二部・二話

未来の為に


第二部


新しき未来



第二話



「今日は何を作ろうかな?」

冷蔵庫の中身を見ながら、ラピスが一人呟いている。
今日は、久しぶりにアキトとルリが一緒に休みを取る事が出来た為、少し豪勢にしようと
ラピスは目論んでいた。
この頃は、ルリの料理の腕前もかなりの上達をしていた。
やはり母親としての意地であろうか? その上達振りは台所の主、ラピスも驚きを隠せないでいる。

「やっぱり、買い物に行ってきた方が良いかな?」

「ラピス、手伝いましょうか?」


居間の方から、ツインテールの髪を解いたルリが話し掛けてきた。
ラピスに話しかけるルリの物腰は、既に少女の雰囲気はなくまるで母親のような態度で接している。
自分を、子供扱いされる事にも少し腹立たしいラピスであったが、何よりも自分が主導権を握っていた台所に
徐々にではあるが、ルリが入ってくるのが面白くなかったラピスは無言で首を横に振るばかりだ。


「そう、でも材料は無いんじゃないんですか?」

「今から、買って来ようと思っていたの」


ルリの言葉に、面白くないとばかりに足早に台所を出ていったラピスをルリは見守るような温かい視線で
見つめていた。 だが、直にラピスは戻ってきてルリを見つめる。

「どうしたんですか?」

「あの・・・ムツミも一緒に買い物に連れていって良い?」

「・・・良いですよ」

「ありがとう!」


ルリの返事を聞くと、先程のルリに向けていた睨み付けるような表情は消え
嬉しそうな表情を見せながら再び台所から足早にラピスは消えていった。





「それじゃ行ってきま〜す!」

「ラピス、気をつけてな」

アキトの声を聞き終らないうちに、ラピスはムツミを乗せたベビーカーを押しながら
出かけていった。 その後姿をアキトもルリが見せたような優しげな表情で見送るとルリのいる居間の方に向かった。
居間には、ルリがテレビを眺めていた。
アキトは何も言う事無く、ルリの傍に座り同じようにしばらく眺めていると
ルリがアキトに話し掛けてきた。 その視線はテレビに向けられたままだった。


「ラピスって、私が来た時と比べるとずいぶん表情が出てきていませんか?」

「良くも悪くも、ルリのお陰だと俺は思っているんだけどね」
 
「そうですね・・・以前のラピスは何か昔の私を見ているようですね。 だから、あの子がどうしたいのか
 何となく解りますけど、ムツミが生まれてからは特に会話の方も積極的になりましたよね?」

「そうだな。 ラピスは今まで自分より年下の子との付き合いが無かったし
 何より、赤ん坊の面倒を見るなんて初めてだからね。 それが良い刺激になったみたいだね」
 

二人は、最近のラピスの変化に喜びを感じていた。 以前よりも人らしい表情をするようになった
ラピスを見ると今の生活も悪くないと思うようになっていた。
この時アキトは、ルリもここまで変わるとは思っていなかったと言いそうになったが
その事を口に出す事は無かった。 以前に同じような事をルリに話したのだがその時、少し悲しそうな顔をして
そんな事は無いと言った。 この時、アキトは何が悲しいか解らなかったがそれ以来言う事は無かった。
今の幸せな生活に、何が不満なのかアキトは解らなかったがその事をしゃべらない限りルリは
普段どおりだった為、特に気にしないようにしていた。


「何か、子供が二人で来たみたいですね。 アキト」

「ん?そうだね。 でも、ラピスにその事を言ったら駄目だよ?ルリ」

「ええ、ラピスはアキトの事が好きですからね。アキトが自分の事を娘のように思っているなんて
 知ったら大変ですからね。 アキトも気をつけてくださいね?」


ラピスが自分の事をどう思っているか何となく解っていたのだが、よりにもよってルリに言われるとは思わずに
アキトは苦笑するしかなかった。
しかし、その顔には以前のような暗い笑みではなかった。
そんな二人のやり取りは、ほんの少し前まで不幸を抱えた姿は見うけられなかった。
もうすぐで、お昼を迎えるこの時ささやかな幸せを二人はかみ締めていた。





「ルリが作れるのは嫌だし・・・今日はどうしようかなぁ」


この町の、商店街のスーパーでラピスは肉売り場のコーナーで肉とにらめっこしていた。
既にこの場所で20分以上にらめっこしているラピスの傍で、ベビーカーの中のムツミがラピスに構って欲しいのか
手をばたつかせながら、ラピスにアピールしていたのが疲れてしまったのか先程から
周りの棚に並べられている商品を珍しそうに眺めている。

そこに、肉売り場の担当の店員がラピスに近づいてきた。
ラピスが、珍しく悩んでいるのを見て不思議に思った彼はラピスと同じ目線になるように
屈みつつ話しかける。 


「どうしたんだい? 珍しく悩んでいるね。 何かお祝い事でもあるのかい?」

「あっ、おじさん。 今日はアキトとルリと一緒にご飯を食べる事になったんだけど・・・」


そこまで、ラピスの話を聞いて店員はラピスが何を悩んでいるか合点がいった。
以前、ルリがラピスの料理の腕前に近づきつつある事を悩んでいる事を話してくれたのを思い出した。
その時の、ラピスはかなり焦っていた姿を思い出しつい笑みがこぼれてしまう。
その姿に、ラピスは彼が何が可笑しいのか全く理解できずに、首を傾げて見せるだけだった。


「ラピスちゃん。 例えルリさんが君と同じ腕前になったとしても決して君の味を再現できるわけじゃないよ?
 君とルリさんは似ているけどさ。 同じ人間ではないんだから決して君の真似は出来ないんだよ。
 だから、自信をもって何時も自分が作っている料理をテンカワさんに出せば良いんだよ」

「私が何時も作っている料理・・・・有難う!おじさん!」


そう言うと、ラピスは買い物篭に先程まで手にとっていた牛肉のパックを取り、ムツミが乗っているベビーカーを
押しながら駆け出していった。 
その姿に店員は、やれやれと言った調子で両手を腰に当てて見送っていた。


「本当に、変わったねぇ・・・あの子は。 ルリさんのお陰って言うのには何時気づくかねぇ」






「有難う御座いました。 ラピスちゃん、気をつけてね」

「は〜い」


レジの女性に挨拶をしながら、ラピスは店を出てきた。 その手にはラピスが持つには少し大きすぎる買い物袋
を持ちながらベビーカーを押しにくそうにスーパーを出てきた。
だが、ラピスの顔は先程肉売り場の店員に言われた事の為か表情は晴れやかだった。
その姿に、先程からラピスを知る人は持ってあげると申し出ていたのだが、ラピスは全ての申し出を断っていた。


そのラピスの後姿を、見送る人の中に一組の男女の姿があった。


「おい、ラピス一人みたいだな。 どうする?」

「そうみたいね・・・・どうやら、テンカワ・アキトはいないみたいねぇ。 チャンスじゃない?」


女性が、男性に確認をすると男性は無言で首を傾け、ラピスに近づいていった。
ラピスに近づいてゆく男性の姿を、女性は確認すると足早に道路の向かい側に止めてあった
車に乗り込んでゆく。


「ラピス・ラズリだね?」

「誰? おじさん」


まだ、おじさん呼ばわりされる風貌とは呼べない男性はラピスの問いに答える事無く突然
ベビーカーで気持ちよさそうに寝ていたムツミを抱きかかえると、道路の向こう側に走り出した。

その行動に、ラピスと周りにいた人は何がおきたか解らなかったが、見知らぬ男性の腕の中で
寝息を立てているムツミの顔を見るや否、全速力で駆け出した。
その動きは、普段のラピスからは想像つかない程の素早い動きに周りにいた人達は
何が起こったか理解するのに一瞬、遅かった。

その時、ラピスの脳裏にはムツミが危ない。 それだけが脳裏を支配し、体が無意識のうちに動いていた為
今の自分が、いったいどのように動いているか全く意識していなかった。
丁度、ラピスが駆け出したと同時にスーパーから肉売り場の店員が店内から出てきた。
お昼休みなのだろうか、制服は身につけておらず私服姿であった。
彼も、周りにいた人達と同様、店前でおきた突然の出来事に何が起きたか解らなかったが
ラピスより少し遅れて、駆け出していく。

既に、男性は先程の女性が運転する車に乗り込み、扉を閉めようとしたが開いていた窓から
ラピスは車内に乗り込もうとしていた。


「ムツミを返して!!」

身を乗り出し、男性の手の内から助け出そうとするがその手は男性の手に捕まれ逆に
車内に引きずり込まれてしまった。


「車を出すんだ!」

片手で、ラピスを取り押さえる男性は女性に大きな声で命令したが、開いていた窓から突如腕が
男性のラピスを取り押さえている腕をつかんだ。


「おい!二人を話せ!」


ラピスを追ってきた店員が、凄まじい形相で男性を睨み付けてきた。
両手がふさがっている男性は、何とか体を左右に振る所で店員の手から逃れようとしたが
狭い車内では、その努力も無意味で窓から車内に引きずり出されようとしていた。


「おじさん!」

「貴様ら、いったいどう言うつもりだ!?」

ラピスと、店員の声がほぼ同時に車内に響いたと同時に車内から大きな音が響き渡った。
そして、窓から車内に乗り込むようにしていた店員が、力が無くなった様に車にへばり付きながら
座り込んでしまった。 その直後車はけたたましい騒音を出しながらその場を走り去っていった。


直後、店員を助けようと近づいてきた数人の人が彼に近づき立たせようとしたが、
彼は立とうとはしなかった。 彼の額には、大きな穴が空きそこから蛇口をひねって出てきた
水のように、血が流れていた。


「お前なぁ〜、こんな所で発砲するか?」

「仕方ないじゃない。 あんたがぐずぐずしているからよ」


呆れた様に女性に抗議する男性を気にする事無く、女性は静かに返答したがそれとは裏腹に
車は凄まじいスピードで、しかし的確な運転で道路を走っていった。
その後ろには、ムツミと薬で眠らされたラピスが静かな寝息を立てていた。
二人のその寝顔は、先程起きた出来事が嘘のようであったと思わせる。

だが、この事件はこれから起きる出来事と比べれば小さな出来事であった。






「アキト・・・」


ラピスが、さらわれたと知らせを受けたアキトとルリは事件現場に来ていた。
事件現場で、野次馬達を遠ざけていた警官から事件の概要を聞いていたルリは、只アキトの名前を呟き
アキトの手を握り締めるばかりだった。
その顔からは、血の気が失せ常人よりも白い肌のルリの肌はさらに白くなり、見る者によっては
死人と見間違うばかりだ。


「ルリ、君は家に戻っておくんだ。護衛をつけるように視聴に入っておくから」

「アキトはどうするんですか?」


アキトに、聞き返す表情はアキトでさえも見た事が無いほど弱々しく、その瞳からは光が失われつつある。
そのルリを少しでも安心させるように、握られたルリの手をさらに強く握り返し
体を抱きしめてる。


「大丈夫だよ、二人は必ず俺が助けるから・・・・・・ルリは何も心配しないでも良いんだよ」


そう言うと、名残惜しそうにルリの体から離れるとアキトは先程まで事情を聞いていた警官に
ルリの護衛を頼むと、ルリの頬に軽くキスをしてその場を後にした。




「アキトさん・・・」


その後、ルリはパトカーに乗せられ帰路につく。
だが、ルリの脳裏では今回の事件について思いを巡らすばかりだった。
何故、白昼堂々とさらわれたのか? 犯人の顔は多数の人間が目撃している。 もし、軍による誘拐であったなら
幼稚過ぎると思い悩んでいた。

では、クリムゾンか? しかし、火星の後継者の件で軍に厳しい追及を受けているクリムゾンでは
ネルガル同様まともに動く事は出来ない筈だ。 そのネルガルの仕業か? それも全くありえない話しである。
アカツキが会長である限り、そんな馬鹿な事はしないはずだからだ。

おそらく、犯人は軍かもしれないがその事はこの事件が終わればわかるだろうと、ルリは考えない事にした。
だが、ムツミとラピスを助け出そうとした店員が死んでしまった事を思い出すと、その瞳に涙が
溜まってゆく。


「ルリさん、大丈夫ですか? 彼の事はあまり気にしないほうが良いですよ。
 誰も、こんな事がおきる事を予想するのは出来なかったんですから」

「でも・・・・・いつか、おきるとかもしれなかったんですよね・・・・」


運転をする警官が、ルリに慰めるように話しかけたがルリの一言が
再び思い沈黙で包まれた。


いつか、おきる事・・・


自分達は、狙われている・・・・その事は理解していた筈だったが、アキトとの幸せな生活を送る事で
徐々に忘れてしまっていた。 何より、軍の自分達への捜索の規模が縮小されたからだ。

それと、もう一つ。 自分に子供が、それもアキトとの間に出来たという事が
狙われていると言う事を忘れてしまう事に拍車が掛かってしまった。
もっと、軍の行動を注意深く観察していれば防げたかもしれない。 せめて、アキトか自分のどちらかがいれば
ラピス達を助けようとした店員も、巻き込まれる事は無かったかもしれない。 
 
落ち着いて考えれば考えるほど、ルリは後悔の念が出てきてしまう。 


「でも、テンカワさんが何とかしてくれますよ。 ルリさんも助けたんですから」

「そう・・・ですよね。 アキトなら・・」


その時、ルリはある事に気づく。 
アキトなら、どの様にこの事態を収拾するのだろうか? 以前の様に強引な手段を取るのだろうか?


「あの、すいませんが寄っていただきたい所があるんですけど」

「はい?」


ルリを乗せたパトカーは、家へ向かわずに別の道路へと向かいだす。








「ええ、通しても構いませんよ」


市長室で、束の間の休憩をしていた市長に秘書から客の訪問があった連絡を受けている。
その訪問者が、ここに来る事を予想していたのかすぐに通す事を伝える。
そして、受話器を置いて5分も立たずに、その訪問者が現れた。


「ご無沙汰しています」

「ええ、本当に久しぶりですね。 今回の事件は我々の不注意でおきた問題です。
 本当に申し訳ありません。 ルリさん」

「いえ、私達の方こそもう少し警戒するべきでした」


市長が、ルリと会うのはムツミが生まれた時以来であった。 
久しぶりに見るルリの表情は、事件の影響の為か決して良いものではなかったが
その瞳には、何か強い意思が感じられる。


「いえ、まさかこんな強引な手段にうでるとは思えませんでしたから。 現在、逃走した車を部下が追跡中ですのでそれまでは
 家でお休みになった方が宜しいのでは? 救出はテンカワさんに任せておけば大丈夫ですよ」

「アキトは、どうやって救出するつもりですか? 今回は、今まで行なってきた火星出身者の
 救出作戦とはわけが違いますが?」


ルリの言葉に一瞬、体を硬直させてしまう市長。 先程の事件から幾ばくも経っていないのに
彼女は既に、次に起こるべき事を頭の中で想定していた。
市長のルリの第一印象は、冷静と言うよりも痩せ我慢をしているように見えた。
普段の無表情とあいまって、冷静な印象を回りに与えていたが、ルリと話した時そう感じたのだ。

彼女が変わったのは、アキトと本格的に付き合い始めた頃ではあるが
会う度に、徐々に大人の女性に成長してゆくルリに市長も驚きを隠せなかった。

だが、今市長の目の前にいるルリは痩せ我慢しているようには見えない。
事件に対して、正面から向き合おうとしている。
この時、ルリは本当に強くなったと市長は改めて感じた。


「・・・・何も、貴方の手を借りる事になる事は無いですよ。 今回は、突然の事ですから
 作戦を考える余裕はありませんし・・・」

「では、質問を変えます。 アキトは、今何処で準備しているのですか? 
 せめて、もう一度会っておきたいので」


ルリの顔には、引き下がるつもりは毛頭無いとばかりに市長を睨みつける。
それから、5分ぐらいだろうか? お互いに視線を外す事無く見つめていたのだが
市長の方が、ついに根を上げアキトの居場所を白状してしまった。


「そうですか・・・そこにアキトはいるんですね」

「はい、きつく口止めされていたんですが。 まあ、テンカワさんをあまり責めないで下さいね?」

「ええ、アキトの性格は良く知っていますから。それと・・」」

「何でしょうか?」

「今まで、お世話になりました」


そう言い残すと、ルリは市長室を後にした。 残された市長はルリの最後の言葉の意味を
読み取っているのか、苦しげな表情を浮かべる事しかできなかった。






「久しぶりだな・・・」

「本当に久しぶりだな。 だが、お前がここに来る事は無ければ良かったんだがなぁ」


今、アキトは町から離れた港に来ていた。 その港でもひときわ大きい倉庫の前で
一人の男と話をしている。 男は機械油などで汚れた作業着に身を包んでいる。
男はここにアキトが現れたのを本当に残念そうな表情で見ながら、倉庫を開け中へとアキトを案内した。


「準備の方は?」

「システムチェックが残っているぐらいだ。 で、何処に誘拐されたかはわかったのか?」

「いや、まだだ。 大体の見当はついているがな」

「そうか。 準備が終わったら、呼ぶからお前は部屋で休んでろ。 少しでも、体力を蓄えないとまずいだろ?」


男に即され、アキトは無言で倉庫の隅にある小さな部屋へと足を向けた。
彼自身、疲れてはいないのだがこれからおきる事を考えると、少しでも休んでいた方が良いと判断した為
文句も言わずに部屋に向かった。
それに、男の作業の手伝いを出来る事はアキトには無理でもあるからだ。



20分ぐらい経った時、部屋をノックする音が響く。 アキトが扉を開くとその場で
アキトは凍りついたように動なくなってしまった。


「アキト、準備が出来ましたけど」


何故なら、目の前にはここにいる筈のないルリがいるからだ。


「アキト?」

「ルリ・・・何だその格好?」


何故、ここにいるか?それを聞き出そうとしたアキトだが、それよりもルリの今の服装を見て
思わず別の事を聞いてしまった。
何故なら、ルリの顔には大きなサングラスが掛けてあり、黒いマントを羽織っている。
そう、アキトの戦闘服を真似していたからだ。


「似合いますか? 前に作ってもらったんです」

「あ・・・じゃなくて、何でここにいるんだ!?」


ルリの言葉で、正気を取り戻したアキトにルリはサングラスを取り厳しい口調で
逆にアキトに問い掛ける。


「アキト、子供を守るのは親の務めですよ?」

「ルリ・・・・でも、俺が今からやる事は・・・」


言いよどむアキトを、ルリは優しく抱きしめる。 以前、自分がアキトに抱きしめられたように・・・


「もう・・・一人で苦しまないで下さい。今の貴方には私がいますから。
 もう・・・一人で抱え込まないで下さい」

「・・・・・・ルリ・・・・・・・」


しばらく、お互いに抱きしめあっていた二人だが後ろの方で、わざとらしく咳払いをする
男に気づき、二人は少し顔を赤らめながら離れた。


「準備はもう出来たんだが・・・・・もう少し遅れるか?」
 
「い、いや。 すぐにでも出発する」

「そうですね! ムツミ達も心配ですから!」


照れを隠すように、二人は早口で部屋を後にする。 その姿を呆れた様に見送る男の姿が
部屋には残された。




「アキト、この戦艦は・・・・」


倉庫の地下には、ルリにも見覚えのある戦艦が佇んでいた。 木蓮型駆逐艦。
外装には、多少の傷が入ってはいるがしっかりと整備されているようだ。


「火星の後継者のふりをする為にね・・・・」


そう言うと、アキトは駆逐艦の中へと向かってゆく。 ルリもその後に続く。
駆逐艦の内部には、多数のバッタと少数のステルングールが配備されている。
その時、ルリの視野にある機体の姿が目に止まった。
それは、一度しか見たことはないが彼女の脳裏には強く印象が残っている。 機体の色は黒く塗装されているが
忘れ様がなかった。


「アキト・・・あの機体は・・・」

「今の・・・火星の後継者の不利をしている俺にはお似合いだろう?
 まあ、俺があれに乗るなんて皮肉以外の何者でもないけどね」


その機体は、静かに出撃の時を待っているかのように佇んでいた。
その機体の名は・・・・・・夜天光。 アキトの復讐の最終目標でもあった北辰が操っていた機体だ。


「さあ、何時までもぐずぐずしてられないな」

「・・・・・・はい」


ルリは、アキトがどんな思いでこの機体に乗っていたのか、その事を思うと胸が締め付けられるような気分だった。
できれば、乗りたくなかっただろう・・・・・・・だが、自分やユリカを守る為に
ここまでしてくれていたアキトの事を思うと、嬉しくもあった。








『おい、準備は良いか?』


作業服の男が、戦艦の艦橋のモニターに映し出される。
すでに、ルリもアキトも操縦席に着いていた。



「ああ、世話になったな」

『気にすんな、二人とも元気でな』

「はい、有難う御座います」


作業服の男の姿が消えると、戦艦の前方の扉が開き海水が流れ込み海底の中へ
駆逐艦は姿を消した。
まるで、二度と姿を見せないように・・・

二人は、再び戦場へと戻ってゆく。 それが運命のように・・・・



第二話・完

ども、お待たせしました。KNAKOです。

いや、仕事が忙しくて・・・・・・本来は5月中にはこのお話は終わっているんですけどねぇ(笑)

今後はもう少し、速く書けるように頑張ってみますので長い目でお待ち下さい。

しかし、この執筆スペースだと「一人時の中」は何時終わる事が出来るのか・・スンゴイ心配です。

では、呼んで頂いて有難う御座いました。

次話へ進む

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