第2部・3話

機動戦艦ナデシコ


第二部


新しき未来



第3話



「艦長、なんかお客様がお見えですけど・・・」


現在ナデシコCは、地球の周辺をテスト航行と言う名目で、今日も今日とて
アキトとルリを捜索していた。

しかし、その行方は一向につかめていない。 もっとも、副長であるジュンはアキト達の行方を知る
数少ない人物ではあるが、誰にも話す事無くこの茶番とも言える捜索活動を協力している。
そのナデシコCは、海上を飛んでいる筈である。

もし、航空機などが近づいてこればオモイカネが知らせてくれるわけだが、
オモイカネは特に何も知らせてこない。
不信に思い、現ナデシコC艦長、ミスマル・ユリカがオモイカネに聞いてみると
小さなボソン反応ありとだけ、知らせてくれた。

報告をしたマキビ・ハリも、何が起こったのだろうか、いまいち理解が出来ていないようだ。


「ボソン反応? 艦内から? もしかして・・・・・・・アキト!?」


一喜一憂するユリカの横で、ジュンの顔は強張ったものに変化したが
大きく表示されたモニター内の人物によって、それは否定された。


『皆さん、こんにちわ、初めまして。 イネス・フレサンジュです!』


「「「うおっ!!」」」


ナデシコクルーのほぼ全員が、ドアップに映し出されたイネスの顔に驚きを上げた。
だが、ユリカは別段、驚く事無くイネスに挨拶をする。


「なぁ〜んだ、イネスさんだったんだぁ〜〜。てっきりアキトかと思っちゃいましたよ〜〜」

『ほほぅ・・・、アキト君だと思っていたわけね? 最近、アキト君の事を口にしなかったと思ったら・・・
 やっぱり、寂しかったのね? ほうほう、つまり今のユリカさんの心理状態は・・・』


強引とも言える流れで、イネスは突如説明をモニター越しに始めてしまった。
イネス自身、軍との共同研究の為、ジュンと以前会ったとき意外、説明をする機会が無かったせいで
この日の説明に掛かった時間は、イネスの人生の中でもっとも長くなったと言う・・・・






「うん、今日の説明は今まで最高の説明だったわ♪」

「あの・・・イネスさん。 今日は、この為にわざわざボソンジャンプをしてきたんですか・・・?」


ブリッジのオペレータ席で、満足そうに今回の説明をレポートにまとめるイネスに対して
憔悴しきった顔で聞くのは、ジュンであった。 すでに、ブリッジには二人しかいない。

と言うよりも、イネスの説明によってユリカを含む殆どのクルーが自室にて
休憩と言う名の、療養中であった。 ジュンも休みたかったのだが、イネスに引き止められ
仕方なくいるという次第ではあるが。


「何言ってんの、貴方が大事な話があるって言うから、わざわざ来てあげたんでしょうが。
 このナデシコCなら、私の部屋と違って盗聴される必要は無いしね」

「はあ・・・そうなら、そうと最初に行ってもらえば・・・」


イネスに、説明する気も失せているジュンでは会ったが、ここには二人だけと言う事に改めて気付き
気を取りなおして、イネスにアキトとルリの現在の状況を、自分の知る限り話した。

その話の内容に、イネスは最初は大きな驚きを示していたが話が進むにつれ、徐々に
険しい表情になってゆく。 まるで、ジュンの口からアキト達の事を聞くのを嫌がる様に・・・



「そう・・・アキト君がルリルリを救出していたのね・・・それは喜ぶべき・・ね」

「ええ・・・素直には喜べませんけど、無事だっただけでも」


だが、先程からイネスの顔はかなり暗いものになっている。 
ジュンは、イネスがユリカの事を思っての事だろうと思ったが、イネスの口から出た言葉に
彼は何も言えずに固まってしまった。


「貴方が、見つけなければもっと喜べたわ。 二人がどういう生活を送っているのかは別にして。
 でもね・・・気付いていなかったの? アキト君とルリルリ・・・二人と長い付き合いの人間
 特に、ナデシコAのクルーには監視が常についていたのよ?
 
 まったく、最も恐れていた事が起こったわね・・・・」

「そんな・・・僕達に監視の目が? でも、ネルガルが護衛についているはずですよ!?」


そう、ジュンの指摘どおりナデシコクルーには、ゴート達が護衛をしていた。
だが、ネルガルがアキトとの関係を、軍に睨まれた頃から護衛の任務は、アカツキの命令で
解除していた。 それでも、ルリだけは何とか軍の手から守る為ひそかに護衛をしていたが・・・


「もう、ネルガルは監視をしていないわよ。 アキト君との関係を軍が気付いているからね。
 問題は・・・・この事をアキト君が知っているか・・・ね?」

「多分、知らないと思います。 彼とは、もう会っていませんし・・・」


二人だけしかいない、ブリッジに思い空気が流れる。 アキトとルリが無事。 
その事が解っただけでも嬉しい事だったが、それと同時に二人の行方が軍にわかってしまうという
最悪の状況を生み出してしまった。

ジュン自身、アキトがルリを連れ去った理由を知ったのは、独自に調べてからではあるが
その事も、軍は既に気付いていたのかもしれない。
言うなれば、泳がされてしまった・・・・・そう考えると、怒りが込み上げて
つい、壁に拳を振り上げてしまうジュンであった。

だが、そのジュンの行動を気にする事無く、イネスは何かを考えているかのように
静かに目を閉じたままである。
そして、静かに目を開くと静かに語り出した。


「ジュン君が、二人にあったのはだいぶ前ね・・・もし、軍が二人を見つけたのならば
 すぐにでも動き出すはずだわ。 でも・・・何も動きが無いわね。
 軍のボソンジャンプの研究は、私が仕切っている部分が結構あるから二人を確保したなら
 気付くはずだし。 妙ね?」

「そうですね・・・軍は気付いていない・・・いや、それは無いか。
 どういう事だろう?」


二人は、その後もこの疑問について議論を交わしたのだが、全く答えは出る事は無かった。









「会長、ご友人からお手紙が届いていますが・・・」


ネルガルの会長室では、アカツキがたった今終わったばかりの書類の束に向かって大きくため息をついていた。
そのアカツキに、静かに入ってきたツキオミは手紙をアカツキに差し出す。
だが、ツキオミの表情が何時も以上に真剣な眼差しになっているのをアカツキは見抜くと
決して良い事が書いていないと理解すると、静かに手紙の内容を読み始めた。


そして、読み終えたアカツキの顔には、先程よりも疲れた表情が垣間見える。


「ふぅ・・・何かあったら、連絡をよこせとは市長には言っておいたけど
 まさか、こんな事がおきるなんてね・・・運命って悲しいもんだねぇ・・・」

「私はどうしましょうか? テンカワの手伝いをしましょうか?」


既に、内容を読んでいたのかツキオミがアカツキに申し出る。 だが、アカツキはそのツキオミを手で制す。


「いや、彼らはもう行動を起こしているし、連絡の取り様が無いしね。
 それよりも、イネス君のところに行ってもらえないかい? おそらく、軍は彼女に
 手伝ってもらう筈だからね。 彼女と一緒なら、ラピス達とは訳接触できるだろうしね」

「わかりました。 ですが、私が救出するとネルガルの立場が悪くなる恐れがありますが?」

「ん? テンカワ君が来た時に動けば良いさ。 どうせ、その時はごたごたしている筈だから
 その時を狙えば良いしね。 ついでに、軍が人体実験に何人使ったか調べてもらえると助かるんだけどね〜〜」


疲れの中にも、怪しい笑みを浮かべるアカツキに対して、その言葉の意味を読み取ったのか
ツキオミも、笑みを浮かべながら軽く会釈をし部屋を去っていった。
ツキオミを見送ると、アカツキは大きなため息をついて椅子にもたれた。
だが、その表情は先程と同じように笑みがこぼれていたままだ。



「そろそろ・・・借りは返してもらおうか・・・・軍人さん♪」









「いや、全く良くやってくれたね。 ホシノ・ルリかラピス・ラズリでも良しと最近は
 考えていたんだけど・・・まさか、テンカワとホシノの子供を連れてくるなんてね。
 ご苦労だったね?」


ここは、軍の研究所。 その中心部とも言える研究室では、白衣を身につけた男が二人の男女に
向かって、褒め称えている。 その顔には、先程から堪えきれないのか笑みがこぼれ
シワだらけの顔がさらにしわくちゃになって行く。

その男、博士に二人は愛想笑いを先程から浮かべる事しか出来なかった。
だが、ずっとこのままでは辛いと感じたのだろうか? 女性の方が話を変えようと
博士の方に話をはじめた。


「あの、我々が連れてきたあの二人は、何時から実験に参加させるのですか?」

「ん? イネス博士が戻ってきてから二人には、研究に参加してもらうよ」

「ですが、彼女はテンカワの仲間でしょう? 彼が来るまでに時間稼ぎをされてしまいますよ!」


博士が思ってもいなかったことを口に出した為か、男は少し激しい口調になりつつ博士に問う。
だが、博士は彼の反応は当然だと言った表情で見つめ返すと、彼は再び
笑い出した。


「いや、君達が心配する事は無いよ。 テンカワがこの研究所に来ても、なにも出来やしないよ。
 何もね・・・」 


尚も、笑いつづける博士に二人は、憮然とした表情を浮かべる事しか出来なかった。
何故に、テンカワの事を気にしていないのか? この研究所は軍の者でも一部しか知らない。
その為、直接攻撃などを加えられたら只ではすまない。
その事は、博士も良く知っているはずなのだが? 
だが、二人が博士の思惑に気付くのは、そう遅くない時期であった。







その頃、ラピスは使われていない社員用の部屋に監禁されていた。
先程までは、ムツミの事を必死に聞き出そうとしたのだが、部屋の外にいた警備の人間が
いないとわかると、静かになっていた。
何かに必死になっていると、一つの物事にしか集中しなくなるものだが
静かになった時は、いろいろな事を考えてしまう。 今のラピスがそうだろう。
ラピスの脳裏には、ムツミの事がどうしても気に掛かっている。

あの子は今何処に連れて行かれたんだろうか? 何故、自分とは別々の場所に分けられたのだろうか?
もしかして、昔自分が火星の後継者にされた事を、あの子にもされているのだろうか?
そう思うと、寒くも無いのに体が震えてしまう。 そして、二人の名前が自然に口に出る・・・


「アキト・・・ルリ・・・早く来て・・・」


その時、部屋のドアが開き食事を持ってきた警備の人間が入ってきた。


「お前、食事はまだなんだろう? 別に変なものは入っていないから安心しな」


最初は、警備の男が差し出した料理には見向きもしなかったのだが、連れ去られたのは丁度お昼頃
それから、丸一日何も食べていなかった為、空腹感には勝てずについに、料理に手を伸ばす。


「どうだ? 美味いか? ここの食事は結構いけるんだぜ?」

だが、ラピスは複雑な表情で男を見上げると、一言言った。



「お塩が天然じゃない・・・」

「は?」


その一言に、男は一瞬ラピスが何を言っているか理解できなかった。
だが、その男をよそにラピスは、塩に関する講釈を一時間ほど始めた。

後に、男はこう語る・・・・
まるで、イネス博士が説明をするような口ぶりだったと・・・・












「アキト、ムツミとラピスが何処に連れ去られたのかわかっているんですか?」

暗く、静かな海中を突き進む木蓮型駆逐艦。 そのブリッジでルリが艦長席に静かに座るアキトに問う。
就航してから、何度も聞こうとルリは思ったのだがアキトは、只『しばらくは、海中を突き進めば良い』と
答えるだけで、その後は何も言わなかったのだが。
何度目かわからないルリの質問に、アキトはようやく話し始めた。



「何処に連れ去れたかは、見当はついているよ。 ボソンジャンプの研究が最も進んでいるところは
 イネスさんがいる所しかないからね」

「イネスさんが? それで、さっきから落ち着いているんですか?」

「いや・・・それだけじゃないんだけどね。 少しでも港から離れないと市長達の都合が悪いしね」


そう言うアキトに、ルリはこの状況でも周りの事を良く考えているアキトに驚いた。
自分は、ムツミとラピスの事で頭がいっぱいだったのに対して、アキトは冷静であったからだ。
沈着冷静。 それがルリの専売特許とも言える事だったがこの時ルリは、それもそろそろ返上しないといけない
かもと思い始めていた。


「じゃ、もう少し海中を進んでから研究所の正面にジャンプをするよ」

「直接攻撃ですか?」

「ああ、それまでは休んでおこうか? 今日は色々あったから、ルリも疲れているだろう?」


ルリの肩に手をかけながら、アキトはゆっくりとプライベートルームへと向かって行く。
ルリは、何も言わずに肩に置かれたアキトの手を優しく包み込む。 

もう決して、平穏な生活は送れないだろう。 そう思いながら、せめてこの時間は
これから始まる戦いの前の最後の休息として、静かに過ごそう・・・・そう思いながらアキトと共に歩む。


二人の・・・家族の為の戦いが、ここに幕を開けようとする。







第3話・完









追記: この休息の結果、新しい家族が生まれる事になるのはご愛嬌(笑)




どうも、今回はちょと短めですが、話の流れを考えるとこうなってしまいます。

しかし、ユリカの出番が少ないですねぇ・・・まあ、あまりお必要は無いんですがね(苦笑)

さて、このお話は早くも終わりが近づいています。

もし宜しければ、感想の一言でも頂ければ幸いです。 そーすれば、他の話も早めに取りかかれるかも?(笑)

では、ここまで読んで頂いて有難う御座いました。


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