ネルガルの会長アカツキさんがナデシコBの視察に来ました
でも、なにか悪巧みを企んでいるようです
天秤
第5話
ナデシコBへ視察に来たアカツキは、その足で艦長のルリではなく、真っ直ぐにアキトの部屋を訪ねて来た
普通ならこんな事はあり得ないのだが、アカツキには何か理由があるらしい
「おっ、テンカワ君、久しぶりだね、どうルリ君と仲良くやってる?」
「アカツキ、お前・・・・なんでその事を・・・」
「忘れたのかい?、僕はネルガルの会長だって」
少々呆れたという仕草で、アカツキは返事をする
「そうだったな・・・プロスさんが知ってるのに、お前が知らない訳が無い」
とはいえ、アカツキが知っている事は、アキトとルリが付き合っているという所までで、その事でアキトが悩んでいる事までは知らない
「浮かない顔してどうしたんだい?、何か悩みでもあるのかい?、親友のこの僕に相談してごらんよ(にやり)」
と、なにやら、邪悪そうな薄ら笑いを浮かべるアカツキ
アキトは自分が悩んでいる事を見透かされているような気がして嫌な気分になるが、アカツキ自身は知っていてやっている訳ではない
「お前は、何時から俺の親友になったんだ?、俺が浮かない顔してるとしたら、お前の顔を見たからだ」
嫌そうに顔をしかめるアキト、半分は本当で半分は自分の気持ちを見透かされた気がする事への誤魔化しで
「おやおや、ご挨拶だねえ折角君に良い話を持って来たのに」
「良い話〜」
だが、アキトは思いっきり不審そうな目
「そう、ネルガルに協力してくれれば、給料が上がるって話」
「どうせ、また、ボソンジャンプ絡みの話だろ、だったら何度も断った筈だ」
アキトはアカツキに背を向け、立ち去ろうとする、それにボソンジャンプだけの話だけでなく、ルリとの仲の話までされてしまえば、今のアキトとしてもたまった物ではない
「ルリ君の身の安全が絡んでくる話でもかい?」
それでも、ルリの話が出ると、ぴたりと立ち止まってしまう
「どういう事だ?」
そして、振り向き、訊ねるアキト
「単刀直入に言おう、ユリカ君が行方不明なんだ」
「行方不明?、まさか・・・・」
「そう、そのまさかだ、奴らに誘拐された・・・」
「待ってくれ、だってユリカにだってネルガルの監視が付いてるんじゃ?」
アキト一気に深刻な表情へと変わる、アカツキもまた今までのおちゃらけた言葉遣いではなく真剣な口調へと変わる
「・・・本当の事を言おう、ユリカ君が行方不明になったのは、もっとずっと前、ネルガルの監視が付く前だ、それでルリ君にも護衛を付けるようになったんだ」
「・・・・そん・・・・な・・・・」
アキトはしばらくユリカとは会っていない、それはただ、自分がユリカを・・旧ナデシコクルー達の接触を避けてきた為と思っていた
「なんで今まで知らせてくれなかったんだ?」
アカツキを睨み付けるアキト
「知らせていたとしても、君に何か出来たのかい?、1コック見習いに過ぎない君が?」
「それは・・・」
「それに、君のような熱血君に迂闊にそんな事を話せば、一人で暴走して奴らに返り討ちにあいかねないだろ、否定出来るかい?」
「・・・・・・」
アカツキはアキトの視線など気にしないようにさらりとと答え、アキトは黙りこんでしまう
「まっ、そうは言っても状況が変わったからね、君にも本当の事を言っておいた方が協力を求め易いと判断した訳さ、どう、話を聞く?、君だけでなくルリ君の安全にも係わってくる話を、君が聞かない筈が無いけどね(にやり)」
「・・・解った、聞かせてくれ・・・」
そう言われては、聞かざるえない
「ではまずテンカワ君、この写真をみてくれ、この子はラピスラズリ、ラビスラズリは日本語では『瑠璃』だ」
「瑠璃?、じゃあこの子は?」
「ルリ君の実験データを元に、ネルガルの研究所で生まれた子さ・・・」
それを聞いて、一気に頭に血が上ってしまったアキトは、アカツキの胸倉をつかみあげる
「アカツキっ、お前、ネルガルはまだそんな事をやってるのかっ!!」
「ああ、やっていたよ、けどルリ君と同じぐらいにしか扱っていないよ」
悪びれもしないアカツキ
「十分酷いっ、いいかっ、ルリちゃんは普通なら戦艦の艦長なんてやるような歳じゃないんだっ、普通に学校でもいって友達と馬鹿な事やって笑いあったりしてるぐらいの歳なんだっ」
「この子も、ラピスもそうだったよ、でも、奴らにさらわれた・・・」
「なっ・・・・」
思わず手を離してしまうアキト
「でも、先日ネルガルのシークレットサービスが取り返したけどね、ただ・・・・奴らに何をされたのか、何も喋ろうとしない・・・・さらわれる前は昔のルリ君程度だった、でも今はルリ君よりも酷い・・・・」
「・・・・・・」
「頼みの一つは、その事さ、ラピスを君たちに預けたい、ここには同じような境遇のルリ君もいる、同年代のハーリー君もいる、彼女の心を開いてあげて欲しい」
・・・ルリ君の心を開いた君もいるしね、とアカツキは心の中で付け加える・・・
「もう一つの頼みは、ユリカ君の救出、これは君がいないと出来ないんだ」
場面は代わり、今は艦長室
アカツキは、さっきの話をルリにもしている
「つまり、アカツキさんはアキトさんと言うよりも、実戦経験のあるジャンパーが欲しいと言うことですか?」
「まあ、そういう事、そんな都合の良い人間が居てくれれば、別にテンカワ君でなくても良いんだけどね」
「ユリカさんを救い出す・・・・だったら、私には話すべきじゃなかった・・・」
「えっ、ルリちゃん何を?」
思わぬ台詞に驚いてしまうアキト、そんなアキトに悲しそうな視線を向けるルリ
「アキトさん、今あなたと私は付き合ってます、昔の事とはいえ、自分の恋人を追い掛け回していた女性を、良い感情で見れると思いますか?」
「あっ・・」
アキトは気づかなかったが、確かにそう言われてしまえば、その通りの事
「私だって、出来るだけ私情は挟みたくない、私情を絡ませないようにもしたい、でも、いざという時にそう出来る自信は無いですよ・・・・」
ルリは、その責任感から、その手の事をかなり気にする
「僕は、それでもルリ君の事を信じているけどね」
気楽なアカツキ
「それに、ネルガルが使える手の中で、ルリ君とテンカワ君の組み合わせほど、この作戦の成功率は高い方法は無いんだ、実はこっちのうつ手も手詰まりでね、そう簡単に諦める訳にはいかない」
「・・・・少し、考えさせて貰えませんか?、それと、しばらくテンカワさんと二人にさせてください」
「解った、良い返事を期待してるよ」
二人きり、暫くは沈黙が続く
最初に口を開いたのは、ルリの方
「・・・アキトさん、何で私があなたにあんなにあっさりと抱かれたか解りますか?」
それがルリが最初に言った事
「・・・いや・・」
アキトには、それ所か何故ルリが自分の事などを好きになってくれたかすら、解らない
「怖かったし、焦っていたんです・・・アキトさん、変に女性にもててたから・・だから私・・・、アキトさんが初めてだったんですよ・・・本当に・・・信じて貰えないかもしれないけど・・・あんな風に直ぐに身体を許す女なんて・・・」
「そっ、そんな事ないっ、そんな事ないから、俺はルリちゃんの事信じてるからっ」
「こんな事を言うと、アキトさんに嫌われるかもしれないけど・・・私はユリカさんの事が嫌いです・・・だって・・・」
「だってアキトさん、なんであなたは今、ここにこうやって生きていられるんです?」
「えっ」
アキトには、ルリが言いたい事が解らない
「運が良かっただけですよ、素人のアキトさんがいきなり囮になって、そのままパイロットやらされて、でも、勝手に恋人気取りのユリカさんは、ろくろくアキトさんの心配なんてしなかった・・・・・あの人にとっては「王子様」が死んだりする筈が無いんです・・・でも・・・」
「私にとって、アキトさん王子様なんかじゃありません、何時命を落とすか解らない普通の人」
「ユリカさんはアキトさんを信頼していたんじゃない、妄信していただけ・・・・・今ここにアキトさんが生きている以上、結果的にはそれでも良かったのかもしれない、でも、私はあんな風にはなれません、自分の恋人を危険にさらして平気な顔でいられるなんて・・・」
「ルリ・・・ちゃん・・・・」
先日、サブロウタに言われた事もあり、ルリの言葉が尚更胸に突き刺さる
だが
「それでも・・・それでも俺は、ユリカを・・・いや、ユリカだけじゃなくて奴らの身勝手な正義の為にさらわれた人達を助けたいんだ・・・だから・・・」
「一人でやる気なんですか?」
アキトが言おうとした事を、ルリに先に言われてしまい、コクリとうなずくアキト
「アキトさんらしいです」
うつむき、アキトに顔を見せないようにして、拳を握り締めぷるぷる震えながらようやっと声を絞り出すルリ
やがて、消え入りそうな声でルリは・・・
「だったら・・・協力します、こんな私でもアキトさん一人でやらすよりもマシな筈・・・・今更、一人でやるっていっても聞きません、たとえアキトさんが断っても私が勝手に協力します」
「ルリちゃん・・・ごめん・・・俺の考えが足りないせいで・・・俺が馬鹿なせいで・・・」
アキトは謝る事しか出来ない
「いえ、本当は私の気持ちは最初から決まってました、相手がジャンパーの拉致をしている以上、何時かはアキトさんも狙われる、それに私の誘拐、殺害を企てた計画まであったっていう・・・だったら、戦うしかない、たとえ望まない戦いでも、でも・・・」
顔を上げるルリ、その顔は無表情で、いや、無表情を作っているというべきか
「だからこそ、言っておきたい事があります」
ルリは銃を抜き、アキトに向ける
「なっ(汗)」
流石に驚くアキト
「私は、この艦の艦長です、もしアキトさんが命令違反をしたら、他の人と同じように罰する、場合によってはこの銃でアキトさんを射殺しなければならなくなる事だってある・・・」
無表情のままで抑揚の無い台詞を喋るルリ、アキトにはそれは、アキトに言っているというよりも、ルリが自分自身に言い聞かせているように思える
「もし・・・もしも・・・、艦を守る為にアキトさんを見捨てないとならない時は・・・・私は艦を優先する、それが私の仕事だから・・・」
少しづつルリの表情が変わっていく
「それで・・・もし・・・・それで私の事が嫌いになるなら・・・それでも私は・・・私は・・・・」
これから言おうとしている事を考え流石に辛そうなルリ、それでもこれだけは言わなければならないのだ、絶対に
「たとえ、アキトさんに嫌われる事になっても、ナデシコを取ります・・・・・」
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次回に続きます
後書き
このルリって、ルリだからと言うよりも、『恋人が危険な任務をこなさなければならない状況に追い込まれた艦長』だったら、こういう話があってもおかしくないだろうって話にしているつもりです
で、この話の流れだと、ルリがユリカの事嫌ってる方が自然なんですよ、困った事に
でも、嫌われるべき時には嫌われていないと、話が変に歪んでしまうし・・・
それだけなら良いんだけど、ユリカの場合って一度嫌わせてしまうと、後のフォローがえらく難しくなる
嫌われるにしても、『嫌われ方の質、内容』の問題があってフォローの出来る嫌われ方と、フォローの難しい・・・場合によってはフォロー不可な嫌われ方って物がある訳で・・・
この辺りが、どっから何処までがヘイトなのか解らない、ユリカの扱いの困る所で・・・
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