ぷっ・・

チャルメラの練習をしているルリ

このチャルメラと言う奴、実は意外と難しい

読者の皆さんは、トランペットを吹いた事があるだろうか?

このトランペットと言う奴、初心者がいきなり吹こうとしても上手い下手以前に音すら出せない事もある

チャルメラも同じで、初心者は音すら出せないことあるのだ

しかし、ルリとしてはそれでは困る

今まで、『他人の為に何かをしたい』等とは考えた事すらなかったルリ

が、生まれて初めて他人の為、アキトやユリカの役に立ちたいと思った時、自分には何も出来ない事に気付いてしまう

ルリが受けて来た教育は、『戦艦のオペレーターとして』の物で、『屋台のラーメン屋』の為の物ではない

自分には料理も出来ないし、これから覚えるにしてもやはり時間がかかってしまう

「ルリちゃんは子供なんだから、そんな事気にしなくても・・・」

と言われもしたが、それで気にしなくなるぐらいなら、最初からそんな事を気にしたりはしない

後から考えてみれば、『ユリカへの対抗意識』も有ったのだがこの時のルリはまだその事に気が付いてはいない

ほんの些細な事でも良い、『戦艦のオペレーター』以外の所でアキトに認めてもらいたかった



「上手くいかない・・・・・」

とはいえ、そう簡単に上達するのなら誰も苦労はしないだろう

今まで、『仕事』の事でならたいして苦労もしないで出来る様になっていったルリだが、今度の相手は今までとかってが違う

だが、だからこそ、上手く出来るようになりたかった

たかがチャルメラ、無ければ無いで何とかなる事も解っている

だが、ピースランドで言われた自分の評価

・・・・無駄な事は覚えない、脳の容量を無駄使いしない・・・・・・・・

それに対する反発もある

無駄と解っていても・・・・・いや、無駄だからこそやってみたい

「へんなの・・・・・・」

ルリは苦笑いしながらも、今の自分が嫌いではなかった






ユリカが実家を飛び出し、アキトの安下宿へルリと一緒に転がり込んだ時、アキトが怒るかもと思ったのだか、アキトは苦笑いするだけだった

後で

「ルリちゃんユリカの実家の方は大丈夫?」

とルリにこっそりと聞いては来たが

「大丈夫かどうかはともかく、あのコウイチロウさんにユリカさんが止められると思います?」

「・・・・・・無理か」

その時、アキトが少々疲れたような顔をしていたのを覚えている

本当は自分がユリカを止めるべきだったとも思うルリだが

『ルリちゃん、一緒にアキトと暮らそう』

とユリカに言われた時、止める事が出来なくなってしまった

おそらく、アキト以外の相手ならユリカの事を止めるか、ユリカを見捨ててミスマル家に留まっていただろう

その時のルリには、何故そんな事になってしまったのか解らなかったが

三人での生活が始まり、そして、ルリのチャルメラも少しずつ上手くなりアキトの屋台も少しずつ軌道に乗っていく

アキトとユリカ、ルリが二人の関係を見ていてたまに思うのは

「アキトさん、よくユリカさんと付き合ってられるな」

と言う事

実はたまに聞かされるのだ、ユリカへの愚痴を

もっとも、そうはいってもアキトがユリカと仲が良い事は変わらないのだが

そんな姿を見ている事はけっして不快ではない

今の生活を始めて感じた事は、『ユリカさんは本来艦長向きの人では無い』と言う事

その事はナデシコの乗っている時から感じてはいた

アキトと一緒に、屋台を引っ張り接客をしている時の方がユリカが活き活きとしているように見える

料理の腕は相変わらずなんで、接客は出来ても料理は出来ないが

そんなユリカの姿を見て、ルリが思った事が『私がちゃんと料理を覚えよう』

ただ・・・・アキトに料理を教えて欲しいと頼んだ時

「ルリちゃんに料理を教えても良いけど、ユリカには内緒にね(汗)」

と言われてしまったのだが

不思議に思い、理由を尋ねてみると

「だって、ルリちゃんが料理をするとなれば、ユリカだってやりたがるだろうし、そうなれば誰かが味見をしないとならないだろ、ユリカの料理の(汗)」

と言われ納得するルリ

そこで、こっそりとアキトに料理を教えてもらう事になり・・・・・

ユリカもしらない二人だけの秘密を持つ事に、なんだか嬉しくなってしまったりもした

三人の生活の中では、『覚えなければならない無駄だけど大事な事』や『今まで感じた事の無い喜び』があった






さて、アキトに料理を教えて貰ってもやはり今までとはかってが違う

『戦艦のオペレーターとしての教育』は努力したというよりも、ごく自然に頭に入って来たと言う方がルリにとっては近いだろう

そちらの方面では、ルリは常に優秀な成績を収めてきた、11歳にしてナデシコのオペレーターを務められる程に

チャルメラを吹く事や料理は、じぶんの身体を動かしてやる事で、元々頭脳労働が専門のルリには苦手な分野

だが、アキトの頑張りを見ているとそんな事は言っていられない

ユリカは、「天才」な所がありごく一部分は突出している

ルリは、遺伝子操作されていて、『性能』という観点でなら相当なものだろう

だが、アキトはただの平凡な人間でしかない

コックとしての腕も、才能ではなく料理が好きという情熱と地道な努力によって身につけたもの

平凡な人でしかないアキトが、ナデシコにいる頃、エステとコックの両立をする為にはどれだけ苦労したかことか

だからこそ、何時の間にかルリはアキトに好感を持てるようになっていった

自分のような、『遺伝子操作で与えられた力』ではなく『自分の努力で生きて来た』アキトの事が

アキトよりも料理の上手い人間などいくらでも居る

アキトよりも、エステバリスのパイロットとしての力量が上の人間も

だが、気がついてみればアキトの平凡さ、その平凡であるアキトの努力がとても輝いて見えるようになっていた

そのアキトに料理を教えてもらい、すこしでも助けになる事が出来れば・・

そう思えば、苦労する事もかえって楽しかった






「学校ですか?」

ユリカに、学校に行くことを薦められ怪訝そうな顔のルリ

「そう、ルリちゃんぐらい頭が良ければ今更学校で勉強する事も無いのは解ってるけど」

「だったら・・・・・」

「でもね、学校って勉強するだけの所じゃないから、ルリちゃんだって同年代の友達だって居た方が良いと思うし」

心配そうなユリカ

「友達・・・・・・私人付き合い苦手です・・・」

不安そうなルリ

「うん、ルリちゃんが人付き合いが苦手なのはわかってる、でも、だからこそ余計に学校に行ってもらいたいの、ルリちゃんの為にも」

「私の為にも?」

「ルリちゃんには友達が居ないんじゃなくて、友達を作る機会が無かっただけ、アキトの屋台のお客さん達はルリちゃんの事可愛がってくれるけど、それはお客さんで友達とは違う・・・」

「・・・・・・・・・・」

「自分と同年代の人と一緒にいる時間は今のルリちゃんに一番必要だと思うの、苦手な事でも」

・・・・・・・・・そして、学校へと通う事になるルリ

アキトやユリカがルリに望んでいた事は、ルリに普通の少女としての幸せな人生を送ってもらう事

それが解ったからこそ、人付き合いの苦手なルリが思い切って学校に通う事もした

結局、ルリが普通の学校に通う事の出来た期間は僅かなものだったが

シャトル事故がルリの人生をまたも『普通』から遠ざけ、そして・・・






そして、火星の後継者の制圧へと向かうナデシコCの艦長室で二人の遺影を見ているルリ

二人がどれだけ自分の事を大切にしてくれ、どれだけ心配してくれたかを色々と思い出しながら

「アキトさん、ユリカさん・・・・・私、結局16歳で艦長なんてやる事になっちゃいました・・・・・お二人の望み・・・・・・裏切っちゃいましたね・・・・・出来の悪い娘です、私・・」

「でも、娘として出来が悪くても・・・・・・『性能』なら・・・・だから・・・・必ず助け出します、ユリカさん」

「でないと・・・・・・お二人の望みを裏切った意味が無いから・・・・」

「これが、私に初めて家族の温もりを教えてくれたお二人へのせめてもの恩返し・・」


この作品は、らいるさんとぴんきいさんのHP、『そこはかとなく存在してみたり』内の企画、festa-sokohakaの参加作品です

festa-sokohakaは残念ながら2005年の3月いっぱいで閉鎖ということになりました


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