敵艦12隻に追われているナデシコ

敵を倒さなくても逃げきれば勝利なんですが


機動戦艦ナデシコ再構成

The fiance of a guinea pig

第28話


「じゃあ、ウリバタケさん、整備班の皆さん、お願いします」

「おおっ、任せときな、こちとら整備のプロだっ、そうだろ、野郎供っ」

「おお、やってやりますよ、班長」

「皆さんの事、信頼してますから」

ジュンが整備班に頼んだ事、それは当たり前の事でしかない

派手な活躍にばかり気を取られて、当たり前の事を当たり前に確実にしてくれる事のありがたさが解らない人間は多いが


 


「ミナトさん、ナデシコの速度を30%アップしてください」

「良いの?、本当にそんな事して」

「ええ、大丈夫です」

ユリカが目をつけた事は、敵の艦隊が『混成部隊』であり、それぞれの艦の最高速度には差があると言う事

地球軍の今までの戦いのデータから考えた場合、ナデシコが速度を30%ほど上げれば、ついてこれる艦は3隻、9隻を戦わずして追撃から脱落させる事が出来る

では、何故最初からそれをやらなかったか、いや、やれなかったかといえば、理由はある

ナデシコは、地球で最初の相転移エンジン搭載艦、最初から全速力で長期間巡航し続ける事には、どうしても不安があったのだ、故に巡航速度にはどうしても余裕を多めにとらざる得なかった

とはいえ、火星から地球まで残り半分の距離となり、ナデシコのクルー達に疲労の色が見え初めた今、敵の総攻撃が何時始まるか解らないと判断したユリカは、ここで賭けに出る

敵の総攻撃が始まる『前』に速度をアップして少しでも多くの敵を戦いから脱落させる、総攻撃されても12隻の総攻撃よりは、3隻の総攻撃の方が生存確率は高い、またクルーの精神的な負担も、多少は減る

とはいえ、それはナデシコの相転移エンジンや機体がトラブルも起こさずカタログ通りの性能を発揮してくれてこその話

どんなに優秀な機械でも、その性能以上の能力を発揮する事は出来ない、そして、機械の性能を100%発揮させる為には、普段からの整備が欠かせない

ジュンが整備班に頼みにいったのは、そういう事なのだ

「これから、整備班の皆さんには今まで以上に負担をかける事になるかもしれません、ですが皆さんには艦長のユリカやエステのパイロット以上に、ナデシコの運命がかかっています」と

普段は裏方に徹している整備班だが、そういって貰えれば士気も上がる

アオイジュンという、影が薄くても縁の下の力持ち役に徹している人間に親近感を感じたからこそ、余計にという事もあるが

故に整備班はジュンに好意的で、アキトよりもジュンの応援をしている者も多い

「俺たちも頑張るから副長も頑張ってください、艦長との仲、応援してますよ(にやり)」

「だっ、だっだっだっ、だから今、その話は無しっ、無しだから(赤)」

結局、ジュンは、その性格故に整備班の面々にからかわれてしまう、そんな事まで報告する訳が無いのでユリカはそこまでは知らないが

整備班の実力は、ジュンやエステバリスのパイロット達から聞いている、ユリカがナデシコの速度を30%アップするのは、分の悪い賭けではない

だが、それでも3対1


 


48時間後・・・

「ルリちゃん、どう?」

「付いて来れる敵戦艦は3隻、艦長の思惑通りです」

「メグミさん、整備班に回線つないで、相転移エンジンの調子を聞いてみて」

「異常なし、順調だそうです」

「ミナトさん、操舵士のあなたから見て何か気づいた事とかおかしいとか思う事は?」

「順調よ〜」

ほっと、安堵のため息をつくユリカ

とはいえ、ナデシコについてくる戦艦は3隻、不利な事に代わりは無い

「さて、これからどうなるか・・・」

クルー達に聞こえないように小声で呟くユリカ

このまま、敵を振り切り何も起こらないでくれれば一番良い、だが、そう都合よく行くとは限らない

地球に援軍を求めはしたが、それでもナデシコと合流出来るのは10日以上先の話

だが、それでもまだマシな方、今、ナデシコは戦局を逆転させられるかもしれない兵器、「相転移砲」のデータをもっている、もし、火星からただ帰って来ただけなら、ギリギリで戦っている地球軍はナデシコの支援に動く事など出来なかっただろう


 


「〜♪」

悩むユリカとは対照的に、イネスフレサンジュは中々上機嫌だった

「ここは、実験も研究もやり易くて良いわ〜」

なにせ、今まで火星に居た頃は、実験や研究よりも生き残る為の雑事に追われていた、今は研究に専念する事も出来る

更に、先日覗いて確認した整備班の実力、なにか足りない物があったとしても、ある程度なら協力して自作してくれると言う

イネスはすっかりここが気に入っていた、故に地球に無事に戻れた後もナデシコに残る事になるのだが、それはまだ先の話

今、イネスフレサンジュが研究しているの相転移砲の事

もし、今の時点でそれが使えるのならば、ユリカももっと楽ではあったのだろうが


 


「艦長っ敵にエネルギー反応、グラビティブラストですっ」

ついに、木星トカゲの攻撃開始

「ルリちゃんっフィールドはっ」

「フィールドの出力は安定してます、この程度なら」

とはいえ、3隻の相手から次々に波状攻撃を受ければ、何時までもつか解らない、また、3隻の戦艦から『同時に』グラビティブラストの攻撃を受けても

「ミナトさんっ、お願いします」

「任せてっ」

プロのボクサーは、相手のパンチを見て避けている訳ではない、「相手のパンチが出る前に」予測して避けている、そうでないと間に合わないのだ

また、常に頭を振り、敵の攻撃の狙いがつけられないように動く

敵の攻撃を受けているナデシコも同じ事、操舵士のミナトの役割は大きい

「ルリちゃん、チャフロケットはっ」

「準備出来てますっ、何時でも発射出来ますっ」

「メグミさんっ、エステバリス隊はっ」

「何時でも発進出来ます」

矢継ぎ早に指示を出していくユリカ

敵は、ナデシコに対して横一列にある程度の距離をとって並んでいる

「ルリちゃん敵の攻撃の間隙をついて通常のミサイルとチャフロケットとエステバリス隊を同時に出して、チャフロケットはミサイル着弾の10秒後に、左翼の艦から順番にエステバリス隊に攻撃させる」

「了解ですっ艦長」

チャフ

敵のレーダーを誤魔化す為に、空中に散布する、通常は自分の姿を相手のレーダーから見えにくくする為にばら撒くが、今回の場合はすこし使い方が違う

なんとか敵の攻撃の間隙をぬって、ミサイルとチャフロケットを発射し、エステバリス隊を発進させるナデシコ

とはいえ、その瞬間は、ナデシコにとってもっとも危険な時間

エステバリスを発進させる時、あるいはナデシコ側から攻撃する時は、どうしても一時的にディストーションフィールドを解除しなければならない、とはいえ、それは敵にとっても同じ事

発射されたミサイル群の後を追っていくエステ

「ミサイル着弾、チャフロケット、10秒後に第一陣爆発させます」

ロケットが爆発し、敵艦の周りに大量のチャフがばら撒かれる、これで敵艦はしばらく目と耳を潰され、エステ隊がそれを利用して、一斉に左翼の艦に向かう

フィールドを張れない地球側の艦ならば、こんな時、迎撃用のミサイルを撃つなり、弾幕を張るなりしてミサイルを撃ち落すが、木星トカゲの無人戦艦は、直接自艦へ当たる攻撃に対しては、フィールドを張って防御を固める、フィールドを張った敵艦を沈める事は難しい、が、敵艦もその間は攻撃も出来ない

左翼の敵艦に向い、一斉に襲い掛かるエステバリス隊

「ガーイっ、スーパーっっっっ、ナッパァァァァァァァァ」

必殺技を絶叫しつつ、敵艦にパンチを食らわせるヤマダジロウだが、敵のフィールドを破る事が出来ない

「はっ、恥ずかしい奴・・・」

呆れているリョーコ

「くっ、よしっ、アキトっ、例の奴だっ」

「・・・やるのか?、本当に?」

「やるっ!!」

「あー、もー、しゃあない、いくぞっ」

「「ダブルゲキガンフレアッ!!」」

要は、エステバリス2機で同じ場所をパンチで攻撃するだけであるが、効果はあった

言うまでも無いが、必殺技を絶叫した所で威力が上がる訳ではない、アキトも付き合いが良いというか・・・

それでも、敵艦のフィールドが破れた事には変わりはない、その隙を狙って、集中攻撃をかける、エステバリス隊、そして

「「爆発に巻き込まれる前に離脱するぞっ、ヤ『ガイッ』」」

「おおっ、解ったぜアキト」

リョーコとアキトの台詞が被るが、ヤマダには「ガイ」と呼んだアキトの言葉しか聞こえなかったらしい・・・都合の良い耳をしているというか・・・、

「さあ、次いこ〜」

気楽そうなヒカル、心の中まで気楽な訳ではないが

「左翼の艦撃破っ」

ナデシコから確認出来た、敵艦の爆発の閃光

「了解っ、ルリちゃん、ナデシコは右翼の艦にグラビティブラストっ」

「了解ですっ」

敵がフィールドを張っている以上、一撃で沈める事は難しいが、攻撃をされている最中は、向こうもフィールドを張る、それは右翼の敵の攻撃を封じ中央の敵と戦っているスエテバリス隊の支援となる・・・予定だったのたが

「あれっ・・・」

少々マヌケな声を出すユリカ

グラビティブラストの直撃を受け、爆発する右翼の艦、どうも、こちらを攻撃しようとフィールドを解除した瞬間に、こちらのグラビティブラストが直撃したらしい

どうも、人間、難しく考えていた事が、あっさりと向うから解決されてしまうと、暫く放心状態になったりもするらしい

「艦長っ、次の指示は」

ミナトの呼びかけに、我にかえるユリカ

「こちらは、暫く様子を見ます、後はエステバリス隊に任せる」

そして、しばらくの後、敵艦の爆発の閃光がナデシコから確認された


 


時間にすれば、わずか十数分に過ぎない戦闘、だが、十数分で敵戦艦3隻を倒せた訳ではない

『それ以前の積み重ね』、地球軍が必死に戦って犠牲をはらいながらも積み重ねていったデータの積み重ね、ナデシコのクルー達の訓練の積み重ね、そして、幸運、それらが重なりあった結果

そして、『わずかな時間で倒した』のではなく、『短期決戦だからこそ、倒せた』と考えた方が正しいだろう

「艦長って、やっぱり、凄いんですね」

だからユリカは感心しきりなメグミに対して、笑顔でこう答える

「みんなのお陰」と

そして、そんなユリカの笑顔に、心がずきりと傷むルリ

今のユリカは、自分の目からみても魅力的に見える、もし、テンカワさんの目からみてもきっと・・・・と

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後書き

ちなみに、物語の中の戦闘シーンなんて物は、実際に艦隊や戦艦なんて動かした事なんてない人間が、想像で書いてる物なんだから、『現実的』に考えた場合に、おかしな事があるって、突っ込み入れられても、こっちはどうしようもないです

なんか、有能っぽいユリカ、『作者が』ユリカを優秀な艦長として扱う事は出来無くも無いんですが・・・

『優秀なユリカ』って物を、『少しでも多くの読者に違和感を感じさせない』ようにって考えると・・・難しいんですよねえ

こんなユリカは、ユリカじゃないっ思ってる人は、かなり沢山いそうな気がする(苦笑)

多分、ユリカって、『艦長がこんなんじゃ駄目だろうって事を、あえてやらせる事でギャグにしている』けど『普段はいい加減に見えても、いざと言う時にはやる』って、『設定』のキャラなんだとは思うけど

本編のナデシコが『設定が納得出来るだけの内容』になってないし・・・

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