外伝・第1話

機動戦艦ナデシコ


未来の為に


外伝



「残されし者」第1話




アキトが、ルリをユリカの元から連れ去った次の日から、連日のように世間では

電子の妖精ホシノ・ルリの失踪を扱うニュースで大きく賑わっていた。


「会長!!・・・・いえ、アカツキ君!これは一体どういう事!?」


ネルガル会長、アカツキ・ナガレに凄まじい剣幕で、問い詰めるのは会長秘書のエリナ・キンジョウ・ウォン。

本来は、会長であるアカツキに会社内では、決して名前で呼ぶことは無かったのだが

今回は事情が違った。

ホシノ・ルリが失踪してしまったからだ。

ルリの身辺は、アカツキがシークレットサービスに招き入れたツキオミ・ゲンイチロウが警戒

していたはずであるが、結果的にはルリは失踪してしまった。

その事が、エリナの理性をなくしていた原因である。


「いくら彼でも、ルリ君の全ての行動を把握しているわけじゃないしねぇ〜〜。
 そんなに責めないでくれるかなぁ〜?」

「よくも・・・よくもそんなに依然としていられるわね!?まだ火星の後継者は健在なのよ?
 もし、彼女が奴らにさらわれたとしたら、どうなるかわかっている筈よ!?」

「どっちかって言うと、テンカワ君がこの事を知ったらどんな行動に移るか?
 そっちの方が心配だったりするんじゃないの?エリナ君は?」



エリナ自身、本気でルリを心配しているが確かにアカツキの指摘どおり

アキトがこの事を知ったときの行動も、同じぐらい心配であった。

今のアキトならば、どんな事をしてでもルリを助け出すだろう・・・ユリカを助ける時と同じ様に・・・


「わかっているなら、私達で彼女を捜索するべきよ!アキト君がこれ以上自分の手を
 汚さない為にも!」

「それが出来ない事は、貴方もご存知のはずだが?」


先程から、アカツキとエリナの会話を黙って聞いていたツキオミが会話に割り込んできた。

エリナが会長室に乗り込んできた時には、姿を見かけなかったはずだがいつの間にか

彼女の後ろに回りこんできていた。

エリナは内心、こいつは忍者か?と思ったが今回の失踪の原因の張本人とも言えるツキオミが

現れた事に、その怒りの矛先はツキオミへと変わった。

エリナのその様子に、アカツキはやれやれといった調子で軽くため息をついて見せた。


「確かに、アキト君の件でネルガルが軍に睨まれている事はわかっているわ。
 でも、だからと言ってルリを見捨てるつもりなの!?」

「今、我々が動けば軍の思いのままだ・・・・」

「そー言う事、悔しいけど今の僕らは無力なもんさ。それに、会長である僕としては
 会社を潰すわけにはいかないしね」


二人のまったくやる気の無い言葉に、エリナは言葉を失った。

そして、二人を何か嫌な物を見るような目で一度睨みつけると、何も言わずに会長室を後にした。


「会長、これで良かったのでしょうか?」

「ん?実際、僕らは軍に睨まれているから無力なのは事実でしょ?
 だから、彼に全てを任せたんだよ・・・もう合う事は無いだろうけどね」

「彼女には、辛い事をしてしまいましたね」


二人だけが、この事件の真相を知っていた。

だが、二人は決して誰にも真相を話そうとはしなかった。

その後も、ずっと・・・・・あの日までは・・・・・




「エリナさん♪」

「・・・・あら、いたの?」


誰から見ても、不機嫌なエリナに社員は目もあわそうともせずに通り過ぎるばかりであったが

只一人、彼女に話し掛ける人物が現れた。

プロスペクター、今の彼女に話し掛けることが出来るのはおそらく彼だけであろう。

丁度、通路の角からエリナをおどかすように出てきたのだが、まったく驚かなかったエリナに

少し不満そうにしながらも話し掛けた。


「やはり、会長たちは知らぬ存ぜぬだったようですねぇ」

「どういう事よ?まるで、こうなる事が知っていたような口ぶりね?」


プロスの口から出た言葉に、エリナはプロスを睨みつけるように詰め寄るが

その様子に対照的な、にこやかな笑顔でプロスは話し始めた。


「いえね、ゴートさんに先ほど確認したのですがルリさんが行方不明になるちょっと前に
 ツキオミさんは、部下の誰かに護衛を交代してもらったそうなんですよ」

「確か、彼女が火星の後継者の残党にさらわれそうになった頃ね?
 ・・・・・・・もしかして、そいつが何か知っていたの?彼女の行方とか!?」


プロスのネクタイを締め上げるように。胸倉を掴みながら問い詰めるエリナを何とか引き離して

顔を真っ赤にしつつ軽くせきをして、プロスは話を何とか再開した。


「エリナさん・・・・・私を殺す気ですか?・・・・まあ、ルリさんを心配するのは良くわかりますが
 そのツキオミさんの代わりに護衛をした方なんですが、まだわかっていないんですよ」

「どういう事?何でそんなことがわかんない訳?」

「可能性としては、シークレットサービスの人間ではなかった・・・・・とゴートさんも考えていますね。
 私も、その意見に賛成ですが何が言いたいか、お分かりですか?」


エリナは、しばらくプロスの質問の答えに考えていたが彼女には心当りがあった。

シークレットサービスの人間以外で、ツキオミの代わりに護衛を担当できる人間の事を。


その人物とは、テンカワ・アキト只一人である。


だが、アキトの名前がエリナの頭の中で思い浮かんだとしても、すぐに口からアキトの名前が出ることは無かった。

何故なら、アキトは火星の後継者の一件が終った後、拒みつづけた身体の治療にも

大人しく従っていたが、ある程度治療が終った直後ラピスと共に姿を消してしまっていた。

その後、エリナも捜索をしようとしたが、アキトの件についてネルガルは軍によって捜査を受けていた為

思うように捜索できなかった。

その為、アキトの行方はネルガルの人間でさえも今現在つかめていなかった。



「ルリを誰にも気づかれる事無く、連れて行けるのはアキト君だけど・・・
 何で彼がそんなことを?理由がまったくわからないわ」

「私も最近まで、わかりませんでしたが・・・まあ、詳しくはゴーとさんにお聞きしましょう。
 彼が何かを掴んだようですから」


プロスの言葉に、エリナは力強い足踏みでゴートのいる部屋へと向かっていった。



「来ましたか、二人とも」

相変わらずの口調で、部屋に入った二人を迎えたゴート・ホーリーであったが、

周りには、たくさんの書類が積まれておりゴートの目元には徹夜の証でもあるクマが出来ていた。


「おやおや、お疲れのようですねゴートさん」

「書類を整理しているなんて、いつもの貴方らしくないわね」

「仕方ありません。軍に睨まれている今の状況では本来の仕事は出来ませんから」


ゴートが言葉短めに返事を返すと、二人を前にある空いていたテーブルの方へと案内すると

積まれた大量の書類から、一束の書類を二人に見せた。

二人は、手渡された書類の中身を確認すると驚きの表情に変わっていった。

いつも、ひょうひょうとしているプロスでさえ書類の内容には驚きを隠せないようだ。

そんな二人の驚きを他所に、ゴーとは眠気覚ましとばかりに側に置いてあった冷めたコーヒーを口に運んでいた。


「ちょっと、これってどういう事?私は何も聞いていないわよ、プロスは?」

「いやいや、私も存じあげていませんでしたが、まさかこんな事が我が社におきているとは・・・」

「ですが、その書類に書かれている事は事実です」


その書類の内容は、ボソンジャンプの研究データやジャンパーのデータなど

ネルガルの最重要機密とも言えるデータの提出を軍から、強要されている事が書かれていた。

また、その他にも研究への協力者としてホシノ・ルリの名前が載っていた。



「彼女の名前が載っているということは・・・・今回の事件の首謀者は軍ですか? ゴートさん」

「いえ、軍も彼女の行方を必死で探しているようですが・・・・以前、軍がルリ君をさらおうと
 動いたようですが、直後に残党に邪魔をされたようです」

「え?じゃあ、今回の事件の犯人はやっぱり・・・・火星の後継者が?」


しかし、ゴートはエリナの答えに首を横に振る事で否定した。


「それが奇妙な事に、ルリ君が軍に狙われたのは今回だけではないようです。
 ですが、事あるごとに残党と思われる者によってことごとく妨害されていたみたいです」

「と言う事は、その残党は・・・・」

「彼が?」



三人の脳裏には、アキトの名前が浮かんだ。

しかし、誰一人としてその名前を口に出すことは無かった。

彼らには、理解できなかった・・・・・・何故、ユリカを残してルリだけ?

ユリカが、ジャンパーとしての能力を喪失している事は三人とも知っていたが、

アキトにはその事は伏せていた筈だ。


「考えられるのは、アカツキ君がアキト君と連絡を取っていた・・・と言う事かしら?」

「かも知れませんねぇ、これほどの事を要求されながら
 会長がのんびりとしている様子を見ていると・・・・」

「問題は、この事を彼女に知らせるべきか?ですね」


ゴーとの言葉に、二人は只黙っている事しかできなかった。

彼女・・・今のミスマル・ユリカがこの事を知ったらどう思うか?

アキトがユリカを残し、ルリを連れて行ったことを・・・・・・・





「提督、ユリカの様子はどうですか?」

「いや、まだショックから抜けきっていないようだ・・・・」


宇宙軍の司令室では、ジュンがルリの捜索結果の報告を終わりコウイチロウに

今のユリカの様子を尋ねていた。

ルリが失踪した直後、彼女もジュンと共にルリを捜索していたが、見つかる事は無かった。

その為に、徐々にではあるがユリカの顔からは以前のような元気な表情は消え去り

自宅に引きこもるようになった。

ジュン自身、何とかユリカを励まそうとしたのが自宅前で門前払いをくらい

自宅に引きこもってからは、まったく会えなかった。


「何とか、ルリちゃんを捜し出さないと、只でさえアキトがいないのに・・・
 今のユリカにはルリちゃんが支えだったのに!!」

「ジュン君・・・・・父親である私の前でそんなきつい事を言わんでくれたまえ」

「あっ、申し訳ありませんでした」


自分の不用意な発言に、深々と頭を下げるジュンに対してコウイチロウは

さほど気にとめていないようだった。

むしろ、自分がした事・・・ルリをアキトの元へ行くように即した事を気に病んでいた。

まさか、アキトがいなくなってもあったユリカのあの明るさは、ルリが側にいたからだったとは

彼自身思ってもいなかったのだ。


私は・・・・取り返しの付かないことをしたのかも知れんな・・・・
だが、もし今ルリ君の事を言ってしまえば・・・・二人の身の安全が・・・・
情けない・・・自分の娘の幸せよりも、他の者の幸せを考えるとは父親失格だな・・・
ユリカ・・・私を許してくれ・・・・



「あの、提督よろしいですか?」


窓を寂しそうに見つめながら、物思いにふけっていたコウイチロウにジュンが遠慮がちに話し掛けた。


「ああ・・・すまないね、他に用件があるのかね?」

「はい、ルリちゃんの捜索ですが、もう少し人員を増やした方がよろしいのでは?」

「そうしたいのだが、火星の後継者の残党がいまだ健在だと聞く。
 もし、捜索に人員を割けばその隙を突かれるかも知れんからな、すまないが現状で我慢してくれ」


そう言うと、再びコウイチロウは沈痛な面持ちで下を向いてしまった。

ジュンは、よほどルリを心配しているのだろうと思ったのだが、コウイチロウは今回の事件の真相を知る
数少ない人物である。

いや、今回の事件の共犯者と言っても良いだろう。その事が、コウイチロウに重くのしかかっている事に

ジュンはまだ知る由も無かった。



「では、今後の捜索はナデシコCでの捜索を行います」

「ああ・・・確か副長が今は艦長になっていたね?彼が慣れる為にもその方がいいだろう・・・」


ジュンは、軽く会釈をしてその場から逃げ去るように出て行く。

彼にとって、今のコウイチロウを見ることは何よりも辛い。

コウイチロウを見ていれば、ユリカが今どんな様子か手にとるようにわかる為であった。





「サブロウタさん、今度はどこを捜索しますか?」

「ハーリー・・・・俺の事は艦長と呼べって言ってるだろう?」

「でも、艦長代理でしょう?ナデシコCの艦長はルリさんだけです」


頬を膨らましながら、サブロウタに抗議するハーリーであるがサブロウタは

相変わらず子供っぽい所があるハーリーに少し呆れた顔をして見せるのみであった。



現在、ナデシコCはホシノ・ルリの捜索の任務に当たっていた。

行方不明になった当初、すぐさま宇宙へ向かうシャトルには検問を敷いてたがルリは見つからなかった為

ルリが住んでいたユリカの自宅の周辺地区から捜索を行っている。

もっとも、軍艦が町の上を飛び回るわけにもいかない為、港に着陸してその後ナデシコクルーが

目をつけた施設などを調査をすると言う、昔ながらの地道な捜索であったが。



「ハーリー君、艦長とお呼びしないと彼の対場も悪いだろう?」


二人の兄弟げんかのような様子を、ナデシコクルーはいつもの事かと眺めていたが

後ろから現れた人物は、その二人を止めるように会話に割り込んできた。


「ムネタケ参謀、失礼しました!」

「申し訳ありません・・・サブロウタさんが悪いんだ

「いやいや、気にする事は無いよ。現在のナデシコCの責任者はタカスギ艦長だからね
 ハーリー君もそこの所を良く考えて行動した方がいいと思うがね?
 まあ、そういう所が噂のナデシコという所かね」


姿勢を正し、ムネタケに敬礼をする二人に対してコーヒーカップを片手に

気にする事無く副長席についた。

ムネタケ自身、あまり気にしていないのだが新しく艦長に就任したサブロウタに

艦長としてのアドバイスをする為にナデシコCに乗り込んでいる為に出た言葉であった。

今回の捜索も、実際はサブロウタの艦長としての適正を見極める為にも行われた事だったのである。

だが、サブロウタは彼が来てからと言うもの、その優しい言葉とは裏腹に厳しい指摘をする

ムネタケを内心、嫌がっていた。

もっとも、今まではルリが艦長でサブロウタは副長と言うよりも、主にパイロットを専門としていた為ではあるが。


「それにしても・・・・見つかるといいねぇ、ルリ君」

「ええ、それで今度はこの地区に降りて捜索したいと思うんですけど・・・・・」

「ん〜〜、此処は以前に軍が調査したみたいだから、今回はここの方がいいんじゃないかね?
 この地区は飛行場とか交通の便が意外といいからねぇ、もしルリ君がさらわれたとしたら 
 陸路から空路へ・・・・そこの所は考えたのかね?」


さっそく、ムネタケの指導が始まってしまった事にサブロウタは、心の中で大きくため息をついていた。

だが、ナデシコクルー全員は消しいて弱音を見せる事は無かった。

尊敬する艦長ホシノ・ルリを救出する為にも・・・・・・・




ナデシコCがルリを必死に捜索する傍ら、ユリカは自宅で誰に合う事無く引きこもっていた。

会話をするのも、コウイチロウぐらいで聞くことはルリの行方の事ばかりだった。


「・・・・ルリちゃん・・・どうして、いなくなったの?・・・・
 私を一人にしないで・・・・・」


うつろな目で、力なく毎日同じ事を呟くユリカの姿があった。

彼女から、生きる希望が消え去ろうとしていた・・・・大事な家族がまた一人消えた事によって。



「残されし者」第1話・完

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どうも、KANKOです。さて、今回の外伝はユリカ達のお話になります。

そんなに長くなる事はありませんが、このお話しでユリカの気持ちに決着をつけようと思っています。

おや?誰ですか?ユリカの気持ちの決着はついているんじゃないのって言っている人は?

ちゃんと、後書きを読んでくださいね?(笑)

では、次回の外伝をお楽しみにお待ちください。

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