私達が逆行先の世界に戻る前に、こちら側の世界の私達と会っておきたかったんですが・・・
頑張れ、ユリカさん
第10話その3
元の世界の入れ替わったユリカが入院している病室
元の世界のユリカは、まだ、ベッドから起きあがる事が出来ず、二人だけの病室は重苦しい空気が漂っていた
そして、ようやっとユリカは口を開く
「・・・・・・・・ごめんなさい、私のせいで・・・・」
それ以外にユリカは、何をいって良いのか解らない
「・・・・・・」
元の世界のユリカは、沈黙を続ける
「火星の生き残りの人達を殺したのは私なのに・・・・・・・・・本当は、私が殺されなきゃいけないのに・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
元の世界のユリカは沈黙を続けたまま
ユリカはそれを、『怒り』だと感じた
が、ようやっと口を開いた元の世界のユリカの言葉は
「もし、入れ替わっていなければ、私が殺してたんだ・・・・アキト、アキトで、周りの迷惑も考えずに・・・・・」
元の世界のユリカが感じていたのは、怒りではなく、むしろ、強烈な自己嫌悪
「ねえ、なんでアキトもルリちゃんも、私の事なんて好きになってくれたんだろ?、嫌われて当然なのに・・・・・・」
元の世界のユリカからの問い、以前のユリカならば、『アキトは私の王子様だから』と言えただろう、だが、今の自分から過去の自分がやってきた事を振り返ってみれば・・・
「・・・・・わかんない・・・・・」
ユリカには、もう、何もかもが解らない、だからこそアキトやルリに頼んだのだ、二人きりで話をさせてくれと
今のユリカには、アキトやルリが自分を慰めてくれる優しい言葉が何よりも辛い・・・
「ユリカさん、大丈夫でしょうか?」
「・・・・解らない・・・」
心配そうに尋ねてくるルリに答えるアキト
そして、もう一つ二人を沈ませる事がある
「こちらの世界の私もアキトさんも・・・・私達には会ってくれませんでしたね・・・」
『あなた達に会ってしまうと、何を言ってしまうか解らない』
そう伝えて、会おうとしない元の世界のアキトとルリ
「当然だよな・・・・・・もし、俺達が同じ立場だったとしても・・・・きっと、俺達には会いたくない・・・」
逆行した所で、歴史が変わる訳でもなく、結局は、自分達の自己満足に過ぎない・・・その自己満足の結果は・・・・・
「私達は、結局、何をやってきたんでしょう?」
「・・俺はただ、ルリちゃんやラピスやユリカを守りたかっただけだった・・・逆行した所で平行世界に紛れ込むだけで、結局は歴史を変える事なんて出来ないとしても・・・・・それだけで良いと思ってた・・・・・」
「・・・・・」
黙ることしか出来ないルリ、それは自分も同じなのだ
「結局、俺達がやってきた事なんて、『逃げ』でしかなかったんだ・・・・」
拳を握り締め、辛く悔しそうに呟くアキト
「でもアキトさん、あちら側の世界にあそこまで干渉してしまった以上、途中で放り出すのは逃げを積み重ねる事になります・・・・」
「解ってるよルリちゃん、でも・・・立ち直れるのか、ユリカは?」
そして、元の世界の入れ替わった方のアキトとルリ
「ルリちゃん、本当に会わなくて良かったの?」
「・・・・・・」
こちら側のアキトとルリも悩んでいた
「会って・・・、何を言うんですか?」
「それは・・・」
こちら側の世界の3人にも、『向こう側の3人と共通する記憶』がある、故にほとんど同じ考えをする存在となっている、ただ、今居る環境が違うだけ
「ユリカさんは受け入れています、自分が刺された事を・・でも、だからってあの人たちにとって、それがなんの慰めになるんです?」
「・・・・・余計に苦しめるだけかもしれない・・・・」
アキトも、『自分の事』を考えれば解る
「いっそ、罵った方がかえって楽になれるのかもしれない、でも・・・出来るんですか?、アキトさんやユリカさんに?」
「それは・・・」
確かにアキトは自分に出来るとも思えない
「私だったら出来ます・・・・・でも、本当にそれで良いんですか?、私だってどうしたら良いのかなんて解らないんです・・・・・それに・・・」
しばらくの沈黙の後、ルリは意を決して話だす
「それに・・私は正直な事を言えば、美咲さんが憎い・・・・」
「ルリ・・ちゃん・・・」
驚いてしまうアキト
「確かに美咲さんの気持ちも解ります、でも・・・ユリカさんは私の家族なんです・・・」
「その家族を私は・・・もしかしたら、また、失っていたかもしれないんです・・・向こうの私と共通する私の記憶、その記憶が、あのシャトル事故で私の初めての家族を失った時の事を思い出させるんです・・・」
ルリは何時の間にか泣いていた
「解っています、そんな事は美咲さんから見れば身勝手な考えだって事は、でも・・・それだけじゃない、それだけの問題じゃないんです・・・」
「ユリカさんがしてしまった事を考えれば、また美咲さんみたいな人が現れてもおかしくないんじゃないんですか?
その時はアキトさんはどうするんです?
美咲さんのような人から、ユリカさんを守れるんですか?」「それ・・は・・・」
確かに、その可能性は無いとは言えない、そして、そんな相手からユリカを守れるか?と問われれば・・・
「ユリカさんだけの話じゃない、アキトさんはどうなんです? コロニー襲撃の時の、火星の後継者とは無関係な死傷者の人達・・・そんな人達の遺族がアキトさんに恨みを向けた時は?
アキトさんは、そんな人達を自分の身を守る為に殺せるんですか?」「くっ・・」
歯噛みするアキト
ルリは静かに自分の決意を告げる
「・・・私なら殺せます、アキトさんやユリカさんを殺そうとする人達なら・・・たとえそのためにお二人に嫌われる事になったとしても」
「でも、それは、私達のリンクが特殊な物だから、アキトさんやユリカさんの死が自分の死を意味するからじゃない、二人が私にとって大切な人だから・・・・・」
そして、珍しく、激昂し始めるルリ
「出来るんです、私なら、そんな私が、あの人達に会って何を話せば良いんです?!!、何が言えるって言うんですかっ!!」
「それに、本当は火星の生き残り圧殺も、コロニー襲撃もやったのはあの人達、私達には『あの人達と共通する記憶』があるだけ・・・それなのに、恨まれるのは私達・・・」
「それでも恨んじゃいけないんですか?、あの人達を!!、美咲さんを!!、会って・・何を・・何を言えって言うんですっ!!」
アキトには、何も答える事は出来なかった・・・
それぞれが、それぞれの悩みを抱えて答えを出せない中、アキト達が帰る時間が迫って来る
「で、どうするの、貴方達は?」
質問をしてくる逆行前の世界のイネス
「帰るしかないんですか?、」
ユリカが聞き返してくる
「帰るしかないわよ、貴方たちの役割が終わるまでは」
「・・そう・・なんですね・・・・だったら・・伝えておいてください、私達は必ず帰ってくるって・・・」
「結局、こちら側の世界のアキトさんも私も会ってくれませんでしたね・・・・」
「仕方ないよルリちゃん、俺達がして来た事を考えれば・・・」
3人とも、沈んだ表情をしている
「イネスさん、美咲さんの事、こっちの私達の事お願いします」
「解ってるわよ、でも、そろそろタイムリミットね」
結局、ユリカ以外は、入れ替わった自分達と会うことも出来ずに また、逆行先の世界へと戻る事となる
問題を何一つ解決出来ないままで・・・
次の話へ進む
今回の後書きでは、色々と書きたい事が有ったんだが、下手すると本文よりも長い後書きになりそうなんだよなあ(苦笑)
という訳で、今回の後書きはここでお仕舞いです、リクエストがあれば、また、別のコメントとして、そのうち纏めてみようかとも思ってますが
そうそう、私って逆行物の連載書いてるくせに、逆行には否定的なんですよ、『逆行では、実際には何一つ解決しない』って考えなんで
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