アキトさんは、私に相応しいだけの男になりたいと言っていました

でも、「私に相応しいだけの男」ってどんな人を指すんでしょう?

私は別に不満なんて無いんですが・・・


天秤

第4話


男が女を抱く・・・それは生物としての本能、欲望からくる物が大きいだろう

だが、それだけの問題というものでもない

お互のお互いに対する想いの確認

そんな意味もある

むろん、『遊び』の感覚でその手の行為に及ぶ者は男女を問わずに居る

だからといって、全ての男女がそうだと言うのも極論だろう

まあ、何が言いたいかというと・・・・・・

前話の後に、アキトとルリはやる事はやっちゃってる訳で(苦笑)

「・・・・・・・・・ううっ、何やってるんだ俺はっ・・・・」

苦悩するアキト

ルリは嫌がっている訳でもないし、お互いにこうなる事を望んでいた、本来ならアキトが罪悪感を感じる必要も無い

無いが・・・・

自分に自信がないアキトには、色々と悪い想像が浮かんでしまうのだ

例えば・・・身体だけが目当ての男と思われるんじゃないか?・・・とか

では、ベッドを共にしているのに何もしないというのはどうか?といえば、今度は

・・・ルリちゃんの事を嫌ってるように見られないか?・・・

という事になってしまう

まあ、『男としての本能からくる誘惑に負けて』という事も間違いなく有るが

自分に自信を持てない男ならば、『好きな女を抱くからこそ』悩む事もある


 


「あれっ、艦長の恋人がこんな所で何を?」

翌日、エステのシミュレーションルームに入るアキトをみかけて疑問に思うサブロウタ

サブロウタには、アキトと直接の面識がほとんどない、そしてルリが旧ナデシコ時代の話をほとんどしていない為、『アキト=コック』のイメージが強い

疑問に思ったサブロウタは、そのままアキトの後に続き入室すると、アキトは丁度シミュレーションでの訓練を始めようとした所で、サブロウタはその背後から話かける

「テンカワさん、何でコックがそんな事を?」

「えっ」

サブロウタに気づき驚くアキト

・・・タカスギサブロウタ!!・・・

アキトの心の中では、いまだサブロウタは女癖が悪く、いつルリを狙うか解らない、第一級危険人物である

とはいえ

「いっ、いや、俺もいざとなったらルリちゃんの役にたちたいって思って」

どういう態度を取って良いのか解らず、正直に答えてしまうアキト

「役に立つって・・・でも生兵法は大怪我の元ともいいますが」

アキトが旧ナデシコでは、『コック兼パイロット』だった事を知らないサブロウタ、その言い方にムッとするアキト、その顔色を見てサブロウタは

「では、一度お手合わせしてみますか?、俺はこれでもそれなりに訓練受けてますよ」

・・・素人を下手にエステになんて乗せたら、かえって危ない、ここは自分の考えの甘さを思い知ってもらってお引取り願おう・・・

・・・もし、この男に何かあったら、艦長がどれだけ悲しむ事になるか・・・

これが、サブロウタの内心だが、アキトからみれば

・・・ルリちゃんを狙っている男から挑戦された!!・・・

こう感じられてしまう

二人の思惑は違う、が、それでも二人とも負けられない戦いになってしまった


 


シミュレーターで選んだステージは宇宙、選んだフレームは当然0G戦フレーム、自由に動き回れる代わりに、いざと言う時に身を隠す遮蔽物も無い

「くっ、なんだこいつっ、思ったよりも手ごわいっ!!」

思ったよりも動きの良いアキトに手こずるサブロウタ

軽く捻ってやるつもりが、こちらの射撃が当たらない

「くそっ、久しぶりなんで思った通りに動けないっ!!」

アキトも焦っている

アキトは正式な訓練を受けた訳では無いが、旧ナデシコでの実戦経験がある、そこら辺りの素人よりは腕は上だ

とはいえ

・・・料理は晦日ちゃんと作ってないと駄目だぞ、そういう『積み重ね』が腕を上げていくんだ、世の中には『天才』って言われるような人間も確かに居るけどな、お前は違うだろ・・・

以前、自分の料理の師匠から言われた事を思い出す

自分がエステに乗らなくなってから数年、そのブランクの重さを思い知らされる・・・だがルリの事を思えば

「負けてたまるかっ!!」

気合を振り絞るアキト

今度はアキト側からの、サブロウタ機への射撃

だが、こちらの攻撃も当たらない

アキトの動きには「無駄」が多い、フェイントならフェイントで、一見意味が無い動きにも意味はあるが、今のアキトにそんな余裕は無くただ我武者羅なだけ

「射撃」というものは、静止した目標を狙っても難しい物、実戦では『お互いに』動き回っているもので、そんな中で弾丸を狙い通りに当てる事は容易なことではない

こんな時、頼りになるのはエステに搭載されている自動照準機能だが、それでも限界はある

動く敵に対して弾丸を当てる為には、敵を直接狙ってはいけない

敵がこれから動きそうな所を予測して、その場所に弾丸を送り込む

もし弾丸の速度が毎秒500mだとするなら1km先の敵に弾丸が届くのは約2秒後

1km先の『2秒後に敵が何処にいるか予測』して狙わなければ、当たらないのだ

エステの自動照準機能は、敵の動きを解析しある程度までは予測してくれるとはいえ、『ある程度以上』を超えた予測はしてくれはしない

アキトは、それをわきまえた動きをしていて、サブロウタ機からの攻撃が当たらない上、アキト機からの攻撃にサブロウタは何度もヒヤリとさせられていた

「素人じゃないのかっ、艦長の恋人はっ、だったらっ!!」

本気を出し始めるサブロウタ、いい加減に見える男ではあるが、実は普段から訓練を欠かしたことは無い、こうなるとブランクのあるアキトは徐々に追い詰められていく

「くそっ、当たれっ、当たれえっ」

追い詰められた時、人は基本的な事すら忘れてしまう事が多々ある、アキトが必死になればなるほど、かえって狙いは外れていく、そうなれば、サブロウタにとっては益々有利になる

シミュレーション開始から約10分後、勝負はサブロウタの勝利で幕を閉じた


 


「テンカワさん、あなたは本当に素人?」

シミュレーターから降りたサブロウタはアキトに尋ねてみる

「・・・コック兼パイロットだった・・・」

ムスッっとして答えるアキト

「コック兼パイロット?」

不思議に思ったサブロウタは、他にも色々と尋ねてみる

アキトが最初にエステバリスで戦った時の事・・・

ピースランドでのルリとの事・・・

アキトに話を聞き、それらの事を知ったサブロウタは

「そうか、艦長は初恋を叶えたんだ・・・」

しみじみと呟く

サブロウタから見れば、むしろ、「嬉しい」事なのだが、アキトにはそうは聞こえない、何か『裏』があって言っているように聞こえてしまう

「でも、だったら益々テンカワさん、貴方をパイロットにする訳にはいかない」

「なっ」

サブロウタは、「木連時代の口調」に戻り真剣な表情で告げる、驚くアキト

「艦長が、あなたとの関係を公にしないのは何の為だと思っているんです?、艦長は部下に厳しい事も言う、でも、それは全ていざという時『ナデシコとそのクルー達を守る』事を考えているから」

「貴方がパイロットになってしまえば、「恋人がパイロット」をやる事になる、もし、「恋人のテンカワアキト」と「ナデシコのクルーの命」を天秤にかけなければならなくなった時、艦長はどうします?」

「それは・・・・・」

答えられないアキト

「艦長は、いざとなれば「より多くの人命を守る為には少数を犠牲」にする事もしなければならない立場、そして、その事で恨まれたとしても仕方が無いと覚悟もしている、でも、テンカワさん、恋人の貴方をパイロットになんてしてしまえば、その覚悟も揺らぎかねない」

「『安っぽい正義感で、多くの人を犠牲にするより、私一人が恨まれた方がマシ』、そんな事をいう艦長の事を『冷たい』と思うんですか?」

「・・・・思わない・・・」

だからこそ、アキトはルリに惹かれた、そしてルリの為に何かをしたいと思った、ルリと釣り合いの取れる男になりたいと心底願った・・・

「艦長は自分の事を、『人の命を『数』でしか考えられない冷たい人間』だって言う、きっと艦長自身も本気でそう思ってる、でも、テンカワさんにはそう見えるんですか?」

「・・・見えない・・・」

ルリがアキトの前でだけ見せてくれたのは、歳相応の少女の姿・・・

「だったら、あなたがパイロットなんかになれば、艦長をどれだけ苦しめる事になりかねないかも解る筈でしょう・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

悔しそう拳を握り締め歯噛みするアキト

『負けた』事以上に自分の甘さを思い知らされるサブロウタの言葉

アキトのそんな姿を見たサブロウタは、「言い過ぎたか」とも思う、だが、自分「副長」である

艦長のルリの為にも、ナデシコのクルー達の為にも、「立場上」言わない訳にはいかない

「俺は・・・ルリちゃんの役には立てないのか・・・・・・」

アキトは悔しくてたまらない・・・


 


「ルリちゃん、俺にやって欲しい事ってあるかな?」

その夜、何時ものようにルリの部屋のアキト

サブロウタにあんな事を言われたというのに、いや、あんな事を言われたからこそ、無性にルリに会いたくてたまらなかった

なんでも良い、なにかルリの役に立ような事をしてあげたい・・・

「アキトさんにして欲しい事ですか?、アキトさんにしてあげたい事ならありますけど」

だが、ルリの答えはアキトの想像もしないもの

「俺に?」

「ええ、アキトさんに料理を作ってあげたいとか・・・・・なんだか、普通の女の子みたいですね、私・・・・」

笑顔で答えるルリ

「ルリちゃんは普通の女の子じゃないか・・・」

「普通じゃないですよ・・・・こんな『性能』を持った私なんて・・・」

「性能・・・違うよ、誰がなんと言おうとルリちゃんは普通の女の子だから」

「・・・いいです、この話はもう止めましょう、今日は私が晩御飯つくりますから、アキトさんは座っていてください、二人きりの時ぐらい、普通の女の子の真似事ぐらいさせてくださいね・・・・」

ルリには特に気にした様子はなく、そのまま簡易キッチンへ向かう

自分に対して『性能』などという言葉を平気で使えるルリに、かえって悲しいモノを感じてしまうアキト

・・・良いんだろうかこれで・・・でも、俺はルリちゃんに何をしてやれば良いんだ・・・

その頃、簡易キッチンのルリは、アキトの悩みも知らず、自分の「普通の女の子の真似事」に自然と笑みがこぼれていた

 

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後書き

読みかえして思った事

『これって、ナデシコのSSだと珍しいかもしれないけど、『戦争物の中での恋愛物』としてなら、結構良く見る展開のような』

他の人のSS読んでて、良く思う事があって、それが『恋人がパイロットやってる艦長』だったら、もっとその事で不安になったり悩んだりしてもいい筈だろうって事なんですよ

それで、今回は『副長』のサブロウタに代弁させてみました

今回の話は、私なりに、それぞれのキャラの性格とか、今の時点で置かれている『立場』とか色々と考えて、出来るだけ自然な流れをって考えたらこういう話に

こんなんで大丈夫なのか、テンカワアキト!!

相変わらず、行き当たりばったりで執筆してます、このSS(苦笑)

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