で同じ場面が二つある?」
 アキトは、二つの牌を見つめる、自分の顔の牌を。
 その牌の中の記憶は微妙に違っているように思えるのだが、
 具体的に何処が違うかと問われれば、答える事が出来ない。
 その牌の中にある場面とは、ナデシコA時代にオモイカネ内部に入り、
 オモイカネの自意識と戦った場面。

  アキトは、その時、居た人間を思い浮かべた。
 アキトとユリカ、ルリとウリバタケの4人である。
 その内の二人、アキトとユリカが此処に居る。
 しかし、ユリカは外から見ていたはずだから、まるで自分が戦っているような
 記憶にはならないはず・・・

  アキトは、今自分が考えた事を、もう一度くりかえしてみる・・・
 まるで自分が戦っているような・・・
 その時の闘いは、アキトとオモイカネ・・・

 ・・・・・・

 もう一度二つの牌の記憶を見て、アキトは確信する。
 オモイカネが黒いマント姿の青年を演じているのだと・・・
 何故、オモイカネがアキトそっくりの黒いマント姿の青年になっているのかは
 不明のままだが・・・

  アキトは、黒いマント姿の青年に向かって
 「お前・・・オモイカネだろう?」
 「・・・・・・」ラピスは不思議そうにアキトを見つめる。
 「? ? ?」ユリカはアキトが言った事が理解出来なかったようだ。
 肝心の黒いマント姿の青年は、今回も無表情で、何も言わなかった。
 ただ、アキトにはその姿が何となく悲しんでいるように感じられた。

  ゲームが終わった後、アキトはユリカに声をかけずにはいられなかった。
 「ユリカ、お前も元の世界に帰るんだろう?」
 「・・・やっぱり、夢なんだ・・・、ラピスちゃんがいるから・・・
 夢じゃないと思ったのに・・・」
 「ユリカ・・・」
 「私は夢から覚める事が出来るのかな?
 ・・・今迄、何度夢から覚めて現実の世界に戻りたいと思ったか・・・」
 「・・・・・・」

  アキトは、ユリカの言葉に答える事が出来なかった。
 アキトとラピスは、此処に来た方法は、此処に来たいと思っただけ。
 帰る方法も、元の世界に戻ろうと思うだけと推測しているが、
 ユリカはその方法では帰れないと言っている。
 ユリカは帰れなかったが、アキト達は帰れるかもしれない。
 実際に試してみないと分からない。
 しかし、実際に試してみて、アキト達が帰れた場合、
 ユリカがどうやれば帰れるのかは不明のまま・・・

  とにかく試してみるのが先決。
 アキトはラピスに向かい、ただ一言。
 「帰ろう。」

 ・
 ・
 ・

 「イネスさん・・・ただいま。」
 「・・・気がついた。良かった何処かの過去にでも行ったんじゃないかと心配していたのよ。」
 「ラピスは?」
 「気がついたみたいね。」

 

第十話へ進む

異味さんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2


b83yrの感想

プレートの謎や、ユリカの事も段々と出てきましたね

さて、ユリカはちゃんと目覚める事が出来るのか



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送