第2章
機動戦艦ナデシコ
一人時の中
第二章
ここは、佐世保にあるネルガルの研究所。現在、この研究所では新造戦艦の出航の準備に追われていた。
その研究所の入り口では一人の男性が立っていた。
「そろそろだと思いますが…遅いですねぇ〜」
誰に呟くでもなく一人呟く男性。 彼の名はプロスペクタ―。
今回出航する新造戦艦に、乗り込むクルーのスカウトをしている人物である。
待ちくたびれた様にそこに立ち尽くすプロス。
そこに、自転車に大きな荷物を載せた青年が息を切らしながらやってきた。
「おや? やっとで来ましたね」
青年の姿を捉えたプロスは、安心した様にため息をついた。
「す、すいません、プロスさん…荷物が思って・・いたより、残っていたもんで・・・・」
プロスが自転車に乗っている荷物に目をやると、確かに多すぎるというか自転車に乗せる量ではないのは一目瞭然だった。
「確かに、多いですなぁ〜 では荷物は、船の方に入れてください。
ホウメイさんも待ちくたびれていますよ、テンカワさん」
テンカワと呼ばれた青年は、荷物を抱えながらプロスに従って船に向かって行く。
その心の中では、少しぐらい荷物を持ってくれても良いのに…などと思っていたりしたが。
「テンカワさん、これが貴方が乗りこむ新造戦艦ナデシコです。」
プロスは、胸を張り答える。
テンカワはその新造戦艦、ナデシコを見つめていた。
「なんか、戦艦って感じがしないですね…」
テンカワは、その戦艦に似合わない外見に正直な感想を漏らす。
「まあ…外見はともかく、性能は現在、地球上にある戦艦の中でも
ダントツですから。 では、中に入りましょうか」
バツが悪そうに答えながら、ナデシコに向かうプロスに続いてテンカワも無言で後に続く。
「ロボット?…何でここに? 」
テンカワが、ナデシコの中に入って最初に目に入ったのは
鋼鉄の巨人であった。 その下では、整備員たちが忙しそうに走り回っていた。
「この人型機動兵器は、エステバリスと申します。このナデシコと同様
我が社の自慢の兵器です」
再度、胸を張り答えるプロスであったがテンカワの感想が気になるのか、横目でチラチラとテンカワを覗き見ていた。
しかし、テンカワは感想を述べる事無く、只じっとエステバリスを見つめていた。
「あの〜テンカワさん? 」
じっと動かないテンカワに話し掛けるプロス。
そこに、メガネをかけた整備員がプロスに話し掛けてきた。
「おう! プロスさん、そいつが噂のテンカワか? なるほどな…確かにクロキにそっくりだな」
「クロキ? 」
その整備員の言葉に、エステバリスに見とれていたテンカワはやっとで反応した。
「これはこれは、ウリバタケさん。 確かにこちらがテンカワさんです。
いや〜やっぱりウリバタケさんもそう思いますか? 私なんか、てっきりご兄弟かと思いましたよ」
二人は、テンカワの顔を見ながら盛り上がっていた。
その二人に、何故自分が話のネタになっているのか分らないテンカワは目を瞬きするだけだ。
「あの〜話が見えないんですけど…誰っすか? そのクロキとか言う人は? 」
「何だ、まだこいつは知らないのか? 」
「そう言えばそうでしたな。 ウリバタケさん、クロキさんは今何処にいらっしゃいますか? 」
ウリバタケと呼ばれた男性は、近くにいた他の整備員に何やら聞き出すと
テンカワの顔を再度確認すると、にやついた顔を浮かべながら格納庫の奥にある黒いエステバリスを指差した。
「まあ、合ってみればわかるって」
そう言うと、ウリバタケはテンカワをエステバリスの方へと向かうように後ろからテンカワの背中を押し進めた。
そんなウリバタケの強引な行動に、抗議をあげようと思ったテンカワであったが
クロキと言う人物の事が気になり、黙ってエステバリスに足を向けていった。
似てるって言うけど、そんなに俺に似ているのか?
黒いエステバリスの前にたどり着いたテンカワとウリバタケとプロス。
その機体は、まだ整備中なのか所々外装が取り外され、コクピットも開いたままだ。
ちょうどその時、コクピットの中から降りてくる人影があった。
テンカワは、クロキと呼ばれた男かと一瞬思ったがコクピットから降りてくる人影を見て
その思いは落胆に変わって行く。
黒いエステバリスから降りてきた人影は、テンカワと似つかないと言うかまったく似ていなかったのだ。
降りてきた人物は少女だったのだから。
その姿は、普通の人間の容姿と違って髪の毛は銀色とも言えるような色でその瞳は金色に染まっており
肌の色は白く透き通るような色をしていた。
普通の容姿とはかけ離れた少女に、テンカワは不気味と言うよりも綺麗と言う感想を真っ先に感じたが
お目当ての人物ではないと分かると、ウリバタケに問い掛けた。
「あの、ウリバタケさんでしたっけ? 何処にいるんすか? その…クロキと言う人は?」
「おかしいなぁ〜なあ、ルリちゃん、クロキは何処にいったんだ? 」
「アキトさんですか? ついさっき何処かに行きましたが? 」
銀色の髪の少女、ルリの口からアキトと言う単語が出てきてテンカワは驚きの表情をルリに向けた。
いや、驚きの表情と言うよりも何か納得した表情を浮かべていた。
「もしかして、名前が似ていると言う意味ですか? 」
「いえ、名前だけでなくお姿もそっくりなんですよ。ねえ? ウリバタケさん」
「ああ、くそう! 見せてやりたいぜー!! 」
格納庫の天井に向かって吼えるウリバタケに、テンカワとプロスは半ばあきれた顔を見せるしかなかった。
もっとも、ルリはその三人のやり取りに興味がないのか、何も言わずに立ち去ろうとした。
「あっ、ルリさんこちらのクロキさんにそっくりな方は、テンカワ・アキトさん。
ナデシコでコックをやっていただきます」
「よっ、宜しくね? ホシノさん…でいいかな?」
「別にルリでかまいませんよ、テンカワさん。 では、私は失礼します」
ルリはそう言うと、その場を去っていった。
残された三人は、しばらくテンカワとクロキと呼ばれる人物の事で話を続けていた。
その頃、クロキと呼ばれた人物は自室で仮眠を取っていた。
クロキ・アキト…その名はこの世界にジャンプしてきたテンカワ・アキトの偽名である。
彼自身、火星へ直接ボソンジャンプをして遺跡を確保すれば良かったのだが、今の彼の体では
それは無理に等しかった。
アキトは火星の後継者に人体実験をされて以来、長距離のジャンプは体に大きな負担をかけてしまう。
その為、ボソンジャンプが出来る戦艦や機体が無いと長距離のジャンプは出来ない。
この事を踏まえ、アキトはネルガルに接触しパイロットになった。
本来は、この世界のネルガルにはなるべく近寄りたくなかったアキトではあったが今現在
ボソンジャンプに耐えれる戦艦…ディストーションフィールドを展開できる戦艦を建造できるのは
ネルガルしか存在しなかった。
「もう少しで出航の時間か…もし、あの時と同じならもうすぐでここも攻撃されるはずだが、
さて、どうなるかな?」
ベットに体を預け、天井を見つめながら物思いにふけるアキト。
彼はナデシコに乗り込んで以来、この世界の事を…この船に乗船している人間の事について考えていた。
この世界には、確かにアキトが知っている人間は存在したが自分が知っている世界とは少し状況が違う事に
一抹の不安を覚えていた。
「アキトさん、ちょっと良いですか? 」
ドアの向こうから、この世界に来てもっとも聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ああ、どうぞ」
ドアの向こう側からは、この世界のホシノ・ルリが現れた。
アキトのボソンジャンプの瞬間を目撃されて以来、ルリはアキトに興味を持ち暇を見つけては
ボソンジャンプの事を聞き出そうとしていた。
最初の頃は、アキトは何も答えずにだんまりを決め込んでいたがルリの執拗な追求に根を上げ
ボソンジャンプの変わりに、アキトの持っている知識…すなわちこの頃には知り得ない
知識などを少しずつではあるが、ルリに教えていた。
「今日は、何を教えてくれるんですか? 」
「ルリちゃん、最近毎日だね? 」
「ナデシコが出航してしまったら、聞く暇が無いと思いますから」
ルリとしては、別にアキトに好意を持っているわけではないがアキトが教えてくれる知識は
ネルガルのコンピューターにハッキングしても、扱っていない知識ばかりだった為
毎日のようにアキトの部屋を訪れるようになっていた。
自分が知っているルリとは違い、少し積極的なルリの行動に半ば諦めかけているアキトは
すぐ傍のテーブルの上に置いてあった小さなディスクをルリに手渡す。
「中身は何ですか? 」
「俺達がバッタって呼んでいる兵器に関するデータが入っているよ。
まあ、俺も細かい所までは知らないけどルリちゃんなら、このデータからいろんな事が分かる筈だよ」
アキトの言葉に、ルリはボソンジャンプに関するデータではなかった事にがっかりしたが
顔には出さずに無表情のまま手渡されたディスクを見つめていた。
その時、ルリのコミュニケからプロスの通信が入ってきた。
『ルリさん、そろそろ出航の準備をお願いします』
「わかりました、アキトさんまた後で」
そう言い残すと、ルリはプロスにすぐに戻ることを告げると部屋から足早に出ていく。
ルリは、アキトから手渡されたディスクを大切そうに抱きしめるようにしているのがアキトからは見て取れた。
ルリの女の子らしいしぐさを見れた事に、アキトは小さな驚きを覚えた。
自分が知っているルリは、会った当時でもそんな仕草はしなかったからだが
不意にある人物のことを思い出すと、なんとも言えない複雑なな気持ちになっていった。
「そういえば、この世界のユリカにはまだ会っていなかったな。 やっぱり違うんだろうな…」
そう言うと、アキトはおもむろに壁に掛けてあった黒いマントとスーツに着替え始めた。
「テンカワ、調味料はどうしたんだい? 」
「あれ? 確かに持ってきたんすけど・・・・あ、ないや」」
現在テンカワは、食堂にてホウメイと共に食材のチェックをしていた。
テンカワは持ってきた荷物を確認すると、調味料を入れていた箱が無い事を確認した。
先程のウリバタケとのやり取りで、クロキと言う人物の事に気を取られてしまって
調味料を入れていた小さな袋を忘れてしまったようだ。
「テンカワ〜〜まさか忘れたんじゃないだろうねぇ?」
「いえ、格納庫に忘れてきたんだと思うんでちょっと見てきます」
テンカワは、そう言うと急ぎ足で食堂を出ていった。
その走り去るテンカワをホウメイは、何か嬉しそうに見つめる。
以前の初めて会った時のテンカワとはずいぶん変わった事に、徐々にではあるが
彼の心の傷が癒えている事をホウメイは、ここ最近実感していた。
「コックか…この仕事でも人を立ち直らせるきっかけになるもんだねぇ…」
「ウリバタケさん! 」
「ん〜〜? 何だテンカワか、どうした?」
「あの・・調味料が…入った小さな…箱を見ませんでしたか?」
肩で息を切らしながら、ウリバタケに話し掛けるテンカワ。
恐らく食堂から、この格納庫まで全力で走ってきたのだろう額には、うっすらと汗がにじんでいた。
ウリバタケは、その姿に苦笑しつつも近くにあった小さな箱をテンカワの手元に向かって無造作に放り投げた。
宙を舞う小さな箱…その箱をテンカワは受け止めようと必死な形相で袋に飛びつく。
あわや、地面に激突する寸前で何とかキャッチできたテンカワはほっとため息をついたと同時に
ウリバタケを睨みつけた。
「危ないじゃないですか!! これは大事なものなんすよぉ! 」
「そんな大事なもん、ここに忘れるおまえが悪いんだろうが」
「んな事言ったって、ウリバタケさんのせいじゃないですかぁ! 俺とうりふたつの人間がいるって言うから
そのせいで…」
テンカワとウリバタケの口論が始まろうとした時、格納庫が大きく揺れた。
それと同時に、ナデシコ艦内に非常警報が鳴り響くと同時にメグミ・レイナードの声が艦内放送で流れた。
『木星蜥蜴が現在、ドックへの攻撃を仕掛けています! クルーの皆さんは直ちに持ち場に戻ってください! 』
「やべぇ!! おい! クロキとヤマダのエステをすぐに出撃できるようにしろ!!
死にたくなかったら、さっさと取りかかれぇ!! 」
放送を聞き終わると同時に、ウリバタケは周りにいた整備員スパナ片手に罵声を浴びせた。
整備員たちは、そんなウリバタケに文句一つ言わずに素早く行動に移した。
「木星蜥蜴が…来たのか・・・・? 」
テンカワは慌しくなった格納庫の中でしばらく立ちすくんでいたが、その表情は徐々に怒りで染まってゆく。
その手は、きつく握られ今にも出血してしまうのではないかと思えるほど赤くなり、口はきつ過ぎるとも言える程
歯軋りをしていた。
「あいつらが…あいつらのせいで!! 」
普段のテンカワからは、想像できない程の声をあげエステバリスに走り向かっていく。
「テンカワ? 」
突然のテンカワの行動に、ウリバタケや整備員たちは一瞬テンカワが何をしようとしたのか理解できなかったが
エステバリスのコクピットに乗り込むテンカワの姿を見て、その表情は驚きで固まってしまった。
「お、おい!! おめー何をするつもりだ!! 降りてこい!! 」
ウリバタケが声を張り上げながら、エステバリスのコクピットに向かって行くが直前でハッチは閉じてしまう。
テンカワが乗り込んだ黒いエステバリスは、そのまま地上に向かう運搬用のエレベーターに向かっていく。
「やばい、やばいぞ!! テンカワもIFSは持ってるかもしれんがよりによってクロキのエステに
乗り込むなんて!! 」
ウリバタケだけではなく、その場にいた整備員たちも今目の前でおきている事に顔は真っ青に染まりつつあった。
だが、ウリバタケは素早く自分のコミュニケをクロキとヤマダにつなぐ。
「…分かった、俺のエステでテンカワは出撃したんだな? 確か予備のエステがあったな? 俺はそれに乗るから準備を頼む。
ヤマダの方は、先に出撃させてもかまわん」
『って言ってもよ〜〜あのエステはまだバランサーの調整とかは終わっていないぞ? 』
「動けば良い」
一言そう言い残すと、アキトはウリバタケのとの回線を切り足早に格納庫に向かっていった。
アキトの脳裏には、初めてナデシコに乗った時の事を思い出された。
「あのエステには、乗るつもりはなかったが…仕方ない」
『いよぉ〜し!! ついに俺様のゲキガンガーの出番だぁ!!』
「死んでも良いけど、エステは壊すなよぉ〜〜」
『任せておけ!! このダイゴウジ・ガイ様がいればどんな奴もいちころよぉ!! 』
「何がダイゴウジ・ガイだ・・・・・ヤマダのくせに・・」
エステのコクピットの中で、大きく雄たけびのような声を挙げるのはヤマダ・ジロウ。
ウリバタケがこのナデシコの中で、違う意味で恐れている男である。
以前も調整中のエステを勝手に動かして壊してしまった前科がある為、皮肉交じりに言い放ったのだが
ヤマダの耳には届いていないようだ。
「あ〜〜もういいや…後、クロキのエステには違う奴が乗っているからそいつの護衛も頼む」
『ふはははははは!! 大船に乗ったつもりで任せろ! ダイゴウジ・ガイ行くぞ!! 』
半ば諦めかけたウリバタケの言葉にもヤマダは気にする事無く、テンカワが使ったエレベーターに向かう。
ヤマダのエステが、エレベーターに乗り込んだ次の瞬間
大きな音ともに、瓦礫の山がヤマダのエステバリスにめがけて落下した。
『何!?〜〜〜俺様の活躍がぁ〜〜! 』
「……何でこいつは、戦う前に壊すんだよ・・・・」
瓦礫に埋もれたエステから、無事らしく大きな声で文句を言うヤマダに対して
ウリバタケは力なく呟く事しか出来なかった。
『ウリバタケ、ヤマダの事は任せたぞ』
突如、ウリバタケの後ろからクロキの声が響いた。
ウリバタケが振り向くと、そこには濃いピンク色で塗装されたエステバリスが動き出そうとしている。
「すまねぇクロキ、もうおめーしかいねぇんだ。 あの馬鹿はやっぱり役立たずだし…
テンカワの事を頼んだぞ!テンカワの野郎、一度ぶん殴ってやらねぇと俺の腹の虫が収まらなねぇからな!! 」
『ああ、分かった』
そう言い残すと、アキトは瓦礫に埋まったヤマダのエステを飛び越えて崩れてしまったエレベーター内部
をローラーダッシュを器用に使いながら掛け上がって行った。
ここからがすべての始まりだったな…だが、二度と同じ事は繰り返させない。
すべての元凶を…元を断つために俺はここにいるのだから…
アキトの新たな戦いが、この世界で始まった。
第二章 完
どうも、KANKOです。
第二章がやっとで完成しました。
今まで書いてきた中で完成するまで一番遅くなったりもしました(苦笑)
この話はすでに、私の中では完結しているものなのですがそこまで行くのに、すごく長くなります。
今年中には、終われそうもないです(笑)
本格的にこのお話に取りかかるのは、まだ先になりそうですが必ず完結させますので宜しくお願いします。
では、ここまで呼んでくださって有難う御座いました。
次話へ続く
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