・・・美咲さんのお話です・・・
頑張れ、ユリカさん
第10話その2 山本美咲
その日、私は祈るような気持ちでナデシコを見送っていた・・・・
正人さんは火星できっと生きている、そう思わなければ狂いそうだった、その不安を全てナデシコのロールアウトの為にぶつけてきたのだ私は
ナデシコが火星へと出航したその日、軍の邪魔を物ともせずに大気圏を突破していったナデシコをみて、私は少しは安心する事が出来たのだ、これならばもしかしたら・・・と
本当は、私自身もナデシコに乗って火星に行きたかったぐらいだ、でも、まだ次がある
ナデシコ級戦艦の2番艦3番艦、もし、ナデシコが失敗しても次がある、それに、頑張って戦局が逆転して火星を取り戻す事が出来ればもしかして・・・だから、はやる気持ちを抑えて地球に留まり、ナデシコ級戦艦の為に頑張ったのだ・・・・少しでも正人さんを助けられる可能性を高める為に・・・・私に出来る最良の手段の為に
徹夜続きで倒れた事も何度かあった・・それでも私は・・・
『イネス博士の生存』それが解ったとき、私には一筋の光明が見えた気がした、誰か、一人でも生きていた人が居るということは、正人さんだって何処かで生きているかもしれないという事ではないか
私は、すぐにでもイネス博士の話を聞きたかった、もしかしたら、正人さんの事が少しでも解るかもしれないのだ
でも・・・ナデシコに乗っているイネス博士と話す機会も中々なく・・・ナデシコが・・・・・そして、ミスマルユリカが火星でやった事を知りもせずに私は・・・・
木連との和平で、堂々と火星へと行く事が出来るようになった時、私の願いは木っ端微塵に打ち砕かれる
ユートピアコロニーの地下で発見された、正人さんの死体・・・・・
結局、火星の生き残りはイネス・フレサンジュ博士ただ一人・・・それほど、火星の惨状は酷いものだった
私は憎んだ、木連を
100年前の恨み?、だが、それが正人さんとなんの関係がある
私はやりきれない怒りをおぼえた
なんで、なんの罪も無い火星の人達を、・・正人さんを殺したあいつ等なんかと和平なんて
何故、あいつ等は自分達のやった事の罰すら受けずに正義面が出来る?
でも、どれほど激しい憎悪であろうと、ネルガルの1研究者に過ぎない私が出来る事など何もありはしない
『ミスマルユリカ』は私にとって英雄だった
彼女は、ナデシコの艦長として無茶な火星行きを引きうけてくれた、そして、ナデシコは和平のきっかけとなった
木連との和平となれば、安全に火星に行ける、火星のことを調べる事が出来る、もしかしたら、正人さんだって何処かで生きていてくれるかもしれないのだ、そして、ナデシコは和平のきっかけを作ってくれたのだ
私は今までの苦労が、少しは報われた気になり、ナデシコにそしてその艦長であるミスマルユリカに感謝すらしていた・・・・・・でも、火星の調査の結果は・・・・
私にだって本当は解っていた、それが限りなく0に近い可能性だという事は、でも、その可能性は0に近くても0じゃない
・・・・・正人さんの遺体がユートピアコロニーの地下で発見された時、私は何処かほっとしていた・・・
限りなく0に近い可能性・・・・・それに縋りつく事がどれほど辛かった事か・・
今にして思えば、私は諦めたかったのかもしれない・・・・だからこそ、あんなに無茶をしたのかもしれない
でも、木連への憎悪・・正人さんを殺した奴らへの憎しみまで消える訳じゃない・・・
その後、自分の心の中のやりきれなさを消そうと、今まで以上に研究に没頭する事になる、研究に気を取られている間は、余計な事を考えずにすむ
私は、ミスマルユリカの事を知りたくなった
正人さんを永遠に失った今、私の心を癒してくれる存在となっていたのだ、『英雄ミスマルユリカ』は・・・・・・・口惜しい、あの女が火星で何をやったのかも知りもせず
火星の後継者に誘拐され、その後助け出されこそしたが、もう、彼女に普通の生活は出来なかった
火星の後継者の身勝手な正義なんかの為に、夫のテンカワアキトも、義妹のホシノルリも表向きは死んだ人間とならなければならなくなった
それを気の毒に思った私は随分と親切に接した・・・
そして、ある日、つい尋ねてしまったのだ、火星での彼女の事を
だが、その事を聞くと口篭もり、はっきりと話そうとしない
『?』
何か、腑に落ちない
ナデシコ一隻で、火星まで行き生きて帰ってた彼女なら、別に恥じるような事は無いのはずなのに?
『一寸した、悪戯心』
私がミスマルユリカの事を調べようと思ったのは、最初はそれに過ぎない・・・私はそれほどあの女の事を信じていた・・・
だが
メグミ・レイナード、ハルカ・ミナト、アオイジュン、そしてホシノ・ルリ
ブリッジのクルー達に火星での事を尋ねると、みな、口を閉ざし話そうとしない
疑問はますます膨れ上がっていく・・・私はどうしても知りたくなった、火星で何があったのかを
ネルガルで秘密に進められている、ある研究があった
研究の始まりは、Yユニットのサルタヒコが敵に乗っとられた時の事件の報告書
IFSを付けた人間達が、その時どうなったか?
これは、IFSを悪用すれば、『人間をハッキングし操る事』すら出来ると言うことではないか?
『操る』までは出来なくても、『他人の記憶を覗き見する』事ぐらいなら出来るという事ではないのか?
『他人の記憶を覗き見する』
ぴったりの人物が居た
ホシノルリ
オペレーターであったホシノルリなら、艦長であったミスマルユリカの事を良く知っているだろうしIFSを持っている
すまないとは思いながらも、彼女を騙し、その記憶を覗き、そして、その記憶を見た時、私は・・・・
通信士の仕事を放り出しアキトを追いかけていくメグミ・・・
「なによ・・・これは・・・・・」
自分の仕事を放り出し、二人を追いかけようとするユリカ・・・
『あんたの方がマシかもね』呆れているルリ
「なんなのよ、これは・・・・・・・」
そして・・・・・押しつぶされるユートピアコロニー
「なんなのよ、これは〜〜っ!!!!」
正人さんを殺したのはミスマルユリカ、自分の仕事を放り出した馬鹿女どもの男の取り合いのとばっちりで、あの人は殺された・・・
その後の事は良く覚えていない、気がついてみれば私を包丁を握り締め目の前には血塗れのミスマルユリカが倒れていた・・・・
「これが、美咲さんの記憶・・・」
睡眠薬で眠らされている美咲の前で、俯いてしまうユリカ
「ごめんね・・・・・・美咲さん、ごめんね・・・・」
俯いたユリカの瞳から、涙がぽたぽたと落ちる
イネスから頼まれた仕事は、『美咲の記憶の消去』、これは貴方たちこそがやるべきだと
その為に、一時的にこちらの世界に戻ってきた、アキト、ルリ、ユリカ
ラピスだけは向こうの世界においてきてある、その未成熟な心では、美咲を『敵』と認識しかねないからだ
自分がしてしまった事がどれほどの事なのかを付きつけられ、打ちのめされてしまったユリカ
慰めの言葉も見つからない、アキトとルリ
「間違ってるよね・・・・・・こんな事・・・・・」
ユリカの言葉に誰も言葉を発しない
「解ってる、間違っててもこれしかないって・・・・本当ならユリカが殺されなくちゃいけないんだ・・・・」
「でも、それじゃあ美咲さんがネルガルに消されます」
「・・・」
ネルガルとて、危ない橋は出来る限り渡りたくは無い
美咲をそのままにしておけば、ユリカへの恨みからネルガルの不利益になるどんな事をするものか解ったものではない
実際に、美咲を闇から闇へと葬る案がでているのだ、ネルガルの内部では
「俺がやろうか?」
「私がやっても良いですけど」
ユリカを心配するアキトとルリ
美咲の記憶の消去の為には、後はスイッチを押すだけで良い
美咲が『他人の記憶を覗き見する』為に使った研究を、今度は『美咲の記憶を消す』為に使う、皮肉といえば皮肉な話
「私がやる・・・・・私がやらなくちゃならない・・・」
ユリカはぶるぶると震える指を伸ばし、そして・・・・
後書き
『酷い話』だよね、『美咲の記憶を自分たちの都合の為に消す』って言うんだから
一応言っておくけど、記憶を消された美咲はこの後、なんだかんだと幸せになれます
でも、『良いのかそれで?』って釈然としない物を感じる人も多いでしょうね
書いてる私だって、釈然としません
でも、私の頭じゃ他に『美咲を救う方法』なんて思い浮かばなかったです
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