第4話

機動戦艦ナデシコ


変わりゆく過去




第4話




「ユリカよ! 私は帰ってきた〜〜!! 」

「お父様〜〜〜」


先程まで、ユリカの泣き声だけが静かに響くミスマル邸にこの家の主、ミスマル・コウイチロウが
何故か涙を流しながら居間に現れた。
ユリカはコウイチロウの帰りを待ちわびていたかのように、顔を見るなり抱きついた。


「すまない、こんな大変なときにお前を一人にして…」

「ううん、お父様は忙しいから仕方ないよ。 でも・・・どうしても、お父様に会いたかったの・・・」

「良いんだよ、ユリカ。 私はお前の為なら、どんな時にだって掛けつけるからな」


「馬鹿ばっか・・・」


何時も見なれている二人の馬鹿親子振りに、その様子を見守っていたルリは久し振りにお決まりの台詞をため息と共に
呟いた。


「おお、ルリ君もいたのか。 では、早速詳しい経緯を聞かせてもらおうか? 」

「は、はい・・・」


ルリに対しても、ユリカに接するように親馬鹿振りを見せていたコウイチロウだったのだが、今回ばかりは
実の娘のユリカの一大事の為か、厳しい表情で睨みつけるコウイチロウにルリのポーカーフェイスも少しばかり 
崩れてしまった。





「ルリちゃん美味しいって言ってくれるかなぁ・・・・心配だなぁ・・・ユリカの奴は何時も美味しいしか言わないしなぁ。
 せめて、おじさんがいてくれたら色んな意見聞けるんだけど、まっ、いっか。 ルリちゃんの意見が一番わかりやすいし」


険悪な雰囲気が流れているミスマル低の外では、テンカワ・アキトが何やら食材が入った袋を両手に抱え
一人何かを呟いていた。 
元々、彼の方からミスマル邸を尋ねる事は無く、ユリカがルリと同伴でアキトの家に遊びに来る事が多々あったのだが
そんな時には、二人に自分が作ったラーメンを味見してもらう事が多かった。

もっとも、他にもウリバタケやプロスなどにも味見をしてもらう事はあったのだが、ルリの意見がもっともストレートで
的確だった為、最近ではアキトのラーメンの味見はルリが担当するようになっていた。


「こんにちわ〜〜」


いつもの元気ある声で、インターホンに向かって声を出すアキト。
しかし、何時もなら自分の声を聞いた瞬間に聞こえるユリカの嬉しそうな声はおろか、何も反応が無かった。


「あれ? 出掛けているのかなぁ? 今日は休みって、ユリカは言っていたのに・・・」


先週、ユリカには家に遊びに行くといっていたアキトは、不思議そうに玄関先で立ち尽くす。
ユリカがアキトとの約束を破棄すると言う事は、まず無いという事が分かっているアキトは、つい、悪い方へと
考えてしまう。


「ユリカの奴、怪我か病気をしたのかな? いや、でもルリちゃんがいるからそんな事になったら
 すぐに知らせてくれるだろうし・・・ルリちゃんに何かあったのか? ユリカなら、パニックをおこして連絡しそうに無いし・・・」


アキトが玄関先で物思いに耽っていると、玄関のドアが静かに開いた。


「何か用かね? アキト君」

「あっ、おじさんお久し振りです。 今日は休みだったんですか? ユリカもルリちゃんも出てこないから
 誰もいないと思いましたよ」

「ふむ・・・丁度、私も君と話があったのでな。 入りなさい」

「はい、お邪魔します」


コウイチロウのいつもと違う視線に気付かないまま、アキトは嬉しそうに居間へと向かっていった。


「やれやれ、彼があんな人間とは思わなんだ」

大きくため息をつくと、口を横一文字に結ぶとアキトの後に続いた。





「あ、ユリカもルリちゃんもいたんだ。 何で出なかったの? 」


いつもと変わらぬ顔でユリカとルリに話しかけるアキトに、二人は驚いたようにアキトを見つめる。
そのユリカの瞳には、ダムが今にでも決壊するかのように涙が溜まり、ルリの方はまるで親の敵を見つけたような表情を
アキトに向けていた。

「ア、アキトのぶわか〜〜〜!!!! 」

「ほんと、馬鹿ですね・・・」

「へ? 」

「アキト君、私は君の為に急遽戻ってきたんだよ。 君とユリカの今後について、ね! 」

「え? 」


後から来たコウイチロウに、肩を捕まれ否応無しに居間に座らせられるアキト。
3人のいつもと違う雰囲気に、鈍感なアキトでも流石に自分が原因だとはわかったのだが
何故に自分が原因で、こんなに怒っているのか理解できない為に、自分が何をしたか必死に思い出そうとしていた。


「さて、アキト君、君は私達に隠している事があるはずだね? 」

「隠し事? 」


今のテーブルに腰掛けたコウイチロウに言われた言葉に、目を白黒させるアキト。


「もうばれているんですよ、アキトさん」


ルリはコウイチロウの左側に座りながら、アキトに話しかける。 その様子は、裁判官が被告に聞いているようだった。 
ユリカも、コウイチロウの右側に座り話を聞いているようだが、こちらはアキトに視線を合わせようともせずに
俯いたままだった。

二人の問いかけに、アキトはしばし考えていたが、何かを思い出したように手を合わせて3人に顔を向ける。


「ああ・・・もっと早く言えば良かったかな? 実は、店を持ちたいから貯金していたんだ。 でも、ユリカに言うと
 お金を出すとか言うだろ? でも、奥さんでもないし、何より・・・俺の昔からの夢だし、皆に迷惑かけたくなかったから。
 すいません、おじさん。 でも、やっぱりこう言う事はしっかりしておかないと」


一気にまくし立てるアキトに、3人はぽかんとした表情で見ていた。 だが、アキトの話が終わると同時にコウイチロウの顔は
一気に真っ赤になってゆく。


「アキト君、君がそんな男とは思ってなかったよ!! 人は見かけで判断しては行けないという良い手本だよ!! 」

「へ? あ、あの、俺、なんか変な事言いましたか? 」 

「まだ言うかね!? そんなに言えないなら、言ってあげよう!! 君とミナト君との関係だ!! 」



「・・・・・・・・・・・へっ? あの、何でミナトさんの名前がここで出てくるんですか? 」


自分が説教されているのは分かるアキトだったが、ミナトの名前が出て来た事でますます訳が分からなくなってしまっていた。


「・・・・・・・・まだ惚けるつもりですか? 」


ルリは、アキトが白状しない事に苛立ちを隠せないように呟く。 その言葉には、ナデシコでも見せていない程の
冷たい言い方だった。


「あの、何でこんな事言うんですか? しかもミナトさんの名前が出てくるし。 ルリちゃんもおじさんもおかしいですよ」
 

「まだ言うかね!? 君とミナト君がキスをしている所をルリ君とユキナ君が目撃しているんだぞ?  
 それでも、白を切るつもりかね!? 」

「何言ってるんですか!! 俺とミナトさんがそんな事するわけ無いじゃないですか!! 俺はアカツキみたいに
 誰から構わずに、女性に手を出したりしません!! 」


全く身に覚えの無い事で問い詰められるアキトは、コウイチロウに対してひるむことなく正面から見据える。


「ユリカも何か言ってくれよ! 俺の家に良く来ているんだから分かるだろ!? 」

「アキトは・・・・私よりミナトさんの方が良いんでしょ? 隠さなくても良いよ・・・」


ユリカに助けてもらおうと話しかけるアキトだったが、ユリカの口からはアキトを拒否する言葉しか出なかった。


「ふ、ふ、ふ・・・ふざけるな!! 」







「っくっしょい! 」

「あら? 珍しいわね、アカツキ君がくしゃみなんて」

「ん〜〜〜、きっと、どこかの女性が僕の噂でもしてるんでしょ? いや〜〜、もてる男って辛いね、エリナ君」

「そうね、昔から馬鹿は風邪を引かないって言うしね。 あれって、当てにならないわね、全く・・・・誰か馬鹿に付ける 
 薬を作ってくれないかしら? 」

「エリナ君・・・・僕は君の雇い主なんだけど? 」

「あら、すっかり忘れていたわ。 私に自分の仕事を殆ど押し付けるから、会長は死んだと思っていたわ」

「・・・・・・・」


一方その頃、アキトの口からアカツキの名前が出て来た事が原因か、アカツキとエリナはどうでも良い事を話していたりした。


「ま、それはさておき、一連の事件の犯人と思われるアキト君だけれど、犯行が行われた時には自宅にいたという
 報告を受けているんだけど、それでもアカツキ君はアキト君を犯人と思っているの? 」


手元にある書類に書かれている施設の被害を見ながら、エリナはアカツキに問いかける。 
その顔には、アキトが犯人と判断したアカツキに不満があるといわんばかりだ。


「そうだねぇ、確かにその時間にはアキト君は家にいたかもしれないけど、彼一人の犯行だと思っているのかい?
 先週はラピスもさらわれたし・・・彼の所にラピスがいないと言う事は、誰かの所にいるということだし・・・」
 
「協力者・・・という事? 皆目見当もつかないわね。 何故、アキト君がこんな事をしたのか、その協力者は何をしたいのか」

「全くだよ。 僕らがボソンジャンプを研究しなくても、誰かが替わりにやる筈なんだからねぇ。
 ま、僕らじゃ真相はわかんないんだけど、せめてアキト君と協力してる奴が何者かは付きとめたいからね。
 一体何処の企業の仕業か・・・ね」


「クリムゾンも被害を受けているわけだしねぇ・・・難しいわね」


研究施設の襲撃事件、既にこの事でネルガルやクリムゾンの名は世間で知らぬ者はいないと言うほどになっていた。
しかし、捜査をしている警察も犯人を全く捕まえる事は出来なかった。

もっとも、ネルガルが意図的にアキトと思われる人物が移っている映像などは提出していないからなのだが、アカツキ自身、
警察も信用していなかった。
今回の襲撃事件がボソンジャンプの研究の妨害、そしてその犯人はアキト。 だが、アカツキにはどうしても分からない事があった。

アキトが何故こんな事を? 彼が知っているアキトならばこんな事はやるはず筈が無い。
それに、この手際の良さもあのアキトからは考えられない。 ならば、協力者がいるはずだが、クリムゾンも被害を受けている
様子を見ると、協力者はボソンジャンプを研究している全く別の組織では? 

アカツキの中では、軍が犯人であると言う考えがあった。 その為、警察などにも本当の事は知らせていなかった。


「ま、僕らだけじゃ限界があるしねぇ・・・」

その時、専用回線からアカツキの部屋に連絡が入った事を知らせる呼び出し音がなった。


『会長、お時間は宜しいでしょうか? 』

「やあやあ、プロス君。 ・・・・その顔を見ると、彼は見つけてきてくれたようだね? 」

『はい、なかなか苦労しましたが、我々の事情をお話したら協力してくれると言っていただけました』
 
「そうかいそうかい。 そいつはよかった。 んじゃ、大至急こちらに戻ってくれ」

『はい、それではすぐに戻ります』


プロスの報告を満足げに聞き終わったアカツキの顔には、先ほどの難しい表情とは打って変わって、何かを企んでいる時に見せる
不適な笑みを見せた。


「ちょっと、彼って? 私は一言も聞いていないわよ? 一体、誰の事!? 」

「まあまあ、そんなに怒らないでよ。 秘書でもある君にも黙っていたのは謝るけど、知っている人は少ない方が良いからね。
 まあ、これで彼の意見が聞ければ少しは、この事件について何かわかりそうだしね」 

「だから、誰よ!? 」

「会ってのお楽しみだよ」


自分だけ仲間外れにされた事が気に食わなかったのか、顔を真っ赤にしながらアカツキに詰め寄エリナだったが、笑いながら
エリナの質問をはぐらかすばかりだった。

しかし、アカツキの待つ男がやってきても、一連の事件の本当の犯人が分かる事は無かった。 
犯人が未来から来たテンカワ・アキトだと言う事は・・・・






「ったく! 冗談じゃねぇよ!! 何で俺がミナトさんと付き合ってる事になってるんだ!? 
 何で誰も俺の事を信じてくれないんだよ!? 」


普段の姿からは想像もつかない剣幕で家路を急ぐアキト。 そのあまりの剣幕に道行く人々も恐れをなしてアキトに道を
譲っていた。


「あんれぇ〜〜、アキト君どうしたの? 荷物抱えてそんなに怒っちゃって・・・」 

「はい? 」


アキトが振り返った先には、ミナトが見知らぬ少女と手を繋ぎながら立っていた。


「ミナトさん・・・? あの、その子は? 」

先ほどまで、ミナトとの浮気と言うあらぬ噂のせいで怒っていたのだが、ミナトの横でこちらを不思議そうに見つめている
少女の容姿に目を奪われて、怒りを忘れてしまったアキトだった。


「あ、この子はラピス。 ほら、ラピスも挨拶して。 このお兄ちゃんはアキト君って言うのよ」

「うん。 初めまして、アキト君」

「こらこら、ラピスの方が年下なんだからこういう時は、アキトさんかアキトお兄ちゃん、でしょ? 」

「ごめんなさい、ミナトさん。じゃあもう一度、初めまして、アキトさん」


ラピスの反応につい苦笑しながら注意するミナト。 アキトも、ちょっと変わった行動を見せるラピスについ笑みをもらした。


「はは、別に気にしないで良いよ、ラピスちゃん。 でも・・・ラピスちゃんって、ルリちゃんにそっくりだね? 
 ミナトさん、この子、ルリちゃんの親戚か何か? 」

「ああ、別にルリルリとは関係ないのよ。 この子ね、記憶喪失らしいのよ。 だから、ね、ルリルリの代わりって
 訳じゃないけど、この子の面倒も見ようって思ったのよ。 それに、この子が何処から来たかもわかんないしね」

「そうだったんですか・・・大変だね、ラピスちゃんも」

「うん、でもミナトさんもユキナさんもいるから寂しくないよ。 毎日一杯いろんな事を教えてくれるから」


ミナトの口からラピスの事を聞き、アキトの表情が曇ってゆくが、そんなアキトに気を使ってかラピスはあまり変化を見せない
表情でも一生懸命にアキトに答えた。

そんなラピスの答えに、ミナトならラピスもルリのように、良い方向へと導いてくれるだろうと思ったアキトであった。


「あ、そうだ! 」

「どうしたの? いきなり大きな声を上げて」

「ルリちゃんの事で思い出したんですけど、聞いて下さいよミナトさん! 」


先ほど、ミスマル邸で自分におきた事を包み隠さず興奮した面持ちでミナトに話すアキト。
その様子は、ナデシコに乗っていた時に見せた怒りとは違い、自分にあらぬ疑いをかけられ、なおかつ信用していた
者に裏切られたショックも合間ってか、瞳に涙が溜まっていた。


「まさかねぇ・・・・アキト君がユリカさんとは付き合っているのは知っているのに、私が付き合うはず無いじゃない」

「ですよねぇ!? なのに・・・なのに、何度言っても信用してくれないんですよ・・・・なんて言うか、俺って
 そんないいかげんな奴に見えるんですかね?・・・・」


そこまで言って、肩を振るわせながら視線を下に落とすアキト。
アキトは、自分が信用されていないと言う事実を付きつけられてしまった事に腹が立ちつつ
自分は、そんないい加減な男だと見られていたのでは? と言う事にショックを受けていた。

だが、ミナト自身もまさか自分と未来から来たアキトが会っていた事を、よりにもよってルリとユキナに見られていた事に
ショックを受けていた。


「俺・・・なんか、自信なくしちゃいました・・・よりにもよって、ユリカやルリちゃんが・・・・」

「そうだよねぇ・・・あ、でもその事は私の方からユリカさん達には、ちゃんと言ってあげるから心配しないで・・・ね? 」


とりあえず今は、自分の事よりも目の前にいるこの時代のアキトを慰めなくてはと、優しく言葉をかけるミナト。
内心、まさか未来と現在、二人のアキトを自分が慰める役に回るとは思ってもいなかった為に、心の中で笑っていたりはするが。


「ねぇ、アキトさん。 何か悪い事をしたの? 」


今だ顔を上げないアキトを心配してか、アキトの顔の下から覗きこむように問いかけるラピス。


「いや・・・・そうじゃないよ。 皆が誤解しているんだ」

「そうなの? じゃあ、気にする必要は無いと思うよ? ミナトさんが言ってたよ。 別に悪い事をしているんじゃないから
 堂々としてなさいって」


「え?・・・」

「そうよ〜〜、この子も最初私の家に来た時ね、びくびくしてまるで自分が犯罪者でこの家に隠れているって感じだったの。
 だから・・・悪い事をしていないんだから、もっと堂々とするべきだって、ね。 アキト君もラピスを見習ったら? 」


ミナトとラピス。 二人の何気ない言葉にだが、アキトには目から鱗が落ちたとでも言うのか、驚いたような表情で
二人を見比べる。


「そう・・・っすよね! 俺、ミナトさんとは何でも無いし、何もやましい事はしてないんですもんね!
 そうだよ、俺は何もしてないんだからもっと堂々としていれば良いんだ! ありがとございます! ミナトさん、ラピスちゃん!
 じゃ、俺今から屋台の準備に行ってきます! ありがとうございます! 」


そう言うと、何か吹っ切れたような表情で二人をその場に残し走り去ってゆくアキトだった。
そのアキトを珍しいものを見た、とでも言うような顔で二人は見送った。

「単純・・・・やっぱり、あのアキト君と同一人物とは思えないわねぇ・・・」

「何が単純なの? ミナトさん」

「ん〜ん、何でも無いわ。 さっ、早く帰ろう。 ユキナがお腹を空かして待ってるわよ」

「はい、でもミナトさん。 あの袋はどうするの? 」


ラピスが指を指すそこには、アキトの物と思われる買い物袋が道端に置かれていた。


「やれやれ・・・こう言うところがアキト君らしいと言えば、アキト君らしいかもね。 ラピス、先にユキナの所に
 帰る? 私はアキト君のところにこれを持っていくけど」

「ううん、私も一緒に行く。 アキトさんのお家を見てみたいし・・・・」

「んじゃ、ユキナには悪いけど行こうか? 」

「はい」


ラピスは嬉しそうにミナトが持っていた荷物を受け取り、ミナトはアキトの忘れた買い物袋を抱え、アキトのアパートへと
向かっていった。





「ふむ・・・・ルリ君、ミナト君とキスしていたのは本当にアキト君だったのかね? あんなに怒ったアキト君を見たのは
 初めてだったが・・・」

「はあ・・・・顔に大きなサングラスをつけていましたけど、間違い無くアキトさんだった・・・と思うんですけど」

「ふぇぇぇぇん! アキトはやっぱり私よりミナトさんの方が良いんだ〜今もミナトさんの所に行ったに決まってる〜〜」


先ほどのアキトの余り見せた事の無い怒りの表情から、ユリカを除くルリとコウイチロウは本当にアキトが浮気をしていたのか
疑問に思っていた。


「やはり、良く調べてからもう一度、アキト君に聞いてみたほうが良いかもしれんなぁ。 ルリ君はどう思うかね? 」

「そうですね・・・アキトさんって嘘を付けない人ですから、本当に浮気をしていないかもしれません。
 でも、あれはアキトさんの筈だと思うんですけど・・・」


自分の記憶力に絶対の自信を持っているルリには、あの時、ミナトとキスをした男がアキトだと確信している。
しかし、さっきのアキトのあの怒り方は嘘をごまかす為ではなく、心の底からの怒りだったのはルリにも良く分かる。


「ふむ、ルリ君、もう一度アキト君に会って話を聞いてくれないかね?
 もしかしたら、私達はとんでもない勘違いをしているかもしれんのでな」

「そうですね。 でも・・・ユリカさんはどうしましょうか? 」

「アキトの馬鹿ぁ〜〜〜ミナトさんの方がプロポーションは良いけど・・・・・アキトは、アキトは体が目的だったのねぇ〜〜」


二人が見つめる先には、自分一人で勝手に話を進めているユリカがいた。


「ユリカは元の世界に戻るまでにしばらく時間が掛かるから、ルリ君一人にお願いしたいのだが良いかね?」
 
「分かりました。 ユリカさんの事はおじ様にお任せしますので、私はアキトさんの所に行ってきます」

「うわ〜〜ん、アキトォ〜〜〜」


今だ泣き止まぬユリカの泣き声を後に、ルリはアキトのアパートへと向かっていった。


「でも・・・本当にアキトさんが浮気していないんだったら、ミナトさんと一緒にいた人は誰だろう? 」







「あれ? 買い物袋が無い・・・・もしかして、どっかに落としてきた? 」


アパートに戻ったアキトは早速屋台の準備をしようとしたのだが、買っておいた材料を忘れてきてしまった事に
今ごろになって初めて気付いたりしていた。


「大した材料じゃないけど、やっぱ探しに言った方が良いよなぁ・・・でも、屋台の準備があるしなぁ・・・
 どうしようかなぁ・・・」


自分の味を作っている今は、材料代も馬鹿にならない為、無用な出費は避けておきたかった。
何より、自分の店を早く持ちたいと考えているアキトにとってはなおさらだ。
材料を探しに戻るか、このまま屋体の準備を進めるか悩んでいるアキト。 
その時、アキトの部屋の呼び鈴が鳴らされた。


「あれ? ミナトさんにラピスちゃん。 どうしたんすか? 」

「あらら、まだ気付いていないの? 」

「アキトさん、これ、忘れていたよ」


そこには、何やら笑顔のミナトと見覚えのある買い物袋を両手でアキトに差し出すラピスの姿があった。

「あ・・・・ミナトさんと会ったときに忘れていたんですね。 ありがと、ラピスちゃん。 あ、散らかっていますけどどうぞ」


照れ隠しの為か、二人を部屋に招き入れながら買い物袋を受け取るアキト。 
その時、昔のルリのように少し表情に乏しいラピスの顔に、笑顔が出てた様にアキトには見えた。


「あら? ラピス、今笑ったわね? 」

「え? 今、私笑ったの? 」

「うん、笑ったよ。 ラピスちゃんもやっぱり笑った方が良いよ」

「そうなのかな? 良くわかんない・・・・」

「ま、表情なんてそんなに意識するもんじゃないから、気にしないで良いわよ」


アキトとミナトに言われても、いまいち理解できていないラピスは目を瞬きさせるだけであったが、保護者同然のミナトにとっては
そんな反応でさえも喜ばしい事だった。


「うん。 やっぱり、アキト君と会って正解だったわね」

「俺とラピスちゃんですか? 」

「やっぱ気付いていないかな? ルリルリもアキト君の助けがあってこそなんだけど、ね・・・」

「はあ・・・そうっすか? 」

「ねえ、アキトさん。 何かしていたの? 」


二人が話している傍で、ラピスが不意に台所に眼をやると色々な食材が並べられていた。


「あ、屋台の準備をしていたんだった」

「あちゃ〜ご免ね、アキト君。 お仕事の邪魔をして、ラピス帰るわよ」

「はい、ミナトさん。 アキトさん、またね」

「うん、またね。 ミナトさんもありがとうございました。 夕飯の買い出しの最中だったんですよね? 」

「気にしないの。 んじゃ、頑張ってね」



手を振りながら、部屋を後にする二人。 


「そういえば、何でアキト君の事を『さん』づけで呼ぶの? 」

「何かおかしいの? ミナトさん」

「そうねぇ・・・・ラピスの年齢だとお兄ちゃんって言う呼び方が普通だと思うんだけど・・・・ま、いいか。
 アキト君も気にしていないようだし」

「うん、私もアキトさんの方が良い」



そんな会話をしながら、二人が仲良くアパートから出てゆく。 
二人の姿を目撃した人の殆どは、その姿は妹の面倒を見る姉と言った印象を受けるであろう。

だが、その二人を電柱から隠れる様にして観察している一人の少女には全く違う印象を受けていた。


「ミナトさんがアキトさんのアパートから出てきた・・・・・やっぱり、二人は・・・でも、あの子は? 」


アキトのアパートへと向かっていたルリは、偶然ミナトがアキトの部屋から出て来た所を見てしまったのだ。
その為、アキトの部屋に行く事は出来なかったが、ルリは二人の関係が唯の友達ではないと確信してしまった。


「アキトさん・・・・あんなに怒っていたのに・・・ミナトさんも酷すぎる・・・」

自分の面倒を見てくれたミナトにさえ、今のルリには敵意を剥き出しに見つめる事しか出来なかった。


「二人の馬鹿・・・・」


ルリは吐き捨てるように呟くと、ミナトに見つからないように足早にその場を走り去っていた。
だが、ミナトに対してルリとほぼ同じ印象を受けた人物が、ルリとは違う方向から見つめている事には、ルリは気付きもしなかった。



「どう言う事だ? なぜ、テンカワの部屋にミナトが? しかも、隣にいるのはラピスではないか・・・・
 まさか、ミナトがテンカワの協力者だとでも言うのか?・・・・・」

アキトを監視していたゴート・ホーリーは、自分が今見た事を信じられないとばかりに呟くしかできなかった。
隣にいたシークレットサービスの人間は、ゴートの額から汗が出てきたのを見た事により、
今自分が見た事は只事ではないと思いはしたが、決して口にする事は無かった。


ミナトがアキトの家に訪問する・・・・それは決しておかしい風景ではない。
しかしアキトとミナト、二人が置かれている現在の状況では、それは大きな誤解を生む行為だった。


だが、分かった事が一つだけある。
過去が徐々にではあるが、変わっていると言う事・・・・
しかし、未来から来たアキトの望む方向へと進んでいるのか? それは、まだ誰にも分からない・・・・・



第4話・完


ふ〜〜〜やっとで書きあがりました・・・・と言っても、執筆に掛かった時間は
5日ぐらいで、書くまでに時間が掛かったりしたと言うだけではありますが(笑)

まあ、忙しいのもそうですが、他にも一杯やる事ありますしね。 
・・・・・あらやだ、弁解ばかりだわ(苦笑)

では、ここまで読んで頂きありがとうございました。
次は速く書くぞ〜〜〜(笑)


次話へ進む

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