テンカワアキトは悩んでいた
話は一月ほど前に遡る
・・・胃腸薬・・・・
そう、一月ほど前のバレンタインの時ルリから貰った『義理チョコ』のお礼をどうするかに
ユリカ達から貰ったチョコは、義理ではなく本命チョコ
だからこそ、『返さない方が良いんじゃないか?』と思うアキト
下手にホワイトデーのお返しをしても、変に誤解されかねない
特にユリカなどは絶対に
貰った相手全員に返す事も考えたのだか、それはそれで揉め事の元になりそうな気もして仕方が無い
まあ、どっちにしろ揉め事になるのだろうが・・・・・
先の事を考えると、くら〜〜い気分になってしまうアキトであった(涙)
それでも一人だけちゃんとお礼をお返しておきたい相手がルリ
あの時のルリの態度に、アキトがどれほど救われた気持ちになったか
本当の勝者は?
「・・・・・・・・・・・・・・」
何時ものように、仕事に打ち込んでいるルリ
ユリカ達がそわそわとしているのとは対照的に
義理チョコを、アキトに送った事はアキトとルリの二人以外は知らない
おっと、もう一人だけその事を知っている人が居た
ホウメイ
あの時、アキトから直接ではなくルリからの連絡であった事を疑問に思ったホウメイは後でアキトに尋ねてみたのだ
「へえ、あの子がねえ」
ホウメイはそれで終わりで、後のことをつべこべ言う気はなく
まあ、「義理チョコ」ぐらいなら一緒にピースランドに行った事もあるし、とぐらいにしか思わなかったらしい
ルリにしてみれば、自分のような『子供』がアキトにマトモに相手になどして貰える筈など無いと思っている
結局、バレンタインの義理チョコの後も二人の関係は何一つ変わらず・・・・
ルリにだって、ほんの少しだけ期待したい気持ちもある・・・・・あるにはあるが
下手に期待をして、それがかなわなかった時のショックを考えると過剰な期待は持てない
アキト争奪戦勝利への大きな一歩を踏み出していた事にちっとも気がついていないルリ
アキトが真剣に悩んでいること、それは何時何処でルリにお返しを渡せば良いか
お祭り好きのナデシコクルー達のこと、迂闊にルリにお返しを渡して誰かに見られたりしたらどうなるか?
しかも、それがユリカ達の耳に入ったりしたら?
「・・・・・・・(滝汗)」
その時の、「惨劇」を想像してしまい、固まってしまったアキト
・・・・が
それでも、なんとかルリにはお礼が言いたい
あの時の『胃腸薬』は、アキトの胃腸以上に『アキトの心』にそれほどよく効いたのだ
誰にも渡さない 32
皆に渡す 29
ユリカ 10
メグミ 9
リョーコ 8
ナデシコの艦内某所ではある賭けが行われていた
テンカワアキトは、ホワイトデーのお返しを誰に渡すのか?
彼らには、ルリとアキトの事は気付かれていない
「でも、テンカワの事だから、『渡さない』んじゃなくて、『渡せない』んじゃないのか?」
「確かに(苦笑)、でも、『渡せなかった』のか『渡さなかった』のかの違いなんて解らんからとりあえずこういう形でな(笑)」
ナデシコのクルー達に、しっかりと性格を見透かされているアキト
ちなみに、『渡さない 32票』の内、本当は『渡せない』のだろうと踏んでいる人は・・・・・32人中32人(苦笑)
言うまでも無いが、『皆に渡す』というのも、アキトの性格なら誰かを選んだり出来ずにお茶を濁すだろうという事
「まあ、なんにせよ結果が楽しみだな(にやり)」
「うん、うん(にやり)」
なにやら邪悪な薄ら笑いを浮かべている
『羨ましいぞ、テンカワアキト〜〜』
とか言ってた癖に、本当に羨ましいと思ってるんだろうか?この人達(苦笑)
その日一日、ほとんど何事も無く過ぎていく
艦内に男はアキトだけでもなく、他でも色々と悲喜交々のドラマで展開されていたりもするのだが、まあ、それらは置いておいて
お礼を渡すチャンスが中々訪れずに焦り始めるアキト
食堂・・・・・周りに人が多すぎる
何処かで偶然を装って・・・・・そうそう都合よくチャンスは訪れない
いっそ、ルリの部屋に直接・・・・ルリの部屋は女性の居住区画、そんな所に男が迂闊に入ればプロスさん辺りが煩い上に、もしそんな所に居る所を誰かに見られたりすれば変な噂も立ちかねない
「当直か」
今日の勤務割を確認してみるルリ
そろそろ、3月14日も終わるというのに、アキトからのアプローチは無い
食堂に食事に行った時も、ルリはアキトの様子をちらちらとうかがっていたが、アキト側に何時もと変わった所は無く・・・アキト側もルリの様子をちらちらとうかがっていたのに、それに気がつかなかっただけなのだが
「・・・・まあ、当たり前ですね」
アキトが、何時どうやってルリへのお礼を渡そうか悩んでいる事になどちっとも気がついていない
最初から諦めムードのルリは、他の女性達と違って冷静
ユリカなどは、アキトからのお返しを貰った事を想像・・いや、妄想してなにやらくねくねしてる(苦笑)
皮肉にも、ユリカ達のそういう態度がかえってアキトに余計なプレッシャーを与えてしまい、
『嫌いでは無いが好きとも言えない』
にとどめてしまっているのだが後から、自分のやった事を振りかえってみれば、『なんで自分はあの時あんな事を(汗)』という事も多い、当事者である間は、自分を客観的にみる事は難しいのだ
ルリの幸運は、後からアキト争奪戦に参加した事だろう
今までのユリカ達のアキトへのアプローチを冷めた目で見てきたルリ
・・・おそらく、今のままならテンカワさんは誰も選んだりしない・・・
ルリは、そう思いながらアキト争奪戦を見てきた、だから他とは違うアプローチが出来た、意識した訳ではないがごく自然と
とはいえ、アキトがルリを選ばなかったとしても、ルリにとってはそれで元に戻るだけの事
多少の寂しさはあるが、今の時点ではルリにとってそれだけの事に過ぎない
この時、実はルリではなくアキトの方こそが崖っぷちに居たのかもしれない
後から考えてみれば、アキトはこの時に既にルリの事を・・・
ルリにとっては、バレンタインのチョコは渡せるだけでも儲け物で、ホワイトデーのお返しも同じ事
だが、アキトにとっては・・・
「今日の当直は・・・・・ルリちゃん」
・・・良しっ!!・・・
と心の中でガッツポーズのアキト
22時以降なら、ブリッジにはルリ独りの筈
ようやっと見つけたチャンス、これを逃す訳にはいかない
とまあ、なんだかんだと、案外あっさりとルリにお返しを渡せたアキト
だが、その後
『義理チョコ』だからこそ、ただ一人アキトからのお返しを貰えたルリ
『本命チョコ』であるが故に、アキトからのお返しを貰えなかった他の女性達
「・・・・勝ったんだか負けたんだか・・・」
とても嬉しいような気もするし、とても悔しいような気もする
なにか、複雑な気持ちになってしまうルリであった
それでも、その事でルリが今まで以上にアキトを意識するようになり、二人の距離はまた一歩近づく
余談だか、賭けをしていた人達には、『誰にも渡さない』に見えて、この事はナデシコを降りるまで、いや、降りてからすら誰も気がつかなかったようだ
とはいえ、今のルリの歳の為に二人の関係の進展は遅々とした物ではあったのだが
そして・・・
「あの時のクッキーが無ければ、多分、私アキトさんの事諦めてました」
「うっ(汗)」
二人の間に出来た子供の寝顔を見ながら昔の思いで話に華を咲かせる二人
「ルリが、丁度あの時当直で良かった・・・・・」
心底そう思うアキト
バレンタイン、そしてホワイトデーという口実が無ければ、アキトとルリが今のような関係になる事は難しかったかもしれない
優柔不断と言われて来たアキトだが、それは単に、『はっきりと好きと言える相手』が居なかっただけの事
『好きだと言える相手』が現れればアキトの行動ははっきりと決まった
というか、ルリを他の男に取られる事が怖くて『焦った』と言うのが真相なのだが(苦笑)
今となれば、全てが良い思いでの話
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後書き
このSSは、『ヨーカンの祭り部屋』でも読む事が出来ます
ヨーカンさんのHPへは、ヨーカンさんの部屋のURLよりどうぞ
『一日遅れの・・・』と対になる話です
結構多くのSSで、アキトの事を好きになったルリをユリカと同じような行動取らせてますけど、『はあ?』って気になる事多いです
今まで、ユリカ達の事見てきたルリなら、『他の女性達とは違うアプローチ』を考えても不思議は無いでしょう、それが成功するか失敗するかは、別の問題として
これは、ルリに限らず他の女性の場合でも、アキトの事を好きになった時の態度しても変だろうと
なんで女性達に、『ユリカの劣化コピー』みたいな行動取らせたがる人多いんですかね?
キャラの個性もなにも無く、どのキャラみても同じようにみえてツマランのですが
ちなみに、このタイトル、『本当の勝者は?』なんですが
実は、ルリがアキト争奪戦に勝ったって意味じゃないです(笑)
ルリと一緒になれたアキトこそが、実は『本当の勝者では?』って意味だったりして(笑)
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