第1章

機動戦艦ナデシコ


劇場版


一人時の中で


第一章






「これで…いいんだ、ユリカ、ルリちゃん…皆、ありがとう…」
炎に包まれるブラックサレナ。

「アキトさん!! 早くジャンプをしてください!! 」
いつもの冷静なルリからは、想像できない程の取り乱し様だ。

「アキト! 駄目!! 死んじゃいやぁぁぁぁ!! 」
ユリカも只、叫ぶばかりだった。

そして、ブラックサレナは跡形もなく吹き飛んでゆく。

『これでいい・・んだ・・これで…誰も殺さない…です・・む』
炎の中で意識が闇に包まれ、遠のいていくアキト…












体に感じる暖かい風を感じ、アキトの意識は次第に覚醒する。
「…ぅ・・ここは? 」
そこは、あたり一面森に囲まれた場所だった。
「…まさか、俺は・・ジャンプ…したのか?」
アキトは見覚えがあった。ここは、ネルガルの研究所の裏にある森林公園だった。

「何故?・・俺はイメージしなかったのに! 」
「何故だ!? 何故死ねない!? 」
歯を食いしばり、悔しそうに地面に拳を叩きつけるアキト。


「あの〜ちょっとすいません」
不意に、アキトの後ろから声を掛けてくる人物がいた。

「誰だ!! 」
振り向きざまに銃を声のした方へ向けるアキト。
しかし、アキトは銃を声をかけた人物に向ける事はなかった。



「な?…ルリ・・ちゃん? 」

アキトに声をかけた人物、それはホシノ・ルリだった。
しかし、その姿はアキトの知っている16歳のルリではなく
11歳頃のルリの姿があった。

「?・・そうですけど、貴方誰ですか?」

『どういう事だ? 昔のルリちゃんが何故ここに? ここはネルガルじゃないのか?」
アキトはルリの声を聞く事無く、今自分に起きている事に考えていた。
『まさか、過去にきてしまったのか?・・だが何故、ルリちゃんが?』

「あの、聞いていますか?」
冷たい眼差しをアキトに向けながら、再びアキトに声を掛ける。
「えっ?ああ、ごめんルリちゃん、何?」
「…貴方の名前聞いてるんですけど…」

「俺の名前? そうか、知っている訳無いか…
 俺は、テンカワ、テンカワ・アキト」
名前を聞くとルリは納得したかのように、アキトに声を掛ける。

「テンカワ?・・そうでしたか、そんな大きなサングラスをつけていたから
 分りませんでした。 すいません、テンカワさん。
 初めまして、ナデシコのメインオペレーターのホシノ・ルリです」

ルリの意外な答えに、アキトは驚きを覚えた。
「えっ?、ルリちゃん俺の事知っているの?」
「はい、確かホウメイさんとナデシコに乗ることになったコックさんですよね?」

『俺がホウメイさんと乗り込む?…コックとして一緒に? どういう事だ?
 ここは俺が知っている過去じゃないのか?』


再び黙り込んでしまうアキトに、ルリは少し大きな声で話し掛ける。
「どうしたんですか? 私、変な事聞きました?」
「いや、そんなことないよ。
 只俺は、ルリちゃんの知っているテンカワ・アキトじゃなくてね」

「はあ・・同姓同名ですか?顔もそっくりですから、てっきりコックの
 テンカワさんだと思いましたけど」
ルリは、アキトを見つめながら、不思議そうに答える。

「そうみたいだね…」
『しかし、同じ世界で同一人物は存在する事は無いんじゃなかったのか?
 確かタイムパラドックスとかいったか?
 この世界のテンカワ・アキトは、俺とは違う人間なのか? 』

「他にも聞きたい事があるんですが、いいですか? アキトさん」

「アキト? 」
不思議そうに聞き返すアキト。
「はい、同じ名前ですのでややこしいから、コックのテンカワ・アキトさんを
 テンカワさん。 で、貴方をアキトさんと呼ばせてもらいますが、良いですか?」

「ああ、そうか、その方がいいかもしれないね。それで、
 俺に聞きたい事って何?」
納得したかのように答えるアキト。

「いきなり何もない空間から現れましたけど、あれってどうやったんですか?」
「…見てたの?…」
「はい、ばっちりと」

『まずい・・まだボソンジャンプは知られたら危険だ。
 ましてや、ここは俺の知っている世界じゃなさそうだしな。
 この世界のテンカワ・アキトが昔の俺と違うという事は
 俺の知っている他の人間も、ここでは違う人間と考えた方がよさそうだし』

横目でルリを見つつ、アキトはルリの答えにどう答えるか思案しつつ
再び黙り込んでしまう。
『それに、この世界のルリちゃんはやけにお喋りだな…
 アカツキに接触するのも考えた方がいいか? 』

「教えてくれませんか?、アキトさん」
先程からから、微動だにせずにアキトを見つめるルリ。

「どうしても答えないといけない? 」
「はい、ぜひ」
全身黒尽くめの怪しい男が、小さな少女に問い詰められる様は
なかなかある光景ではないだろう。
「絶対? 」

「絶対です」
ルリ自身、目の前に立っている人物、テンカワ・アキトに警戒している訳
ではなかったが、散歩の途中で突然何もない空間から現れたアキトに
対する興味の方が上回っていた。。
その為に、先程からルリにしては珍しく興奮していた為、口数が多くなっていた。
が、ルリ自身はその事に気付いていなかった。
もし、ルリを知っている人間がいても、彼女が興奮しているとは流石に思わないだろう。


アキトは、自分の知っているルリとは少し違う雰囲気に押されつつ、このままじゃ絶対に
側から離れないだろうと感じていた。
「・・じゃあ、誰にも絶対に話さないって約束してくるかな?
 約束してくれるなら、話してもいいよ」

どうせならジャンプをしてこの場から逃げ出せばいいのだろうが
自分に起きた今の状況に混乱している為か、アキトの頭の中では
ルリに話すということで、決着したようだ。
ボソンジャンプは、まだ知られたらまずいはずだったが・・・

「大丈夫です。 私、友達なんかいませんから。それに他の人達は
 私を実験素材としか見てません。そんな人達にこんな凄い事を
 教えたくありませんし」

ルリの友達がいないという言葉にアキトは、若干顔をしかめるも、
ルリの扱いがこの世界でも、単なるマシンチャイルド
すなわち道具としてしか見てないと思うと
自分をこんな体にした奴らを思い出し、アキトは身体の中から
どす黒い感情が吹き出すのを抑えきれなかった…

「そうか、もし酷い事をされたら俺に言ってくれ。
 必ず…助けてあげるから…」
そんなアキトの今までとは違う雰囲気を珍しそうに見るルリ。

「別に、酷い事なんかされていませんよ?」
「そう…」 
「あの、話を続けてくれますか?」
「そうだね…まず、俺が突然現れたあの現象はボソンジャンプって言うんだ」

「ボソンジャンプ?聞いた事ないですね。」
「分りやすく言うとね、瞬間移動って言えば良いかな?」

「どうしてアキトさんが、そのボソンジャンプを出来るんですか?」
「それを説明するには、長い説明が必要だけどいいかな?」
「説明ですか?…何故かすごくイヤな感じがするので、
 簡単に出来ませんか?」

ルリの露骨に嫌がる態度を見て、その嫌な感じはいずれ当たると
心の中で思っていたりするアキトであった。
「…まあ、俺も詳しく知らないから上手く説明できないけど、
 いずれルリちゃんも分かることだから」
「そうなんですか?」
「ああ、今起きている戦争にボソンジャンプは使われているからね」
「はあ・・でしたら説明はいいです。でも何でアキトさんが出来るんです?」

「それは、まだ話せないんだ。 俺の身の安全にもかかわるからね」
「そうですか、それじゃ仕方ありませんね。ありがとうございますアキトさん」
「こちらこそ」
ルリの礼儀正しい姿に、つい昔の優しい笑顔になるアキト。
サングラスに隠れてあまり見えないアキトの笑顔であったが、ルリは
何故か顔が真っ赤になってしまった。。

「どうしたの、ルリちゃん? 」
「いえ、何でもありません…」

「ルリさ〜ん、何処ですか〜?」
その時、遠くからルリを呼ぶ声が聞こえてきた。
その声はアキトもよく知っている声だった。

『プロスさんか。 この世界のプロスさんも、俺の知ってる
 プロスさんとは違うだろうな。 そろそろここを出るか』

「人が来た様だし、俺はそろそろ帰るよ」
「そうですか・・あの、また会ってくれますか?アキトさん」
「…良いよ」
アキト自身、もう会う事はないだろうと思っていたが、ナデシコの情報を
この世界のルリなら、教えてくれるかも。 そんな甘い期待をもって
答えてしまった。

「じゃあね、ルリちゃん…ジャンプ…」
「此処にいましたか、ルリさん」
アキトがジャンプしてすぐに、少し心配な顔でその場にプロスが現れた。

「あ、プロスさんどうしました?」
「どうしましたか? じゃありませんよ、ルリさん。時間に厳しい貴方が
 時間を過ぎても帰ってこないと皆さん大騒ぎしてまして、
 それで私が探しに来たんですよ?」

「そうですか、すいませんでした。」
「いえいえ、ご無事で何よりですよ。 でもどうなされたんですか?」
「只、散歩のコースを変えただけです。」
「はあ…」
「ありませんか? たまに番う道を歩いてみたくなる事を」
「そうですね、ハイ、私もありますな。では、そろそろ
 帰りませんか? 皆さんも心配してらっしゃいますし・・」
「はい」

そう言うと、プロスはルリの前を先導する様に歩き出し、ルリは一度アキトが
いた場所を見るとプロスの後ろについて歩き出した。

『不思議ですね…まさか本当にあの人がこの世に存在するなんて。
 正夢というものでしょうか? 』
ルリは心の中で、そっと呟いた。




それからしばらくして、、アキトは図書館に来ていた。 
自分がいた世界と、この世界がどのくらい違うか調べるために。
しかし、あまり大きな違いはない様だった。
「やはり、俺の世界とは違うか。 だがそれほど大きく違うわけでもないか。
 しかしネルガル…この世界ではかなりの大企業になっているな
 この世界のアカツキは、かなりのやり手みたいだな」

アキトは今までに発行された新聞のデータを読みながら、誰に言う事もなく
一人呟いた。

「やはり、アカツキに会うのは止めて正解だったな。接触するのはもう少し
 ネルガルも調べてからの方がいいな」
ちなみに、アキトの今の姿はあの黒いライダースーツのような物ではない。
さすがにあの姿ではまずいと思ったのか、銀行のデータをハッキングして自分の口座を
作り、そのお金で黒いシャツとズボンを購入していた。
だが、全身黒尽くめの格好は変わらない為か、周りの人間はじろじろと見ていた。

「さて、次は見てみるか…この世界のテンカワ・アキトを」





「じゃあ、ホウメイさん出前に行ってきます!」
「遅れるんじゃないよ!テンカワ!」

アキトが、ホウメイの店「日々平穏」の前に差し掛かったとき、
この世界のテンカワ・アキトが勢いよく飛び出してきた。
その姿を見て、素早く電柱に身を隠すアキト。

「…そうか…この世界の俺は、いや…テンカワは自分の夢を
 掴んでいるんだな」
自分にはできなかった、いや続ける事ができなかった
料理人である姿を羨ましそうに観るアキト。

「だが…ナデシコに乗れば・・料理人として・・続ける事は
 ならば、元凶を俺が断ち切ってやろう…」
アキトの顔が一瞬の内に、険しくなっいく。
自分が叶えられなかった夢を叶えた、この世界のテンカワ・アキトを
元凶である木蓮やネルガルから守ってやろうと固く誓った。
しかし、アキトはある事に気づく。

「遺跡…あれを何とかすれば、和平後のあのふざけた事も
 A級ジャンパーがさらわれて、遺跡の実験に使われる事も無いか」
この世界でもジャンプできる事を思い出し、
もっとも大きな原因でもある遺跡の事に気づいた。


「まずは、ナデシコに乗り込むべきか…」
アキトは暗くなった町の中をジャンプする事無く、暗闇の中に消えていった。


第一章完



K「どーも、KANKOです、ついに始まりました長期連載ナデシコSS
  さ〜てどうなるでしょうねぇ?」

ルリ「・・・素人が無謀な事を・・」

k「ぬはぁっ!またきつい事を・・・」

ル「それにしても、アキトさんかわいそう・・やり直す事はできないんですか?」

k「まあね・・・ってルリちゃん泣かないで(汗)
  このお話はアキト×ルリなんだから、ねっ?」

ル「本当ですか?それならいいでけすけど・・・救い様の無い話は止めてくださいね?」

k「それは人それぞれだと思うけど・・・大丈夫」

ル「なにか、しんみりしてますね。此処の後書き」

k「このお話は結構暗くなるかもしれないからねぇ・・・って
  ルリちゃん、今日は壊れていないね?」

ル「私、これが普通ですけど?皆さんが他のルリさんを、見すぎなんですよ」

k「そりゃそーだ」

次話へ続く

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