ついに火星へと到着

地球を出てから今まで、地道に火星の観測をしてきた成果もあり、もっとも敵影の薄い場所から戦う事無しに火星に降下したナデシコ

この後は木星トカゲ以上に、『時間』が敵になります

 


機動戦艦ナデシコ再構成

The fiance of a guinea pig

第15話


 


火星へ降下する前日の事、アキトが居ない時を選んでルリに相談をしに来たユリカ

「ルリちゃん・・・言い難い事なんだけど・・・・・」

なにか、決意を込めた様子のユリカ

「・・・・・・・どうしたんです?」

「・・・・アキトの事なんだ・・・」

「テンカワさんがどうしたんです?」

なにか、言い知れぬ不安が沸きあがってくる

テンカワさんはユリカさんを選んだ?

それをユリカさんは言いに来た?

それがルリが真っ先に考えてしまった不安

 

しかし、ユリカがルリに話したのは、火星の捜索隊の事


 


そして、翌日、火星へ降下し生存者の捜索隊を出発させた日のブリッジでの会話

 

「なんか、随分無茶な事させてるように見えるんですけど?」

メグミが、コロニー探索に向かう部隊をみて呟く

「なんで、「歩いて」なんて行かせるんです?、危なくないんですか?艦長」

「・・うん、みんな悩んだんだけどね、でも、これが実は一番安全で成功率が高いかもしれない方法なんだ」

「歩いて行かせる事が?」

怪訝そうなメグミ

「メグミさん、ヒバリの習性って知ってる?」

「鳥の雲雀ですか?、艦長?」

「そう、ヒバリ」

「ヒバリってね、自分の巣に直接戻らないで、一度離れた所に降りてから巣まで歩いていくんだ、自分の巣を外敵から見つけ難くして雛を守る為に」

「どう言う事なんです?」

「つまりね、ナデシコをヒバリって考えてみて、火星は敵地で何処に監視の目が光っているか解からない、もし、火星の生き残りの人達が居たとしても迂闊に近づく訳には行かないの、もしかしたら、『ナデシコの存在その物』が敵を呼び寄せて戦闘に巻きこむ事になりかねないから」

「でも、レーダーとかでちゃんと監視してれば」

「ううん、仮にレーダーに敵影が無かったしても、『近くにはレーダーに写る敵は居ない』って意味でしかないの、ステルス性の高い敵も居れば、レーダーの監視の目を逃れる方法も幾つかあるし・・・それがあるからこそ、ナデシコだって、『敵地の火星での単独行動』なんて無茶も成功の可能性があるんだから」

「フクベ提督やムネタケ副提督の部下のプロの軍人さん達25人で捜索隊を組織して、その人達をコロニーからやや離れた場所に下ろして『歩いて』コロニーに向かってもらう、原始的でまどろっこしく思われるかもしれないけど、『木星トカゲの習性』を考えれば、一番安全かもしれない方法なの」

「・・・・ジョロやバッタは直接人間を襲う事は少ないですから、地球でのデータでは」

ルリが話に加わる

「ユートピアコロニー周辺は、チューリップの勢力圏下で、ナデシコで行くにしろエステでいくにしろ、何時敵に襲われるか解かりません、その事を考えれば『徒歩』って言うのは1番安全かもしれないんですよ、絶対とは言えませんが」

「それに、コロニーって一言で言っても広いですから、どうしてもコロニー全体を調べる為には、人手や時間が必要になるんです。」

「・・・解かりました、でも、よくこんな怖くて大変な事引きうけてくれましたね、軍人さん達」

「あの人達は、あの人達なりに自分達の役目を果たそうとしてくれているの、だから、私達も頑張ろう、メグミさん、ルリちゃん」

 


 


「しかし、損な役割を引き受けたものですね。隊長」

「仕方ないさ、こんな役割軍人の自分達以外に誰がやる?、あの戦艦のクルーのほとんどは民間人なんだから」

不機嫌そうな隊長

「でも、あのテンカワアキトって連れてきても良かったんじゃ?、ユートピアコロニー出身なら少しは探索の役に立ってくれるかもしれないし」

「駄目、俺はあの男の事大っ嫌いだから、ロリコン野郎だし」

笑いながら答える隊長

「はあ、ロリコン野郎は大っ嫌いですか、そう言えば隊長の娘さんも11歳でしたっけ・・・でも」

苦笑いをしながら答える部下達

「俺にはもっと嫌いな奴が居ますけどね、どっかの副提督とか」

等と会話をしながら、例の『SOS』の文字の周辺と、ユートピアコロニーへと向かう隊長達一向

 

ユートピアコロニーから、南に約10キロ程の位置に降ろされ目的地に向かう一行は、徒歩で北上しながら生存者を捜す

通信は木星トカゲ達に傍受されないように、よっぽどの緊急時以外禁止されている為、ナデシコとの連絡もとれない

彼等の装備は、最小限度の武装と7日分の食料、緊急用の医薬品

生存者が発見出来ようと出来まいと、7日後には、降ろされた元の場所に戻ってナデシコを待つ

 

もし、何らかの理由で、帰れなかったとしてもナデシコはそのまま捜索隊を見捨てて地球へ帰るべき

 

ムネタケは、そうするようにユリカにも、生存者の捜索隊にも言っている

 

敵地である火星に長く留まれば、それだけナデシコを危険にさらす

この戦いは、短期決戦

時に、『味方を見捨ててでも艦を守る』事も艦長の役割、そんな任務に民間人のアキトを連れていく訳には行かない

 

実は会議の時にこんな一こまが有った

 

「ユートピアコロニーに行くなら、アキトもメンバーに入れてくれませんか?、土地感の有るアキトが一緒に行けば、探索の成功率も上がるし」

「うん、そうねぇ・・・・・・」

ムネタケもしばしユリカの意見について考えてみる。

確かにその方が、作戦の成功率が上がる。

無駄な損失を出さずに作戦が成功すれば自分のプラスだ。

それに失敗しても、何となく反抗的なあのアキトとかいう男を「アタシのナデシコ」から追い出す事が出来る・・・・・・

そこまで考えてムネタケはハタと思う。

作戦が失敗した場合・・・・・・

「駄目よ!テンカワ・アキトの同行は許可できないわ!」

語気も荒くいうムネタケに、

「どうしてなんですか!」

食って掛かるユリカ

「なんで?今のあなたの態度がその答えよ!

ことテンカワ・アキトのことになると、あなたは冷静じゃなくなるじゃない。」

「もしテンカワ・アキトを同行させて、パーティに何かあった場合。」

「艦長は幼馴染のテンカワアキトを見捨てる事はできるの?」

「あのオペレーターの生意気な小娘は?婚約者のテンカワアキトを見捨てる事が出来るの?」

ユリカには何も言えない。

ユリカは、アキトにふさわしくなるべく、艦長としての自分を高めようとしている。

しかし、ことアキトの命に関わった場合は、自分は艦長として行動できるのか?

アキトをユートピアコロニーの探索に参加させる事は、もし、万一の事が有ればナデシコという艦その物を危険に晒しかねない

そのムネタケの指摘に、ユリカは反論できなかった。

そして、いまこの場には居ないルリの事

ルリは、「アキトを守る」為に自分という恋敵に塩を送ってくれた・・

そんなルリが、いざとなればアキトを見捨てる事など出来るだろうか?

確かにムネタケの言う事は正論では有る

たとえそれが、みえみえの『保身』の為の言葉であったとしても

ムネタケサダアキを『副提督』の地位まで上り詰めさせたモノは皮肉にもまさにその部分

今までは『味方でも見捨てる事が出来る』ムネタケ指揮下での部下の死傷率は『結果的に』低いものだったのだ

部下には嫌われているが


 


 

「ムネタケ提督に言われた事・・・ルリちゃんにも言っておかないとならないの・・場合によっては「味方を見捨ててでもナデシコを守る」、「アキトを見捨ててでもナデシコを守る」のがユリカの・・艦長としてのユリカの役割なんだって・・・・・」

「なんで私にそんな事を言うんですか?」

むっとするルリ

そして一瞬言いそうになる

私はテンカワさんを守る為に苦悩しているのに

『テンカワさんを見捨てるって、ユリカさんの想いはその程度のものだったんですか』・・と

だが・・・・

言うより先にユリカは急に目に涙を貯め・・・子供のように泣き出してしまう

「うう・・・・ふえ〜〜〜〜ん、アキト〜〜〜〜」

「ゆっ、ユリカさん?」

焦ってしまうルリ

ユリカはしばらくそのまま泣き続け・・・

「ううっ・・ひっく、ごめんルリちゃん・・ひっく・・・もしかしたらアキトの事・・って思ったら・・ぐすっユリカ悲しくなって・・・」

「ユリカはどっちも守りたいの・・・ナデシコもアキトも・・でも、どっちも守る為には、『いざとなればどっちかを見捨てる覚悟』が必要なの・・・・・だから・・」

そんなユリカを見て、ルリは自分が恥ずかしくなってくる

ユリカは『艦長』

それが『艦長』の役割

そんな中でこの人は、本当にどっちも守ろうとしている

でも私は・・・・

自分とテンカワさんの事しか・・・・・・・・

「艦長・・わかりました・・・艦長も辛い立場なんですね・・」

「でも、まだ、何も起ってない時から泣くのはやめてください、艦長と私がしっかりしてればどっちも守れるかもしれないんです」

「・・・そうだよね・・ルリちゃん、私達は今出来る事をしっかりやっていくしかないんだよね」

「はい」

今まで苦悩してきたルリ

だが最初から答えは出ていたのだ

今出来る事をしっかりとやる

他に何がある

 

次の話へ

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後書き

まあ、キャラを壊すようなアキトの争奪戦じゃなくて、『御互いを成長させる』争奪戦が有っても良かろうって事で

今回の話には、やりたかさんから追加してもらった文が一部入ってます

やりたかさん、どうもありがとうございました



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