第2話
機動戦艦ナデシコ
変わりゆく過去
第2話
「じゃあ、後はお願いね」
「はーい、いってらっしゃい。 ミナトさん」
火星での遺跡争奪戦の後、白鳥ユキナはミナトに引き取られ、共に生活をしていた。
元々、ミナトに一番になついていたユキナではあるが、共にミナトと生活してる姿は姉妹のようにも見えるほど
仲が良かった。 もっとも、ユキナはそう言われて悪い気はしないのだが、姉妹といわれると
つい、自分の体型をミナトと見比べてしまうのだった。
だが、自分よりも体型が劣っている人物が、いるお陰で何時までも気にする事は無かったのが。
「やっぱり、怪しい・・」
ミナトが出かけていった後、ユキナは玄関先で先程とは違う厳しい目つきで、玄関先を見つめていた。
「こんにちわ」
その時、玄関に入ってきた人物の視線と、ユキナの鋭い視線が重なった。
しかし、その人物はユキナの視線に臆するどころか、逆にこんな所で何をやっているんだとでも
言いたそうな顔で、ユキナを見つめていた。
「何してるんです? ユキナさん」
「あ〜、え〜と・・・・・そうそう! ちょっと聞いてよ! ルリ! 」
「あの・・・聞きますから、そんなに揺すらないで下さい」
ルリに、今ある不満をぶつけるように体を揺するユキナ。 そのお陰で、ルリは目を廻しつつあるようだ。
「ねえ?・・・・知ってる? 」
「何が?・・・」
ユキナの問いに、不機嫌この上ないと言った調子で返事を返すルリ。
「最近、ミナトさんって仕事が休みの時もよく出かけるの これってどういう事かわかる? 」
「わかりません」
ユキナの感情のこもった言葉を、あっさり否定するルリ。その、あまりの対照的な二人の姿は、まるで火と水と言えよう。
「あ〜の〜ね〜〜。あんた本当にわかってないわね? ミナトさんに男が出来たに決まってるでしょうが!」
「それが、どうかしました? 」
ユキナの顔を見れば、怒っているのはわかるがルリには何故起こるか理解できなかった。
ミナトに、男が出来る事はルリにとっては喜ばしい事だからだ。 何せ、ミナトはユキナの兄、白鳥九十九と
恋仲にあったが、木蓮の草壁の策略によって死亡した。
その経緯もあり、ルリはミナトが男性と付き合うのは避けているようにも見えたが
ユキナの話を聞く限り、そうではなかった様で安心したのだが。
「どうかしましたかじゃないわよ! 死んだとは言え、お兄ちゃんと付き合っていたのよ!?
なのに・・・・なのに、私に断りも無く新しい男を見つけるなんて!! 」
居間の中心にあるテーブルを踏み台にしつつ、ユキナは拳を握り締めて熱く語った。
「貴方に、断って付き合わないと駄目ですか? 第一、ミナトさんに養ってもらっているのに・・・・」
「あったり前でしょうが!? 今付き合っている人が、お兄ちゃんより情けなかったら申し訳ないじゃない!
例え、養ってもらっているとは言えど、これだけは譲れないわ! 」
「・・・・白鳥さんよりもカッコ良くても、良いんですか? 」
ルリの指摘に、一瞬固まってしまうユキナ。
「それは嫌だけど・・・・せめて、お兄ちゃんと同じぐらいなら良し! 」
「はあ・・・・・」
「と言う訳で、早速行くわよ」
「はい?」
「つべこべ言わずに、ついてきなさい! 」
「・・・・・・・」
ユキナの強引とも言える行動に、ルリは黙って腕を引っ張られて行くのだった。
「アキト君」
「・・・・・ああ、ミナトさんか・・・・・」
住宅街の隅にある小さな公園で、一人佇むアキトの傍にミナトが近づいてきた。
アキトは、ミナトの問いかけに視線だけをミナトの方に向けた。 もっとも、大きなバイザーが顔の半分を覆っている為
その視線は確認できないが。
「座って良い?」
「別に、断る理由はないよ・・・・」
アキトのそっけない返事に気にする事無く、ミナトは隣に座る。
だが、その後はミナトは何も喋る事無く、只黙って空を見上げていた。 アキトもそんなミナトに気を使うわけでもなく
黙りつづけていた。
そして、20分ほど経った時だろうか? ようやくミナトの口が開かれた。
「順調なの? 昨日の新聞にも載っていたけど」
「ああ・・・・・まさか、犯人が一人とは思わんだろうからな・・・」
「そうね…これだけ大きな騒ぎを一人の手によって起こすなんて、まずは考え付かないものね」
そう言うと、ミナトは最近起こった企業へのテロ事件を思い出した。
クリムゾンに所属する企業や、研究室、はては、ネルガルにまでテロが及んでいた。
ミナトが、未来から来たアキト…・目の前にいるアキトと別れを告げてから数日後に起きた事を考えると
ミナトは犯人がアキトだと言う事を察した。
これまでにも、何回かアキトと再会はしたのだが、その事はあまり聞かずに只黙って傍いてやるだけだった。
「でも、本当に大丈夫? 疲れているんじゃないの? 」
「これぐらい、何でもないさ……あの時と比べれば」
『あの時と』 その言葉を聞いたミナトは顔をしかめた。 アキトが、未来で何をされたか、そして何をやってきたか
詳しく説明を受けなかったミナトであるが、あの優しいアキトがテロをやってしまうと言う事は
自分の想像を超えた事が、アキトの身に起こった事は想像できる。
「そう・・・・でも、良かった。 何だかんだ言って、約束は守ってくれてるね」
「まあ…ね。 あの格好じゃ、不味いだろうからね」
軽く笑みを見せるミナトに、アキトにしては珍しく、少し恥かしく返答した。
今のアキトの服装は、大きめのバイザーを付けている以外は昔の服装だった。 ミナトと二回目の再会をした時
ミナトが準備していた服を身につけている。
「今は、何処に住んでいるの? 」
「ああ・・・・港の方に今は使われていない倉庫が・・・・・・」
こうして、ミナトはアキトと世間話をするように会話を続けた。 せめて、自分と話している時ぐらいは
昔のアキトに戻ってくれる事を願いながら。
「ルリ、絶対にミナトさんに気付かれたら駄目だからね?」
「はあ・・・・分かりましたけど、その発信機、何時の間にミナトさんに付けたんです?」
ユキナが先程から、小さなモニターを見つめながら歩いているのだがその機械が、発信機である事はすぐに察しが付いたが
どうやって、あの感の鋭いミナトに発信機をつけたか、どうにも分からなかった。
「ふふふふふ・・・・・こんな事をあろうかと、以前、ミナトさんにプレゼントしたイヤリングは発信機だったのだ! 」
「・・・・・・・・・・何処で、作ってもらったかは聞きませんけど…」
ルリは、ユキナが自分が知っている、メガネをかけた人物に作ってもらった事を察すると、諦めたように一度ため息をして
意気揚揚と、歩くユキナの後に続いた。
「この公園か・・・・確かにここなら、人気が少ないから、逢引には絶好の場所よね」
「逢引してるわけじゃないんじゃぁ・・・・」
「何言ってるのよ! 私に何も言わないのが逢引の証拠でしょうが!! 」
ルリの問いに、興奮したように反論するユキナ。 そのユキナにこれ以上、何も言わないようにしようとするルリであった。
「あ・・・・いた! 私に隠しているぐらいなんだから、もしカッコ悪かったら許さないからね! ミナトさん! 」
「・・・・・・・・・・・・馬鹿・・・・・」
そう、ユキナに軽蔑とも言える視線と言葉を投げかけたルリだが、ミナトの横に座っている人物を確認すると
驚きで体が石のように固まってしまった。 その隣で、ユキナも同じように固まっていたが・・・・
「ねぇ・・・・・あれって、アキトだよね? 」
「ええ・・・・・あの変なサングラスで変装しているつもりなんでしょうが…あれは、間違いなくアキトさんです…」
驚きながらも、二人の視線の先はミナトとアキトの二人に釘付けになっていた。
「・・・・・・じゃあ、俺はもう行くよ」
「ん…気をつけてね」
そう言うと、ミナトはアキトに口付けをかわした。
「ぬおぉぉぉ・・・・・キスしたぁ・・・・・」
「・・・・・嘘・・・・アキトさんとミナトさんが・・・・」
二人は、ミナトの行動に只、見つめる事しか出来なかった。
「・・・・ミナトさん・・」
「別に良いでしょ? 今のアキト君はフリーだし。 それに・・・今のアキト君って、こう言ったら失礼だけど
この頃のアキト君より男っぽいから・・・・」
「じゃあ・・・・俺は行くから」
「また、ここでね? 」
「ああ・・・・・」
そう答えると、アキトは足早に公園から走り去った。 ミナトの行動にジャンプするのを忘れたのか
顔を真っ赤にしていたアキトだった。
「どうしよう・・・・・・ルリ? 」
「えと・・・・・とりあえず、ユリカさんにはこの事を伝えた方が・・・・」
「な、何言ってるのよ!? そんな事したら、どうなるか分かってるの? 」
「でも、こう言う問題は、後に長引けば長引くほど、大変になると思うんですけど・・・・」
ルリの指摘に、ユキナはしばし考え込む。
「そうした方がいいかな・・・・? ユリカさんの事を考えると、怖いけど…」
「説明お願いしますね。 私はごめんです」
「いや、説明ならあのおばはんにお願いした方が・・・・」
二人の脳裏に、説明好きな女性の姿が目に浮かぶが、それでも修羅場は避けられないと思うと、深くため息をついた。
「とりあえず帰ろうか・・? 」
「そうですね。 帰ってから対策を考えましょう」
二人の意見が一致すると、公園に残ったミナトに気付かれないように後にした二人だった。
そして、アキトとのやり取りをユキナとルリに見られた事に気付かないミナトは、何事もなかったように、その場を後にした。
その頃、ネルガルでは会長室でアカツキとプロスが神妙な面持ちで、話し合っていた。
「プロス君、これ、合成じゃないだろうね? 」
「この写真は、一昨日襲撃された研究所の監視カメラの記録の一部ですが、他のカメラのデータは、破壊されていました。
ですが、このカメラのデータを破壊する前に、我々のシークレットサービスが到着した時に逃走をしたようなので
恐らくは・・・・合成ではないと思われますが・・・・」
「ふ〜〜ん。 でも、もし彼が犯人だと仮定すると、狙いはボソンジャンプの研究の妨害だね? 」
「はい、十分な動機は考えられますが、どうにも・・・・私にはこの写真が信じられないんです」
プロスは、写真を見比べながらそう呟く。
「それは、僕だって同じだよ。 彼がテロまがいな事をするような人間じゃないのは、ナデシコに乗っていた
僕らが十分理解してるさ・・・・」
アカツキは、プロスから受け取った写真に写る黒ずくめの人物の姿を見ながら、何とも言えない不快感に襲われていた。
アカツキたちが知っている、あの人物ならば絶対にこんな事はするはずがない。
だが、警備が厳重な研究所に容易に進入して、撤退できるのはジャンプが出来る彼しかいない。
そして、その証拠として彼が写っていた…
「とりあえず、テンカワ君のへの監視は強化するようにゴート君には伝えておいてくれる? 」
「はい、既に手は打っております。 後、クリムゾンへの監視も強化しておきます」
「何か、問題があるの? 」
プロスから、突然クリムゾンと言う単語が出た事に、アカツキは怪訝な顔をして見せる。
「ええ、クリムゾンはどこかの組織とボソンジャンプの研究をしているようです。 以前、襲撃されたクリムゾンの研究所に
テツジンなどの部品が確認出来たと、クリムゾンに潜入していた社員からの報告がありましたので・・・」
「・・・・・ふぅ・・・・分かった、その事は君に任せるよ。 やれやれ、思ったよりも大変な事になったねぇ・・・
せっかく、遺跡を宇宙に放り出したのに・・・・」
「全くですなぁ…これなら、ボソンジャンプに手を出さないほうが良かった気がしますな」
プロスの本心とも言えなくもない返事に、アカツキは苦笑しながら写真に写った人物をもう一度確かめるように見つめる。
全身を黒い服装で、身にまとったテンカワ・アキトの姿を・・・・
第2話・完
ども、このお話はちょっと趣向を凝らして、違う角度から話を進めていきたいと考えております。
う〜〜〜〜〜時間が足りません(苦笑)
では、ここまで読んで頂きありがとうございました
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