第3話

機動戦艦ナデシコ


変わりゆく過去




第3話




『あ〜〜、本当か? 本当に、あのテンカワとミナとさんがキスしたのか? 』


モニターの向こう側では、ウリバタケが唖然とした表情でルリとユキナの二人を見ている。


「そうだよ。 変装していたけど、あれは間違い無くアキトだったよ。 ねえ、ルリ? 」

「そうですね・・・あれは、やっぱりアキトさんでした・・・」


力無く答えるルリに対して、アキトの浮気の現場を見たユキナは興奮覚めやらぬのか、目が血走っているようにも見える。


『まあ・・・ルリルリが言うなら確かなんだろうが
 そこら辺は、艦長やテンカワなんかの問題だからこれ以上はクビ突っ込むなよ?
 何だかんだ言っても、男と女の関係は難しいからなぁ・・・』


何かを思い出すように、遠くを見つめるウリバタケ。


「何かあったの? ウリバタケさん? 」

「女性関係で、困るような顔には見ませんけどね。 ウリバタケさんは」


『おまえらなぁ・・・まあ、いいや。 ところで、ユキナちゃんに渡した発信機なんだが、ありゃ一週間しか
 バッテリー持たないようにしてあるからな。 探偵ごっこはここまでにしておけよ? 
 後、ユキナちゃんが暴走しないようにしっかり見張っておいてくれな? ルリルリ。 じゃあな』


最後に言い残した言葉に、ユキナはきょとんとした表情をしてみせる。 対して、ルリはウリバタケに軽く会釈をした。

どうやら、周りの人間はミナトがいない場合は、ルリがユキナの保護者と言う認識しているようだ。


「どう言う事よ! 私を見張るって〜〜。 まるで、私がルリよりも子供みたいじゃない! 」

「ま、私よりは精神的に子供とは思いますけどね」


ユキナの絶叫がミナトの家に響く中、ルリは聞こえないように呟いた。





「どうですか? 貴方の目から見ても、この男性はテンカワさんに見えますか? 」


プロスと一人の女性の目の前で、大きなモニターに黒ずくめの男性が映し出されていた。


「そうね。 誰が見てもアキト君としか言えないわね。 でも、本当にこの映像は前の襲撃事件の時のものなの? 」

「はい、私共も何かの見間違いか・・・この男性がテンカワさんにそっくりなだけなのか、テンカワさん自身なのか
 イネスさんのご意見をお聞きしたいと思いまして」


イネスとプロスペクタ―の二人きりの中、イネスは会話をしながらもその視線はモニターに映し出された

映像から外そうとしなかった。


「そうね・・・もう少し全身UPした映像が欲しかったわね。 それだったら、アキト君と体型を比べてみて
 違いが分かるけど、この映像だと何とも言えないわ」

「そうですか。 やはり、テンカワさんと考えた方が宜しいですかね? 」

「まあ、この映像を見てアキト君じゃ無いと言う方が無理があるわね。 何にしても、本人に聞いた方が良いと思うけど? 」


イネスのもっともな答えに、プロスは苦笑するしかなかった。 彼も、その事は最初に考えた事ではあるが

彼が犯人でなくても、完全否定するだろう。 ましてや、事件の犯人があっさりと自供するはずは無い。



「それにしても、遺跡を捨てたと思ったら今度は、ボソンジャンプを研究している企業へのテロねぇ・・・
 辞めた方が良いんじゃないの? 」

「それは・・・私にはどうにもできませんよ。 人類にとっても、それはイネスさんもご存知でしょう? 」

「それは、わかっているんだけどね。 ボソンジャンプは人の手に余る物だって、最近は良く思うのよ」


そして二人は、アキトと思われる人物の話からボソンジャンプへの話へと話題を変え、半日近く話こんでしまったのだが

そのお陰で、プロスは次の日寝こんでしまったのだがイネスの方は、スッキリしたような顔つきだったと言う。







「おい、さっきプロスさんが運ばれたらしいぞ」

「やっぱり? なんせ、あのイネス博士と夜遅くまで話しこんでいたらしいからなぁ・・・そりゃ、運ばれるよ」

「まったく、油断のし過ぎだよ。 あの説明おばはんと話しこむなんて・・・・」


プロスが運ばれた後、研究所の職員がそれとなく運ばれた原因を話し合っていたのだが、イネスと一緒だった

と言う事を聞くと全ての職員が納得していた。

何故なら、既にイネスの説明の長さはネルガルの中でも知れ渡っていたからだ。



「しかし・・・やっぱ、ここもテロのターゲットに入っているんだろうなぁ。 お前はどう思う? 」

「大丈夫だろ? ここは、主にボソンジャンプが人体に与える影響を研究する施設だから、厳密には違うだろ?
 今までおきたテロは、ボソンジャンプを研究している施設を狙っているようだしな」

「だと、良いけど・・・」


二人の職員は、最近話題のテロの話しをしながら昼食を食べ終わり、席を立とうとしたその時、

研究所内に大きな爆音が響き渡った。



「お、おい! これって、まさか!? 」

「こんなタイミングで爆発って事は、テロって考えるのが普通だろ! 早く、非難するんだ」


食器をテーブルに置いたまま、二人の職員は出口に向かって走り出す。 だが、通路には爆発の影響の為か

煙の充満し、他の職員達で進む事もままならない。



「くそっ! おいどうする? 」

「仕方ない、遠いが反対の所にある非常口から出よう 」


そう言うやいな、反対の方向へと駆け出す職員。 その後を追って、もう片方のメガネをかけた職員も後に続く。




「イネス博士、こんな所で何やっているんです? 」

「あ、貴方達こんな所で何やっているの? 早く逃げなさい! 」

「そう言うイネス博士も、何もっているんですか? データディスクを持っていけばいいのに・・・・」



二人が、丁度イネスの研究室に指しかかった所に、大量の書類を抱えたイネスと鉢合わせしてしまった。

今のご時世、データはディスクに収めているはずである。 ましてや、最近のテロ事件の影響でデータは常に

ネルガル本社に送っているのだから、気にする必要は無い筈だ。


「何言ってるのよ。 これは、プロスさんとの会話のレポートなのよ! 今後の説明の為にも必要なのよ! 」

「さいですか・・・できれば、焼却して欲しいんですけど。 永遠に・・・」

「んな事言ってないで、早く逃げましょうよ〜〜」


メガネの職員の泣きそうな言葉に、イネスと職員は彼を残して非常口の方へと走り出していた。



「しかし、これほどの被害を受けるなんて、警備の奴らは何やっていたんだ? 」

「そうですよ。 警備を厳重にしていた筈なのに、なんでこうなってしまったんですか? 」


二人の職員は、走りながら書類を抱えたイネスの方に問いかける。


「そんな事言われても、私に分かるわけないじゃない。 でも・・・爆発音は一回しか聞こえなかったのに
 ここまでの被害って事は、内部に詳しい人間の仕業と言う可能性はあるわね」


イネスの何となく呟いた言葉に、二人の職員は先程の爆発から次の爆発がおきていない事気付く。 既に、研究所内は

大きな混乱でそんな事を気にする暇は無かったのだが、イネスはその事に気付いていた事に改めて彼女の凄さに

感心した二人だった。 しかし、同時に彼らの中で「何とかと天才は紙一重」と言う言葉も思い浮かんだのだが

口に出さなかったのは、正解と言えるだろう。



「しかし、内通者がいるとは思えませんけどねぇ・・・」

「まあ、俺達にはどうにもできないから警察に任せるのが一番だな」

「そう言う事。 さ、出口はもうすぐよ」


手ぶらの職員二人よりも、前を走るイネスが走るスピードを緩めた二人に声をかける。

歩を早める職員。 しかし、メガネの職員は扉が開いている部屋の前で立ち止まってしまった。 


「おい、何やっているんだ? 早く来い! 」


だが、メガネの職員は彼の声に答えずに部屋の方へ顔を向けたままだ。


「おい、あんたそこで何しているんだ? 早く逃げないとここも危険だぞ! 」


部屋の中に誰かいるのだろうか、メガネの職員は部屋に向かって叫んでいる。 その様子にイネス達も部屋の方へ戻って見る。


「アキト・・・・君? 」


部屋の中心に立っている人物を見た瞬間、イネスが絞り出すような声をだす。 イネスにアキトと呼ばれた黒ずくめの

男は、ゆっくりと3人の方を振り向くとその腕には、少女が抱きかかえられていた。



「ん? 誰だ? その子。 おい、知ってるか? 」

「いや、初めて見るけど・・・博士は知っていますか? 」


二人は、大きなサングラスなような物で顔を隠している黒ずくめの男性も気になっていたが、何よりもその腕の中で

眠っている少女が気になっていた。 その少女は、マシンチャイルド特有の髪の色と肌をしていたからだが

長年ネルガルに勤めている二人でさえも、その少女を見るのは初めてだったからだ。

そして、二人の答えが聞こえないのか、イネスはアキトをの方を睨みつけている。



「そういえば・・・今日だったわね。 その子がここに来るのは・・・アキト君! その子をどうするつもり!? 」

「・・・・・ジャンプ・・・・」


だが、アキトはイネスの言葉に答える事無く、光に包まれ消えていった。


「うぇ!? 単体でのボソンジャンプ!? 」

「初めて見た・・・・」


二人は、はじめて目の当たりにする単体でのボソンジャンプにあっけに取られていたが、イネスは悔しそうに

アキトが立っていた所を見つめていた。


「アキト君・・・・どう言うつもりなの・・・こんな事をして」









「さてと、今日はユキナもいないし、何を作ろうかしら? 」


家の掃除も終わり、買い物に出かけようとするミナトが、玄関を空けた時、玄関前に植えてある小さな木の方から

アキトが現れた。



「アキト君!? ここには、来たら不味いでしょ? 今日はユキナはいないから良かったけど・・・あら、そのこは?
 ルリルリにそっくりだけど、妹? なんで、アキト君が連れているの? 」


ここには姿を表さない約束をしていたはずのアキトが、突然訪問してきた事にも驚いたミナトだが、何よりもアキトの腕の中で

気持ち良さそうに寝息を立てている、ルリに似た雰囲気を持つ少女に目が止まった。


「ああ・・・この子は、ラピス・ラズリと言ってネルガルのマシンチャイルドだよ。 ルリちゃんと違って
 いや、ルリちゃん以上の能力を持ったオペレーターを作るために、研究の道具にされていたんだけど、火星の後継者に 
 この頃、誘拐されていたらしいからね。 ついでと言っては変だけど、連れてきたんだ」


「そっか。 アキト君の世界では、酷い目にあっていたのね。 でも、ここに連れてきたって事は、私に任せるって事でしょ?
 ネルガルに私とアキト君の事がばれたりしないの? 」


寝息を立てているラピスと呼ばれた少女の頬を、突つきながらアキトに尋ねるミナト。 心配そうに、アキトに尋ねているが

嫌そうな顔はしていない。


「大丈夫だろ。 道で倒れていたとか適当な事を言っておけば良いし、もしアカツキ達が連れ戻そうとしたら
 逆に誘拐するのか?とか言っておけば良いだろう」


「なるほどねぇ。 アカツキ君達ネルガルが、ラピスちゃんを連れ戻すって事は、保護と言うよりも実験の為だもんね。
 まったく、会社ってのはどうして利益だけを追求するのかしら? 以前、勤めていた会社もそうだったし 
 もう少し、人を人として扱って欲しいものよね」

「資本主義ってのは、そんなもんだろ? 人間を部品の一部分としか見ていないさ」


ミナトの言葉に、醒めきったような口調でアキトは受け答える。 ミナト自身、未来からやってきたアキトが

今とは違いすぎる事は分かりきっていたのだが、それでもこの醒めた感じで話すアキトを見ると

少し悲しくなるのも事実であった。


「分かってはいるんだけどね。 その考えになじめない人もいるのよ。 今のアキト君みたいにね。
 だけど・・・アキト君って良く考えているわねぇ。 今のアキト君からは、やっぱり想像できないわ」


感心したように話すミナトに対して、誉めているのか貶しているのか分からないミナトの言葉に、苦笑するしかないアキトであった。


「好きで、こうなったわけじゃないけどね。 じゃあ、後の事は頼む」

言葉短めに、ミナトに言うと未だ寝ているラピスをミナトの腕に預けると、光に包まれ消えていった。


「アキト君・・・・やっぱり無理してる・・・・」


ほんのわずかな再開であったが、ミナトにはアキトが無理しているのは明らかだった。 実際、バイザーから若干みえる肌の色は

決して良くないものだった。 しかし、彼女にはどうする事も出来ない事も明らかである。 

何もできない自分に、苛立ちを覚えるミナトだったが彼女にはこうして、アキトの話し相手になるしかできなかった。



「未来の私達は、アキト君を救えなかったのかしら・・・・」








「ねね、ユリカさんには、あの事話した? 」

「話した方が良いとは思いますけど、ウリバタケさんの言う通り
 私達が口出しするような事でもないですし」


ユリカの実家のルリの部屋にて、ユキナはアキトとミナトの浮気現場の事を話し合う為に、ユリカの家に泊まりに来ていた。

もっとも、ルリの方はウリバタケに釘を指されて以来、この件に深くか変わるつもりは無いようで、興味なさそうに返答している。


「でもさ〜、こう言う問題って早めに分かった方がユリカさんの心の傷も浅いと思うよ? 
 考えても見てよ。 後々にでも知ったら、『アキトを殺して、私も死ぬ〜〜』 何て言いかねないわよ? 」

「あの人の事ですから・・・・それはないとは、言い切れませんね」


ユキナの言葉に、ルリの脳裏には、泣きながら包丁をアキトに向かって付きつけるユリカの姿が浮かんだ。


「そうでしょ? きっとユリカさの事だから、自分の手料理で一緒に服毒自殺を図るんだわ! 」

「それも無いと言いきれないのが、ユリカさんですけど・・・・」


「ルリちゃ〜ん、ユキナちゃ〜ん。 夕ご飯の準備ができたから、一緒に食べようよ〜」


丁度その時、部屋の外から二人を呼ぶユリカの声が響いた。 

しかし、二人はユリカの料理の話しに話題が指しかかっていた時だった為、ユリカの手料理がテーブルいっぱいに

並べられている様を想像してしまった。


「んじゃ、私は今日はこれで。 ミナトさんが夕飯作って待っているだろうから」


顔を、引きつらせながら部屋を後にしようとするユキナの腕、を鷹が獲物を捕まるの如く、静かにだが確実に

素早いスピードでルリは捕まえた。 そのルリの表情は、いつもの無表情とも言えるようではあったが

その瞳には、何か強い意思が込められているようにも、ユキナには見えた。


「死ぬ時は、一人でも多く・・・」

「ルリ、それは洒落になってないって・・・・」


ルリの一言に、泣きべそになってしまうユキナであった。

その後、二人はユリカの待つ食卓へ向かってゆく。 ルリは、常に常備しているのか胃薬を片手に歩き、ユキナはその胃薬を

食事を食べる前に飲もうと頼み込むが、ルリがその場凌ぎにしかならないと言うと、顔の正面で十字を切る仕草をした。


「お兄ちゃん、もうすぐでお兄ちゃんのところに行くからね」

「遺言、書いておきます? 」


現実逃避をするユキナに、これも常備していたのかレターセットを手渡すルリ。 

その二人の行動は、今から死刑が執行される罪人のようでもあった。





「あれ? 」

「これ、ユリカさんが作ったんですか? 」


死を意識して、食卓にやってきた二人の目の前には、ユリカが作ったとは思えない程、食欲をそそりそうな料理が並べられていた。


「本当は、私が作りたかったんだけどね。 お父様が出張シェフを頼んだの。 今日は、ユキナちゃんが来てるから
 ちゃんともてなしたいとか言ってね。 だから、私の料理はまた今度ね」

「さあさあ、準備はもうできてますよ。 二人とも、座ってください」


ユリカの横では、出張シェフが二人を待ちかねていたように、グラスにジュースを注いでいる。

この後、ルリとユキナはミスマル・コウイチロウに、神に感謝するように御礼を言ったのは決して言い過ぎでは

無いだろう。


こうして、コウイチロウの賢明な判断によって、今日のミスマル家の食卓には、悲鳴の変わりに笑い声が鳴り響く事となった。



「おいしい・・・」


ルリは、味をかみ締めるようにゆっくりと食べている。 まるで、いつもの食事は美味しくなかったのか、その瞳に

うっすらと涙が見えている。


「本当だよねぇ。 やっぱり、プロの作る料理は違うね。 私も、もっと料理頑張らなくちゃね」

「ありがとうございます。 そう言って頂けると、私も嬉しいですよ。 そちらのお嬢さんは、お代わりしますか? 」


ユリカの誉め言葉に、上機嫌になったシェフが夢中で食事を食べているユキナに声をかける。 


「はい、このスープお代わりお願いします。 ミナトさんの料理も美味しいけど、材料の質が違うもんね。
 いいなぁ、何時もこんな料理食べれて。 やっぱ、お金持ちだと良いよねぇ。 まったく、アキトもなんでミナトさんと
 付き合ったりしてるんだか。 ユリカさんの料理を我慢しておけば良いだけなのに・・・・」


「・・・・馬鹿・・・・」


「へ? アキトがミナトさんと? ねえねえ、それってどう言う事? ユキナちゃん」


アキトと言う単語に反応したユリカが、ユキナの方に詰め寄る。 その様子を見て、ルリはばつの悪そうに顔をしかめながら

ユキナを睨みつけている。 


「え〜〜と・・・・」


話の内容が良く分からないシェフは、聞かない方が良いと判断し厨房の方へ、スープのお代わりを取りに消えてゆく。

この時の彼の行動は、間違っていなかった。

何故なら、シェフが戻ってきた時、食卓では泣き叫ぶユリカと、それを何とか慰めるようと勤めるルリ。

ひっくり返った料理の前で、おろおろしているユキナの姿と先程までの楽しい雰囲気など微塵も残っていなかったからだ。


「アキトの・・・アキトの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!! 」


ユリカの叫び声は、ユキナの絵に描いたようなミスによって、深夜まで続く事となってしまった。





ミスマル家の大騒動を横に、外は静かに時が流れていた。 そろそろ、深夜を回ろうとしているこの時間

都会の片隅とは言え、妙に静か過ぎる町。 その一角に、この時代には珍しい前時代的なアパートが建っていた。

住人は留守にしているのか、それとも、元々、人が入居していないのか灯りは一つしか灯っていない。

もし、その明かりが灯っている部屋の前を通る人がいれば、窓の向こうから漂ってくる匂いに

腹の虫が鳴るかもしれないだろう。 

その部屋の主、テンカワ・アキトはラーメンのスープを前に、真剣な眼差しで火を調整している。

彼の後ろには、ラーメンのスープを作成する時に使ったのであろう、様々な食材が転がって部屋が散らかっていたが

そんな事はお構い無しに、ずっとスープを見つめていた。


「よし、そろそろ良いかな? 」


アキトはそう言いながら、スープにおそるおそる口をつける。 最初は、確かめるように口に含んで飲みこみ、再度、味を

確かめるようにもう一度口にする。 


「よっしゃ、この味だ! やっぱ、ゴマを入れたのが良かったな。 仕事を休んだ甲斐があった〜〜」


おたまを片手に、嬉しそうに小躍りするアキト。 普通の人から見れば、それほど嬉しいものかと思うかもしれないが

自分の手で、思い描いていた物が作れたのならば、ラーメンのスープで無くとも誰もが嬉しい筈だろう。

今のアキトは、まさに自分の手で自分の思い描いたラーメンのスープが作れた事に、喜びを隠せないでいた。



「っと・・・誰かに味見をしてもらわないと、安心できないな。 やっぱ、ルリちゃんにお願いしようかなぁ?
 でも、ユリカもいるしなぁ。 あいつは、何時も美味い美味いばかり言うから参考にならないけど、ま、いっか。
 コウイチロウおじさんもいるかもしれないし、明日行ってみるか」



そのミスマル家では、彼の事で問題が起きているのだが、今の彼には知る由も無かった。

そんな事がおきているとは知らずに、散らかっていた台所を掃除しながら、自分のラーメンを食べて喜んでいるユリカ達の姿を

するアキト。 その顔には、自然と笑みがこぼれていた。


今、この時代のテンカワ・アキトは、自分の夢に向かって着実に進んでいる。

この日、アキトの部屋の明かりは早朝まで灯っていた。 

この時、アキトの部屋の前まで一人の男が来ていたのだが、アキトはスープの作成に夢中で気付く由も無かった。

もっとも、その人物も呼び鈴を鳴らさなかったのだから、アキトが気付く筈も無かっただろう。





「どうだった? テンカワ君の様子は? 」

「はい、スープ作りをしていたようです。 やはり、私にはまだ信じられませんね。 テンカワがテロの犯人だと言うのは」

「ま、彼を知っている人間ならしょうがないだろうけどね。 でも、客観的に見たら彼が犯人なのは間違い無いからねぇ。
 しばらくは、彼を泳がせておくからね。 こっちの被害は少なくないけど、テンカワ君が一人であんな事をやったとは
 思えないから、彼を支援している組織を付きとめるまで、しばらく様子見だから頼むよ? ゴート君」


「わかりました」


ゴートは、車の後の座席でふんぞり返っているアカツキの言葉に、軽く返事を返した。


「んじゃ、そろそろ彼のところに行こうか? 」

「しかし・・・彼が我々に協力するとは思えませんが? 我々は敵でもあるのですから」

「大丈夫じゃない? 今の彼には、味方でもある木蓮さえも信じられないようだしね。 ま、そこら辺は
 僕とプロス君に任せてよ」


今のこの状況を楽しんでいるとも言えるアカツキに、少し苛立ちを覚えたゴートだったが彼は何か企んでいる時も

こんな様子だった為、あまり気にしないように自分に与えられた仕事をするだけだと、思う事にした。

これからの事を話ながら、二人を乗せた車は都会の闇へと消えていった。

そして、その二人の車と入れ違いに、一人の人物がその場所にやってきた。

この場所は、どうやらアキトのいる部屋が良く見える場所の様で、後からきた人物もアキトの部屋を見つめていた。



「これでいい・・・この頃から、ネルガルの厳しい監視がつけば、俺も早々身動きはとれん筈だな」
 

未来から来たアキトは、自分にとっては懐かしいアパートをしばし眺めると、その場を後にした。




同じ未来は、決して繰り返させない・・・





第3話




ども、KANKOでございます。 何と言いますか、最近忙しいです。

あまりの忙しさに、白鳥とインド人の少女が見えそうです(笑) 

さて、この話は・・・まあ、10話も掛からないでしょうな。 じっくり書いたとしても。

結末は、もう決まっておりますが何時になるかは、分かりませんが(苦笑)

では、ここまで読んで頂きありがとうございました。

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