第6話

機動戦艦ナデシコ


変わりゆく過去




第6話



束の間の安らぎを得た二人のテンカワ・アキト。
だが、その二人に対して敵意を剥き出しにしていた人物がいた。


「ユリカよ、この人なんかはどうだね? 元木連軍人だが、とても誠実な人間だぞ?
 アキト君なんかよりも絶対にお前の事を大切にするぞ? 」

「・・・・・お父様、私やっぱりアキトの事を忘れられない・・・・」

「な、何を言うんだ!? 彼は二股を掛けていたんだぞ! なんでそんな男が良いのだ!? 」



ユリカは虚ろな表情で写真を見ながら、そんな事を呟いたものだから
コウイチロウは抱えていた大量の見合い写真を手から落とした。


「だってね、良く考えてみたらアキトがあんなに怒った事って滅多にないもの」

「それはな…自分の嘘を隠す為に決まっているだろう」

「でも、ミナトさんも浮気するような人には見えないし・・・・」


アキトの浮気の一件以来、ユリカは目に見えて元気が無くなり、何とかしようとコウイチロウは
あれこれ試してみるのだが、最後はアキトの事を話すばかりだった。


「ルリ君から聞いただろう? アキト君の家に彼女が入って行くと言うのを。 しかも食材らしき物を
 もって入っていたと言うじゃないか。 只の友達が料理人でもあるアキト君にそこまでするかい? 」




ぶつぶつと呟くユリカの横で、見合い写真を握り締めながら一人熱く語るコウイチロウ。
ユリカの行動は少し異常ではあるにしろ、コウイチロウの反応は過保護な父親の反応としては
当然と言った反応かもしれない。

だが、数日前のコウイチロウも怒りに任せて言ったものの、彼もユリカと同じ考えが少なからず
頭の中にはあったのだが、一昨日ルリの報告でミナトがアキトの家に入っていたったと聞いてからは
彼の事を考えると、怒りと言う感情しか出てこなかった。


それにしても、あれからずっとこの状態の二人。 
一応、コウイチロウの方は仕事には出ているのだが、事ある事に同僚にアキトの事を
言いふらしていた為、アキトの疑惑は本人の知らぬ所で確信へと変わってしまっていた。

もちろん、元ナデシコクルーの耳にも届いている。

この時代のテンカワ・アキト、彼は未来から来たアキトは別の苦しみを味わう事になるのだろうか?







そんな大きな誤解を、周りの人間に振りまいているとは知らないこの時代のアキトは、
ラピスをミナトの家まで送り届けようと一緒に歩いていた。


「ねえねえ、アキトさん。 明日も料理の手伝いに行っても良い? 」

「それは…別に良いけど、こう毎日だとミナトさんに悪いと思うんだけど…何か言ってる? 」


ラピスの申し出にばつの悪そうに答えるアキト。 ラピスが何処か昔のルリの様な感じでそれを治すのに
協力して欲しいとミナトからは言われてアキトも快く協力すると申し出ていたのだが
この所、夕飯も自分の家で済ましているラピスを見ていると、ミナトの仕事まで奪っている気がしてならない為、
先程の発言が出てきた。


「ううん、別に何にも言っていないよ。 それにミナトさんも最近は忙しいみたいだから
 家に帰って来るのも遅いの。 だから、ミナトさんがアキトさんが迷惑じゃなかったら食べてきても良いって」

「そっか、なら仕方ないね。 学校の先生をやっているんだから、忙しいのも仕方ないか」

「うん、それで、明日も来て良い? アキトさん」

「良いよ、ラピスちゃんが良いなら何時だって構わないよ」

「ありがとう、アキトさん。 美味しい塩ラーメン作ろうね」


アキトの答えに行儀良く頭を下げるラピス。
ミナトの教育のたまものか、アキトの影響か、昔のルリと比べてもかなり表情が豊かに
なってきているラピス。

特に、料理をしている時の本当に嬉しそうにしている姿を見ていると、自分でも人助けが出来るんだなと
アキトは改めて感じた。


「あ、そう言えば…ユキナちゃんは夕飯はどうしているの? 」

「わかんない。 そう言えばどうしてるんだろう? 」


ミナトの家のもう一人の同居人の事を思い出した二人は、彼女が今ごろどうしているのか
思い出した。 彼女はユリカ並とまでは行かなくとも、料理は苦手なはずだったからだ。




「うう…ラピスばっかり。 ルリと約束した手前、ひょいひょいアキトさんの所には行けないし…
 ミナトさん、早く帰ってきてぇ〜」


一人取り残されたミナトの家では、カップラーメンをすすりながら泣くユキナの姿があった。







「へぇ…彼はそんな事言ってたんだ? 」

「はい、今回の爆破の犯人はテンカワさん似の男と言っておりました」」


ネルガルの会長室にて、プロスの報告を聞くアカツキ。 その姿は何処か嬉しそうだった。


「これで、テンカワ君がテロの犯人じゃないと分かったのは収穫かもね。
 でも、テンカワ君が知らない兄弟だったりして」

「ああ、そう言う考えもありますね。 ですが、ツキオミさんが気になる事をおっしゃっていましたよ」

「何? 」


プロスの言葉に興味を示した様に、机から身を乗り出す様に話を聞こうとするアカツキ。


「彼が言うには、そのテンカワさんそっくりの男、仮に偽テンカワとお呼びしますが、彼は
 研究所の地下室に現れたそうなんですが、その足取りは研究所内を知っている様だったと
 申しておりました」

「それって、やっぱりネルガルに内通者がいるという事かい? 」


今回の事件が起きた当初は、アカツキだけでなく他の面々も内通者がいるとは考えた。
そうでなければ、極秘にボソンジャンプを研究してた施設ばかり襲撃される訳がない。
だが、破壊されていなかった僅かな監視カメラには、黒尽くめのアキトのボソンジャンプをした姿が残されていた。

その件もあり、犯人は過去にボソンジャンプに携わった事があるテンカワと思っていたのだから
アカツキの気分はあまり良くはなくなった。


「まだ分かりませんが・・・・やはりその可能性が高いと考えるべきです」

「やれやれ、前も散々社員を調べたのに・・・・また最初から調べるのかい。
 あれには、社員からも文句が出たのにねぇ・・・・」

「それと、もう一つ」

「何だい? 」

「ツキオミさんが犯人と戦った際、犯人は木連の格闘術を使ったと言う事です」

「へ? それじゃ、犯人は木蓮の人間なのかい? 」

「さあ?・・・・ツキオミさんもテンカワさんにそっくりの方は心当たりがないと言う事ですが…
 とりあえず、調べてみるそうです」

「何と言うか…余計ややこしい事になったねぇ」


事件の糸口が見つかるどころか、余計に複雑になっている事にアカツキもプロスも
頭を抱える事しか出来なかった。
こうしている間にも、ネルガルの株価は下がりつづけていると言うのに・・・・






「アキト君、今回はどうしてあんな所を襲撃したの? 」

「ああ…あそこは叩いていた方が木連の、草壁の動きをある程度は封じ込める事が出来るからね」


あの日以来、ミナトはアキトの元へ通いつめるようになっていた。
あの時、彼女はアキトの姿を見て確信した。 無理をしているのではなく、アキトはボソンジャンプに起こる悲劇を
食い止めるだけに生きているんだという事を。

昔の、今のアキトを知っているからこそ、ミナトは悲しくもあり辛かった。
ならば唯一事情を知っている自分がアキトを支えよう、それが偽善と言われてもアキトの心に
ユリカの存在があっても、今は自分しかいないのだから。

未来から来たアキトが現在行なっている事は、知らない人間には許される事はないだろう。
だが、事情を知ってしまったミナトには彼を止める術はない。
もし、このまま放っておけば火星生まれと言うだけで、どれだけの犠牲者が出るのだろう?
アキトは詳しくは言わなかったが、テロ行為をしてまでそれを止めようとするのだから
かなりの犠牲者が出たのだろう。
しかし、そのテロ行為によって運良く死亡者は出ていないまでも怪我人は続出している。

もちろん、テロによる犠牲者も出さずにボソンジャンプによる犠牲者も出ない事が一番なのだが、
それはどうあがいても無理だと言う事だ。
そして、このテロはあの心優しいアキトがその二つを天秤に掛けて取った行動だった。

彼女は、ミナトは最後までアキトを見届けるだろう。
彼が全てをやり終える時まで。


「ねえ、全てが終わったらどうするの? 」

「・・・・・・・・最初に会ったときに言った筈だけど…」

「私がアキト君の事を必要としているって言ったら、どうする? 」


ミナトの発言に思わず彼女の顔を見つめるアキト。 
今のアキトは確かにミナトに甘えている部分があった。 それはアキトも理解している。
だが、それは自分の境遇を聞いたからこそ、同情心から来ているものだとアキトは思っていた。


「ミナトさん、冗談は止めてくれないか? 」

「冗談…か、本当にそう思っているの? 今の私との関係で? 」

「だけど…」


何かを言おうとしたアキトだが、そこで口をつぐんでしまう。
彼女も自分が全てが終えたら、何をするかは知っている。 しかし、間接的にはその言葉を匂わせるのだが
どうしても言えなかった。


目の前で恋人を失ったミナトには。


「気にしてるのね・・・白鳥君の事。 でもね、同情からだと思われても良い。
 だから、アキト君には生きていて欲しいの」

「でも…俺は…」


何か思いつめたような表情をするアキトをミナトは優しく抱きしめる。


「ここは君のいた世界じゃないでしょ? 今やっている事だって必要悪だと思うし、もし他の人が
 アキト君と同じ状況になったら同じ事をする人はいる筈よ」


自分のやっている事を正当化できない、いや、したくないアキトの心境を察してか
ミナトは優しく抱きしめながら、擁護する。


「俺って…弱い奴だな、結局はあいつの言う通りだ」

「誰だって弱い部分は持っているわよ、私も、ね」


何時もの様に抱きしめられたアキトは、そのままミナトの胸の中で眠りについた。
自分の腕の中で眠るアキトの顔を見ていると、ミナトにはテロを起こした人間には見えなかった。
そう、その寝顔は昔のアキト・・・・この時代のアキトと変わっていなかった。


「人って残酷ね・・・」








「で。話ってなんですか? 」

一方、この世界のアキトの誤解を広めた二人の内の一人がネルガルにいた。
呼び出された少女は、久し振りに再会した人物に対してぶっきらぼうに答える。
その姿は、昔の冷たいとも言えるルリに戻っている様な気がした女性は、ため息をついて答えることしか出来なかった。


「まったく、せっかく女の子らしくなってきたのに、それじゃお兄ちゃんに嫌われるわよ? 」

「私はこれが普通です。 あの人は関係ありません」


目の前に立つ女性、イネス・フレサンジュの言葉に語尾を強めて反論するルリ。
どこか、アキトの名前さえも出したくないような雰囲気を醸し出している。


「そう、でも、私が貴方を呼んだ理由はアキト君の事でなんだけど? 」

「私、帰ります」


イネスの口からアキトの名前が出てきた瞬間、ルリは座っていた椅子から立ちあがり
そそくさと出口の方へと歩き出した。


「あら、残念ね。 ルリルリが見たアキト君は偽者だと言う事を教えてあげようとしたのに。
 ま、嫌なら仕方ないわね。 それにしても可哀想よね〜無実の罪で信頼していた人間に見捨てられるなんて…」


ルリに向かって言うというよりも、誰かに聞こえるように話すイネス。
もちろん、この部屋の中には二人だけなのだから、当然耳に届く人物はルリ一人だけである。 


「それ、どう言うことですか? 」


彼女の言葉を聞いたルリは、鋭い眼差しを向けながらも座っていた椅子に座りなおした。
ルリの調子が良いとも言える行動に、イネスは満足げな笑顔を見せる。

この時、ルリはアキトの事が気になり忘れてしまっていた。
目の前にいるイネスの、とてつもなく恐ろしくもはた迷惑な癖を。


「そうねぇ…まずは、ネルガルにおきた事件から説明しないと行けないわね」


ホシノ・ルリは後にこう語る。
今まで生きてきた中で、もっとも大きな失敗だったと…















「と言う訳で、掻い摘んで説明したけど理解できたかしら? 」

「これで…かい摘んで…ですか」

「あら? もっと知りたいの? 」

「遠慮しておきます」


不気味な笑みを浮かべるイネスから逃げる様に離れるルリ。 その顔は何かに憑かれた様に疲れた
顔をしていた。


「でも、私にも分からない事が一つだけあるわ」

「分からない事? 」

「そう…アキト君の今の心境よ」

「あ…」


イネスの説明という名の拷問の為に、ルリはもっとも肝心な事を忘れていたのか、
アキトの名前が出てきてしまった瞬間に、顔はうつむき、肩を震わせる。


「私…アキトさんに酷い事を…何も悪くなかったのに・・・・」

「ルリルリ、貴方がアキト君に何を言ったかは私は分からないわ。 でも、それは仕方ない事なのよ。
 今の今まで、私だけでなく、ネルガルの人間全員がテロの犯人はアキト君と思っていたんだから」


俯いていたルリの顔を両手で自分のほうへと向かせ、涙で溜まった瞳を見つめながら、
イネスは優しい声で話し始めた。



「でも、私は…」

「良い? 良く聞きなさい。 大小に関わらず、人間は誰でも過ちをしてしまうわ。 
 これは避け様としても、決して避けられないわ。 そして、今の貴方みたいに皆落ちこんでしまう。
 これは、私にも当てはまるわ。
 でもね、その事を何時までも気にしていたら駄目よ。 もちろん、その事をすぐに忘れるのは駄目よ?
 ちゃんとその事を教訓にして、次に生かせば良いの。
 さて、ここまで言えば私が何を言いたいのか、頭の良いルリルリは分かるわね? 」


「アキトさんに謝る、と言う事ですよね? 」

「ご名答」


ルリの答えに満足げな表情を浮かべるイネスではあるが、その一方、自分がやるべき事の大変さに
素直に首を縦に振る事が出来ないルリであった。



「別に今すぐアキト君に謝りに行けとは言っていないわ。 でも、謝る時はちゃんと謝りなさい」
 
「許してくれるでしょうか? 」

「あら? アキト君の事を良く知っているルリルリには分からないの? 」

「……馬鹿…」


イネスの指摘に顔を真っ赤にしつつ、視線をそらすと言う事でしか抗議が出来ないルリであった。


















「そうか・・・・建造中のアマテラスまでやられたか・・・」

「はい、敵は我々にも精通しているものと思われます」

「では、我々の中に裏切り者がいるというのか? 」

「いえ、既に調べはついておりますが該当する者はおりません。が、犯人は間違いなく単独での
 ボソンジャンプが出来る者です」

「ほう…我々の研究に間違いはなかったか。 では、目星はついているのか? 」

「ナデシコに乗船していたテンカワ・アキト・・・・奴の姿が短い時間ながらも、監視カメラに映っておりました」

「テンカワ・アキト? 」

「火星での遺跡争奪戦の際、痴話喧嘩をした地球人でございます」

「なるほど、あの男か。 まさかこのような事をやらかすとはな。 人は見かけでは判断できん、か」

「どうなされますか? 」

「研究材料としては申し分なかろう。 だが、捕らえる事が無理であれば消えてもらうしかあるまい」


「御意・・・・」

「我らの理想の為、失敗は許されぬぞ」

「心得ております、閣下。 全ては我にお任せを」



第6話・完



どうも、KANKOです。
いよいよ、物語も佳境に突入です。 はてさて、二人のアキト君はどうなるんでしょうか?

ん〜「一人時の中」では出来なかったアノ事をこっちで再現しようかな?
と考えていたりいなかったりします(笑)

では、ここまで読んで頂きありがとうございました。

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