戦闘がシステム化、組織化した現在では、艦隊の中での僅か一艦の艦長の役割は薄れているかも知れません

でも、ナデシコでは違います

艦隊の中の一隻なら多少のミスもフォローしてくれるかもしれませんが、火星に行く艦は『ナデシコ一隻』だけ

『艦長の行動』はナデシコの全運命を決めるもの・・・・

そして、火星の人達・・・生きているかどうかも解からない人達の運命も・・ユリカさんは背負っています


機動戦艦ナデシコ再構成

The fiance of a guinea pig

第12話


火星へ到着するまでの間にやるべき事は多い

想定できるあらゆるシミュレーションはしておかなくてはならない

むろん、全ての状況に対処する事など出来る物ではない

『対処できない』事態に対しては、

『何故、対処出来ないのか?』

『対処出来ない事態に追い込まれない為にはどうするべきか?』

等の事も考えておくのも重要

とは言え、それでも人の能力には限界がある

想定外の事態が起こる事など、実戦の場では日常茶飯事の事

学生時代の教官の、そんな言葉を思い出しながら、日夜、火星の観測とクルーの訓練とシミュレーションに明け暮れるユリカ

そして、

 


 


「ふえ〜〜〜、疲れたよ〜〜〜〜〜」

とアキトとルリの部屋で、テーブルに突っ伏しているユリカ

ユリカは3日に一度はアキトとルリの部屋に泊まっていく

「艦長、御疲れさまです」

とユリカにお茶を出し労うルリなのだが

「す〜〜〜」

「艦長?」

どうやら、そのまま眠ってしまったらしい

「艦長も大変なんですね・・・・・・・」

ユリカの寝顔を眺めながら思う

今はもう、以前感じたユリカに対する不信感はなくなっている

自分の気持ちの変化に戸惑っているルリにとっての、恋敵であるユリカが不思議と憎めない

この人には勝てないかも知れない・・・・・

そもそも、最初から勝ち目がある筈が無い

11歳の少女をテンカワさんがマトモに恋愛の対象として見てくれる筈が無い

テンカワさんがはっきりとユリカさんを選んでくれれば・・諦める事も出来るかもしれない・・

どうせ、テンカワ・アキトにとって、「ホシノ・ルリ」は火星に行く為の取引の材料

そう考えて割り切るべきなのかもしれない

 

でも・・・・

 

アキトと最初に出合った時の言葉を思い出す

 

『ルリちゃんに好きな人が出来たら、その人と結ばれて欲しい』

テンカワさん、あなたの事が好きになっちゃったら・・・・どうすればいいんです・・・・

 

 

 

「あれっ、ユリカ寝ちゃった?」

アキトが、台所から顔を出す

「はい、やっぱり疲れてるみたいです」

「そうか・・・ユリカも少しは気を抜いた方が良いのにな・・・」

「テンカワさん、この間、「ユリカは気の抜きすぎだっ」って言ってたじゃ無いですか」

「いや、あの時は」

困ったような表情のアキト

「解かってます、あの時は私も思いましたから・・・・・・・」

「ユリカ・・人前じゃ弱音を見せようとしないんだよな・・・「私は艦長だから」って」

 

「うっ、う〜〜ん」

そんな話をしていると、目を覚ますユリカ

「あっ、御免、なんかうたた寝しちゃってたみたいだね」

「いえ、でもユリカさん無理しすぎなんじゃ?、以前、私の変わりは居ないって言ってくれましたけど、艦長の変わりだって居ないんですか」

「ううん、ユリカの変わりだったら居るよ、ジュン君も、フクベ提督もムネタケ副提督も」

フクベやムネタケの名前を聞いて、アキトの表情が曇り、何か言おうとするが、その前にルリが厳しく告げる

「でも、ユリカさんの変わりは居ません、今の艦長は『駄目な艦長』になってます」

「えっ、そんな」

ショックを受けるユリカ

「今の艦長の一番駄目な所は、無理をしすぎてる所です、そんな事じゃ私が安心して仕事をする事が出来ません」

「・・・そっか・・御免ねルリちゃん心配させちゃって、ユリカもう眠るから」

 


 


「ルリちゃん、ありがとうユリカを叱ってくれて」

「いえ、私も艦長の事心配でしたから」

ルリにとっては、自分の為ではなく「ユリカの為にユリカを叱った」のは初めての事

 

ユリカが眠り、ルリは聞きたくなって来た事を尋ねる

「テンカワさん、今の艦長をどう思います?」

「ユリカ・・随分しっかりしてるよ、俺なんかよりずっと」

「そうじゃないんです、あの・・・・・」

「・・・・・?」

「ユリカさんの事、「女性として」どう思ってます?もし、アキトさんがユリカさんの事好きだって言うなら・・・・私は・・」

「ルリちゃん、なにを?」

「元々、アキトさんは『遺伝子提供者』にさえなってくれさえすれば良い訳ですし、でも、火星出身者の人達が生き残っていれば、別にテンカワさんでなくても良いかも知れないんです・・・だから・・」

「ルリちゃん、本気で言ってるの?」

何時もと違い、怒っているアキト

ルリにとっては、アキトに叱られるのは初めての事

「テンカワ・・・さん・・」

「ルリちゃん、以前も同じ事言ったよね、でも俺は言った筈だよ、『ルリちゃんが本当に好きになった人と』って、ルリちゃんはモルモットなんかじゃないんだ、ルリちゃんはルリちゃんなんだから」

「でも・・テンカワさんの負担になってるんじゃ、私みたいな『子供』との婚約は」

「構わないそんな事は」

「そんな事って」

「俺とルリちゃんの婚約の事が広まれば、ネルガルだって無茶はし難いかもしれないだろ、ルリちゃんが好きでも無い相手と、無理矢理くっ付けられるよりはずっといいよ」

「だから、ルリちゃんに「本当に好きな人と結ばれる」まではこの婚約は破棄はしない、もっと自分を大切にして欲しいんだ」

テンカワさん・・・私をそんな風に大切にしてくれるのは嬉しい・・・でも・・

今の私には・・・・・残酷な言葉です

「最初の質問・・答えて貰ってないです・・・私に好きな人が出来たら、ユリカさんと・・・」

 

 

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後書き

今回は、同じ言葉でも御互いの気持ちの変化で別の意味を持ってくるって事が書いて見たかった



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