外伝・2話

機動戦艦ナデシコ


未来の為に


外伝



「残されし者」二話



「じゃあ、ミナトさんいってきまーす」

「ジュン君って奥手なんだから、ちゃんとリードしてあげないと駄目よ?」

「うん!せっかくミナトさんが用意してくれたんだもん!今日は思いっきり遊んでくるね」
 

ミナトに元気良く返事を返しながら、ユキナは走って出かけていった。
ユキナの姿が見えなくなるまで、玄関先で見送ったミナトは大きく深呼吸をすると
意を決したように、厳しい表情で家の中に戻っていった。



「今日こそ、会わないとね」



場所は変わり、ここはミスマル邸。
ユリカは、相変わらず部屋に引きこもりつづけていた。
ジュン達、旧ナデシコクルー達でも会うことは出来なかった。唯一ユリカと会う事が出来るのは父親でもある
ミスマル・コウイチロウのみであった。

だが、コウイチロウも今のユリカの姿を見ているのが辛いのか、家の中で会ったとしても
以前のように親ばかの姿を見せることはなくなってしまった。


そして、ユリカはいつものように一人つぶやくばかりだった。


「私達が、いなくなってしまった時のルリちゃんの気持ちって、こんな感じだったのかなぁ
 ・・・アキトォ・・・・・ルリちゃん・・・何処に行ったの?」


その時、ユリカの灯りをつけていない部屋に突如明かりが灯る。


「お父様?・・・」

「こんな暗い部屋で、一人きりなんて貴方らしくないわね、ユリカさん」


ユリカの前には、ハルカ・ミナトの姿があった。
彼女自身、何度かユリカに会いに来ていたのだが、部屋の前で門前払いを食らうか良くても
声を聞けるのみであった。

だが、今回のミナトはコウイチロウから部屋の鍵を受け取り、強引に部屋に入ってきた。
すでに、ルリが行方不明になってから10ヶ月もたっているにも関わらず、ユリカは未だに落ち込んでいた。
その事に、ミナトは少なからず驚きを隠せなかった。

ミナトも、以前白鳥九十九が死んだ時にはひどく落ち込んだものだが
ナデシコクルー達のお陰で、何とか本来の自分を取り戻すことが出来たのだが
今のユリカの姿は、九十九を失ったときの自分の時よりも酷かった為、時間を見つけては
何とかユリカと接触しようとしていた。


「ミナトさん・・・・どうしたの?そんなに怖い顔して・・・」

「あのねぇ〜、何時までうじうじしているつもりなの?部屋に閉じこもっていても
 明人君もルリルリも帰ってくるわけじゃないのよ?」

「でも・・・・」


ユリカは、久しぶりに再開したミナトの姿に笑顔を見せるどころか
今、自分が最も会いたい人物ではなかった為か軽くため息をついて見せた。
そんなユリカの姿に、ミナトは少なからず想像していたとは言え自分が知っているユリカとは
あまりにもかけ離れている事に、つい頭を抱えてしまった。



これは、重症ね・・・・



ミナトは心の中で軽く呟くと、ユリカの正面に座り未だ自分と視線を合わそうとしないユリカの顔を
強引に自分の方に向けた。
ユリカはミナトの強引な行動に抵抗する事無く、うつろな瞳をミナトに向けるのみだった。


「ユリカさん・・・今の貴方の姿を二人が見たらどう思うと思うの?・・・・きっと悲しむと思うわ
 今の貴方は、まるで魂のこもっていない人形よ?」


ミナトの言葉に、一瞬体を大きく震わせたユリカの瞳からは大粒の涙が流れはじめた。
そして、今まで心の奥底に溜まっていたのだろか泣き叫ぶ様にミナトに話し掛けた。


「だって・・・・ルリちゃんは何も言わずに消えたんですよ!?・・・・・どうして!どうして!!
 きっとルリチャンはさらわれたんだと思って一生懸命探したけど・・・・まったく手がかりがつかめなかった!!
 それって、おかしいよ!!
 ルリちゃんは、ずっと家にいたのに・・・なのに、気づいたらルリちゃんの姿は何処にもなかった・・・
 それに、ルリちゃんの部屋から洋服とかもいっしょに消えていたんです!!

 普通、人をさらうのに洋服とかを一緒に持っていきますか!?
 考えられるのは、ルリちゃんが自分の意思で消えたとしか考えられないんだもん!!」


ユリカの激しいまでの想いを、ミナトはただ黙って聞いていた。
もっとも、ルリの部屋から洋服が消えていることは初耳だった為、少なからず驚いてはいたが
彼女の中では、自分の考えが遠からずあたっている事を確信した。


「・・・・・・それに、ルリちゃんが消える少し前にアキトにあったんです・・・・・
 いえ、アキトが会いに来てくれたけど・・・・まるで、別れの挨拶みたいだった・・・」

「アキト君が!?・・・・・・そう・・・」


アキトがユリカに会いに来た・・・・・・・その事は本来誰にとっても嬉しいはずだが、ミナトも墓場でアキトと再開
した時には、本当にあのテンカワ・アキトだろうか?そう感じていた。
だが、あのアキトならばやりかねないとも少なからず思いもしたのだが、黙る事しか出来なかった。






そして、10分ほどだろうか?お互いに黙っていたがミナトは
1回大きく深呼吸をして、ユリカに語り掛けた。


「ねぇ、ユリカさん、ルリルリが行方不明になる前に貴方に何か話さなかった?」

「いえ・・・どうしてですか?」

「ほら、ルリルリが行方不明になる前に、私とユキナが遊びに来たでしょ?
 その時にね、ルリルリったら何か思いつめた表情をしていたの・・・・今考えたら、自分に何か
 危険と言うか・・・・何か大変な事がおきる事を知っていたかも知れないわ」」


だが、ミナトの言葉にユリカは初めて聞いたとばかりに、目を瞬きさせるばかりであった。


「そんな・・・私にそんなこと一言も言ってくれませんでしたよ?
 どうしてミナトさんだけに・・・・・」

「ふぅ・・・相変わらず人の事には鈍感なのねぇ・・・
 ルリルリって、普段顔に表情を出さないとは言え、私は気づいたわよ?それに、あの子の事だから
 誰にも心配掛けたくなかったんじゃないかしら?」


「そんな、私とルリちゃんは家族なのに・・・」


そう言うと、ユリカは悲しそうな顔をミナトに向けた。
だが、ミナトは先程よりも少しずつではあるが顔に正気を取り戻しつつあるユリカを見て
もう少しだと思い、さらに話を進めた。


「ユリカさん、ルリルリについて何かわからないの?
 例えば・・・・狙っている組織とか、軍でも調べているはずでしょ?」

「ええ、多分・・・・でもルリちゃんを狙うとしたら、火星の後継者とか・・・・
 クリムゾングループ・・・あ・・・もしかして」

「ん?どうしたの?」


ユリカは、何か納得した表情をミナトに見せた。


「クリムゾングループがルリちゃんを狙っていたのかもしれない。
 もしそうなら、軍も・・・・統合軍も関係している可能性がある・・・・」

「え?まさか・・・統合軍は、火星の後継者の件でずいぶん叩かれたじゃない?
 なのに、ルリルリを狙っていることが世間に知れたら、今度こそただでは済まないんじゃないの?」

「でも、ルリちゃんが誰にも何も言わずに行方をくらましたのが軍が原因なら
 なんとなく・・・今ならわかる気がします」


ユリカ自身、まだルリの行動に完全に納得したわけではないのだろうが、今考えられる事
としてはこれが限界であろう。
ミナトも、ユリカの推理には少なからず賛同していた。


「ミナトさん!私、軍を調べてみます!もしかしたら何かわかるかもしれません。
 上手く行けば、アキトの行方もわかるかもしれないし」

「そうね、何時までも家の中でいじけているのはユリカさんらしくないし。
 そう言えば、アカツキ君には?アキト君はネルガルに庇ってもらっていたんじゃないの?」


そのミナトの言葉に、少し悲しそうに顔を下にうつむきつつ答える。


「今は、無関係みたいです。ネルガルがアキトに協力していたことが軍に気づかれたみたいなんです。
 そのせいで、アキトは姿をくらましたってアカツキさんは言っていましたから」

「そう・・・アキト君らしいと言えばらしいわね」


アキトの性格上、誰にも迷惑をかけたがらないのはミナトも知っていたが、あの変わってしまったアキトが
そう言う行動をおこした事に、不謹慎ながらもつい微笑んでしまった。
そのミナトの表情に、まったく理解できないとでも言うような顔を見せることしか出来ないユリカであった。


「何でそこで笑うんですか?ミナトさん」

「ああ、ご免ね。アキト君って以外と昔と変わっていなかったんだなぁ〜〜って思ってね」

「そうですか?」


未だ納得できないのか、ユリカの頭の頭上には?マークが浮かんでしまいそうな顔をしてみせた。
ユリカの相変わらずの鈍さに、ミナトは苦笑するしか出来なかったが
今のユリカの状態なら、大丈夫だろうと思い帰り支度をはじめた。


「ミナトさん、もう帰るんですか?」

「今のユリカさんは、いつものユリカさんだもの。
 これから先は、貴方のがんばり次第なんだから・・・・がんばってルリルリとアキト君を見つけてね?
 私には、これぐらいしか出来ないけど」 

「いえ、有難う御座います。ミナトさん、必ずアキトとルリちゃんを見つけて見せますね!!」






そう言いながら、二人は玄関に向かって行こうとした時、ちょうどコウイチロウが戻ってきた。
今のユリカと出会った事にばつが悪そうにするコウイチロウに対して、ユリカは一度大きく
コウイチロウに頭を下げると、久しぶりの笑顔を見せた。


「お父様、今まで迷惑かけてごめんなさい。もう一度、ルリちゃんを探してみようと思うの」

「ユリカ・・・大丈夫なのか!?」


今のユリカの姿を見て、信じられないとばかりに声を荒げてしまうコウイチロウに対して
ユリカの隣にいたミナトが、軽くウインクをして見せたことによって
何があったか何となくだが、コウイチロウは理解するとミナトに対して深深と頭を下げた。


「すまない、ミナト君。本来は父親である私が何とかしてやらねばならなかったのだが・・・・」

「そ、そんな!良いんですよ。何時までも落ち込んでいるユリカさんは私も嫌でしたから。
 でも、もう大丈夫みたいですよ」


今度は、隣にいたユリカに軽くウインクをして見せるとユリカは元気良くコウイチロウに
Vサインをして見せた。
その久しぶりのユリカのVサインを見て、コウイチロウも久しぶりの台詞を口にした。



「ユゥゥ〜〜リィィ〜〜カァァ〜〜!!」



ここ、ミスマル邸に久しぶりに親ばか発言が響き渡っていた。





そして、それから1ヶ月後。
ナデシコCのブリッジでは、ふてくされているサブロウタの姿があった。


「サブロウタさん・・・元気出してくださいよ〜〜」

「はーりー・・・今の俺の気持ちわかるか・・・結局ムネタケ参謀には
 艦長失格の烙印押されるし・・・・」


結局、艦長代理を務めていたサブロウタはムネタケに艦長としては適任ではないと言われ落ち込んでいた。
それだけなら、サブロウタもあまり気にしないのだが、以前の役職、副長さえも降ろされてしまった事が
止めになっていた。


「でも、新しい艦長は誰でしょうね?副長はアオイ少佐なのは確認できているんですけど・・・」

「もう〜〜どうでもいいや〜〜」


投げやりになりつつあるサブロウタに対して、ハーリーは新しく就任する艦長のデータを
検索しているのだがまだデータは送られてきていないようだ。
その時、ブリッジの扉が開いた。


「皆さ〜ん、私がナデシコCの新しい艦長ミスマル・ユリカです!ブイッ!」


「「「はあ?」」」

突然の言葉に、クルー達は唖然とした表情を見せることしか出来なかった。
そのユリカの後ろでは、ジュンがため息交じりに一言呟いた。


「ユリカ・・・・立ち直るのは良いけど、それは勘弁して・・・」




「あの〜〜艦長は、ルリさんとご一緒に住んでいたんですよね?」

「そうだよ、貴方がオペレータのマキビ君だね?よろしくね♪」


ユリカが、微笑みながら握手を求めると恥ずかしそうに頬を赤らめて握手を交わすハーリーだった。
その時、サブロウタはジュンに二人に聞こえないように話しかけていた。


「あの・・・副長、彼女は休職していたんじゃないですか?」

「まあ、だいぶ立ち直ったけどね。僕は提督に頼まれて、ユリカのサポートをする事にしたんだ。
 済まないね、君の役職を奪う事になっちゃって」

「まあ・・・いいっすけどね・・・」


再び落ち込むサブロウタに、ジュンはかける言葉が見つからなく苦笑するしかなかった。
その時、正面のモニターから大きな声でサブロウタを呼びかける声が聞こえた。


『よお!久しぶりだな、サブロウタ!俺の部隊もナデシコCに配属になったからよろしく頼むぞ!』
 

そこには、リョーコの姿があったのだがサブロウタは何故かうろたえるばかりであった。


「サブロウタさん、やっぱりリョーコちゃんがいるほうが良いでしょう?
 これからは、二人仲良くね♪」


『なっ何言ってんだよ!!ユリカ!!』

「あ〜〜、浮気はもう無理か・・・・」


ユリカに抗議をあげるリョーコとは対照的に、誰にも聞こえないようにポツリと呟くサブロウタだった。


「じゃあ、皆さんそろそろ準備をしてください!」

「「「「了解!!!」」」」



ユリカの掛け声と共に、クルー全員が自分の持ち場に戻ろうと、慌しく動き出す。
そのユリカをジュンは、一瞬顔を険しくなったがすぐに元の表情に戻り副長席についた。


「今のユリカが、アキト達の事を知ったらどう思うんだろうな?・・・こんな事を一生黙っているなんて
 世の中には、知らない方が良いことがあるって言うけど・・・本当だな・・・」



「それでは、機動戦艦ナデシコC発進!!」



ユリカの掛け声と共に、ナデシコCのエンジンに火が入り宇宙軍のドックから浮上した。
今、ユリカは再びナデシコCに乗り込む。
大事な、家族の為に・・・



アキト、ルリちゃん・・・・・必ず見つけてあげるからね・・・・
もし、二人を狙う奴らがいても私が必ず守ってあげるから・・・だからお願い・・・
無事に生きていて・・・・



ユリカの想いは、届くのだろうか・・・・・昔のように3人で暮らすことが・・・・




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どうも、KANKOです。本当は、もう1話ぐらい書こうかなと思っていたのですが見合わせました。
外伝で書ききれなかった話は、第二部に加えようと思います。

さて・・・・いよいよ「未来の為に」で最も書きたかった第2部に突入します。

それでは、ここまで読んで下さって有難う御座いました。


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