ナナフシ攻略戦

戦いは、戦う事だけが戦いじゃない・・・


瑠璃とルリ

第9話

「おかしいです、それは」

「おかしい?なにがよ?」

ナナフシ攻略の為の会議でムネタケに疑問をぶつけるユリカ

「ナナフシの武装は、マイクロブラックホール砲ですね?」

「そうよ」

「ナナフシの対空砲火に、今まで軍は全滅させられてきたと、それがおかしいんです」

「それの何処がよ?」

「イネスさん、説明お願いします」

心底嬉しそうに、ホワイトボードを持ち出し『説明』をはじめるイネス

「まず、マイクロブラックホールなんて物を生成する為には、どれほどのエネルギーと時間がかかるか、試算してみたけど数時間は確実にかかる、つまり、ナナフシは一発撃ってしまえば、後は数時間は無防備になってしまう欠陥兵器って事になる」

「軍はその無防備な時間を、黙って見ているほどお馬鹿でお人よしの集まりなの?」

「それは・・・・」

言葉に詰まるムネタケ

「それに、わざわざ試算しなくても、軍の戦い方っていうのは『数』で戦う事が基本、ナナフシ一つに対して、2隻以上の戦艦で向かっていけば、たとえマイクロブラック砲の事を知らなかったとしても、一隻が撃たれている間にもう一隻がナナフシを撃破しているはず、軍はその程度の事すら思いつかないほどお馬鹿の集まりなの?、そんな事を言われてもにわかには信じられないわね」

「・・・・・・・」

「ムネタケ提督、答えてください、この話にはなにか『裏』があるんじゃないですか?」

ムネタケに詰め寄るユリカ

「うっ、裏なんてないわよ(汗)」

とは言うが、明らかに動揺している

「説明を続けさせてもらうわよ」

(にやり)と薄ら笑いを浮かべて、説明の続きを始めるイネス

「ナナフシのような敵に対して、実はもっとも相性が良いのは、『数』で戦う軍、では、一番相性が悪いのは?」

「それは・・・・・・」

「提督が答えられないようだから、ユリカが代わりに答えます、一番相性が悪いのは単艦で戦うナデシコです」

「提督、軍の本当の目的は、ナナフシの撃破なんですか?、『ナデシコに失敗させる』事が本当の目的なんじゃないですか?」

「なっ、なによ、みんなあたしを疑ってるの?、ナデシコが沈められたらあたしだって死んじゃうじゃない!!」

ユリカの指摘に対して、語気を荒げて答えるムネタケだが

「はい、ユリカにもその辺りが解りません、でも、色々な資料を総合して推測していけば、そうとしか思えません、軍の本当の目的は、ナデシコに失敗させる事だとしか」

「・・・それは・・・」

確かに言われて見ればと思いもする

「お気の毒ですが、提督はスケープゴートにされたんじゃないですか?」

とジュン、先ごろ、『ユキナ』の事で絞られた事の仕返しのつもりも多少はあるようだ

「軍にとって、ナデシコは面目を散々潰しきた目障りな艦です、そのナデシコが失敗したナナフシ攻略を、軍が成功すれば名誉挽回の大きなチャンス、だから提督には軍の本当の目的を教えなかった、ナデシコのナナフシ攻略を失敗させるために」

「スケープゴート・・軍がそんな・・・・・」

ショックを受けるムネタケ、だが、直ぐに頭を激しく振り、大声をあげる

「だから何よ、軍人にとって命令は絶対、もうナナフシ撃破の命令は出ているのよ!!」

「でも、提督は本当は薄々感づいていたんじゃないですか?、軍の本当の目的、ただ、気づかない振りをしようとしていただけなんじゃないですか?それでも予定通りのナナフシ攻略を行いますか?」

「それは・・・・・」

とユリカに言われ言葉に詰まる

「一つ間違えればナデシコは沈みます、提督に何か有れば残されたご家族はどうするんです?」

「うっ・・」

胸ポケットの家族の写真に手を当てるムネタケ

「だから、どうしろって言うのよ・・・・・命令はもう・・・・・」

「別にナナフシ攻略を中止するとは言ってませんよ」

そして不敵な笑みをムネタケに向けるユリカ

「ナデシコがなんの失敗もしないで、ナナフシ撃破に成功すれば、そっちの方がよっぽどムネタケ提督の出世にも繋がると思いませんか?」

「出世・・・・・・・」

ムネタケは、その言葉には弱い・・・


 


瑠璃さん、凄いな・・・・・・

ムネタケの反応をみて、内心思うユリカ

瑠璃が今回のナナフシ攻略の為に考えたプラン

その中には、『ムネタケを味方につける』事までも含まれていた

先にムネタケを除く幹部クルー達に相談して口裏を合わせていたユリカだが、まさかこうも上手く行くとは思わなかった

 

「え〜と、その・・・・、軍で色々と苦労も・・・・」

今回の作戦のプランを練る時、『瑠璃さん凄い』と目を丸くするユリカに苦笑いしながら、答えていた瑠璃

瑠璃の周りには、優秀であるが故の嫉妬ややっかみは幾らでもあったのだろう、そんな中で自分を守る為に身につけていった処世術、味方の中の敵から身を守るために

それが、解っているからこそ、アキトは瑠璃を『ナデシコ食堂勤務』にしているのだろう、確かに以前の世界で見た瑠璃よりも、今の瑠璃の方が活き活きとしている

内心で、アキトに謝るユリカ

・・・・ごめんねアキト、瑠璃さんの力を頼るような事して・・・・でも・・

・・・・ユリカは瑠璃さんの力に頼ってでも、ナデシコを守る、守らないとならない・・・・・

・・・・神様、もし本当に居るのなら・・・・

・・・・もし歴史の修正力なんて物が本当にあるのなら・・・・

・・・・その罰はユリカだけに与えてください・・・・

この逆行では、火星の生き残りの人達のような、『本来死ぬ予定だった』人達を助けている

『本来死ぬ予定だった』人達が助かったという事は、『死なずに済むはずの人達が命を落とす』事もあり得るということ、それが、『ナデシコのクルー』にならない保証は無い

だから、ユリカはベストを尽くす、いや、尽くさざるを得ない、戦場は余裕を持って生き残る事が出来るような甘い場所では無いのだから

それが、『歴史』にどんな影響を与えるのか解らなくても・・・・・・・


 


「ナナフシ攻略その物は、そんなに難しくないんです、ただ、軍の方がどう出るか?、軍の目的が私の読み通りなら、なんだかんだと理由を付けて協力はしてくれない筈です」

・・・瑠璃さんの言った通りか・・・

ムネタケの要請で、軍に協力を求めてもなんだかんだとはぐらかし、協力してくれない

ナナフシがそれほどの脅威ならば、ナデシコ単艦に任せたりはしない筈

軍が協力してくれないのなら、『単艦でのナナフシ撃破』を考えなければならなくなる

と、ユリカは思っていたのだが

「マイクロブラック砲の威力は確かに脅威ですが、こちらがその事を知っている以上、ぎりぎりでかわす事も出来ます、操舵士のミナトさんならそのぐらいの腕は持っている、問題はむしろジョロやバッタの方、ともかくやたらと数が多い・・・まあ、何時もと代わりませんね、その辺りの事は、ただ、『ぎりぎり』というのは出来る限り避けたい、だから」

「だから?」

「軍が協力してくれないなら、『ネルガル』に協力を求めましょう、老朽艦を自動操縦で囮にするだけでも、作戦成功率は跳ね上がります、幸いにもナデシコにはネルガルの会長も乗っていますから」

そんな調子で、二重三重の策を練っていった瑠璃

軍が協力してくれる場合、ネルガルなら協力してくれる場合、単艦でナナフシと戦わなければならない場合、そして、それらが失敗した時の次善策等々、思いつく限りの全ての策を

『アキトを、そしてナデシコを守る為』に

そんな瑠璃を見ていてユリカはつくづく思ったという

・・・瑠璃さんに勝てなかった訳だ・・・と

そして、もう一つ

・・・もし、瑠璃さんが敵だったら、これほど恐ろしい相手も居ない・・・


 


「艦長、上手くやってくれるかな」

食堂の勤務をこなしつつ、思う瑠璃

・・・やっぱ、駄目だなあ、歴史に干渉しないようにって気をつけても、やっぱりアキトさんの事が心配で・・・・・・

いざという時の為に、まとめておいたナナフシ攻略の為のプランを全てユリカに話してしまった

瑠璃は怖いのだ、アキトがエステバリスで出撃する度に

何度、『パイロットを降りて、コックに専念してください』と頼みたかった事か、だが、それが出来るようなアキトでない事も解っている、だからこそ『自分が好きになったアキト』で有る事も

「本当に、人を困らせてくれる人です、アキトさんは・・・」


 


ナナフシ攻略の前に、シミュレーターで必死にエステの模擬戦を繰り返すアキト

その姿には、鬼気迫る物が有る

「ほらほら、そんなんじゃ瑠璃さんを未亡人にしちゃうよ!!」

「瑠璃を未亡人になんて、してたまるかっ!!」

軽口をたたきながら、アキトの相手をしているアカツキに対して絶叫するアキト

アカツキ、ヤマダVSアキトの、2対1の戦いで有る為、アカツキにはそんな余裕もある

「くくっ、やっぱ、『特訓』って奴は燃えるぜっ!!、行くぞっアキトっ!!」

そして、アカツキ機と同時にアキト機に突撃していくヤマダ

 

「お〜、熱い熱い(にやり)」

そんな姿を面白そうに見ているパイロット3人娘達

「アキトの奴、瑠璃さんが絡むと普段の3倍ぐらいは気合が入るよな」

呆れたような、感心したようなリョーコ

「気合が3倍入っても、力量が3倍になる訳じゃないけどね、精々1.2倍、人の力なんてその程度の物」

変な所で冷静なリアリストのシリアスイズミ

アキトは自分を追い込むような厳しい訓練を好む

「俺はコック兼パイロットだし、パイロット専門のみんなより密度の濃い訓練しないと、いざと言う時迷惑かけちゃうだろ」

そう言って、どちらの仕事も手を抜かない

・・・『瑠璃さんは、テンカワの奴には勿体無い』・・か、そんな事言ってる奴らのどれだけがアキトのこんな姿を知っているのやら・・・

そんな事を思うリョーコ

そして・・・

「・・・・ばか・・」

こっそりと、アキト達の訓練風景をブリッジで覗いていて、思わず呟いてしまったルリ

その『ばか』が、誰に対しての物なのか・・

アキトに対しての物なのか、それとも、アキトの瑠璃への想いの強さを見てしまい、何処か心の痛みを感じている自分自身への物なのか、ルリには解らなかった

 

結局、ナナフシ攻略その物は、あっさりと終わる

ネルガルから借りた老朽艦を囮にして、囮艦を撃つ為に回頭したナナフシの背後からのナデシコのグラビティブラストの一撃

だか、この話はそれだけでは終わらない・・・・

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後書き

ナナフシって、ちゃんと考えれば欠陥兵器だなと

まあ、『必殺技を絶叫する超人アキト』と一緒で、あえて目を瞑るべき所なのかもしれませんが(苦笑)

そうそう、この話では今まで名前は出さなかったけど実はヤマダジロウ生きてました(笑)



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