ラピス・ラズリの怪説ナデシコ
  第一章 テンカワ・アキト

  悪夢・・・目の前を白衣を着た科学者が横切る、別の白衣を着た科学者が近づいて来る。
 他にも何人も白衣を着た科学者が居る、そしてなんとも形容し難い頭痛。
 頭の中をかき回される様な痛み・・・ボソンジャンプの人体実験の時の・・・悪夢

  ・・・そこで、俺は起きた。起きたはずだ。起きて痛みが消えるはずだが・・・
 科学者達の姿も消えるはずだが、痛みも、科学者達の姿も消えなかった。
 ・・・又、火星の後継者達の実験か?
 今の俺はネルガルに助け出され、火星の後継者達の手は届かないはずだが?
 もう一度寝れば、消えるかと、再び目を閉じたが・・・
 痛みも白衣を着た科学者達の姿も消えない?

  俺は、起きると同時に周りを見回した。白衣を着た科学者達の姿は消えない。
 それどころか、目を閉じても科学者達の姿は消えない。 昨日迄は、目が殆ど見えなかった。
 見えるのは、白い点が何千何万個も並んでいる羅列のみ。
 そして、その並びを通して、建物等の明暗が感じられる。
 コンタクトも眼鏡も効果が無く、治る見込みも無かった。耳も殆ど聞こえなかった、
 ついでに嗅覚と味覚もだめだった。
 触覚だけが唯一まともに機能した。触覚が使えたのは不幸の中の唯一の幸運だった。
 触覚が機能するおかげで、体温を調節出来、手足を動かす事が出来た。

  そして一番重要なのは、そのおかげでIFSが使用出来、ブラックサレナが使えた事だ。
 IFSとして機能するのが掌である為、脳への伝達経路が掌の触覚からの為だ。
 だから、この状態でも、火星の後継者の拠点へ攻め入る事が出来たんだ。
 と言っても、こんな状態だから、ブラックサレナの中から攻撃する位しか出来なかった。
 それ以外の事は、一緒に出撃したメンバーに任せるしかなかった・・・
 そう考える頭の片隅で、ある考えが浮かぶが俺はその考えを無意識に押さえ込む。

  だが、本当に幸運だったのか?
 火星の後継者達の人体実験の為、長期間、一切の情報から切り離され、
 あげくに、視覚と聴覚プラス味覚と嗅覚の殆どを無くされてしまった。
 その状態で人は気が狂わずにいられるのだろうか?
 その暗闇に長期間耐えられるのだろうか?
 暗闇の中に閉じ込められて長期間放置される、いっそ、痛み等でも与えてくれれば気が紛れたかもしれないが、
 痛みも、その他の感覚も殆ど無い世界に閉じ込められる。そして、時折何かを投与される。
 出来る事といえば、考える事のみ、そんな仕打ちに耐えられたのだろうか?

  ネルガルの人、アカツキ、プロスペクター、エリナとか名乗っていた人達は、俺はそれに耐えたと言っていた。
 だが、俺が、ナデシコ、ミスマル・ユリカ、ホシノ・ルリ、イネス・フレサンジュ、ダイゴウジ・ガイ等を
 覚えていないと答えたら、皆黙ってしまった。
 しかし、今の俺には、やらなければいけない事がある。
 火星の後継者達を、この世界から排除する事である。
 理由は? と聞かれたが悪を滅ぼす事に、それ以上の理由がいるとも思えない。
 それは、復讐であり正義とは言えない。 とも言われたが、これが、俺の正義であり、使命だ。
 だが、それを言うと何故か皆、止めろ言う。
 それでも俺はそれをやらねばならない、それが俺の生き延びた理由、俺の使命だから・・・

  暫く周りを見回していて奇妙な事に気がついた。科学者達の姿があちこちに移動する、
 俺が顔を動かすとその動きと同じ方に動く。首を左右に動かすと、科学者達も左右に動く。
 そしてもう一つ、今迄科学者達に気を取られていたので気がつかなかったが、
 その左右に動く科学者達と重なる様に、左右に動かない物がある。部屋?
 俺の部屋・・・今迄、見た事が無かった俺の部屋。俺の目には二つの異なった景色が見えている?
 一つは科学者達、もう一つは俺の部屋。? ? ? この現象は何だ?・・・・・・
 昨日迄は殆ど目が見えない状態だった・・・
 今は、今迄見えなかったドアや窓が見える・・・
 見えるが・・・
 その景色に重なるように、白衣を着た科学者達の姿がじゃまだが・・・・・・・・・

  これは、火星の後継者達の実験の影響なのか?
 火星の後継者達の所から逃げ出すだけでは、奴らの手から逃げだした事にならないのか?
 やはり、奴らはこの世から排除しなければ、その為に俺は生き延びられたのだから!
 頭痛がするが・・・奴らを殺せば治るかも・・・
 この目の前に見える奴らを殺せれば・・・
 ・・・

  そんな事を考えている内に俺はブラックサレナで、火星の後継者の拠点に踏み込んでいた。
 無意識の内にブラックサレナに乗り、ボソンジャンプして敵の拠点に来てしまったらしい。
 そして、敵の拠点らしき場所で、俺は途方に暮れていた。
 今迄は、ネルガルのSSと一緒に出撃していた為、何処から何処までが敵の拠点か、
 どうすれば敵を負かす事が出来るかは、一緒に出撃していたメンバーに頼っていた。
 今は一人である、このままだと逆に俺が倒されてしまう。
 ・・・このまま逃げるか?

  しかし、火星の後継者の拠点を目の前にしながら逃げるのは・・・
 何かブラックサレナだけで、此処を破壊出来れば・・・
 ハンドカノンと胸部バルカンだけで・・・どうすれば良い・・・
 逃げるしか・・・無いのか?
 (動力源を壊して武器庫を爆破する。)
 そうか! ブラックサレナでも、動力源を壊してから武器庫を爆破すればこの拠点を爆破出来る。
 だが、俺は此処の内部構造を知らないが、それが出来るのか?
 ブラックサレナの武器で出来るのか?
 此の拠点のセキュリティシステムに対抗して動力源に近づけるのか?
 ・・・

  ! 何だ! これ?
 頭の中にブロック図みたいな物が見える?
 どうも、この拠点の地図みたいな物らしい。
 この地図の外で点滅しているのが俺らしい。
 そして、二つの赤い点が目標らしい。
 俺は少し躊躇った後、頭に浮かんだこの赤い点に向かった。
 自分の頭に浮かんだ考えは・・・火星の後継者の実験? それとも何か別のもの?
 とにかく、逃げる以外の選択肢が出来たのだから、細かい事は後にネルガルにでも調べさせるとして、
 今はこの拠点を何とかするのが先だ。

  漸く武器庫を爆破させる事に成功したが、一気に拠点壊滅とはいかなかったようだ。
 武器庫から発生した火の手は、他の施設にも影響を及ぼし始めていた。
 暫くの時間は、この拠点にいても逃げ出す時間はあると思われる。
 俺は、動力源を壊した時に、頭の中の地図が暗くなったのが気になった。
 それも、ある場所だけが元の明るさで、その他が全て暗くなってしまっているのが・・・
 時間もあるようなので其処に向かった。

  俺はその場所にたどり着いたが、此の場所だけがどうして暗くならなかったんだ?
 よく分からない、とにかくブラックサレナから降りてもっとよく見てみよう。
 ブラックサレナから降り、周りを見回す。
 見回した時、科学者達の姿が消えていた事に気づいた。
 俺が見ている景色には、二種類の動きがあり、一つは俺の動きに合わせて景色が変わる。
 もう一つは殆ど動かない、この中に居た科学者達の姿が消えているのだ。
 そして、殆ど動かない景色の中に人が立っているのが見える、敵か?
 俺は周囲を見回すが、敵は居ない、なにやら巨大な円柱状の物以外は。
 円柱状の物の中に人?

  敵か? 生きているのか? と考えながら円柱状の物に近づいた。
 俺が見たのは、幼い少女・・・その少女は俺を見ている。
 俺が見ている二つの景色、その一つには少女、もう一つには男の姿。
 その男の姿はどこか懐かしかった・・・
 昔の俺に似ている気がする・・・
 昔の・・・

  で、今の俺はどんな姿をしているのだ?
 こんな姿をしているのだろうか?
 ・・・考えても仕方がない、まもなく此処も逃げなければいけなくなる。
 踵を返して・・・例の男も俺と同じ動きを?
 この時俺は確信した・・・この男の姿は俺で、俺を見ているのはこの少女だと。
 と言う事は、俺は二人分の景色を見ている事になる。
 一つは俺自身の目で見た景色、もう一つはこの少女が見ている景色。

  しかし、この少女はどう考えれば良いんだ?
 火星の後継者達の実験の結果か? 俺にこの子が見た物が見えるという事は?
 ネルガルで、詳しく調べてもらうしかなさそうだ、本当に火星の後継者達の仕業なのかも。
 (違う。火星の後継者達もこのことは知らない。)
 何が違うんだ! 火星の後継者達の他に誰がこんな事をするんだ?
 !!! 今迄、自分の頭の中にあるのは自分の考えだとばかり思っていたが・・・
 これは俺の考えじゃ無い!
 誰だ! 俺の頭の中に居るのは?
 (私!)頭の中にその言葉と共に目の前の少女の姿が頭の中に浮かんできた。
 「お前か!」
 俺は目の前の少女に向かって言った。
 目の前の少女は、聞こえたかどうかは知らないが肯定らしき考えを送ってきた。

  俺は何かとんでもないいたずらか何かに巻き込まれたような気分になった。
 火星の後継者達の実験の影響、そして何時の間にか見知らぬ少女との関係。
 その関係も今までの状況から、何かとんでもない事になっているようだ。
 俺は人生最大の危機がせまっているような感覚に陥った。
 逃げよう! このまま、此処を離れよう・・・
 ブラックサレナに向かう。
 (アキト!)
 何で俺の名前を知っている! 後ろも見ずに駆けだした。
 はやる心をせき立てて、必死でブラックサレナに乗り込む。
 (何処に行くの?)
 俺はその問いを考える事も出来ないほど焦っていた。
 (私を見殺しにするの?)
 俺は・・・俺は・・・帰らないと・・・

  やっとブラックサレナに乗り込めた。
 そして、急いで其処を離れようとした瞬間、目の前にさっきの少女の顔があった。
 もちろん、顔の下に少女の裸の身体も有り、俺と向き合う形になっていた。
 「・・・ボソンジャンプ? この少女が? CCもないのに? 何者?」
 とにかく、俺は危機から逃れられない事を悟った。
 ・・・・・・

  この少女をどうするか?
 ネルガルに連れて行って・・・調べてもらうしか方法はなさそうである。
 ネルガルの会長秘書の顔が浮かぶ。
 未だ頭の中で整理が出来ていないが、俺以外の人間が考えた方が良いだろう。
 この少女をどうするかも・・・含めて。
 俺は、何時までも俺を見つめ続けている少女の身体の向きを変え、ボソンジャンプの準備をする。
 そして、そのままネルガルへとジャンプした。
 ネルガルで調査してもらう為に。

  目についたカーテンを少女の身体に巻き付け会長秘書の所へ。
 部屋に入って、「会長秘・・・」
 目の前の女性の名前が浮かぶ。
 「エリナ!」
 その女性、エリナ・キンジョウ・ウォンは俺の顔を、不思議なものを見つめるように見つめた。
 時が止まった、と感じさせるような凍った場面の後。
 「・・・アキト君、治ったの!」
 「えっ、ちょ、ちょと・・・」
 「ふ〜ん、やっぱり、エリナ君はテンカワ君が好きなんだ。」
 エリナの顔の前に男が映っているウインドウが浮いている。
 「会長、どうしてここへ?」
 「そりゃ、エリナ君の部屋に不信人物が入って行った。って聞けば、ねぇ。
 で、何時までそうしているの?」
 俺は、エリナに抱きつかれたまま固まっていた。
 「あっ、こ、これは・・・・・・い、いや〜だわ、アキト君。」
 何がいやなのか分からないが、エリナに突っ張りを食らってしまった。
 そのせいで、俺は部屋の入り口まで吹っ飛んでしまった。

 「それより、アキト君は何故此処へ? 緊急事態でも発生したの?」
 「・・・その子の事と・・・。」
 俺は、どう言って良いか分からず、少女を二人に見えるようにした。
 「あら、どうしたの、この子! それに、その姿?」
 「テンカワ君、ロリコンだったんだ。」
 「ちが・・・アカツキ!」
 俺にウインドウが向いたので、ウインドウの中のアカツキ・ナガレを見る事が出来た。
 「テンカワ君・・・僕が見えるのかい、そして僕の事が分かるのか?」
 「あ、ああ分かる。」
 「じゃ、ナデシコの事もミスマル・ユリカやホシノ・ルリの事も思い出したのかい?」
 「? ? 分からない・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」

  俺は此処へ来た用事を先に済ますべきだと思い、
 「この子と俺の関係を調べてくれ。」と言った。
 そう言った瞬間、エリナとアカツキの動きが止まった。
 二人は、まるでロボットのように、首だけを回して俺を見た。
 アカツキは実際には首を回していないのだが、アカツキの大きなウインドウが回転しようとして、
 ウインドウが何かに引っかかっているような動きをしている。
 「その子との・・・」
 「関係! テンカワ君! 冗談はよしてくれ。」
 「冗談じゃ無い! この子との関係・・・」
 「アキト君、女の子にも危ない人間になっていたのね!」
 「テンカワ君! 考え直せ! その子は若すぎる!」
 「な、何を言っているんだ。 俺は、ただこの子との関係をだな・・・」
 「もう、引き返せないの?」
 「僕もね、こんな事の認知うんぬん等は、出来ないし、ね〜。」
 「・・・う、うるさい! 俺の話を聞け!」

  ・・・漸く二人の罵声を止めて、今日の事を説明する事が出来た。
 「目が見えるようになって、耳も聞こえるようになった。」
 「しかも、二人分、見えて聞こえる、信じられないね。」
 そう、先程気がついたのだが、見えるものだけではなくて、
 聞こえるものも二人分聞こえていた事に気がついたのだ。
 アカツキのウインドウは、普通サイズに戻っていて、動きも普通に戻っていた。
 「とにかく、調べてくれ!」
 「ところで、その子の名前は?」
 「名前? ・・・知らない。」
 「あ、呆れたわね〜」
 「直接、その子に聞いてみようか。」
 「そうね、名前はなんて言うの?」
 アカツキ、エリナも俺を無視して少女に問いかけた。

 「私?」
 少女がエリナに向かって喋り始めた。
 俺が少女を挟んで、エリナに向かい合った恰好になっている。
 「私はラピス・ラズリ」
 「ネルガルの研究所でうまれた」
 「私はアキトの目・・・」
 「アキトの耳・・・」
 「アキトの手・・・」
 「アキトの脚・・・」
 「アキトの・・・」
 「アキトの・・」
 「アキトの・」
 ・・・俺も含めて大人三人は、息をするのも忘れて呆然としていたようだ。

  最初に喋れるようになったのは、アカツキ。
 「テンカワ君、どう言う事かな?」
 次にエリナ。
 「アキト君! こんな小さな女の子と・・・」
 最後に俺、は、未だ喋れる状態になっていなかった。
 「? テンカワ君、テンカワ君! エリナ君、テンカワ君はどうなっているんだい?」
 「・・・・・・? どうしたのかしら・・・立ったまま寝ているのかしら?」
 「・・・まぁ、その内起きるんじゃない。」
 「・・・しかたないわね。でも、アキトの目? アキトの耳? って、何?」
 「それに、ネルガルって?」
 「ネルガル? ・・・・・・ネルガルの研究所?」
 アカツキもエリナも最初は何が何だか分からなかったようだが。
 暫くして・・・
 「11〜3才ってとこか、そして、髪は桃色、目は金色、そしてネルガルの研究所に居た。」
 「遺伝子操作をされたオペレータね。」
 アカツキとエリナが結論を出した。

 ラピスが喋る「アキトの目・・・」俺の頭にラピスの見た景色が浮かぶ。
 ラピスが喋る「アキトの耳・・・」俺の頭にラピスの聞いた音が響く。
 ラピスが喋る「アキトの手・・・」俺の頭にラピスが感じた手の感触が感じられる。
 ラピスが喋る「アキトの脚・・・」俺の頭にラピスが感じた脚の感触が感じられる。
 ラピスが喋る「アキトの・・・」俺の頭に・・・感じられる。
 ラピスが喋る「アキトの・・」俺の頭に・・・感じられる。
 ラピスが喋る「アキトの・」俺の頭に・・・感じられる。
 最後にラピスが誘拐される姿が送り込まれた。
 その後暫くして、漸く俺は喋れるようになった。

  俺は、ラピスが捕まっていた拠点、それに最後の誘拐している男の姿が気になった。
 あの雰囲気は、北辰に間違いない。あの男は、殺さなければ!
 「エリナ、俺がジャンプして来た火星の後継者達の拠点の場所を知らないか?」
 「火星の後継者達の拠点? アキト君貴方、一人で火星の後継者達の拠点に行ったの?」
 「あっ、あぁ、気がついたらあいつらの拠点の前にいたんだ。」
 「・・・テンカワ君、その拠点って、どうやって見つけたんだい?」
 「それが・・・よく分からないんだ・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・よく帰って来られたわね?」
 「あぁ、最後は、ボソンジャンプで帰って来たから・・・」
 「ボソンジャンプって、ラピス君も一緒にかい?」
 「その事なら心配いらない、この子が先にボソンジャンプして、ブラックサレナの中に入ってきたんだ。」
 「アキト君じゃなくて、この子がボソンジャンプ!」
 「ラピス君が・・・A級ジャンパー!」

 「それで、火星の後継者達の拠点の場所は、分からないのか?」
 「テンカワ君がもう一度、火星の後継者達の拠点をイメージして、ボソンジャンプすれば?」
 「それが・・・イメージ出来ないんだ。」
 「どういう事? アキト君イメージ出来ない所にジャンプ出来るの?」
 「? そうか! そういう事か。」
 「な、何、アキト君、何か分かったの?」
 「あぁ、俺も、この子も、互いに相手の見たもの聞いたもの或いは感じた物が分かるらしい。
 で、今日は、この子が見ていた火星の後継者達の拠点を俺も見ていた。
 だから、其処に行くには見ている物をイメージするだけでボソンジャンプ出来た。
 だけど、今は火星の後継者達の拠点を見ていないからボソンジャンプ出来ない。」

 「と、すると、その火星の後継者達の拠点の場所は分からないって事になるね。」
 「その通りだ。」
 「だけどアキト君、その二人の見たもの聞いたものが相手に伝わるって、本当なの?」
 「良く分からないが・・・そう考えないと辻褄が合わない。」
 「テンカワ君の勘違いじゃないのかな?」
 「それは、調べてもらえば分かる事だろう。俺とこの子と一緒に。」

 「まぁ、調べる方は、エリナ君に任せて、・・・
 その子がオペレータなので、ユーチャリスのオペレータをやって貰う事にするよ。」
 「会長、まさか、ユーチャリスをこの子に? この子の言い分も聞かない内に。」
 「アカツキ、この子をどうするつもりだ。」
 「ユーチャリス、ワンマンオペレーションシステムの戦艦のオペレータだよ。
 もともと、ラピス君はオペレータの教育を受けているのでうってつけだしね。
 そして、その戦艦で、テンカワ君のサポートをしてほしい。」
 「ワンマンオペレーションシステムで、戦艦? アカツキ、その鑑は一人で操るのか?」
 「そう・・・オペレータ一人だけで戦艦の何もかもが操れる。」
 「ふ〜ん、だけどその戦艦は奇襲用にしか使えないな・・・オペレータ一人だけでは、
 常時戦闘に備える事が出来ないし、コンピュータの自動警戒システムだけでは対処が難しいだろう?」
 「だから、テンカワ君専用の奇襲用戦艦にしようと思って・・・」
 「そうよね、今までオペレータがいなくて使えなかった鑑ですものね。」
 「そうなのか・・・」
 「そ、そうなんだよね、使おうと思った時には、オペレータが、皆誘拐されてたんだよ。」

  ワンマンオペレーションシステムに遺伝子操作をされたオペレータか。
 それに皆誘拐されたって、言っていたから一艦だけでなくある程度の数は作るつもりだったのかな。
 そうすると・・・奇襲艦隊?
 違うな、ワンマンオペレーションシステムにする理由が分からない。
 特攻艦隊・・・或いは、オペレータが少女だと宣伝した上での楯とする為の艦隊?
 少女だと撃沈する時に躊躇するだろうし・・・
 まさか・・・考えすぎだな。

  俺が恐ろしい事を考えている間にも、アカツキとエリナは話し続けていた。
 「でも、ラピスちゃんは信用出来るのかしら・・・」
 「テンカワ君とも関係あるし、テンカワ君がなんとかするんじゃないかな。」
 「そんな無責任だわ。」
 「そうしないと、ラピス君に被害が及ぶだろう?」
 「? どう言う事?」
 「又誘拐されると、思うんだけどね〜」
 「・・・あり得るわね。」

 「ラピスちゃん、事情は分かった?」
 皆、ばらばらに言ってて分かるはずが無いだろう。
 「分かりました。」
 本当なのか?
 「ユーチャリスに乗るか、乗らないか? 答えは出た?」
 「言われた事は、全部します。」
 「と言う事は、ユーチャリスに乗るって事ね。」
 「君は、人を殺すかもしれないし、殺されるかもしれないよ。」
 「そうしなさい、という事でしょうか?」
 「? ? ?」
 「ラピスって呼んでいいかな?」
 俺が尋ねると肯定の返事が頭の中に返ってきた。
 「ラピスは、今まで何か自分で判断して、選んだ事はあるのか?」
 「一度あります。此処に来る事を、自分で選びました。」
 「一度だけなの・・・」
 「まいったね、これはテンカワ君に頑張ってもらうしかなさそうだ。」
 アカツキは俺に何を頑張ってほしいのだ?
 今までの事から想像すると、ラピスはラピス以外の誰かから命令されれば、
 人殺しでも、自分の身体を差し出す事でも、自殺さえ躊躇なく実行しそうだ。
 火星の後継者達に捕まれば俺達の敵になってしまう。やっかいだな。

 「そうそう、君にはユーチャリスに乗ってブラックサレナの運搬とサポートをお願いするよ。
 出来るだけユーチャリスの外には出ないようにして。」
 アカツキも俺と同じ事を考え、心配になってきたか?
 「ブラックサレナ?」
 「ブラックサレナはテンカワ君が乗っていて、今日、君がその中にジャンプしてきただろう。」
 「あれがブラックサレナ。」
 「・・・後は、アキト君に任すわ、私も出来るだけ協力するから。」
 「・・・・・・」

  俺には言うべき言葉が見つからなかった。
 「テンカワ君、ラピス君を守ってくれ。」
 アカツキ、そんな事を言うのならお前が守ってくれ・・・
 「アキト君、ラピスちゃん、ユーチャリスの事は後で説明してもらえるように手配しとくから。
 それにしても、アキト君変わったわね。」
 「そうか? 目と耳が使えるようになったからかな?」
 「そうじゃなくて、昨日迄のテンカワ君とは違うよ。上手く言えないが雰囲気が違う。」
 「そう・・・なのか? 自分では分からないが・・・」
 「私も昨日迄より優しくなっているように感じる。」
 「?・・・・・・そうかな?」
 「じゃぁ、アキト君、ラピスちゃんをよろしくね。」
 「・・・あぁ。」

  その夜、俺は自分の部屋で鼻血を出して倒れていた。
 そして、気がついて、どうして倒れていたか思い出そうとして・・・溺れた。
 「貴方ね、入浴中のレディの所にわざわざボソンジャンプして現れないでくれる。」
 「・・・面目無い。」
 今日の所は、エリナにラピスを預け、俺は俺の部屋に帰っていた。
 そして、先程、エリナがラピスの見た物はアキトにも見えるのを忘れてラピスを入浴させていた。
 そして、エリナの裸を見て俺が倒れ、気がついて倒れた原因を考えていたら、
 その現場にボソンジャンプしたらしい。
 「ラピスちゃん、今度からお風呂に入る時は目を閉じていてくれる?」
 「?・・・分かりました。」

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b83yrの感想

異味 重政(くしま しげまさ)さん、投稿ありがとうございました

ちなみに、異味さんはご自分のHPにこの作品の下書きをおいているんですが、私はそっちは見ていなんですよ

理由としては、やはり、『先を知っている』場合と『先を知らない』場合では感想も異なってくるだろうし、あえて投稿されるまでは読まない事にしましたので

もしかして、向うを見てる人には違和感のある感想になるかもしれませんね(笑)

 

では、感想なんですが

ユリカやルリの事すら忘れて、感情もおかしくなって戦うアキトってなんか悲しい物があります

ラピスとアキトが御互いを支えあう関係になってくれればと

入浴中のレディの所へのジャンプとかは、笑いました

この笑いが、『暖かい笑い』になるか『もの悲しい笑い』になるかは、これからの展開次第ですね

 

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