元の歴史とは少しずつ変わっていくこの世界

でも、変わらないものもある・・・・・・・


頑張れ、ユリカさん

第10話その1 復讐の資格


木連との戦いは、膠着状態にある

地球側の兵器が、木連の兵器に対抗出来るようになっている事で、木連側に今まで程大胆な行動が出来なくなってきた事が大きい

そんな中

「ユリカさんが刺された!!」

そんな事件が起こる・・・・・

こちら側のユリカではなく、元の世界にいる入れ替わった方のユリカが

「誰がユリカさんをそんな目に・・・・・・・・」

怒りに溢れた表情をするルリ

向こう側の世界のイネスが久しぶりに現れ・・・・ユリカ達の姿が無い事を問えば、ユリカは刺されて療養中との話

幸いにも急所が外れていた事と治療が早かった事により、命に別状は無かったそうだが

・・・・・それは、身体よりも心により大きな傷をつける事件だった

「聞きたいの?、誰がユリカさんをこんな目に遭わせたのか?」

辛そうに向こう側のイネス

「当たり前です、なんでユリカがそんな目に!!」

激昂するアキト

「辛い話になるわよ、貴方達にとって、それでも良い?」

「辛い話?」

怪訝そうな顔の、こちら側の世界のアキト、ユリカ、ルリ

ユリカさんを刺したのは、山本美咲・・・・・ネルガルの研究者の一人

「向こう側の世界で、ユリカさんが押しつぶしたユートピアコロニー、そこに居たオリンポス山の研究所にいた人の関係者よ・・・・・・・・・・」






重苦しい沈黙が流れる・・・

そんな中で、向こうの世界のイネスだけが、一人話を続ける

「山本美咲には、結婚を誓った恋人がいたの・・・・・・オリンポス山の研究所に・・・・・彼が火星への出張から帰ってきしだい結婚する予定だった」

「兵藤正人・・・・・それが恋人の名前・・・私と一緒に研究をしていた・・ユリカさんに押しつぶされるまでは、間違い無く生きていたのよ・・・・・・」

ぶるぶると震え始めるユリカ

「イネスさん、もうそれ以上は・・・」

ユリカに気を使い、話を止めようとするルリ

だが

「続けてください、その話はユリカが一番聞いておかなければいけない話です」

消え入るような声でユリカ

「話を続けるわよ・・・」

「山本美咲は、木星トカゲに壊滅させられた火星にいる恋人の身を案じていた、だから、必死に頑張った・・・・・・ナデシコが完成すれば火星に行ける、それだけに一縷の望みを賭けて、たとえどんなに僅かな可能性だとしても・・・」

「結局、火星の生存者は私一人だった・・・・・・公式発表ではそういう事になっている」

「でも、オモイカネのメンテナンスをしていて・・知ってしまったらしいの、オモイカネに残されたデータで火星でのミスマルユリカのやった事を・・・・・」

「・・・・・・」

「『自分の仕事放り出した無責任な馬鹿女どもの男の取り合いのとばっちりで、なんで正人さんが殺されないとならない、何でこの女がのうのうと生きて幸せそうな顔が出来る!!』山本美咲は半狂乱で絶叫していた・・・・そして、ユリカさんを刺した・・・・・」

「・・・・・・・・・殺されても文句言えない事したんですね・・・・私は・・」

辛そうなユリカと

「俺だって悪かったんだ、ユートピアコロニーに行きたいなんて我侭言わなければ」

ユリカを慰めようとするアキト、だが

「山本美咲はそうは思ってくれなかったわね、彼女の恨みはミスマルユリカとメグミレイナードの二人に向いてるもの」

「アキト・・・・あれはユリカが悪いの、全部・・だから恨まれるべきなのは私一人なの・・・・」

今のユリカには、自分のミスのせいでアキトやメグミまで恨まれる方が辛いのだろう

「でも、・・・・・・・どうして・・・・どうして私じゃないんですか・・・・・・殺されるべきなのは私なのに・・・・・・」

「向こうは、中身が入れ替わってるなんて知らないもの・・・・・・ただ、自分の恋人を殺した憎い相手が目の前に居た・・・・それだけよ」

再び重苦しい沈黙

決意して話し出すユリカ

「帰ります・・・・元の世界に・・・・・ユリカが間違ってたんです、過去に戻って逃げようなんて・・・・ユリカの罪はユリカが背負わなければならないのに・・」

だが

「駄目よ」

即座に元の世界のイネスに否定されてしまう

「どうしてなんですかっ、私のせいで罪も無い向こうの世界の私が酷い目に遭ったんですっ、こんな事耐えられないっ!!」

絶叫するユリカ

「貴方達には、こっち側の世界でやってもらわなければならない事が残っているもの、それとも」

「また放り出すの?、自分達のやるべき事を?」

「くっ・・・」

言葉に詰まってしまうユリカ

「以前にも言ったはず、『遺跡の修復』が出来るのは私達だけだって、貴方がどんなに帰りたいと思っても、それを認める訳にはいかない」

強い口調で、ユリカをたしなめるイネス

「罪を償う事も出来ないんですね・・・・・・私は・・・・」

「罪の償いか・・・・・でもね、貴方はまだマシな方・・・・・自殺でもして逃げる事も出来る、でも、向こう側のユリカさんにはそれも出来ない」

「言ったでしょ、向こうのリンクはかなり特殊なもので、3人の内もし誰か一人でも命を落とせば、3人とも命を落とす事になるって、自殺すら出来ないのよ、私の世界の今のミスマルユリカは」

「・・最低ですね・・・・・私は・・・・・自分が何をしてきたかも気づかず・・・・こっちの世界で能天気に喜んでた・・・」

自分した事の、罪の重みに押し潰されそうな思いのユリカ

「そっちの世界のユリカさんは、どうなんですか?」

心配そうにたずねてみるルリ

「元気と言えば元気、たとえ空元気でも」

『空元気』という言葉に、向こう側のユリカの心の傷の深さを感じさせる






「また火星を見てるの?正人さん」

「ああ、この間まであそこで、木星トカゲの襲撃に怯える日を送っていたんだと思って」

この世界では、ナデシコの働きにより、生き残れた兵藤正人

「ナデシコには、本当に救われたよ」

「私だって頑張ったんだから、正人さんはきっと生きてる、ナデシコさえ完成すればきっと正人さんを助けられる、だから自分の出来る事を精一杯やろうって」

「ありがとう、美咲・・・・」

正人は美咲を優しく抱き寄せる

確かに、この世界では兵藤正人は救われた・・・

だが、元の世界の兵藤正人は二度と戻っては来ない・・・・・






「罪の償いか・・・・自分の罪を自分で背負いたいのなら、この世界でやるべき事が終わった後でなら帰る事も出来るけど、どうする?」

と促す向こうの世界のイネス

「アキト、ルリちゃん・・・私・・・」

ユリカのその目は、『帰りたい』と告げていた

自分の罪の重さは自分で背負いたいと

そしてアキトもまた・・・

ユリカを助け出す為に、どれだけの人の命を奪ってきたか・・・

「帰るべきだよな、俺達は」

「解っていたはずです、逆行なんて結局は日本で犯罪を犯した犯罪者が、国外でやり直すようなものだって、でも、国外で何をした所で日本の国内でしてしまった罪が消える訳じゃない・・ただその現実を突き付けられただけ」

ルリの言葉に、こくりとうなずくアキトとユリカ

「でも、忘れないでください、私達にはこの世界でやらなければならない事がまだ残ってるって事を、ここで放り出してしまえば」

「解ってるルリちゃん・・・・・ユリカはもうこれ以上最低になりたくない・・」

そして、向こうの世界のイネスが話し出す

「話はまとまったようね、では、本題に入るわよ、貴方達にやってもらいたい事があるの」





次回に続きます

10話その2に進む

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後書き

今回の内容は、この話に入れるべきか入れないべきか迷ったんですけどね

あえて、入れることにしました、ユリカ派の人達がもしこの話を読んでいれば、辛い内容かもしれませんが

前から思ってる事があって、それは、

『ユリカを本当に拒絶させてるのは、むしろユリカ×アキトのSSかもしれない』

って事です

この話の、山本美咲のユリカへの怒りって不当な逆恨みに思えます?

時々、『なんでユリカがあんなに嫌われるのか解らない』って人がいますけど、私にはその方が解らない

ユリカって、火星の生き残りの人達の関係者の視点でみれば、殺してやりたくなるような事してますよ

ユリカのミスは、『自分の仕事をまっとうしようとして、それでもおこってしまったミス』じゃない、『仕事を放り出して』してしまったミスなんです

『自分の仕事放り出して、男追いかけて火星の生き残りの人達を押し潰した虐殺女がなんで罪の償いもしないで、のうのうと幸せになってやがる(怒)』

アンチユリカの人達は、たんなる好き嫌いだけの問題じゃなくて、『犯罪者を野放しにしてるような嫌さ』をユリカ×アキトに感じてるんじゃって思う時があります

これって、むしろユリカ派の人達こそが目を逸らさずに真っ向から扱うべき題材だと思うんですよね

ユリカが本当にヒロインだと思うのなら、真っ向から乗り越えさせるべきで、目を逸らすべきじゃない

折角の良い話だって、むしろ、良い話であればあるほどこれに目を逸らしたユリカ×アキトなら、かえって白けてしまう事や怒りや反感を増す内容になってしまう事だってあるんだから

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