最終話

機動戦艦ナデシコ


未来の為に


最終話「君の為に」




ジュン達との再会、それはアキト達の生活に大きな影響を与えるものかと、
ルリは内心心配していたが、あれから二ヶ月、何も変わる事無く時は過ぎていった。
いや、徐々にではあるがアキト達の生活に、変化の兆しが現れていた。


「・・・・・新しい家族ができるの?」

「ええ、ですからラピスもこれからはお姉ちゃんとして、しっかりしなくてはいけませんよ?」


不思議そうに、ルリの徐々にではあるが大きくなっているお腹を見つめながら問い掛ける
ラピスに対して、ルリは諭すような口調で問い掛けていた。
この頃のルリは、母親が我が子に語りかけるような口調で、ラピスに接していた。
そんなルリに対して、ラピスは少しずつではあるが口数が増えてくるようになっていたが
泣き虫な所は相変わらずで、二人をいつも困らせてはいた。


「・・・・うん、わかっているけど、何でルリのお腹の中に赤ちゃんが出来たの?」

「・・・・・・・・・・・・・え〜と、それはですねぇ・・・・・・・」


ラピスのストレートな質問に、ルリはどのように答えるべきか、危機に陥ってしまった。
本来は、間違った知識を覚えない為にも教えるべきではあるが、ルリはあまり詳しくなかったし、なにより
口に出すのが恥かしすぎる為、真っ赤になってうつむいている事しか出来なかった。

できれば、アキトにでもお願いしたい説明ではあるが
外出中だった為にしばらくラピスの尋問?は続く事となった。





一方、ルリ達を置いて外出したアキトは、とある店にやってきていた。
この頃は、火星出身者の保護の仕事よりも、仲間に自分が身につけた戦闘技術を教える事が中心になっていた為
町を離れる事は少なくなっていた。
アキト自身は、保護を自分の手でやりたいと申し出ていたが、市長からは
子供が生まれて落ち着くまで、ルリの側にいてやるのが夫の役目だ、と言われて渋々現在に至っていた。

もっとも、アキト自身この状況を心底、嫌がっていることは無い。
今日のように、いろいろできる時間が増えた為だ。


「テンカワだが、注文の品は出来ているか?」

「あっ、貴方がテンカワさんですか?ええ、ご注文の品は出来上がっていますよ」


店の店員は、直ぐ後ろにあった棚の中から、小さな箱を取り出しアキトに手渡した。
その小さな箱の中身を確認すると、アキトは小さな笑みを浮かべた。
そして、店員にお礼の言葉を簡単に済ますと、直ぐに店から出て行ってしまった。
あまりにも、素早いアキトの行動に店員はあっけに取られて、何も言う事が出来なかった。


「・・・何をそんなに急いでいるんだろう?・・・・・有り難うございましたも言えなかったよ・・・」






町の中を早足で、進むアキトの表情には嬉しそうに、目じりを下げて口元を緩ませているのが見てとれた。
もっとも、今も大きなサングラスをつけている為、他の人たちからは口元だけしか見えていないので
その怪しさから、アキトの周りからは蜘蛛の子を散らすように人が離れていった。


「次は・・・ラピスの分か・・・・」


小さく呟くと、アキトはデパートな中へ入っていった。
この日、アキトを町のあちこちで見かける事とが出来た為、アキトを知っている人達は
何事かと思っていたりする。








「・・・・・まだ帰ってこないね、アキト」

「そうですね、これじゃ今日のクリスマスの準備が出来ないですね・・・」


二人は、先程からアキトの帰りを待っていたのだが、一向に帰ってくる気配が無かった。
携帯に連絡しても、まったく出る様子がなかった為に、二人は仕方なく家で留守番をしていた。
しかし、時計の針は午後5時をさそうとしていた。


「た、ただいま・・・」


ちょうどその時、玄関の方からアキトの力の入らない声をした。
二人は、アキトらしくない気の抜けた声に、何事かと思い玄関の方に向かって走り出した・・・・が
アキトの姿を確認すると、二人は呆れたような表情を冷たい眼差しと共にアキトに向けた。
その冷たい眼差しに、アキトは誤魔化す為か、笑う事しか出来なかった。
なにせ、アキトの周りには大量の荷物があったのだから。




「アキトさん・・・・どうして、一人で買い物にいったんですか?
 今の私だって、荷物を持つことぐらいは出来ますよ?
 それに、ラピスも今日の買い物は楽しみにしていたのに・・・・どうしてですか?」


最近は、見せなくなった冷たい表情をアキトに向けながらも、ルリはラピスと一緒にアキトが買ってきた
クリスマスツリーに飾り付けをしていた。
アキトは、先程からルリの質問にきちんと答えようとせずに、笑って御免と言うだけであった。
いつもの、アキトらしくな態度にルリは違和感を覚えていたが、後で聞き出せば良いと思い
先にツリーの飾り付けを終らそうと、手の動きを再開した。


「ルリ・・・天辺の星は私がつけたい」

「いいですよ、今椅子を持ってきますから待ってて下さいね」

「有り難う、ルリ」


ルリは、そう言うと部屋の奥から椅子を持ってきてツリーの前に置いてやった。
少し危なげな動きで、椅子の上に立つラピスを、ルリは後ろから支えてツリーの天辺に手が届くようにしてあげた。
ラピスは、星をツリーの上に乗せる事が出来ると、嬉しそうにルリの方を見て
星の方を指差していた。

その光景を、台所から出てきたアキトは何かを見守るような優しい眼差しで見ていた。
今回の料理は、全て外で買ってきたもので済ました事で、味覚が不完全なアキトでもできた。
今日ぐらいは、ラピスも存分に楽しんでもらおう・・・・
アキトの小さな気遣いだった。

もっとも、最初は料理はしなくてもよいとラピスに告げると、途端に涙目になってしまったのではあるが。




昔は・・・・ルリちゃんが来る前は、こういう生活が出来るなんて考えた事は無かったな・・・・
復讐をしていた頃には考えもつかなかったな・・・・ルリちゃんを連れて来て正解だったか
ラピスも、段々表情が出てきたし・・・今の俺にはあそこまで
表情を引き出せる事は出来なかっただろうな

後は・・・・こいつを渡さないとな
これからの為にも・・・・・・





それから1時間後、三人はテーブルに置かれた料理を談笑しながら食した。
この時、ルリは先程の質問を再度、アキトにぶつけてみたが、やはりアキトは謝るばかりであった。
ラピスも、ルリとアキトに赤ちゃんはどのようにして作るか尋ねてみたが
ルリは顔を赤くして黙っているばかりで、アキトは慌ててまだ知るのは早すぎると言うばかりであった。
そんな二人の不可解な行動に、頬を膨らませて怒ったようなしぐさを見せるラピスであった。


「ラ、ラピス・・・そんな事よりプレゼントがあるんだ」


何とか誤魔化そうと、アキトは側にあった大きな包みをラピスに手渡した。
手渡された包みを、ラピスは丁寧な手つきで広げるとそこには、純白のワンピースがあった。


「・・・・・アキト、これ私に?」

「俺が、選んだ物だからたいした事はないだろうけど、貰ってくれるかな?」


顔を近づけ、そう言うアキトにラピスは服を抱きしめて、小さな声でありがと、と言うと
真っ赤になってしまった顔を隠すようにうつむいてしまった。


「アキトさん、その服高かったんじゃないですか?」

「ん?そんな事・・無いよ・・・・後、これはルリちゃんへのプレゼント」


羨ましそうに、ラピスの見つめるルリにアキトは、先程手渡した包みとは対照的に
小さな細長い箱を手渡した。
自分のプレゼントが小さい・・・・内心呟いてしまったルリであったが、中身を確認すると
その考えは一気に、吹き飛んでしまった。
中には、シルバーで出来たネックレスが入っていたからだ。
しかも、その中心には細かく細工を施されてた蝶がついていた。


「ルリちゃんって、あまり派手な装飾品って嫌いだろう?でも、一つぐらいは持っていた方がいいと思ってね。
 これなら、デザインもシンプルだし色もルリちゃんに似合っていると思うしね。
 どうかな・・・・気に入ってもらえたかな?」

「はい、有り難うございます。ずっと大切にしますね」


瞳を少し潤ませながら、ルリはアキトに大きな動作で頭を下げた。
そんなルリの行動に苦笑しつつ、アキトは席に向きなおすと二人と一緒に食事を再開した。

アキトの小さな気遣い・・・・しかし、二人にはそれがとても嬉しかった。
そして、三人だけの小さなクリスマスパーティーは、幸せでいっぱいになっていた。






「ルリちゃん、ラピスは眠ったかな?」

「はい、今日はたくさん食べていましたからね。すぐに眠ってしまいました」


先程、ラピスを寝かしつけてきたルリに、アキトはラピスが寝た事を確認をすると
服のポケットの中から、小さな箱を取り出した。


「んじゃ、ルリちゃんにもう一つ、プレゼントを渡しておこうかな?」

「あのネックレスだけではなかったんですか?」

「うん、ちょっと恥かしいからラピスが寝てからと思ってね」


少し照れながら、アキトはルリの目の前で箱を開いて見せた。
その中には、二つの指輪が入っていた。その色は先程とルリにプレゼントしたネックレスと同じ様に
シルバーであったが、その輝きから見てこちらの方が高いものであるのは、誰の目からも察しがつく。


「アキトさん・・・これって・・」


震える声で、アキトに問い掛けるルリに対して、アキトはルリの左手を取って
薬指に、指輪をつけてあげた。
その行動を、呆然と眺めていたルリだったが薬指にはめられた指輪の意味を理解すると
黄金色に輝く瞳から、大粒の涙が流れていった。


「世間的には、俺たちは死んだようなものだから籍は入れられないけど・・・・・
 ずっと、何時までも一緒にいてくれるかな?・・・・・・ルリ」

「はい・・・何時までも、ずっと側にいます・・・・アキト・・・」


二人は、そう言うとお互いを抱きしめた。
祝福はされる事は無いだろうが、今の二人にはそんな事は関係なかった。
この小さな幸せを手に入れることが出来た事・・・・・・・それだけで嬉しかったのだ。
この先、どんな事があっても決して離れない。
アキトとルリは、お互いに心の中で硬く誓い合った。

今の二人には、言葉など要らないのだから



そして・・・・二人は、生きていく。
ラピスと新しい家族と共に・・・・・・未来の為に・・・・・・




機動戦艦ナデシコ


未来の為に




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どうも、KANKOです。ついに終りました・・・・・・正直言って疲れました。
なにせ、この話は週に1本のペースで書いていましたので・・・・はい。
でも、この一週間は9話と10話を一気に書き上げていたりします(苦笑)

さて、皆さん如何でしたでしょうか?
原作の雰囲気、壊れていませんでしたか?
今回の最終回は、以前ナデシコ祭に投稿したSSとあえて違う終わり方をしました。

私としては、こっちの方がいいと思いましたが皆さんはどうでしょうか?
ぜひ、感想をいただければ・・・・・・・




すぐにでも二部の執筆に取り掛かりたいと思っていたりします(笑)


ちなみに、このお話は投稿した物をこちらでもUPしたものですが、
内容は一切変わっていません。

他で、投稿した物はそこでの連載が終った時点で、こちらでもUPします。
なにとぞご了承ください。


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