「へえ〜、ルリ君とテンカワ君がね・・・」
エリナの口から、秘密裏にルリの護衛をしていたネルガルシークレットサービスからの報告を聞き、ほくそえむアカツキ
「驚きました、あの二人が」
「まあ、いいんじゃないのエリナ君、それに上手くいけばテンカワ君をネルガルの悪だくみに引きこめるし」
「悪だくみって・・・もう少し言い方は無いんですか?」
半分呆れているエリナ
「言い方変えたってやる事は変わらないさ、それに、自分たちの事を正義の味方と思えるほど、僕はおこがましくもないんでね」
天秤
第2話
「テンカワ、今日はやけに張り切ってるじゃないか」
ホウメイの紹介で、アキトが働いている店、『蓬莱山』
「あっ、はい、ちょっと」
今までも、真面目に働いてきたが、今日は今までに輪をかけて真剣なアキト
・・・ルリと釣り合いの取れるだけの男になりたい、はやくコックとして一人前になりたい・・・
その気持ちが、アキトを突き動かす
アキトがホウメイの店、『日々平穏』ではなく、ここ『蓬莱山』で働いているには訳がある
一つは、ナデシコのクルー達の知らない所で、自分の力を試してみたかったこと
以前、日々平穏で働いていた頃のこと
ユリカを筆頭に旧ナデシコのクルー達の来店が多く、それはそれでありがたくはあったのだが・・・ある時ふと、「これで良いのか?、自分の料理の腕ではなく、コネでお客さんを集めているだけなんじゃないのか?」と思ってしまったのだ、だから、蓬莱山でアキトが働いている事はホウメイ以外は知らない
そして、この店の店主の料理の腕
そして、こちらの方が給料がやや高い事
「お金はあっても困るもんじゃない、将来独立するにしても、その時に真っ先に必要になるのはお金だよ、守銭奴になれとは言わないけど、お金のありがたみを忘れるようでも駄目だよ」
身元の保証も無く、仕事を探す為に散々苦労した経験のあるアキトには、ホウメイのその言葉が身に沁みた
今アキトはそれなりに充実した生活を送っている・・・ナデシコに居た頃のような、おかしなもて方などしていなくても
「それで、テンカワさんをスカウトして来いというのですか、会長」
あまり、乗り気でなさそうなプロスペクター
「そっ、ジャンパーとしての能力はネルガルにとっても魅力だからね」
「ですが・・・今更、ネルガルに協力してくれると?、あの方は、ああみえて意外と頑固な所がありますし」
「今回は、切り札があるさ、それとさ・・・」
真剣な表情へと変わるアカツキ
「テンカワ君には、『本当の事』を伝えて欲しい、今、ジャンパーにどんな危機が迫っているかを、ルリ君がどんな状況に置かれているかを」
「なるほど・・・それならば、あの方の性格なら断り切れない可能性が大ですな、ところで会長」
「なんだい?」
「それは、ネルガルの会長としてだけの命令ですか?、それとも」
「どっちだとしても、結果的にネルガルの利益になるなら良いんじゃないの」
軽い口調ではぐらかすアカツキ、だが、プロスにとっては満足出来る返答だったようだ
「解りました会長、では、」
「護衛?、一民間人をですか?」
プロスに尋ねるルリ
「ええ、そうです」
あっさりと答えるプロス
とはいえ要人警護の為ならまだしも、緊急避難という状況でもないのに一民間人を守る為に戦艦に乗せろというのも訳の解らない話
「ルリさんも良く知っている方ですよ」
「私の知っている?・・・ぁ(赤)」
一瞬、アキトの事を思い浮かべてしまったルリ
二人はあの後も何度か会っているが、やはり戦艦の艦長と一コックでは会える機会も少なく・・・、もし、護衛する相手がアキトならば、会う機会を増やす事も出来る・・・等と考えてしまう
とはいえ、そんな都合の良い事がある訳が無いと、すぐに頭を切り替えるのではあるが
「ええ、テンカワアキトさんです」
「えっ(赤)」
まるで、ルリが冷静に戻った瞬間を狙ったかのように、その名を告げるプロス
「おや、顔が赤いですが何か?」
「いっ、いえ、なんでもないです(赤)」
シークレットサービスからの報告で、ルリとアキトの仲は、かなりの所まで進んでいるらしい事を知っているプロスではあるが、今はまだその事は言わない
「これが、深刻な問題でして・・・もしかしたら、テンカワさんの命に関わるかもしれないんです」
「えっ」
驚くルリ、たかが一コックであるアキトにどんな危険がというのか?
「ご存知の通り、ネルガルはボソンジャンブの研究をしています、このナデシコBもその為の実験艦としての意味合いが強い、ジャンパーになれる可能性の高い火星出身者のデータは、豊富に持っている」
「・・・・・」
「最近、火星出身者の周りにおかしな動きがあるんです、行方不明者や死亡者の数が不自然なほど多い」
「それは・・・」
アキトもまた火星出身、不安になってくるルリ
「ボソンジャンプで得られる利益は莫大な物・・・それを考えれば、無茶をする輩が出てくるのは当然と言えば当然の事、現にネルガルとて・・・・」
「・・・・なるほど、解りました」
ルリも事態の深刻さを悟り頷く
「それと、テンカワさんを警護する上で、一つ注意しておきたい事がありまして」
「はい」
事態の深刻さと、アキトへの想いから真剣に聞くルリだが
「ご自分の恋人をナデシコに乗せるからといって、ミスマルユリカさんのようにはならないでください、あれは、旧ナデシコだからこそ通用したんのであって、こっちでは通用しませんから(にやり)」
「えっ(赤)」
ルリは自分がアキトと付き合っている事は誰にも話していない
「あっ、あの、その事を何処で?(赤)」
「ルリさん、狙われているのはジャンパーだけじゃない、あなたもなんですよ・・・」
数日前の事
「おい、テンカワ、お前にお客さんだ」
「はい?、俺にですか」
誰だろう?と思いながら蓬莱山の客席に顔を出すアキト
「いやあ、テンカワさん、久しぶりですな〜」
「えっ、プロスさん、どうしてここを?」
アキトはこの店の事を、ホウメイとルリ以外には知らせていない、それなのに何故?
だが、プロスはその疑問には答えず
「単刀直入に言います、あなたをスカウトしにきました」
「嫌です、俺はもう係わり合いになる気はありませんから」
即答するアキト
「まあ、話だけでも聞いてください」
「嫌です」
とりつくしまもないアキト、だが、今回のプロスには切り札がある
「ルリさんが絡む事でもですか?」
「えっ」
アキトは、プロス、そしてアカツキの思惑通りに食いついてしまう
「まず、何故私がお二人の関係を知ったかから始めましょうか、ルリさんには常に秘密裏にネルガルの護衛が付いています」
「えっ」
驚いてしまうアキト
「だから、ルリさんの行動は逐一監視されています、プライバシーの侵害と怒るかもしれませんが、命には代えられません」
「命には代えられないって、本当・・・なんですか?」
「ルリさんの生い立ちや能力を考えてみてください」
確かに言われてみればと納得してしまうアキト
「彼女にとって、もっとも安全な場所は、ナデシコの中・・・それでも今までは左程問題はありませんでした、ですが今は、テンカワさん、あなたに会うために」
「俺に会うために・・・俺はルリちゃんを危険に晒している・・・・」
「ええ、そういうことです」
罪悪感に苛まれるアキト、やっぱり俺と彼女とでは・・・
「ですが、だからといってルリさんと別れろ等と無粋な事は言いません、人の恋路を邪魔する奴はなんとやらって諺もあるくらいですし、丁度、ナデシコBの艦内食堂ではコックが不足しておりまして」
にやりとほくそえむプロス、悩むアキト
後一押しと感じたブロスは・・・
「ナデシコBの副長に、タカスギサブロウタというものがおりまして」
「・・・?」
いきなり、そんな名前を出されて怪訝な顔をするアキト
「彼は、とても女癖の悪い人でして・・・いずれルリさんの事も狙うかもしれませんな〜」
「えっ(汗っ)」
「ルリさんも、普段なら相手にしないかもしれませんが・・・もし、テンカワさんと別れるような事になれば、悲しみから身を任せてしまう事もありえますな、女癖の悪い男というのは、その手の事を見逃さないものです」
「そっ、それは(汗)」
「私としても、そんな男にルリさんを任せたくないんですよ、テンカワさんはどうです?」
「だっ、駄目です、そんな奴にっ!!」
「では、決まりですな」
「うっ(汗)」
結局、アキトはナデシコBに乗る事となってしまうのである
まさか、サブロウタも自分の女癖の悪さが、こんな風に利用される事になるとは、思ってもみなかっただろう
ジャンパーの周りの不穏な空気の事を聞いたのは、アキトがナデシコBに乗る事を決めた後である
「では、一応紹介しましょう、テンカワさんどうぞ」
にやりと笑っているプロス、照れくさそうに艦長室に入室してくるアキト
「では、恋人同士の語らいに、私は不要でしょうから席を外しましょう」
プロスは、そのまま席を外してしまう
照れくささに、中々話が出来ない二人
「あの・・・」
俯いて、アキトと目をあわせない様にして喋り始めるルリ
「あの・・・言いにくいんですけど・・・テンカワさんに・・お願いしたい事があるんです」
「なっ、なにかな?」
アキトに女性の頼みごと、・・・それがよっぽど無茶な頼みでもない限り・・・・を断れる筈も無いのだが
「私とテンカワさんの関係・・・ナデシコのクルーには話さないで欲しいんです」
「えっ」
アキトの頭に一瞬で浮かんだ嫌な想像、『もしかしたら、ナデシコの中に好きな男が居る?、だからルリちゃんはそんな事を?』と
だが
「・・・私、これでも艦長ですから・・・クルーの示しにならないといけないから・・・」
「・・・・・・」
あくまでも、自分の仕事に責任を持とうとしているルリ、アキトはそんなルリと比べると、自分の想像してしまった事が恥ずかしい
「ごめんなさい、身勝手なのは解ってます・・でも、私には自信が無いんです、艦長・・・ユリカさんみたいにならないって言う自信が・・・」
旧ナデシコ時代の事思い出すアキト、ユリカは自分を追い掛け回す事で多くの失敗をした、ルリは自分もそうなる事を恐れている
アキトにはそんなルリが益々愛しく感じられてしまう
「そのかわり、二人きりの時には少しだけ甘えさせてください・・・」
「いっ、いや、少しだけなんて言わずに思いっきり甘えて良いから(赤)」
普段のアキトなら言えないような台詞、アキト自身が驚いた程だが、ルリになら言う事が出来る
「いえ、少しだけで良いです、甘えすぎてテンカワさんに迷惑をかけても悪いですから」
ようやっと、顔を上げにっこりと微笑むルリ
アキトの心は、これで完全にルリから逃れる事が出来なくなっていた
後書き
一応、連載って事にしましたが、この話は完全に行き当たりばったりで執筆しているんで、この後続くかどうかは、書いてる本人にも解りません(苦笑)
漠然としたイメージならあるんですけどね
ついでに、絵の練習の為の話でもあったり
次話へ進む
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送