8話

機動戦艦ナデシコ


未来の為に


第8話「わかりきった事」




「じゃあ・・・・・いってくるよ」

「いってらっしゃい、アキトさん」

「・・・いってらっしゃい、アキト・・・」


少しふらつきながらも、アキトは二人にいつものように答え出掛けていった。
そして、二人もいつものようにアキトが見えなくなるまで
見送っていた。


「さて、それでは私も出掛けますね」

「お仕事・・・頑張ってね・・ルリ・・」


ラピスにそう言い残すと、ルリは部屋に戻り小さなカバンを持って
出掛けていった。


「・・・・もっと、お塩を研究しよう・・・」


ラピスは、誰に言う事無く一人呟くと、台所の方に消えていった。





現在アキトは、警察署の一室に来ていた。
ここでは、火星出身者を保護する為に、準備をしていた。
アキト以外にも、火星出身者の保護はしているが 
その殆どは、警察官の職業についている者達であった。


「テンカワさん、今回の仕事は貴方がいなくても大丈夫ですよ」


警察の服に、身を包んだアキトと同じぐらいの年齢の男性が
部屋に入ってきたばかりの、アキトに話し掛けてきた。


「どういう事だ?・・・・・いきなり」


部屋に入ってくるなりに、いなくても良いといわれて
ルリ達以外にはあまり表情を見せないアキトも、この時だけは
あからさまに嫌な顔を見せていた。


「あ・・・・いや別にテンカワさんが、邪魔というわけではないんですよ。
 今回の仕事は、もう殆ど終ったような物なんですよ・・・・」


普段から、あまり表情の変化のないアキトが、珍しく表情を変えて見せた事に
アキトが、かなり不機嫌になった事を悟った男性は
顔を引きつらせながらも、懸命に弁解した。


「よく分からんな?今回保護する人間は、まだここには連れて来ていないんだろう?」

「今回の作戦内容です。
 これを読んで頂ければ、今回の作戦の完璧さがわかりますよ」


そう言うと、男性はアキトに今回の作戦内容が書かれた書類を手渡した。
その内容は、この町を出てから今回保護する火星出身者の家までの移動経路や、その際の服装や、装備品。
ならびに、この作戦が失敗した時の対処法など詳しく書かれていた。

いつもは、アキトを中心とした簡単な会話で作戦を立てていた。
もしも、作戦が失敗した場合でもアキトのジャンプによって直ぐにでも逃げられるからである。
だが、この作戦内容にはアキトのジャンプを頼った作戦ではなく
言ってみれば、アキト抜きでも可能なほど、完璧に出来ていた。


「誰が、この作戦を考えたんだ?」


アキトは、周りにいる人間を見渡しながらきつい口調で問い詰めた。
何も、自分抜きでやるという事にアキトは怒っていない。
これほどの作戦を思いつくのなら、何故今まで提案しなかったのか?その事にアキトは怒りを感じていた。
だが、仲間達はアキトの視線から逃げるように下を向いていたり、またある者は
アキトの顔をニヤニヤしながら、見ていたりしていた。


「おい、何が可笑しいんだ?」

「私が説明します」

アキトは、突然後ろから聞きたくない単語を聞いて、一瞬身体を硬直させてしまった。
しかし、その声はあの女性ではなかった。



「・・・・・・ルリちゃん?」

「その作戦を考えたのは、私です」


そう言うと、ルリは小さく右手でブイサインをして見せた。










「そう言えば、ルリちゃんは宇宙軍の少佐だったよね・・・・あのぐらいの作戦は
 朝飯前だったかな?」

「そういう事です」


結局アキトは、今回の作戦から外れる事になってしまった為ルリと二人で
町をぶらぶらしていた。
しかし、アキトの顔は先程から厳しい表情になっていた。
ルリも、アキトの厳しい表情を見てしまった為か、口数がいつも以上に少なくなっていた。


「さて、説明してもらおうか?ルリちゃん」

「何をですか?アキトさん」


ルリは、アキトの質問の意味がわからないと、言いたそうな表情を首をかしげながらして見せた。
そのルリの表情に、一瞬見とれてしまったアキトだが、顔を横に激しく振り
気を取り直して再度、ルリに詰め寄りながら質問した。


「ルリちゃん、もう一度聞くよ?何であの場所にいたんだい?」

「アルバイトですけど?」


ルリの短くも簡単な答えに、アキトは数分間その場で凍りついたように動かなかった・・・・
しばらく、動かなくなったアキトを珍しそうに見つめていたルリであったが
話が進まないと思ったのか、アキトの腕を引っ張りながら話し掛けた。


「アキトさん、大丈夫ですか?」

「ん・・・・・・・・・ああ、大丈夫だよ。ありがと、ルリちゃん・・・・・・って・・・・・・
 まだ説明聞いていないんだけど?」

「ですから、さっきからアルバイトって言ってますけど?」

「俺が聞きたい事が、何かはわかって言っているの?ルリちゃん」

「知っていますよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・ルリちゃん・・・」


「冗談ですよ、アキトさん。私は只お手伝いをしたかっただけですよ」

「な!?俺が何をやっているかわかって言っているのか?ルリちゃん」


アキトは、ルリやラピスに仕事の内容は話していたが、決して手伝いを頼んだ事はなかった。
火星出身者の保護以外にも、軍を相手にする事もあったからだ。
ましてや、ルリ達には二度とその優れたオペレーター能力を使う事無く
普通の人間として生活してもらいたい・・・・・・そう思ってアキトは決してルリ達を手伝わせる事がなかった。



「なんで・・・・・そんな事を?ルリちゃんがいないくて大丈夫だよ・・・・」


ルリの心遣いは、確かに嬉しかったがアキトはやはり手伝って欲しくなかったのだろう
寂しそうな顔をルリに向けた。
だが、そんなアキトにルリは優しく微笑みかけた。


「大丈夫ですよ、アキトさん。私が手伝っている事って、軍で身につけた知識を使っているぐらいですから
 アキトさんが心配してるような事は・・・・オペレーターとしての能力は
 一切使っていませんから」

「ルリちゃん・・・気が付いていたのか?」

「よくわかっているつもりですよ?いつも、そうやって自分だけで問題を抱えて、
 他の人の事ばかり考えている、お人よしな人の事は?」
 



アキトは、ルリが自分の性格を把握していた事に驚きを隠せず、昔のように慌てるしぐさを見せるのでもなく
ただ、黙っていた。
もっとも、ルリでなくともアキトを知っている人間ならば、アキトのこの性格は理解しているだろう。
やはり変わったと言っても、根本的な性格は変わっていないアキトであった。



「で、これからどうしますか?アキトさん。
 今回のお仕事は、結局パスになりましたし、このまま家に帰りますか?」


このまま、町をぶらぶらしても意味が無いと思ったルリはアキトに聞いてみるが
アキトは、腕を組みながら唸るばかりであったが、何かを思いついたのか突然
ルリの方に顔を向けると、気合の入った声で喋りだした。




「・・・・・・・・・・・よし!ルリちゃん!これからデートをしよう!

「はい?・・・・・・」


アキトの突拍子も無い発言に、ルリはつい間抜けな声で反応してしまった。
しかし、アキトの言葉を理解すると段々と顔が真っ赤になっていった。


「で、でも、ラピスはどうするんですか?・・・・そうですよ!!
 この事がばれてしまったら、慰めるのが大変ですよ!?」

いつもの、冷たい口調はどこへやら、アキトとのデートと言う事に
嬉しかったりするがラピスの事を考えると、素直に喜べないようだ。
自分の事より、人の事・・・・やはりルリもアキトに似ている部分は持っているようだ。


「別に大丈夫だろ?俺が仕事に行けば2、3日は帰ってこないのが普通なんだから
 ルリちゃんも仕事の時は泊り込みだったりしないの?」

「それは、そうですけど・・・・」

「じゃあ、別に良いじゃないか?いつもはラピスと一緒だけど、二人だけっていうのも
 たまには・・・ね?」

「でも・・・やっぱり・・・・って、アキトさん!!」


言いよどむルリの腕をアキトは、強引に掴むと早足で歩き出した。
アキトの行動に、ルリは苦笑するしかなかったがその顔には笑みがこぼれていた。
早足で町を歩いていく、そんな二人の姿は周りの人からは恋人のように見えていた。


少し前の二人の状態ならば、考えられない状況だろう・・・・
だが、確実に平凡ではあるがアキトとルリは幸せを掴みつつあった・・・・・






「あら?テンカワさんにルリちゃんじゃない?・・・・・・ラピスちゃんがいないわねぇ?
 もしかして、二人だけでデートかな?」


ウインドウショッピングをしていた二人の前に、若いカップルと目が合った。
そのうちの女性が、アキトとルリの姿を見かけるとニヤニヤしながら二人に話し掛けた。
その女性の横では、恋人であろうと思われる男性が何故か涙を流していた。


「ああ、そんな所だがお前達もデートか?」

「・・・・アキトさん・・」


戸惑う様子も無く平然と答えるアキトに、ルリは真っ赤になって俯いている事しか出来なかった。
女性も、アキトの平然とした態度に初めは驚いていたが、ルリの様子を見ると
納得といった表情を見せて、再びニヤニヤしながら見つめた。


「ふ〜〜ん、テンカワさんが誘ったんだ?いつものテンカワさんからは
 想像も出来ないけど、ルリちゃんが相手だったらしょうがないかな?」

「や、やめて下さい・・・・こんな街中で・・・・・


ルリが消え入りそうな声で反論しようとした時、女性の側にいた男性が
捕まれていた腕を振り切って走り去ろうとしていた。
しかし、女性は素早く男性の首根っこを捕まえると、そのままずるずると引っ張っていった。


「もう!いい加減諦めなさいよね?貴方には私が憑いていないといけないんだから?」


「うう・・・性根が腐っている女なんか
 大嫌いだ〜〜(T_T)


そう叫びつつも、抵抗のそぶりを見せようとしない男性は諦めているのか?
それとも、隙をうかがっているのか?それは、アキト達にもわからなかった。


「んじゃ、お邪魔しちゃ悪いから、私達はこの辺で、逝きましょうか?
 未来のあ・な・た・?(ニヤリ)

イヤだ〜〜〜!!(T_T)


嫌がる男性を引きずっていく女性の姿を見て、何故かルリはとある女性を思い出し
アキトの顔を見て、ため息を軽くついた。


「しかし・・・あの二人は行動はこの町の名物だね、ルリちゃん。
 ・・・・・どうしたの?ため息ついたりなんかして?」

「いえ・・・・あの行動を見ていたら、ある人を思い出しちゃって・・・」

「もしかして、俺も良く知っている人かな?」

「私以上に知っていると思いますけど?」


二人の中で、どうやら同じ人物が頭の中で浮かんでしまったようだ。
そして、しばらくお互いを見つめると不意に可笑しくなってしまった。
あの人物ならば、きっと先ほどの女性と同じ行動をしてしまうからであろう。



「はは・・ルリちゃん、いくらなんでもあそこまで酷くはないんじゃない?」

「で、でも、私にはそう見えていましたし・・・」


そう言うと、ルリはアキトの腕に自分の腕を絡ませ歩き出した。
アキトも、最初はルリの行動に驚いたが、若干頬を赤くさせているルリの顔を見ると
そのままの姿で歩き出した。


「ルリちゃん・・・今日はどこで泊ろうか?」

「え?・・・・家に帰らないんですか?」

「別に帰っても良いけど、嫌かな?」

「嫌・・・じゃないですけど」


「じゃあ、ご飯を食べてそれから、考えようか?」

「そうですね」


その晩、結局アキトとルリは家に帰ってくることはなかった。
残された少女は、そんな事に気づかずにある事に没頭していた。
もし、ある事に没頭していなければ、ルリに連絡をしたのかもしれないが、結局はこの事が
アキトとルリにとっては良い事?になった





「ステーキには・・やっぱりお塩とコショウが一番・・・」





第8話「わかりきった事」完

次話へ進む

未来の為にの部屋// KANKOさんの部屋// 投稿SSの部屋// トップ2//




どうも、KANKOです。今回はちょい短かったですが如何でしたか?
今回の後書きは、ちょいと私のみの出演です、ご了承ください(ぺこり)

さて、このお話も残す所、後2話になりました。皆さんはこのお話の結末をどう見るのでしょうか?
って・・・いっても、知っている人は知っていますがね(苦笑)


このお話は、あまり原作の雰囲気を壊さないように気をつけて書いていますが
原作のイメージは大丈夫でしょうか?その所が私の心配の種です。

もし、よろしければ一言でも構いませんので、感想をいただければと思います。
それでは、9話でまたお会いしましょう。




次話へ進む

未来の為にの部屋// KANKOさんの部屋// 投稿SSの部屋// トップ2//


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送