ラピス・ラズリの怪説ナデシコ
  第三章 ユーチャリス

  ナデシコCの火星の後継者掌握後、ユーチャリスは行方不明となった。
 と言っても、行方不明となったのを知っているのはナデシコCに居た人達だけだが・・・
 他の人々は、幽霊ロボットと謎の戦艦を捜してはいるのだが・・・
 ホシノ・ルリが密かにユーチャリスを捜す中、当のユーチャリスでは・・・

 (木星のプラントに何かあるの?)
 「地球から二週間前の月に跳んだ後で見た夢に、このプラントが出てきたんだ。」
 (それで・・・)
 「それだけなんだ・・・」
 (それだけ?)
 「その後でも、まるっきり何も無いので、ここで良く見ておこうかと・・・」

  と言うアキトからラピスに、細々としたイメージが伝わってきた。
 伝わってきたというより、アキトの考えが漏れて、見えてしまったようだ。
 イメージには、二人の女性の顔があった。
 ミスマル・ユリカとホシノ・ルリの顔のようだ。
 アキトが思い浮かべている二人の顔は、神々しく近づき難い雰囲気で表されていた。
 その二人の顔は、周りを気にする事もなくはるか上空に悠然と浮かんでいた。
 そして、そのはるか下方で、憧れに近い思いを抱いて二人を見上げているのがアキトである。

  ラピスには、アキトのイメージが具体的になにを表しているか分からなかった。
 それは、ラピスが何も感じていないという訳ではなく、はっきりとは分からなくても、
 アキトのユリカとルリに対する思いに、嫉妬に近い何かを感じているようである。

  アキトは、火星の後継者達の実験によって、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、そして記憶を無くしてきた。
 その視覚と聴覚は、ラピスと遭遇した時、記憶は、ナデシコC、ナデシコA、ホシノ・ルリ、
 そしてミスマル・ユリカを見た事によって完全に記憶を取り戻した。

  アキトと遭遇した時のラピスの状態は、人形使いと離れてしまった操り人形のような状態だった。
 そしてなりゆきにより、アキトと精神が繋がっている状態で、二人で暮らすようになったのである。
 ラピスは、それまで、自分の感情は捨てて、全ての才能を生き残る為だけに使ってきた。
 あまりに感情を捨ててきた為、今では生き残るという感情まで薄れていた。
 そんな時、アキトと遭遇したのである。

  アキトと暮らし始めたラピスは、見た目は殆ど変わっていないように見えた。
 アキトもラピスよりも火星の後継者達との戦闘で忙しく、かまってやっていないように感じていた。
 しかし、ラピスにとってはそうではなかった。
 これまでの、あれをしろ、これをしろ、と言う命令口調ではなく、アキトからは、
 「ラピス、ちょっと頼みがあるんだが・・・」
 「時間が空いている時に、これをやって欲しいんだが・・・」
 最後に必ずラピスの同意、或いは拒否で終わらせる。
 その為、ラピスは自分の意志を表現するようになってきた。

  そして、良い事か悪い事かは、判別が就かないが、
 かなりの期間二人だけの生活が続いたせいで、ラピスはこの生活を永遠に続けたいと思うようになってしまった。
 精神的な繋がりがあるせいか、アキトに危害が及ぶ状況になると、指示しなくても
 危害を与えた相手に攻撃するまでになっていた。それも情け躊躇なく、徹底的に攻撃する。
 攻撃された方にしてはたまったものではないが、当の本人は手加減することなど一切考えていない。

 (・・・アキト、無差別にハッキングして良い?)
 ラピスにしてみれば、アキトが、自分とは違う二人の顔を思い浮かべていたので、
 少しアキトを困らせたいと思ったのかもしれない。
 「それは・・・ちょっと、それは止めよう。怒ったのなら謝るからさ。
 それに、ナデシコが出てきたら困るから。」
 (何故・・・)
 「ナデシコにはホシノ・ルリが居るし、オモイカネも在るし。」
 (ホシノ・ルリに来られると困るのは分かるけど、オモイカネは何故?)
 「理由は、オモイカネがこの世界で唯一自我を持ったコンピュータだから。」
 (オモイカネが怖い訳。)

 「いや、ホシノ・ルリとオモイカネの組み合わせが脅威になるのかな。」
 (・・・私でも太刀打ち出来ないほど?)
 「・・・ラピスとホシノ・ルリの能力が同じだとする。」
 (同じなの?)
 「同じかどうかは分からない。ホシノ・ルリは、火星の後継者達を完全に掌握した。
 ラピスはアマテラスのハッキングと統合軍との戦闘、そして俺の指示を実施した。
 どちらの能力が上かは分からん。」
 (・・・・・・)
 「でも、ナデシコにはオモイカネが在る。」
 (オモイカネ・・・ナデシコのコンピュータ。)
 「そう、ナデシコのコンピュータ。そのコンピュータには自我がある。」
 (自我?)

 「自我が具体的にはどう働くか分からない。
 が、オモイカネとホシノ・ルリが組む事で無敵になる。」
 (? 普通、戦艦等のコンピュータは自我を発生させない様にしている。)
 「それは、軍のコンピュータ、ナデシコはネルガルの戦艦。」
 (? 大学や、色々な研究所でも、自我を発生させたコンピュータの噂は聞かない。)
 「今のところナデシコのみ、それもナデシコAからナデシコBを経て
 今はナデシコCにあるオリジナルのオモイカネのみ、何故かコピーした
 ものには、自我が発生しなかったらしい。」

 (そういえば、オモイカネって不思議な感じがした。)
 「不思議な感じ?」
 (不思議な感じ・・・どう言えば良いか分からない。)
 「・・・・・・」

 ・
 ・
 ・

 (何時迄こうしているの?)
 「そうだな・・・こうしていても退屈だし。」
 (・・・・・・)
 「そうだ、ラピスはユーチャリスに連れてきた事を怒っている?」
 (何故? 助け出された悲劇のヒロインは、助け出した失意のヒーローを助け、
 共に迫害に立ち向かい、克服して、最後には結ばれる。そういうものでしょう?)
 「そ、それは、アニメとか小説の話だよ! 俺達は違うだろ。」
 (そう・・・夜天光を倒して、迫害は克服され、今度は結ばれるのが筋だと思う。)
 「き、きっと、俺達はその筋は通らないと思う!」
 (もっと面白い展開になるの?)

 「い、いや、そんな事は無いと思うけど・・・多分無い・・・あってたまるか!」
 (・・・何をそんなに興奮しているの?)
 「いや、ちょっと、ミスマル・ユリカの事を、あいつと結婚した後の展開が頭をかすめただけだよ。」
 (・・・・・・)

 「あの時、エリナの所に残る事は考えなかった?」
 (エリナはもう我慢出来ないって言ってた。ボソンジャンプが原因で部屋が痛んでる。
 一人用のバスに三人で入り、シングルベッドに三人で寝る。壊れて当たり前って、言ってた。)
 「そうか、俺達も混乱を避ける為、トイレ等の他は全部一緒にしているしな〜
 でも、ラピスだって、やりたい事とかあったんじゃないか?」
 (私は火星の後継者達は嫌い。他には何も考える事が無い。
 アキトは、火星の後継者の残党刈りはしないの?)
 「お、俺、う〜ん、やりたくても、その情熱が無くなった。
 なんていうのかな? 前は、あいつらを見ると無性に、倒せ、やっつけろ、殺してしまえ。
 そう言う感情が頭の中に沸き上がってきていたんだけど。今はそんな気持ちになれないんだ。」
 (・・・どうして?)
 「い、いや、俺にも分からない。ところで、ラピスは何で、最初から俺の事を知っていたんだ。」

  ラピスは、一瞬、自分自身の顔を思い出していた。
 正確には、自分の目の前に、自分とそっくりな姿形の少女が目の前にいる場面を・・・
 その少女とは、IFSを通して会話していた。
 「これから、貴方は選択しなければならない。」
 「私が選択するの?」
 「そう、その選択をする迄、詳しい事情は話せない。」
 「・・・・・・」

 「選択するのは、ナノマシンの投与を受けるか、受けないかの選択。」
 「他には話してくれないの?」
 「話せる事は2つ、一つは、肯定の場合此処を脱出出来る。否定の場合脱出出来ない。
 もう一つは、肯定の場合、ある男性と緊密な関係になり、関係を断ち切る事が出来なくなる、
 否定の場合、そういう関係は一切生じない。」
 「・・・・・・」

 「決められないのね?」
 「・・・・・・」
 「貴方は他人の事には興味が無いはず、ただ一人の例外を除いては。」
 「! や、やめて!」
 「貴方を誘拐した人間・・・」
 「聞きたくない!」
 「あの人間を見た瞬間、生理的嫌悪感を感じた。そして、二度と会いたくないと思っている。
 そして、その人間を倒すのが、ある男性・・・」
 「!・・・・・・何時?」
 「貴方とその男性が目的を放棄しなければ、その人間は倒される。」

 「・・・・・・どうすれば良いの?」
 「ナノマシンの投与を受けるか、受けないか、決めて。」
 「・・・受ける。」
 「私は未来の貴方自身の姿、幾つかの事柄は、ナノマシンが投与される前に覚えなくてはならない。」
 IFSを通して、この拠点の情報が送り込まれる。
 「これは、この拠点での戦闘に関する情報。」
 謎の言葉と誘拐の場面の情報が送り込まれる。
 「何ですか? この言葉は? これを・・・思い出すの?」
 「呪文みたいな物、この言葉、場面によって、私自身が経験した未来に導いてくれる。
 思い出したくないのは分かるけど、この場面も必要なもの。
 使う時は分かると思うけど、名前を聞かれた時。」
 そして、ナノマシンの投与を受けた。

  自分を見つめる自分自身の顔を思い出しながら答えた。
 (未来の私が教えてくれた。)
 「? 未来のラピス? 未来のラピスに逢ったのか?」
 (アキトの所に来るのを選んだ後に、未来の私が私に色々と教えてくれた。)
 「そうか! 過去へのボソンジャンプ。 俺もナデシコ時代に過去へジャンプしたな。」
 (・・・・・・)
 「思えば、ナデシコに乗ってから色々とボソンジャンプに関わるようになったんだな〜
 あの、ミスマル・ユリカとの再会・・・
 あの、エステバリスでの初陣・・・」
 (あ、アキト、思い出すとボソンジャンプするよ!)
 「し、しまった、もう遅いみたいだ・・・」
 (あ、アキトの思い出が私の方まで・・・アキト! 何処にジャンプするの!?)
 二人は何処かへジャンプした・・・

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b83yrの感想

アキトもユリカやルリの事を思い出したようで

しかし、未来のラピスの事とか、この話は時間移動についての色々と複雑な絡みがありそうですね

ラストで思い出した内容を考えると、やっぱりあの場所への逆行かな?



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