第2部・1話

未来の為に


第二部


新しき未来



第1話



ホシノ・ルリが、テンカワ・アキトの元に来てもうすぐで3年目を迎えようとしていた。
この頃には、アキトとルリの間に出来た子供の世話にも慣れてきた二人には
昔のような思いつめた表情を見せることはなくなっていた。

もっとも、育児と仕事の両立させるのは本人たちが思っていたよりも大変だった為
ユリカ達の事が話題になる事も全く無かった。
しかし、さすがに二人ともつきっきりで子供の面倒を見る事は難しく 
昼間はラピスに育児を頼む事が多くなっていた。

ラピス自身、最初は予想通り悪戦苦闘していたが最近では育児も楽しくなってきたのか
積極的に二人の子供・・・ムツミの世話をしていた。
そのお陰か、ラピス本人も気づかないうちに表情豊かになってきたのには
アキトは大いに満足していた。

この頃のアキトも、火星の出身者の保護の仕事は相変わらず行なっていたが
その仕事の他に、自分が身につけた木蓮の格闘技を仲間に教える方が多かった。
また、ルリも火星の出身者の保護の作戦を提案する傍ら、警察で起きた事件の書類の整理を行なうなど
徐々に、違う仕事につくようになっていた。
もっとも、周りの人間が二人に気遣った為ではあるが。


「ルリ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「なんですか?」


書類の整理をしているルリに話しかけてきたのは、同じ部署でデスクワークを担当している女性だった。
ルリがこの部署にくる前までは、彼女の他に2、3人で書類の整理をしていた。
書類と言う呼び方をしているが、この頃はすべての書類はコンピューターで管理しているから
あまり人数は必要ではなかったが、さまざまな書類を扱う事がこの部署の特徴だった為
「電子の妖精」と呼ばれたルリがこの部署に配属されたときには、大いに喜んだものだ。
その彼女の期待通りに、ルリは見事に仕事をこなしていた。


「前々から思っていたんだけど、何でテンカワさんと結婚式を挙げないの?」

「あまり、そういう事には興味無いんですよ。それに、私とアキトは世間的には死んだようなものですから
 式自体あまり意味が無いものと思っていますし」


そう言うと、ルリは書類の整理を再開した。
実は、彼女以外にもルリは結婚式を挙げないのかと言う質問は子供が生まれた頃から
何度となく聞かれていた。
ルリの本心としては、結婚式は挙げたいと思っていたがアキトと同じぐらい大事に思っている人物
ユリカに申し訳ないと思いあえて拒否していた。
アキトの方は、ルリが嫌なら無理にする必要ないと考えていたが、ルリの気持ちは気づいていなかった。

間違いなく辛い思いをしているユリカを差し置いて、すべての幸せを手に入れるのには
ルリには抵抗があった。
この事が知れたら偽善と思われるかもしれないが、あえて結婚式は行なう事はしなかった。
もっとも、周りから見れば二人は十分に幸せではあるが。


「まあ、本人たちが良い問いなら別に良いけどね・・・」

「そういう事です」


彼女を無視するように仕事を進めるルリを見て、触れては行けない話題だったと思った彼女は
それ以降、この話をする事はなかった。





「アキト、待っていてくれたんですか?」

「ああ、今日は思ったより早く終わったからね」


ルリが入り口前に差し掛かった時、アキトがすぐ傍で立っている事に気がつき意外そうな顔で
アキトに話しかけた。
仕事が違う為、一緒に帰宅する事は今まで無かった。
この時間には、まだアキトは仕事をしているはずだからだ。


「暇なんですか?お仕事」

「いや、そう言うわけじゃ無いんだけどね。みんなが気を使ってくれてるみたいなんだ。ムツミは、まだ小さいからね」
 

「そうですか。ちょっと残念ですね」

「何が?」


ルリの言葉に、アキトは全く理解できないとばかりについ声を大きくしてしまった。
自分と一緒に帰る事が嫌なのだろうか?
他に何か用事があったのだろうか?それにしては、なぜ残念と言う言葉がルリから出たのか
アキトは全く思いつかなかった。
そんなアキトに対して、ルリはその様子がおかしいのか笑みを浮かべながら説明した」


「ムツミが大きくなったら、以前のように忙しくなるかもしれないと思っただけですよ。
 別に、アキトと一緒に帰るのを嫌がっているわけじゃありませんよ」

「なるほど、確かにムツミが大きくなったらまた仕事が増えるかもしれないな」


二人は、今の生活に満足している反面、今も軍はジャンプの研究にA級ジャンパーでもある二人を
捜索している事が、将来ムツミに大きな危険となる事を気にしていた。
だが、以前のように軍はしつこい捜索をしていないところを見ると、ジャンパー無しでも
研究ははかどっているようだ。
自分達に、危険が及ぶ事が少なくなっている事は喜ぶべきだがジャンプが戦争の道具として
大いに役立っているのは喜ぶべき事ではなかった。


「アキト、あの子が大きくなる頃にはA級ジャンパーの存在が必要としない時代になっていれば良いですね」

「そうだな、皮肉な話だけど軍にはそういう事では期待しているしね・・・」


A級ジャンパーがいなくとも、長距離のボソンジャンプ。
もし成功したら、きっとA級ジャンパーは不要な存在になるだろう。
だが、未だ未知の部分があるボソンジャンプを人類がすべてを解明するには、まだ大きな時間がかかる。
その事を理解している二人ではあるが、やはり望んでしまう。
新しい家族の事を思うと、何時までもこの生活が続く事を・・・・











「お久しぶりです、イネスさん」

「あら、珍しいわね。二人が私に会いに来るなんて」


ネルガルの研究所のイネスの部屋に訪れてきたのは、ジュンとユキナの二人であった。
この頃には、ジュンはアキトとルリが行方をくらましている理由を既に知っていた。
だが、この事はユキナ以外には誰にも話していなかった。
それと同時に、大きな疑問がジュンには思い浮かんだ。イネス・フレサンジュの存在である。
彼女も、A級ジャンパーであるにも関わらず軍に誘拐される様子は全く無かった。


「単刀直入にお聞きしたいんですが、何故貴方は軍が現在行なっているボソンジャンプの実験に
 参加していないんですか?」

「そうだよ、科学者だから・・・その事だけじゃ説明不足だからね」

「そう言えば、誰にもその事は説明していなかったわね・・・」


不適な笑みを浮かべるイネスに対して、この時ユキナは人生で大きなミスをしてしまったと
ミナトに愚痴っていた。
ジュンとユキナは、その後数時間イネスの説明を聞く羽目になっていた。





「はあ、ようするにイネスさんはボソンジャンプの研究の第一人者でもあるから
 人体実験は、酷いものにはなっていないんですね・・・・」

「なんで、こんなに簡単に説明する事出来るのにこんなに時間が掛かったんだろう・・・」


げっそりとした二人に対して、イネスはすべてを成し遂げたように晴れ晴れとした表情を二人に向けていた。


「まあ、人体実験事態は最近は行なっていないわね。火星の後継者が残した研究データのお陰で
 結構研究事態は進んでいたし、何よりA級ジャンパー自体中々見付からないから」


だが、軍で本格的に研究が始まった頃は何人かのジャンパーが犠牲になってはいた。
しかし、その後はこの事を知ってか知らずかジャンパーと思われる人間の消息は殆ど見付かる事は無かった。
テンカワ・アキトも含めて。
イネスは、この事を幸いとばかりに研究方針を人間単体によるボソンジャンプから、ネルガルが開発した
アルストロメリアによる長距離ジャンプの実験に切り替える事に成功した。


「でも、何で貴方達がそんな事を聞くの?」

「いえ、ユリカの事もあるし・・・・何よりアキトの事も気になって」

「そうそう、別に深い意味は無いよ」


二人の様子に、イネスはジュン達が何かを隠しているのではないかと感じた。
実は、イネスはアキトの行方を全く知らなかった。捜索しようにも、
自分には軍の監視がいるから下手な行動は起こす事が出来なかったからだが。
もしかしたら、二人にはアキトに関して何かを知っているのではないか?そんな事が脳裏をよぎったのだが
今、ここで問い詰めてもしゃべる事は無いだろう。
ジュンだけならともかく、ユキナが傍にいるし後日改めてジュンに聞いてみれば良いだろうと思い直した。


「ま、アキト君の事だから心配は無いと思うけど今の状況なら見付からない方が良いかもね」

「そうですね」

「ジュン君、やっぱり・・・」

「はいはい、まだ他に話したい事があるならまた今度ね。私だって結構暇じゃないのよ」


ユキナが何か言いかけたが、それを遮るようにイネスは二人を部屋から押し出した。
その際、ジュンに小声で後日連絡すると伝えた。
ジュンは、イネスが何か警戒していた様子にこの部屋は監視されている事に気づくと
言葉短めに、ユキナと共に部屋を後にした。


「まだ、何も終わっていないみたいね」


イネスは、口に出さずに心の中で呟いた。







その頃、アキト達の住んでいる町に二人に男女が数日前から泊まっていた。
二人の様子から、町の住人はカップルで旅に来ているのだろうと思いあまり気にしていなかった。
実際、二人はこの町でも評判の良い飲食店を尋ねるばかりいた。

今日も、二人は和食中心の店を訪ね歩いていた。
男性の方は、もううんざりとしていたのだが女性の方は思いのほか料理が美味かったのか
収支機嫌が良かった。


「あ〜仕事の為とはいえ、さすがに疲れるなぁ。お前はどうなんだ?」

「ん?別に良いんじゃないの?それにもう居場所はわかっているんだから大丈夫だと思うし
 何時でもやろうと思えば出来るんでから」

「まあ、俺達も明日にはここを離れないと行けないしな。後の奴には、美味い飯が食える場所を
 知らせとくか・・・」



この二人の為に、アキト達の生活が壊される事になるのをまだ誰も気づく事は無かった。



第1話・完



どうも、KANKOです。いや、なんか久々ですね。
今後はSSの執筆スピードが格段におちると思います・・・・すいません。
仕事の忙しさとあいまって、腕が痛い〜〜。

ああ、早く終わって次のお話に取りかかりたいのに〜〜


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