第7話

機動戦艦ナデシコ


変わりゆく過去




第7話




建設中のボソンジャンプターミナル、アマテラスが謎の爆破により崩壊した事件は、世間を多いに賑わせた。
世間的には、この爆破も地球でおきている企業への爆破事件の犯人と同一犯と考えていた。

だが、ここで一つ問題がある。 
何故、建設途中のアマテラスだったのか? 今までのテロはボソンジャンプの研究をしている
企業の施設だけをターゲットにしてきたからだ。

既に世間では、ボソンジャンプを研究している企業などがテロのターゲットになっているのは周知の事実ではあったが、
建設途中のアマテラスが襲撃された時は、誰もが首を捻った。
ボソンジャンプに関係している施設とは言え、機能していないアマテラスを狙ったのだから。

この事により、世間ではアマテラスが何か重要な研究をしていたのではないか?そんな噂が世間を駆け巡っていた。
もっとも恐怖からと言うよりも、ボソンジャンプに関係ない一般人達にとっては
世間話をする際の、話のネタにしかなっていなかったのだが。




「はあ…そこまで、その噂は広がっているの? 」


居間のテーブルに肘をつきながら、女性は目の前の少女の告白に頭を抱えてしまった。
その様子に少女の方は、申し訳なさそうに下を見つめていた。

少女がこの家の主を尋ねてからさほど時間は経っていなかったが、女性がため息をついてからは少女には、
時間が遅く流れているような感じがした。
噂に関して言えば、落ちこんでいる少女の責任とは厳密には言えない。
しかし、その噂の原因が自分にあるのには間違いがない為、少女は何を言うべきか思いつかなかった。

その重苦しい雰囲気が流れている居間とは反対に、外では春が近づいている事を知らせるかの様に、
心地よくも、暖かい風が居間へと流れ込んできていた。



「あの…ミナトさん」

「何、ルリルリ? 」


怯えた様に女性の名前を呼ぶ少女。 普通の人間とはかけ離れた髪の色、肌の白さが今だけは余計に、
少女ホシノ・ルリに悲壮感を漂わせていた。

その様子に気が付いたのか、先ほどとは打って変わって、明るい表情を見せながら
ルリの方へと顔を向ける女性。

彼女自身、ルリの告白を怒っているわけではなく、この時代には存在する筈のない人物と会っていた事を、
もっとも知られたくない人間に見られた事にショックを受けていたのだが、
それを悟られたくないのか、年上としての意地か、はたまた教師としての意地か、平静を装っていた。

何にしても、知られるわけには行かない。 そう固く誓ったハルカ・ミナトであった。


「アキトさんへの誤解は、私とユキナさんで何とか解いて見せます」

「うん、そうしてくれると助かるわ。 いくら何でも、私がアキト君と浮気をしているわけがないんだから」

「それで…お聞きしたいんですけど、あの…アキトさんとうりふたつの方は誰なんですか? 」


やはりと言うべきか、ミナトが今一番聞かれたくない事がルリの口から出た。
ミナト自身、ゴートが監視しているのは知っている。 だが、その厳しい監視から上手く逃げ出す方法を
教えられていた為、ばれる事はないと思っていた。
しかし、ルリには、その方法を実行する以前に知られているとは思っていなかった為、
顔を引きつらせながらも、何とか上手い言い訳を考え様と必死になって、思考をフル回転させる
ミナトであった。


「あ〜そうねぇ…ルリルリは信じてもらえないかもしれないけど、アキト君と間違って話しかけたのが
 出会いの始まりかな? ま、それからはルリルリが想像している以上の関係にはなっていないけどね」


口元が微妙に引きつっている以外は、何時ものミナトの返答だった。
もし、この時、ルリがミナトの顔をしっかりと見ていたならば、今言った事は嘘だと言う事を
一瞬の内に見破っただろう。
しかし、今のルリはミナトを誤解していたすまなさと、彼女が言った、『それ以上の関係』と言う言葉の為に
顔を見ていなかったおかげで、嘘がばれる事はなかった。


「そ、そうですか・・・・」

「まあ、彼にも色々事情があるから、ルリルリ達に紹介するのは大分先になると思うけど、
 彼は良い人と言う事だけは言っておくわね」


そのミナトの言葉を最後に、会話は途切れてしまった。 会話が途切れた事により、静かだった居間は
誰もいないかの様な静寂に包まれた。
二人ともこれ以上何を話して良いのか、分からない為でもあるが、それにしてもこの二人が
ここまでギクシャクするのは珍しいと言うべきだろう。

ナデシコに乗っていた頃の二人は、姉妹か、親子とも言える程にまで信頼を築いていたのだから。
しかし、今の二人にはお互いを意識をしてしまって、初めて出会った人と話している様にも見える。


「あ、そうだ。 ユリカさんはこの事を知っているの? 」


この沈黙が支配する場に痺れを切らしたのか、ミナトがいきなり話をはじめた。


「その…まだ話していません」

「そうなの? 」

「と言うか、先週から傷心旅行に行っています」

「傷心旅行!? 」


ルリの口から出てきた言葉に、ミナトは間抜けな口調で答えることしかできなかった。
その、あまりにもミナトの呆れたような口調に、ルリはつい笑みをこぼす。
ルリの笑顔を何か久し振りに見たような気がするミナトも、つられて笑みをこぼしてしまった。

ユリカらしいと言えば、そう言えるかもしれないが、やはり普通の感覚とは少しずれている
彼女の行動は可笑しかったのだろう。

彼女に悪いとは思いつつも、二人はユリカが今何をやっているかを想像すると、どうしても
笑いを堪えきれないのか、声を何とか押し殺している様だった。


「ルリルリ、あんまり笑う事じゃない…わよ…」

「わ、分かってはいます…けど…」


ナデシコに乗船していた頃は、ユリカの行動には呆れを通り越して、生暖かい眼差しで見守っていたが、
その行動になれた最近は、面白いと感じる様にはなったが、何にしてもユリカ本人は
真面目にしているつもりなのだから、ある意味、不幸と言えるかもしれない。


「はあ、なんか久し振りに笑ったわねぇ。 ね、ルリルリ? 」

「あ、はい…」


アキトの浮気事件以来、心の底から可笑しいと思った事がなかったルリは、少し恥かしそうに俯きながら答える。
ミナトの方も、未来から来たアキトの事で悩みが尽きなかったが、笑ったお陰で気持ちが
少し落ち着いたようだ。
なんにしても、笑いの種にされたユリカにとっては気の毒としか言えないのだが。

「でも、この事、アキトくんには言っていないんでしょ? 」

「はい」

「じゃあ、ちゃんとルリルリの口から説明しなさいね? それとも、ユキナも一緒に行かせようか? 」

「はい・・・・」

「大丈夫よ。 ルリルリがちゃんと謝ったら、アキト君もきっと許してくれるわよ。
 彼ったら、二人に誤解されて泣き顔になっていたんだから」


慰めるつもりで話しかけるミナトだったが、今のルリには話す内容が悪かった。
おかげで、ルリは自分がアキトに向かって言い放った言葉を思い出し、元の暗い顔に戻ってしまった。


「あ、御免御免。 別に責めているわけじゃないのよ? ね、元気出して。 
 そ〜んな暗い顔をしていると、王子様に嫌われちゃうわよ? 」

「……何言っているんですか? それはユリカさんの事じゃ無いんですか? 」

「あら? そうだったかしら? 」


冷たい口調でミナトに反論するルリだったのだが、恥かしさからか、それとも図星だったからかは、定かではないが
顔を真っ赤にしていた。
その後もミナトに散々からかわれ、その度に顔を真っ赤にしながら反論したのだが、そんな様子では
説得力は皆無だったらしく、論争はミナトの圧勝だった。

もっとも、当のミナトは未来から来たアキトの事を聞かれない様に悪ふざけをしていたのだが、
上手い具合にルリの気をそらす事に成功した為、心の中では安堵していた。

しかし、この問題が解決した後は必然的に、未来から来たアキトに皆の興味は移るのだろうから
楽観視は出来なかった。
この時、ミナトの脳裏にはある考えが駆け巡っていた。







一方、二人の噂になったユリカはどうしているかと言うと…


「お父様、この服なんかどう? 」

「おお〜良いじゃないか。 やはり、ユリカは何を着ても似合ぞ。 流石は私の娘だ」


何故か父親のコウイチロウを引き連れて、旅行先にて、洋服を買いあさっていた。
おそらく、綺麗な服を身につけてアキトの気を再び、自分の方へと向けようとするのが目的なのだろう。


「んじゃ、この服とさっきの服も買おうかな? 似合うって言ってくれるかな? 」

「もちろんじゃないかぁ。 今のユリカの格好を見たら、ルリ君もきっと誉めてくれるに決まっている」


この時、ユリカはアキトが似合うと言ってくれるかと考えていたのだが、旅行に来てからは
全く話題に出さなかった為、コウイチロウは気付く事はなかった。
やはり、ユリカの中ではアキトは特別な存在なのであろう。
この会話以外にも、旅行中、会話の節々にもアキトの事を気に掛かるような発言をしていたのだが、
コウイチロウがあまりにも拒否反応を示す為に、名前は呼ばない様にしていただけだった。

彼女の中では、アキトが浮気をしたと言う事は事実として受け取っているようだが、それでも心の何処かで
彼を信じていたいと想う気持ちが何処かで残っているのも事実だ。


「じゃあ、着替えるから待っててね。 お父様」

「そうか…わしはそろそろ、外で待ってるよ」


ユリカが試着室のカーテンを完全に締めきったのを確認したコウイチロウは、足早にその場所を離れた。
周りには、女性物の服や下着が並んでいるのだから、当然と言えば当然だろう。
ユリカは気付いていなかったのだろうが、コウイチロウに対する周りの視線は、かなり冷たいものだった。
もちろん、コウイチロウはユリカが少しでも元気を出せればと、付き合っていただけだが、
娘と一緒とは言え、やはり男には辛いものだ。


「ふむ…やはり、こういう場所は駄目だな。 アキト君も随分連れまわされたらしいが…
 いかんいかん、ユリカの為にもあのような男は忘れねば」


自分の愛娘の為に、アキトを忘れる為に計画した旅行で一時でも彼の事を思い出したコウイチロウは
必死に忘れようとした。
だが、肝心のユリカの方はアキトの事を諦めるどころか、新たな方法で気を引こうと考えていたのは
流石のコウイチロウも気付かなかっただろう。
いや、コウイチロウだからこそ…とも言えるかもしれなかった。


「アキトって、ミナトさんみたいな大人っぽい格好が良いのかなぁ? 」








「そう、話しがあるの。 今夜は大丈夫? 」


一方、あまり気の進まないルリを無理やりアキトの元へ連れていったミナトは、帰り際に誰かに連絡していた。

「うん、多少、遅くなっても大丈夫だから。 もう…ラピスやユキナの事は気にして、私の事は 
 心配してくれないの? 」


少し寂しそうに、だが、何処か甘える様に話すミナト。 ナデシコで使っていたコミュニケと思われる
通信機から聞こえる声は、そんなミナトの声に多少うろたえたのか、何時もより少ない口数が
さらに少なく、尻すぼみになっているのが、ミナトには手に取るように分かった。


「じょう〜だんよ、冗談。 でも、ちゃんと私の事は考えてくれているんでしょ? 」


少し間を置いて、通信機から聞こえた言葉にミナトは少し頬を染める。


「馬鹿ね。 そこまで言わなくても良いのに。 じゃあ、待っているわね」


そう言うと、さっさと通信を切ったミナトの顔は、笑みがこぼれていたが、すぐにその表情は
暗いものに変わっていった。 
会話をしていた人物の事を考えると、どうやら手放しでは喜べなかった様だ。


「馬鹿なことしてる、かな?…私も…」








さて、ミナトにアキトの家の前まで強引に連れてこられたルリの方は、ずっと玄関先でうろうろしていた。
ミナトに散々からかわれた結果、強気な態度で玄関先まで来たのだが、どうしてもチャイムを押す事が出来なかった。
彼女の脳裏では、アキトがどんな事を言うか、それを考えると無意味に怖くなってしまう。
ミナトは、アキトがそこまで怒っていないだろうと言ってくれたが、いくら心優しいアキトと言えども、
そう簡単には許してくれないだろうと考えていた。
特に、浮気を指摘された時に見せたアキトの怒りの表情は、付き合いの長いルリも初めて見た顔だったからだ。。

そんなこんなで玄関前にルリが立ってから、既に1時間は経とうしていた。
そうしている間も、部屋からはいい匂いと同時にアキトが誰かと楽しそうに会話をしているのが、ルリの耳には
届いていた。 おそらく、いっしょに料理をしている者は、自分に似ているラピスと言う少女だろう。

二人の会話を聞けば聞くほど、アキトには自分は、ユリカも必要としないのではないか?等、
ルリの考えは、ますます悪循環に陥っていた。


「じゃあ、アキトさん、お塩買ってくるね」

「うん、気をつけてね」

「あ…」


買い物に出かけようとしたラピスと、丁度目の前にいたルリの視線が合ってしまい、二人はしばし固まってしまった。
扉を開けたまま、固まっていたラピスに不思議に思ったアキトは、何事かと思い出てみた。


「あ…あの、お久し振りです。 アキトさん…」


来るはずがないと思っていた少女の来訪に、アキトも二人と同じように固まることしかできなかった。




「久し振り…だね、ルリちゃん」

「はい…」


ラピスは自分に似ている容姿のルリに驚いていたが、二人の様子が何処かぎこちない事に気がついた彼女は、
不思議そうに二人を眺めていた。


「あ、この子はラピスちゃん。 ミナトさんの家でお世話になっている子だよ」

「はじめまして、ラピスです」

「はじめまして…ミナトさんから聞きました」


この気まずい雰囲気に耐えられなかったのか、アキトは明るい話題でごまかそうとラピスを紹介してみるが、
ルリはラピスの事を知っているからなのか、特に気にする事無く元気の無い声で答えるだけだった。
その姿は、アキトに昔の冷たいような雰囲気をまとっていたルリを思い出させてしまった。


「ねえねえ、お部屋の中で話した方が良いんじゃないのかな? ルリさんもアキトさんに用事があって来たんでしょ?」
 

気まずい雰囲気に耐えられなくなったと言うよりも、玄関で何時までも話しているのはおかしいと思った
ラピスが二人を即す様にルリの前から、どいてみせる。


「そうだね、じゃあ、あがって」

「はい、お邪魔します…」


ラピスに即され、気付いたようにルリを部屋へ案内するアキト。 ルリは、そのアキトに逆らわず言葉短めに後に続く。
その視線は、アキトに向ける事無く下を向いていたが、ラピスの横を通り過ぎる時に一瞬、彼女の方へと向けた。
それは、自分に似た容姿を持った人間を初めて見たと言う驚きよりも、何処か羨ましそうな眼差し
だったかもしれない。

ラピスの方も、ルリの視線には気付いたのだが、そんな事に気付く事は無かった。


「ん〜と、じゃあ、私は買い物に行ってくるね」

「あ、やっぱり行くの? 」

「うん、じゃあ、行ってきま〜す」


一人では、ルリと会話が続かないと思っていたアキトは、ラピスを間に立てて、何とか会話を進めようとしたのだが
アキトの考えを知ってか知らずか、ラピスは笑顔で出かけていった。


「あの子…楽しそうですね」

「え? ああ、そうだね。 最初はおどおどしていたんだけどね・・・多分、ミナトさんのお陰じゃないかな? 」

「それだけじゃないと思うんですけど…」


ルリの言葉に、アキトは頭を掻きながら答える。 その様子を見て、ルリはアキトに聞こえない様に小さく呟いた。
だが、先程のラピスの笑顔を見ていたルリには分かっていた。
彼女が明るくなっているのは、ミナトだけが原因では無い事を。
アキトと接している内に、自分も昔よりは人に打ち解けていった事を。


「でも、あそこまで明るくなるとは思わなかったけどね」


そこで会話が途切れてしまい、二人の間には再び沈黙が支配し始めた。
何とか会話を進めようとするアキトだが、特に喋りが得意と言うわけでもない彼には、このような状態を
どうやって切りぬけられるか、全く思いつかなかった。

対して、目の前に座っているルリもどうしたら言いのか分からずに、黙っていたままだった。
先程、ミナトと同じ状況になっていたのだから、どの様に会話を進めれば良いのか分かっていたのだが、
どうしても言葉が出なかった。
いや、久し振りに会ったアキトの手前、しかも誤解とは言え、こちらの方から関係を破棄した状態だった為、
無口なルリは、さらに無口になるしかなかった。










「あの、あの子は…アキトさんと料理をしていたんですか? 」


このままだと、話が全く進まないと感じたルリは、世間話しからでも会話を再会しようと
勇気を振り絞って、弱弱しいながらも声をあげる。

だが、アキトとは視線を合わせずらいのか、アキトの視線から逃げる様に台所を見ると、
そこには家の外まで流れてきていた匂いの元のラーメンのスープが、大きな寸胴鍋で波打っていた。
少し前なら、その場には自分とユリカが経っていた筈だった……

だが、今は違う。 アキトの隣には自分に良く似た少女が一緒にラーメンの味を作っていた。
ルリの脳裏には、あの頃の楽しそうな時間が思い起こされていた。

その時、部屋の電話が鳴り響いた。 この時代には珍しい、いや、化石と言える程の古い型の電話が
見かけの古さとは違い、元気な音を出している。
アキトは一瞬、ルリの方を見たが、特に声をかけるのでもなく、電話の方へと向かっていった。


「もしもし? あ、ラピスちゃん、どうしたの? 」

『あ、アキトさん。 私ね、このまま帰ろうと思うんだけど』

「へ? な、なんで、どうして? 」


受話器の向こうから聞こえたラピスの言葉に、間抜けな声を出しながらアキトの頭の中では、何か不味い事
したのかと、脳みそをフル回転させていた。


『あのね、ミナトさんにさっき電話してみたんだけど、そしたら帰ってきなさいって言ってたの』

「へ? 」

『確か…人の何とかを邪魔する奴は馬に殴られて埋まっちゃえ、だったかな?
 とにかく、アキトさんとルリさんの邪魔はしない様にって言ってたから』

「……へ〜〜……」

微妙に違う言葉に、心の中で軽い突っ込みをいれつつ、ラピスの言葉に何処かうつろな目で、
答える事しか出来ないアキトであった。


『後、ミナトさんが頑張ってって言ってたよ。 じゃあね、アキトさん。 また、ラーメン作ろうね。』

「ちょ、ちょっと、それってどう言う意味…」


ラピスの明るい声とは対照的に、気の無い返事を返したアキトは、受話器を置いたと同時に
大きなため息をついた。
内心、どう頑張れば良いのか?と考えていたのだが、どうにも考えが上手くまとまらずに、ため息をつく事しか出来なかった。
その時、ふと、アキトは何かに気が付いた様にルリの方へと視線を向ける。
彼女の方も視線に気がついたのだが、電話が終わった後のアキトの様子を見ると、ラピスからも浮気の事で指摘されたのかと思い、
視線を合わせようとしなかった。


「えっと、今の電話、ラピスちゃんだったんだけど…ミナトさんの所にそのまま帰るって。
 それで………ルリちゃん。 今日は、どんな用で来たの? 
 考えてみれば、ルリちゃんが俺の所に来る理由が分からないんだけど…」


誤解とはいえ、、ルリやユリカ達からに散々罵られたアキトにとっては、ルリがここに来るのが
どうにも不思議でならなかった。
あれ以来、何とか誤解を解こうと、こちらから連絡しても全く受けつけなかったのだから、当然と言えば当然だろう。

考えてみれば、ルリも何の為にここにやってきたのか説明して無かった為、自分の迂闊さに少し恥ずかしそうにしながらも
意を決した様に、アキトの方へと体を向けると、頭を深深と下げながら話をはじめた。


「…今日は謝りに来たんです」

「え? もしかして、誤解は解けたの? 」


ルリの言葉に、驚きと喜びが同時に心の中で沸きあがったアキトは、ルリの正面へ滑りこむ様に正座をした。
よほど興奮しているのであろうか? 何か何時もの様子とは違うアキトを怖いとは思いつつも、 
ルリはアキトに今までの経緯を話し始めた。









「そっか……皆、知っているんだ…どうりでホウメイさんも、まともに取り合ってくれなかった筈だ」


一通り話を聞いたアキトは、大きなため息をついて見せた。 最初は自分の誤解が解けてゆくのを喜びながら
聞いていたのだが、誤解が思いの他、広範囲に広がっている事に深いため息をついた。


「すいません…でも、あの時はどう見てもアキトさんにしか見えなかったので…」


アキトが何を考えているのか、何となく想像で来きたルリは申し訳なさそうに頭を下げる。
普通なら自分の見間違いだったと、誤解した人には説明しておけば良いのだが、その誤解をした人間の大半が
ナデシコクルーなのだから、そうも行かない。

ホウメイなどの常識人以外は、面白おかしく騒ぎ立てるのであろう事は間違い無い。
アキトにとっては、誤解は解けても、今回の事に関しては話のネタにされる事も不愉快だった。
なにせ、信用していた人間に信じてもらえなかったのだから。


「まあ…ミナトさんにも協力してもらうから、大丈夫と思うけど。 そのかわり、ユリカにも頼むよ? ルリちゃん」

「はい、帰ってきたらちゃんと説明します」

「ありがと、それじゃあ、そろそろ夕飯の準備でもしようか? 」

「え? 」

「だって、ユリカもおじさんもいないんでしょ? 一人で食べるよりは良いと思うけど…嫌? 」

「いえ、久し振りにアキトさんのラーメンを食べてみたいです」


ルリは答えるや否、台所に向かい、スープの入った鍋に火をつける。 
火をつける。 別に特別な行為ではなかったが、ルリにはそれだけでも嬉しかった。
こうして再び、以前のような生活を送る事が出来るのが…


「あ、ルリちゃん。 エプロンしないと汚れちゃうよ」


そう言うと、アキトはタンスの一番下の引出しから、水色のエプロンを取り出した。


「アキトさん…持っていてくれたんですか…」

「うん…何て言うか、ルリちゃんやユリカと、また料理を作れる日が来ると良いなって思って…」


照れ隠しに、頭を掻きながら答えるアキト。 それとは対照的に、ルリは水色のエプロンを懐かしそうに、じっと見つめていた。 
アキトを散々罵った自分の物を、大事そうにしまっていてくれたアキトの事を思うと、申し訳ないと言う気持ちが
沸きあがってくる。 普通なら、あそこまで罵った相手の持ち物を持っておく事は、まず無いだろう。

ルリはここに来るまで、アキトは少なからず、自分の事を恨んでいたと思っていたが、
文句を言うどころか、誤解が解けるや否、以前と同じように自分に接してくれた。
その姿は、人によってはお人よしと言うかもしれないが、何にしてもルリは嬉しかった。 

自分は、アキトに嫌われていない事に。 そして、改めて思う。 ユリカやリョーコ達がアキトを好きになったのは、
この優しさに引かれたと言う事を。
そして、自分もそこに惹かれたのだから…………



第7話・完


はい、KANKOです。 まだまだ、続きます、と言いますか、本当は次の展開に移っている筈なんですが…

いやはや、予想以上に長くなってしまいました。

では、8話にて

次話へ進む

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