捜索隊の人達、ナデシコに無事回収することが出来ました
その事で話があると、艦長に呼び出された私
一体、私になんの用があるのでしょう?
機動戦艦ナデシコ再構成
The fiance of a guinea pig
第26話
「電子ロックを外すって言っても、ソフトには強いけど、ハードには弱いですよ、私は」
「ん〜、そっか、じゃあやっぱり誰かもう一人必要だよね、ルリちゃん以外にもハードに強い人が」
ナデシコに戻ってきた捜索隊の報告を聞き、色々と考えているユリカ
何かいいたそうな顔の捜索隊のメンバー達
折角見つけ出した生き残り、少しでも多くの人達を助けたいというのが人情という物ではあるが・・・
「ナデシコはこのまま帰路につくべきです、艦長」
捜索隊の隊長の非情ともいえる意見
『人の情』、時にそれは戦場でもっとも悲惨な末路をもたらす物
ナデシコの安全、そして回収した火星の生き残りの人達の命を考えるのならば、このまま地球への帰路へつく事が最も安全性が高い
火星に留まる時間が長ければ長いほど、ナデシコが攻撃され撃沈される可能性も高まる、それでは何の為に生き残りの人達を回収したのかわからない
捜索隊の兵士たちも、『理屈では』解っているのだ、だが『感情』は?
だからこそ、『人の上に立つ者』の決断が重要になる
「そうね、ナデシコはこのままとっとと帰るべきね」
ムネタケもこのまま帰るべきだという意見である
とはいえ、内心の違いはあるが
隊長は、『悩んでいない振り、非情な振り』だがムネタケは『本音』
だが、どちらにせよ、恨む人間には恨まれる事には変わりはない
「い〜い、よく考えてちょうだい、その小娘に代わりは居ない、もし、余計な事をして、その小娘が戻ってこれなくなったら?、木星トカゲだってこのままナデシコを黙って帰らせてくれるとは限らないのよ、そうなればオペレーターの居ないナデシコはどうなると思うのよ?」
「・・・・・」
ムネタケの問いに答えられないユリカ
「あたしは、いざとなったら捜索隊は見捨てるべきって言った、捜索隊の兵士達にも見捨てられる覚悟はしておけとも言った、でも、捜索隊を見捨てる事とその小娘を見捨てる事は訳が違う、一人でも多くの人の命を救う為には、絶対に必要な存在なのよ、ナデシコのオペレーターは」
ムネタケは、この手の自己正当化は抜群に上手い
ナデシコが無事に地球に帰れた方が自分の評価も上がる
本音を言えば、『出世』を考えているだけである
が、言っている事自体は正論、反論のしようがない
そして、捜索隊のメンバー達にも、『火星の生き残りの人達を少しでも多く助けたい』気持ちは当然あるが、『自分の命を守りたい』生物としての本能からくる当然の気持ちも持っている
「確かにあたしは捜索隊にいざと言う時には見捨てられる覚悟をしておけと言った、でも、それはあくまでも『いざと言う時』の話、余計な危険を冒せとはいってないわよ、捜索隊は出来る限りの事をやって来てくれたの、これ以上あたしの部下を危険に晒す気なの、あなたは?」
こんな時だけは、部下想いになるムネタケ
出世の為には平気で他人を踏みにじる、何時ものムネタケを知っている兵士達は少々呆れ顔である
が、だからといってムネタケの言い分に反論出来るかと言えば、別の話
火星に長く留まる事が、ナデシコを余計な危険に晒すこと自体には反論のしようがない
だからこそ、兵士達はムネタケが嫌いなのだ、『理屈』では反論出来ない正論をいうムネタケを『感情』が毛嫌いをする
だがそれでも・・・
『結果的にムネタケ指揮下での兵の死傷者数の少い事』もまた事実・・・
ゆえに、嫌々ながらも従う、いや、従わざるえない兵士達も多い
「艦長、絶望的になった人の集団を、一番暴走させ易いモノってなんだと思います?」
ユリカに質問をする捜索隊の隊長
「・・・?」
答えられないユリカ
「『希望』です、絶望的になった人達はほんのわずかでも希望の光が見えれば、そこに殺到する、でも、その希望に裏切られた時は?、もし、ホシノルリが電子ロックを開けられなかった場合、その怒りの矛先が彼女に向かう事もありえるんです」
結局、ナデシコはこのまま地球へと戻ると決断するユリカ
少しでも多くの人達を助けたい気持はあるが、『艦長』、『最高指揮官』の立場ともなれば、個人の感情を優先させる訳にもいかない
とはいえ、『助けられるかもしれない人達を見捨てる』事の後味の悪さが消える訳ではない
ルリには、そんなユリカの苦悩は良く解らない
ムネタケに『小娘』扱いされた事には少々腹が立ったが、合理的判断ではムネタケの言い分の方が正しい
『理屈』では人の情というものが解っても、『実感』が伴わないのだ
そして、そんな『人形のような自分の心』とユリカの苦悩を比べると、『アキトの心』がどちらへ傾くか心配になってしまう
今のルリのとっては、まだ、『人の情』というものが『実感』を伴って理解出来るのは、『テンカワアキトが絡む』時だけ
正直な気持を言えば、このままナデシコが地球に戻る事になった事で、これ以上アキトが危険な目に遭わずに済むという嬉しさの方が勝る
ユリカはこの事をアキトに・・・いや、ナデシコのクルー達に伝えてはいない
知っているのは一握りの人達だけ、知られてしまえば揉め事になる事は目に見えている
「ルリちゃん、この事はナデシコのクルー、特にアキトには言わないでね、アキトってこんな事聞いたら無茶しそうだから」
辛そうに、ルリに言ったユリカ
確かにアキトなら無茶をしかねない、その事をユリカに言われるまで気づく事の出来なかったルリ
自分はユリカに負け続けているような気がして仕方が無い・・・・
・・・もし、艦長が火星の人達を見捨てるって事を知った時には、テンカワさんはどうするんだろう・・・
・・・もしかしたら、艦長の事が嫌いになって、私の方に振り向いてくれるんだろうか・・・
そんな事も想像してしまい、自己嫌悪に陥りもする
ユリカが地球へ帰る事を決めたのは、『ホシノルリの安全』の事を考えたからでも有るというのに・・・
「ウリバタケさん、相転移エンジンの調子はどうですか?」
「おおっ、順調だぜ副長っ!!」
笑顔で答えるウリバタケ
ジュンはクルーとの調整役を自ら引き受け、細かい部分での士気の維持に色々と苦労して来ている
「頑張って下さい、ナデシコは僕が居なくてもなんとかなりますけど、整備班の人達が居なければどうにも動けませんから」
「おいおい、そりゃいくらなんでも自分を卑下し過ぎだぜ、副長(苦笑)」
苦笑いするウリバタケ
「そんなだから、艦長に自分の気持を気づいてもらえないんですよ」
整備班の一人にからかわれ、真っ赤になるジュン
「なっ、なんでその事をっ(真っ赤)」
「いや、解らないのは艦長ぐらいだと思いますが」
呆れてしまう整備班員
「まったく、こんなに良い男が近くに居るっていうのに、なんで艦長は気づいてやれないのかねえ・・・」
しみじみと話すウリバタケに、うんうんとうなづく整備班の面々
艦長としての経験不足から来る事もあるのだろうし、ユリカ自身の性格から来る物もあるのだろうが、、ユリカには抜けている部分があり、その部分を埋めているのは、影でのジュン
「影」の部分での恩恵を見える形で受けているクルー達には、ジュンへの信頼は厚い
もっとも、「影」の部分は見え難いモノであり、知らないクルー達には『影の薄い副長』でしかないのだが(苦笑)
ジュン自身、それを納得ずくでやっているような所もある、損な性格である
「良い人過ぎるんですよねえ、副長は」
「そうそう、良い人過ぎる、だから、テンカワごときに遅れをとる」
遅れをとるもなにも、アキト自身がユリカに対して何かをやった訳でもないのである、自分の方がよっぽど、ユリカの為に苦労して来ている、ジュンとしてはそれが不満だ
が
「いっ、いや、テンカワ君だって頑張ってるんだし(汗っ)」
それでも、自分の恋敵をかばってしまうジュン、とことん良い人というか・・・
やがて、「影の部分のジュンの功績」に気づき、彼に惹かれ始める元気な少女がいたりするのだが、それはまだ先の話
「おいおい、駄目だろそれじゃあ、テンカワから艦長を奪い取るぐらいの気概がなくちゃあ」
「いっ、いや、あの・・あっ、そうだ、仕事、仕事、じゃあっ!!」
その場を誤魔化して、何処かに行ってしまうジュン
「なあ、あれで副長、大丈夫かね?」
「無理じゃないですかねえ」
ジュンの後姿見送りながら、人事ながら心配になる整備班の面々であった
だが
そんなジュンでも知っている、これからナデシコは『助けられるかもしれない人達を見捨てて』地球への帰路へにつくのだと言う事を
「では、これよりナデシコは地球への帰路につきます、折角、生き残りの人達が見つかったんです、みんなで頑張って無事に帰りましょうっ、ぶいっ!!」
自分の悩みなど、欠片も見せないユリカ
そして、ユリカの苦悩など知らない、ほとんどのクルー達
「どうも、あの艦長って頼りないよなあ」
「何にも考えて無さそうだしなあ」
ユリカのそんな姿にそんな感想を持つクルーも多い
悩みをクルーの前では見せない事も、艦長としての仕事でもある
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後書き
・・・あっ、そういえば、今回アキトの出番が無い・・・(汗っ)
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