撃破したはずのナナフシ、でも、何故マイクロブラックホール砲が?
瑠璃とルリ
第11話
「マイクロブラックホール砲?、そんなはずは!!」
厨房で、こっそりとブリッジの様子をオモイカネに聞いていた瑠璃は思わず叫ぶ
「どうしたんです、瑠璃さん?、ゴキブリでも出たんですか?」
瑠璃の慌てた様子に驚いているサユリ、どうやら叫びの内容まではよく解らなかったようだ
「あっ、いっ、いえ、なんでも、多分、私の勘違いで、その、ゴキブリがいたみたいにに見えたもので(汗)」
普段の落ち着きとは対照的に、しどろもどろに答える瑠璃の姿に、思わずくすりと笑うサユリ
「瑠璃さんにも、苦手な物あったんですね、私もアレは苦手ですけど」
「え〜と、あの、ええ、そう、苦手なんです、アレ(汗っ)」
「なんか一寸得したかも、瑠璃さんのそんな様子が見られるなんて」
厨房にいて、今、何が起こっているか解らないサユリは気楽な物だが、瑠璃にとっては気楽にいられるような事態ではない
「メグミさん、どういう事?詳しく話して!!」
ユリカがメグミに聞くが、メグミにもよく状況は把握出来ていない
「マイクロブラック砲らしき物で、旗艦が大破以外の情報は、まだ入っていません」
そう答えるしか出来ない
他の兵器ならば、ディストーションフィールドでほとんど防ぐ事が出来るが、マイクロブラックホール砲は防げない
これからどうするべきか、ユリカが、考えていると
「艦長、映像データが送られてきました」
「これは・・・」
映像に映し出された物は、ナナフシからではなく、『チューリップから』発射されるマイクロブラックホール砲
「なるほど、敵も考えたものね」
何時の間にか、ブリッジに現れていたイネス
「イネスさん、何時の間に?」
驚くブリッジのクルー達だが、そんな事にはお構いなく
「では、『説明』を始めるわよ(にやり)」
「ナナフシ自体は、確かに兵器としては欠陥兵器、いくら絶大な攻撃力を誇ろうと、単体では意味をなさない」
「でも、もし、ナナフシの周辺を大量のチューリップで固めて守り、都市や軍事基地等の『固定された目標』を狙ったら?」
「最悪の、大量殺戮兵器になり得ますね」
ルリが答える
「でも、木星トカゲ側はそうしなかった、彼等は何故か直接人間を襲わない、でも、もしかしたら今回はやらなかったのではなく出来なかっただけなのかもしれない、何故ならは、地球側にはビッグバリヤがある、全てのチューリップを防ぐ事までは出来ないけど、それでも、『減らす』ぐらいの事なら出来る、だからナナフシを守る為に十分な戦力を送りこめなかったのよ、だから、敵もそれなりに考えた」
「さて、ここで問題、チューリップは木星トカゲの艦隊を瞬時に送りこむ事が出来る、だったら」
「ナナフシの、マイクロブラックホール砲の『弾』だけを送ってくる事も出来るんじゃない?」
「・・・」
「だとしたら、最悪ですね、木星トカゲは、チューリップが存在している場所からなら何処であろうとマイクロブラックホール砲の『弾』だけを送りこんで来る事が出来る事になる、その使い方なら、ナナフシの欠点は欠点にならない、地球側は一方的に叩かれる事になる」
「流石に頭の回転が早いね、ホシノルリ、ただ、あくまで希望的観測としてを言わせてもらうと、木星トカゲは直接人間を狙わない、もしかしたら、そんな方法は使わないかもしれない、それに、流石にチューリップもマイクロブラックホールほどの質量を持ったシロモノを一機で大量に送りこむ事は出来ないようね、撃ち出された後チューリップまで爆発しちゃったもの、チューリップ一つにつき一発が限度みたい」
・・・それは、希望的観測ですよ、イネスさん・・・
ブリッジの様子を覗きながら、瑠璃はある男の事を思い出す
木連の実質的ナンバー1、草壁春樹
『悪の地球人は滅びるのが当然』そう言い切った男
何故、あの男が実質的ナンバー1の木連が、地球では、直接人間を狙わないようにしていたのか、瑠璃にはいまだに解らない
アキトの故郷、火星を全滅させた男、罪も無い火星の人達を皆殺しにした男が
草壁だけではない、木連には、ゲキガンガー的な単純な正義を聖典とし、『悪の地球人は滅びて当然』と思っている人間も多い
クサカベが木連の実質ナンバー1だから火星を全滅させたのではなく、そういう木連だからこそ、草壁のような男が実質ナンバー1になれたのでは?
瑠璃にはそう思えて仕方が無い
木連の個人個人は、確かに善人が多いのだろう、ユキナも九十九も月臣もそうだった、だが
宗教、イデオロギー、本来ならば人を幸せにする筈の存在が、どれだけ人を残酷に殺してきたか、宗教やイデオロギーの為に多くの人々を虐殺してきた人間が、『個人的には善人』であった事など珍しくもない
正義に正義以外を許す余地は無い、それが、どれほどの災厄を人類にもたらしてきたか
・・・歴史の修正力、もう、そんなモノを気にするべきでは無いのかもしれませんね・・・
火星を全滅させた木連が、今まで地球では人間を直接狙わなかったからといって、これからも地球を全滅させない保証など、何処にあるというのか?
地球が全滅しなかったとしても、草壁のような人間を実質ナンバー1とする木連が勝利すれば、地球の政治、経済、そして生活がどうなるのか?
瑠璃には、とても楽観視は出来ない
ナナフシの周辺にはあのチューリップが最後だったらしい、その後、なにか新しい事が起こる事も無かった
木星トカゲ側にとっても、テストの意味合いが強かったらしく、この後しばらくはチューリップを利用したマイクロブラックホール砲は、使用されることは無かった
とはいえ、敵の内部事情など、そうそう解るものではない、一度使用された以上、『次』もと考えるのが人間というもの
『木星トカゲは、地球側が防御不可能な大量殺戮兵器を持っている』
『そして、それを何時使ってくるか解らない』
この事実が、軍の内部に重苦しい空気が立ちこめさせ状況を膠着させる
結局、予定よりは大幅に遅れたとはいえ、その後何事も無くナナフシの回収その物は終わるのだが・・・
とりあえずナナフシの回収も終わり、ナデシコの任務も終わったその日の夜
アキト、ユリカ、瑠璃は、これからの事を相談していた
「地球人を全滅・・・・う〜ん、ユリカは木連もそこまではしないと思うけど・・」
「私は、ユリカさんほど楽天的にはなれません」
「ねえ、アキトはどう思う?」
「俺は、やっても不思議はないと思う」
アキトは、火星の人々が殺されていく様子をその目でみているのだ
そして、逆行前の世界では草壁により白鳥九十九が殺された事も
そんなアキトにとって、瑠璃の心配は杞憂とは思えない
「それに、人間は追い詰められれば何をするか解らないものじゃないですか」
瑠璃は、基本的には慎重で、ほとんどの場合、最悪の事態を考えて行動を起こす
では、ユリカの行動の基準は?と問われれば、実は瑠璃にもアキトにもよく解らないのだが
「でも、ナデシコ一隻で出来る事なんて、そんなに多くないよ」
「それは・・・」
言葉に詰まってしまう瑠璃
「軍の偉い人達に、ユリカ達の逆行前の事を話す?、話したとしても信じてもらえる?」
「・・・・信じてもらえないですね、きっと・・・」
今になって、後悔する瑠璃
もし、最初から歴史の修正力などを気にせずに、自分がベストと思う方法をとっていれば・・・
「ほらほら、瑠璃さん、そんなに沈んだ顔しないで、まだ地球が負けた訳じゃないのに、そうやって考えすぎるのが瑠璃さんの悪い癖だよ、今は良い方法が思いつかなくても、その内良いアイデアが浮かぶかもしれないんだから」
「ユリカさん、相変わらず前向きですね・・・」
少しだけ、気分が楽になった瑠璃ではあるが
「そうそう、瑠璃さんにはもう聞いたけど、アキトに聞いてみたい事があったんだ」
「俺に?」
唐突に話題を変えてくるユリカ
「ねえ、アキト、こっちの世界のルリちゃんはどうする気なの?」
「それ・・は(汗)」
ちらりと瑠璃の顔色をうかがうと不安そうに黙ってアキトを見ている
「アキトと瑠璃さんが結婚してるって事は、何時かルリちゃんは別の男の人と一緒になっちゃう、アキトはそれでも良いの?」
「それ・・は・・・(汗)」
成長したルリ=瑠璃が、自分以外の男の横で幸せそうに笑っている姿を想像してしまったアキト、はっきりいって、無茶苦茶嫌だ
「それとも、ルリちゃんを愛人にでもする?、瑠璃さんはそれで良いの?自分の夫が愛人なんて」
「・・・」
瑠璃にも、アキトには自分だけを見て欲しいという気持ち、独占欲が無い訳ではない
今はまだ、ルリの事を妹や娘のような気持ちで見る事も出来る、だが、ルリが愛人となった時に、今の気持ちのままでいられるか?と問われれば、瑠璃には自信が無い
とはいえ、ルリが「別の女」といい切れるのならば、アキトに「自分だけをみてください」とも言えるだろうが、ルリはそうとも言い切れない存在、だから、瑠璃にはなにも答えられない
「二人の気持ちだけじゃない、ルリちゃんの気持ちだってある、『愛人』なんてルリちゃんが喜ぶと思う?」
「喜ばないですよね・・・普通なら・・・」
「愛人・・・二番目の女・・・それで幸せになっている人達だって、居るには居るんだ・・・」
検索をかけ、そんな例を探しているルリ
思わず想像してしまう、自分とアキトと瑠璃との3人での暮らし・・・そして・・・
「って、何を考えているんですか、私は(赤)」
今のルリの精神状態は、ことアキトと瑠璃がらみの事に限定すれば普通ではなくなりつつある・・・
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後書き
ナナフシとチューリップを組み合わせて、本当にこんな使い方が出来るかどうかは、知らんですよ、私は(おい)
ただ、「もしかしたら、こういう使い方も出来るかもしれない」ってだけで、この事に突っ込まれても困る(笑)
ナナフシその物は『単体では』欠陥兵器かもしれないけど、別の兵器との組み合わせ方によっては使える兵器になるんだって事をやってみたかったもので
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