ラピス・ラズリの怪説ナデシコ
  第六章 ボソンジャンプ

 「此処は何処だ?・・・それよりも俺の身体は?」
 俺は、まず自分の身体を確かめた。
 ふう〜っ、一番心配していた、精神のみが何処かに入った状態ではないらしい。
 ? どうして俺一人の視界なんだ?
 いつもは、俺とラピスの二重の視界が見えるはずなんだが?
 少し調べて原因がわかった、ラピスは未だ眠っているのか、目を閉じた状態なので、
 俺一人の視界しか無かった訳だ。

  俺が起きていて、ラピスが眠っている状態。
 この状態は、俺達には不都合な状態だ。
 反対に、ラピスが起きていて、俺が眠っている状態も俺達には不都合だ。
 一番都合がいいのは、起きる時も寝る時も二人同時にというのが一番都合がいい。
 理由は、眠れないから。
 その訳は、どちらか一人が起きていた場合、もう一人の精神に刺激を与える為。
 直接精神を刺激される為、大抵起きてしまう。
 失神しているか、起きる事が出来ないほど弱っていれば起きないとは思うが・・・

  今迄のように、俺がラピスに合わせる方が良いだろう。
 子供の方が睡眠時間が多く必要なので、俺の方で睡眠時間を合わせていたのだ。
 この、睡眠時間を合わせるといっても、寝た振りをすれば良いって訳ではなく、
 相手の精神に影響を与えるような事を考えるな、ということになる。
 何も考えないで起きていられれば良いのだが、普通人間は何か考えてしまう。
 その時、相手の精神に大きな影響を与えれば、心臓に悪影響を及ぼしてしまう。

  そこまで考えていると、ラピスが目を覚ましそうな気配を感じた。
 起きそうな気配とは、ラピスの目や耳からの情報が断片的に入ってくるのである。
 俺達は、精神が繋がっているのであって、目や耳が繋がっているのではない。
 だから、相手が無意識でも、見たもの聞いたものを脳が処理すれば、相手にも伝わる。
 反対に、目の前にあって見つめていても、近くで音がしていても、脳が処理していなければ、
 相手に伝わらない。
 熟睡している時に声が届かないといった現象である。
 そして、起きる前に脳が働きだすので、その気配を感じる。

 (アキト、身体はある?)
 「あぁ、身体も精神も一緒だ。」
 (此処は・・・)
 「ユーチャリスの中だと思う。」
 (間違いないけど・・・)「ユーチャリスは火星に向かって落下中。」
 ユーチャリスのオペレート中は、声を出しているので、両方ともラピスのせりふ。
 この表現だと、分かり辛いので、以後ラピスが声を出している場合でも( )を使用。
 「火星? 何故?」
 (ユーチャリスの記録によると、木星の公転軌道上から、時間をかけて此処まで落下してきて、
 この近辺で火星の重力につかまっている。)
 「ラピス、地上までは・・・」

 (アキト、急いでユーチャリスを避難させる必要がある。)
 「避難? 何故?」
 (相転移砲を使っている。)
 「相転移砲? そんなもの使われたら、ユーチャリスでも耐えられないぞ。」
 (火星極冠遺跡の上空で相転移砲を使って戦闘中、ユーチャリスは気づかれていません。)
 「そうか、気づかれていないのなら、このまま傍観、
 戦闘に巻き込まれない場所を捜して着陸してくれ。」

 ユーチャリスは無事着陸。
 「ラピス、通信を傍受出来るか?」
 (・・・・・・通信傍受開始。)
 ・・・
 『アイちゃん待ってろ・・・』
 『お兄ちゃん・・・』
 ・・・
 「! 俺とアイちゃん?」
 ・・・ナデシコAで遺跡を飛ばす前の時間に戻ってきた?
 俺達はそのまま傍受していたが、あの時を思い出しているのだが、
 こんな場面? あったかな?
 遺跡内部でアイちゃんと俺が会っている?
 俺は間に合わなかったはずだが・・・

 「ラピス、この場面の5分前から、もう一度映像を再生してみてくれ。」
 俺はもう一度映像を見てみた。
 「こ、これは、過去へのボソンジャンプ!」
 テンカワアキトは、遺跡内部で過去へのボソンジャンプをして、アイちゃんと会っている?
 ? 頼まれ物、プレートを持っているはずだが、アイちゃんは何も言おうとしていない。
 ・・・・・・
 アイちゃんはプレートを持っていないのか?
 それにしても、アイちゃんがなかなか過去へボソンジャンプしないな?
 テンカワアキトとアイちゃんが抱き合ったまま、動きが無くなっている。
 通信もしなくなった?

 「ラピス、通信の傍受が出来なくなったのか?」
 (通信の傍受不可、原因はわかりません。それより、ユーチャリスが遺跡に吸いよせられている。)
 「まずいな、見つかってしまう。」
 (他の艦は見当たりません。)
 「? 何処へ行ったんだ? とにかく、ディストーションフィールド展開。」
 (ディストーションフィールド展開中、いぜん遺跡に接近中。)

  ユーチャリスの前方に遺跡?
 何故遺跡の下部が見える?
 それに俺達の他に居た艦は何処に消えた?
 そして火星? 火星の大地は何処に行った?
 此処には遺跡とユーチャリス以外何も無かった。
 そして、遺跡の下部−演算ユニットが在るあたりから、強烈な光が漏れだしている。
 その光の奔流が俺達を包み込んでゆく。その中をユーチャリスは遺跡へと向かっていく。
 見えるのはまばゆい光の乱舞のみ。
 「ラピス、逃げられないか?」
 (ダメ、力が違いすぎる。向きを変える事も出来ない。)
 「・・・ディストーションフィールドを展開させたまま、様子を見よう。」
 遺跡からの光が漸く薄れてきた。
 そして、その後の光景を見て俺達は唖然として声も出せなかった。
 俺達と遺跡の間にはユーチャリスが通れるだけのスペースがあったが、
 その空間以外は、演算ユニット−ミスマル・ユリカが演算ユニットに取り込まれていた
 状態の時の演算ユニット−で埋めつくされていた。

 「遺跡がこの世界を食った?」
 (ユーチャリス遺跡に接近中。もうすぐ遺跡に入ります。)
 「・・・ラピス、驚かないのか?」
 (・・・驚いている。けど、驚いて操艦を止めたら生き残れない。)
 「・・・・・・」
 (遺跡に到着、遺跡に入ります。ディストーションフィールドは展開したまま。)
 「俺達はどうなるんだ?」
 (・・・ボソンジャンプします。じゃんぷ。)
 って、俺達がジャンプした訳ではなく、勝手にジャンプさせられた。

 ・
 ・
 ・

 「此処は何処だ?」
 (火星極冠遺跡の近く。)
 「今のは夢だったのかな?」
 (夢ではなく現実。ユーチャリスで録画しているので再生出来る。)
 「・・・まいったな。エリナの元に戻って、アカツキにさっきの事を話すか・・・」
 (アキト、北辰を倒して一ヶ月以上後の時間に戻ってきている。)
 「それは都合が良いな・・・やっぱり、月ドックへ直接ジャンプかな?」
 (私もその方が良い。)
 「そうだよな〜、長期戦になったら、トイレも行けないし、眠れもしない。」
 (・・・・・・)
 「ラピス、月ドックの様子を調べられるか?」
 ・・・・・・
 (月ドック一ヶ月以上前と変わらず。今ユーチャリスで直接ジャンプ可能。)

 「ジャンプ出来るかな?」
 (・・・ジャンプすれば分かる。)
 「それはそうなんだけど・・・ラピスは良いのか? 死ぬかもしれないんだぞ。」
 (今までと変わりない。それに、何時かは試す事だと思う。)
 「分かった・・・・・・それじゃ、ジャンプ!」

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b83yrの感想

どうやら元の世界に戻れたようですが、なにやら色々とややこしい事になりそうで

 

では、異味 重政さん投稿ありがとうございました



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