「ねえ、ルリちゃんの願い事って何?」
「ユリカさんと同じです」
「そっか・・・・アキトはやく帰ってこないかなあ・・・・」
しんみりとするユリカ
「帰ってきますよ、帰ってこなければ追っかけるまでです、あの人は私にとってもユリカさんにとっても大切な人だから・・・・」
「そうだよね、きっと帰ってきてくれるよね」
「ええ、アキトさんはきっと帰って来てくれます」
そんなしんみりとしたムードの中、場違いの困ったような声
「あの〜〜俺、帰ってきてるんですけど?(汗)」
願い
「駄目ですよ、『アキトさん』は、帰って来てない事になってるんですから、表向きは」
天の川を背景に、微笑みを浮かべなから答えるルリ
アキトは、一瞬みとれてしまうが、すぐに気を取り直し抗議の声を上げる
「いっ、いや、だからって俺の居る前でやらなくても(汗)」
「だって、昔から、敵を騙すにはまず味方からって言うじゃないですか」
ルリは、なんだか嬉しそうだ
「だから、本人の前でやっても意味無いんですけど(汗)」
「アキトさん」
今度は、急にきっとした表情
「うっ(汗)」
ルリの迫力に強張ってしまうアキト
「アキトさんが生きてるって事を教えてくれなくて、私がどんなに寂しい思いをしてきたと思ってるんです?」
それを言われると、何も言い返せない
「私は、根に持つ方ですから、こんな時ぐらい意地悪させてもらいます」
「アキト、ユリカだって怒ってるんだからね、ルリちゃんに寂しい思いをさせてたなんて」
ユリカまで加わられては、最早アキトに勝ち目は無い
こんな事になってしまい、少しだけ後悔するアキトだった(笑)
もっとも、ユリカもルリも、怒っていると言う割には、ほのぼのとしたムードを漂わせているが
そんな三人の姿を黙ってみているラピス
もし、アキトが本気で嫌がっているのなら、アキトとリンクしているラピスも嫌がっていただろう、だが、ユリカやルリと共に居て馬鹿をやっている時のアキトの心の温もりが心地よく感じられるからこそ、そんな姿を黙ってみている
二度と帰れないと思っていたアキト
だが、一度二人に会ってしまえば、その心は脆かった
アキト自身にも、そうなってしまうそうな予感は有ったのだろう、だからこそ、二度と会わないつもりだった
とはいえ、安心している訳ではない
表向きのコロニー襲撃の犯人は謎とされているものの、自分はコロニー襲撃犯
宇宙軍所属のユリカとルリは、本当ならアキトを捕まえなければならない立場
もし、自分と彼女達が一緒に居ることを知られてしまえば、どれほどマズイ事になるか?
だから、アキトは二人に会う時も慎重に行動する
ユリカやルリも、その辺りはわきまえている、もし、ばれてしまえば二度とアキトと会えなくなるかもしれないのだから
もっとも、アキトがコロニー襲撃犯である事がばれてしまえばマズイのは、ネルガルもネルガルと関係の深い宇宙軍も同じ事
そして、クリムゾンの関係者側も火星の後継者のあまりに非人道的なジャンパー誘拐や人体実験が白日の元に晒される事によって、立場が危うくなっている
コロニー襲撃の目的が『火星の後継者への復讐』となれば、『世間の同情』はどちらに集まるか?
そして、死傷者の多くが、『証拠隠滅の為に自爆させた』為だという事を世間が知れば?
迂闊にアキトの事に手を触れれば、薮蛇になりかねない
微妙なバランスの中で、アキト達の身の安全は保たれている
とはいえ、『だからこそ』アキトを闇から闇へと葬ろうとする勢力も存在する
ネルガルにも、軍にも、クリムゾンの関係者にも
『死人に口なし』と
ユリカもルリも、そんな事をさせる気は無い、だから、自分達の立場を出来る限り利用してアキトを守ろうとしている
二人が、アキト共に居たがる一番の理由は、ただ一緒に居たいからかもしれない、が、それだけではないのだ
そして、アキトが共に居るのも、ユリカとルリを守るため
「ユリカ君もルリ君も、君が生きてる事を知れば相当無茶をするよ、僕としては君が素直に帰ってくれた方がよっぽど動きやすいんだけどね、そうすれば、彼女達も僕の話に耳を傾けてくれるだろうし」
「もし、彼女達が君を追って無茶するような事があれば、それが、ネルガルにとって不利益な結果を生む事になれば・・・僕も覚悟を決めなければならない、ネルガルの会長として」
半分は、アキトを帰らせる為のアカツキのハッタリだろう
だが、残り半分は、『ネルガルの会長としてのアカツキの覚悟』
「僕は、ネルガルにとって危険になるようならテンカワ君をきっぱりと見捨てるよ、君一人とネルガルを天秤にはかけられない」
アキトが復讐を始める前にアカツキはそういった、だからこそアキトはアカツキを信頼している
ネルガルの会長は、友情だけで動くような甘い男では勤まらない
アカツキのその態度に、逆にどれだけ救われた事か
それでも、アキトは二人の元に帰る気にはなれなかった・・・
が、火星の後継者を倒した後のある日、会長室に呼び出され
「ユリカ君もルリ君も綺麗になったねえ」
(にやり)と好色そうな薄ら笑いを浮かべながら、アキトに話しかけてくるアカツキ
「テンカワ君、君と引き換えの取引で、彼女達に良からぬ事を要求したらどうなるかな?」
「アカツキ、お前っ!!」
アキトは憤怒の表情へと変わる
「君が、僕に文句を言える立場かい?」
「くっ」
「僕はどっちでも損はしない、君が帰っても帰らなくても、いや、むしろ帰らないでいてくれた方が良いかな、二人とも美味しそうだ」
「昔から悪代官って奴にあこがれててね、あの二人は君の為なら相当無茶な要求でも飲んでくれそうだよ、僕は結構好きなんだよ、そういうのが」
最初は怒りを感じたが、アカツキの本当に言いたい事が解ってくるアキト
「・・・・・・・そんなに俺を帰らせたいのか・・・」
「いったじゃないか、帰らない方がありがたいって、君が守りたかった物、穢したくなかった物を僕が穢してあげるよ、君は指をくわえて見ていれば良いのさ」
「お前は、そうやって悪役を演じるつもりか・・・・」
「演じたりはしてないさ、本気だよ」
「好きにしろ・・・」
『どうせ、自分を帰らせる為のアカツキの演技』
アキトはそう判断した・・が、アカツキはにやりと薄ら笑いを浮かべ
「じゃあ、好きにさせてもらうよ、ユリカ君、ルリ君、入ってきて」
「アキト〜〜〜〜〜」
「アキトさん」
物凄い勢いで、会長室のドアが開いたと思えば、入ってきたユリカとルリにしがみつかれる
「なっ(汗)」
完全に虚をつかれたアキトは、なすがままに二人に抱きつかれている事しか出来ない
「僕は、ネルガルの会長だよ、ネルガルの利益になる事なら何でもやるさ、ルリ君とユリカ君を敵に回すよりも、テンカワ君を餌に恩を売っておく方が、得策と判断したんでね(にやり)」
アカツキは、『してやったり』という顔
そう、アカツキは最初からこうするつもりだったのだ
「ああ、それとね、ユーチャリスとブラックサレナの使用料金、ユリカ君とルリ君に請求しておいたから、君が逃げたりしたら二人は莫大な借金を抱える事になるよ」
「なっ、だっ、駄目だ、ユリカっルリちゃんそんな事しちゃ、俺の為なんかに!!」
「構いません、私だってユリカさんだって、アキトさんの為なら」
真剣な表情で答えるルリ
「テンカワ君が、元に戻ってユリカ君とルリ君と共にネルガルに協力してくれるなら、少しは慈悲の心でみてあげても良いんだけどね(にやり)」
アキトの弱みを確実に突いてくるアカツキ
最早、アキトには帰るという選択肢以外は閉ざされていた
「結局、アカツキの手のひらの上で躍らされた訳か・・・・・弱いな、俺は・・・」
自分が帰ってきた理由を思い出し、やや自嘲気味に呟くアキト
「でも、アキトさんが帰らなければ、本気で私達に良からぬ事をするつもりだったみたいですよ、『僕は、伊達に大関スケコマシと呼ばれてる訳じゃないよ』って言ってましたから」
「だから、信用出来ないんだ、あいつは」
アキトは怒っているのやら笑っているのやら
「信用出来ない所を信用しているんじゃないですか?」
ルリは、クスクスと笑いながら答える
「あいつは、いざとなればちゃんと俺を切り捨ててくれる・・・そういう意味では信頼してるさ」
「う〜ん、どうなのかなあ、結局は私達を助けてくれたし、ユリカはなんだかんだとアカツキさんの事、信用してるんだけど」
「それで良いんですよ、『良い者なのか悪者なのか解らない』のがアカツキさんですから」
「確かにそうかも・・・」
ルリの言い分に、妙に納得してしまうアキトとユリカ
その後も、たわいのないおしゃべりが続く・・・
ルリは嬉しかった
自分がアキトと共に居られる事がではない
アキトが、自分達と一緒に居る事で幸せに感じてくれている事が
だからこそ、自然体で馬鹿なまねも出来た
余計な気を使わずに自然体でアキトと接する事が出来るようになった今、ルリは心の中でそっと呟く
・・・・おかえりなさい、アキトさん、そうやって幸せを感じてくれている事が私への一番のプレゼントです・・・
後書き
まず、最初に朴念仁さん、CGの使用許可ありがとうございましたm(__)m
朴念仁さんの七夕絵を見ている内に、思いついたSSです、これ
絵のレベルに相応しいだけのSSになっているか、かなり不安だったりしますが・・・(汗)
考えてみたら、先ず、朴念仁さんの絵有りな訳だから、、朴念仁さんの挿絵じゃなくて、b83yrの挿SSと言った方が正しいのか?、う〜む
普通?に劇ナデアフターだったりします
今回は、(少なくとも今の時点では)ルリ×アキトに『ならない』SSにあえてしてみました
何故かといえば、『ルリ×アキトにならないSS』でのルリに魅力を感じるからこそ『ルリ×アキトが見たい』って思う事も多いんですよ、私は
で、あえてそういうSSもやってみようかと
でも、『ルリ×アキトにならないSS』でのルリに魅力を感じるからといって、その後、ルリ×(アキト以外)になんてされたら、読みませんけどね、私(笑)
でも、今回の話、ルリ×アキトにならない事で一番ストレス感じたの、もしかしたら作者の私かも(苦笑)
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