ラピス・ラズリの怪説ナデシコ
  プロローグ

  テンカワ・アキトとホシノ・ルリ、そして、ミスマル・ユリカ、それぞれ火星の遺跡の元に集まるも、
 束の間の再開の後、三者三様の事情により、再び離ればなれとなる。
 アキトは北辰との果たし合いの後、ユーチャリスで何処ともなく飛び去って行った。
 ユリカは助け出された後、その身体を統合軍の手により監禁される事となった。
 ルリは元木蓮中将草壁春樹を逮捕した後、引き続き火星の後継者の残党刈りを行う事となった。

  この状況は、大企業のトップ、軍上層部、政治家達が裏で糸を引いていた結果である。
 彼等はルリとユリカの能力を、システム掌握と時間さえ遡ってボソンジャンプ出来る能力を恐れた。
 彼等には、それぞれ後ろ暗い過去が有り、隠蔽工作に細心の注意と多大な労力を費やしていた。
 ルリとユリカの能力を使用すれば、その労力が無駄になり、後ろ暗い過去が暴かれるかもしれない。
 彼等はユリカがルリと過去へジャンプし、ルリが隠し事を白日の下に晒す可能性を考えると、
 二人がそうするかどうかでは無く、二人の存在自体を恐れ、裏工作を始めたのである。

  とりあえず二人を引き離す。
 ルリとユリカは映像はおろか音声、手紙での連絡さえ許さない。
 そして、世間が二人の事を忘れた頃、二人の抹殺を行う。
 実は、ボソンジャンプ出来るのはユリカ以外にアキトとイネス・フレサンジュがいるのだが、
 アキトとイネスの両名は死んだ事になっていて、生存しているとは、ルリもネルガルも報告していない為、
 彼等にはユリカしかボソンジャンプを警戒する人間がいなかったのである。
 ナデシコCに関しては、同時期に地球で月臣がボソンジャンプしていた為、同じ技術と勘違いした・・・
 これは、ボソンジャンプの仕掛け手が人ではなくて機械なので、警戒する人間は居ない、となったのである。
 これらは、ルリが火星の後継者達と電子戦を行った後で残された情報から推定された物である。
 ルリがその情報にどんな細工をしているか、或いは何も細工していないのかは不明のままである。

  ルリは彼等の心境を分かっていたのか、ただ単に彼等の心境を知りたくもなかったのか、
 おとなしく火星の後継者の残党刈りをしていた。
 そして、漸くその火星の後継者の残党刈りが終わった。
 ルリには、火星の後継者の残党刈りでの疲れを癒す為と称して、長期の休暇が与えられた。

  翌日から、どうやって長期休暇をすごそうかと考えていたルリに、オモイカネからの通信。
 ウインドウの中には、電車の乗り換え案内図−丁寧にマーカーで塗ってある−と短い一文。
 『明日ホシノ・ルリの証を、ラピス・ラズリ』

  ルリの任務には、謎の幽霊ロボットとボソンジャンプする戦艦を見つける任務も含まれていて、
 秘密裏にネルガルや軍、大企業の人事、兵器、輸送、食料の流れ等をチェックしていた。
 しかし、ルリの能力を駆使してもそれらの情報も、アキト、イネスの居所も推測出来ずにいた。
 其処に、アキトと一緒の戦艦に乗っていたラピス・ラズリからの連絡である。
 ルリは、暫く考えた後、身の回りの物の整理を始めた。

 ・
 ・
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  翌日、マーカーで塗ってある通りに電車を乗り継ぐルリに近づく少女。
 ルリの近くまで来て、話しかけるタイミングをうかがっているが。
 「ラピスさん、お久しぶりです。」
 いきなり、ルリに話しかけられてしまった。
 「・・・・・・」
 その少女、ラピス・ラズリはいきなりの言葉に返事をする事が出来なかった。
 「アキトさんも一緒ですか?」
 ルリは、続けてアキトの事を尋ねた。
 「・・・・・・例の物を見せてください。」
 ルリの言葉を暫く考えていたが、ラピスはルリの問いかけには答えず、自分の用件を切り出した。
 「・・・・・・」
 今度はルリが暫く考え、渋々ラピスにテンカワ特製ラーメンのレシピを手渡す。
 レシピを手渡されたラピスは、少しの間調べた後、レシピをルリに返しながら次の言葉を続けた。
 「ボソンジャンプします。準備は良いですか? 良ければ手をつないで下さい。」
 ルリはその言葉に驚くも、暫くして手をつないで言った。
 「ボソンジャンプ、お願いします。」
 ルリがそう言い終わると同時にラピスがルリと一緒にボソンジャンプをする。。
 そうして、二人がたどり着いた先は、南の離島。

  ルリは周りを見渡しながら言った。
 「こんな所に人が居るのですか?」
 周りを見れば木々が生い茂り、船も寄らないような小島、無人島と錯覚しそうな島。
 この島に来た方法も、ラピスがルリを連れてジャンプしてきたので、ルリにも不明の島。
 そもそも、ルリには此処が南の離島だと分かるはずが無い。
 「この先に学校が有ります。」
 そう言うと、微かに木々の中に見え隠れする扉に向かって行った。
 ルリもしかたなく、ラピスに連れられて、扉の中に入った。
 そして、暫く歩いていたが、
 「!!、ナデシコ!」
 その中の構造が、ナデシコの艦内の構造とそっくりなのである。
 そう理解すると同時に、ブリッジがある場所にかけ出そうとした。

 かけ出そうとしたルリを遮る様に・・・
 「元気そうね、ホシノ・ルリ。」
 「い、イネスさん!」
 ルリの前に現れたのはイネス・フレサンジュである。 「説明が必要かしら?」
 「えっ・・・」
 ルリとイネスの間が、緊張した空気で満たされる。 その緊張感を感じているのか、感じていないのか、ラピスは黙ったまま喋らない。 「まぁ良いわ。説明は何時でも出来るし。食堂にでも行きましょうか。」
 「食堂・・・ですか?」
 「いや・・・なの?」
 「いえ、そうではなくて・・・此処は何処なのでしょうか?」
 ルリとしては、この場所に何時でも来られるようにしておきたかったのである。
 「・・・まぁ、強いて言えば亡霊の学校という所かしら。」
 対してイネスは、ルリの問いかけにとぼけた返事で答える。
 「亡霊の学校?」
 「そう、此処にいる者は皆幽霊、皆戸籍が無いのよ。」
 「戸籍が無い・・・・・・アキトさんも居るんですか?」
 死亡していた事になっていたアキトの事が頭に浮かんだので、自然にでた言葉である。
 「居るわよ。だから、食堂に行きましょうか。」
 「食堂に? 料理を作っているんですか?」
 ルリに味覚がダメだから『ルリにラーメンは作ってあげれない』と言っていたアキトの姿が思い浮かぶ。
 「とにかく、食堂に行きましょう。」
 イネスは食堂に行く迄、これ以上の事は話してくれそうに無い。
 ルリは、しかたなく、先に食堂に行く事にした。

  三人は、十数人が食事している食堂に着いた。
 「イネスさん、あの子達は?」
 「貴方は、あの子達と一度逢っているはずだけど? 思い出さない?」
 「ひょっとして・・・火星の後継者の残党から私が助け出した人達ですか?」
 「そうよ、貴方が、エリナに送ってきた子達よ。」
 「・・・エリナさんが、遺伝子細工を受けた少女を預かると言ったそうなので。」
 「えっ・・・・・・確かエリナは、どうせなら、ラピスちゃんと一緒に私の所に来る?
 って、アキト君に言ったはずだけど?」
 「・・・・・・どうしてイネスさんは、そんな事を知っているんですか?」
 「・・・そ、それは・・・貴方こそどうして知っているのよ?」
 「えっ・・・・・と、とにかくあの子達を統合軍に渡したくなかったし。」
 「逃げたわね・・・で、ラピス・ラズリと似た境遇の子達をどんどん送ってきたのね。」
 「それに、他の方法を思いつかなかったので・・・」

  「そう・・・・・・それで、エリナも困ってこんな所に学校を造ったんだけど。」
 「造った?」
 「本当に造ったのよ。月の工場で、戦艦を造ってボソンジャンプで持って来る。
 まあ、戦艦って言っても、航行能力もないしグラビティブラストも無いけど。」
 「・・・・・・」
 「ちなみにユーチャリスも更にその下に埋まっているわよ。」
 「埋まっているんですか?」
 「埋まっているっていっても壊れている訳でも無いし、動かせば十分機能するわよ。」
 「その戦艦の中が此処ですか?」
 「そうよ、でも此処は戦艦の中・・・じゃ無いので、仮に学校と呼んでいるの。
 アキト君が運営者兼コック、私が先生兼医者、そして生徒、離れ小島の学校としては立派でしょう。」

  ルリは、イネスの言葉の中にある言葉に反応した。
 「此処は、離れ小島なんですか?」
 「離れ小島よ。そして、此処にはボソンジャンプ出来なければ、来る事は難しいわ。」
 イネスの言葉にルリは、自分にどんな事が出来るだろうか考えを巡らせた。
 だが、情報不足の為、自分にはどんな事が出来るか、思い浮かべる事が出来なかった。
 「・・・そろそろ私に連絡してきた訳を教えてくれませんか?」
 「そうね、貴方の命が狙われているのは知っている?」
 「ええ、そういう動きがある事は知っています。それで、助けてくれる訳ですか?」
 「それもあるんだけれど、実は、貴方に協力してほしい事があるのよ。
 でもその前にラピス・ラズリの話を聞いてもらいたいのよ。」

 

第一章 テンカワ・アキトへ進む

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b83yrの感想

異味 重政(くしま しげまさ)さん、投稿ありがとうございました

まだプロローグの時点なのであまり多くはいえませんが、なにか、独特の雰囲気を持ったお話ですね

今回は出番の無かったユリカの事もかなり気になります





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