2月15日の朝

バレンタインの翌日である

ナデシコの中では、妙にもてまくっているアキトではあったが、周囲の視線とは違い本人はたまったものではなかった

「う〜」

アキトはベッドへ横たわり、苦しそうに唸ってる

まあ、何故こんな事になっているか想像は付くはず

ユリカ、メグミ、リョーコの3人はやけに張り切って『手作りチョコ』なんて物を作り・・・・・・後は言うまでもないだろう

『そんな物食わなきゃいいじゃん』と突っ込みを入れられそうだが、アキトの性格ではそれが出来ない

断って、『悲しそうな顔』をされてしまうと、断る事が出来ないのだ

結局、『死ぬほどの我慢』をして貰ったチョコを食べる羽目に陥ってしまうアキト

そんな性格が、何時も自分で自分を追い詰めていくのだが・・・

厨房の仕事を休む訳にも行かないと、よろよろとベットから起き上がり朝の支度をしようとすると

コン、コン

ドアをノックする音が響く

「うっ(汗)」

来客に気がついたアキトに昨日の悪夢が頭をよぎる

・・・・いっ、いや、悪夢の日は昨日で終わりの筈だ、終わりなんだ、今日はもう15日だ(汗)・・・・

自分に言い聞かせ、ドアを開けると

「お邪魔します、テンカワさん」

そこには、ルリが居た

あれっ?と思うアキト

今までルリがアキトの部屋を訪ねて来た事などない、一体自分になんの用で?

と不思議に思う

怪訝そうなアキトに対し

「・・・・・やっぱり、顔色悪いですねテンカワさん・・・」

と心配そうに話し掛けるルリに

「いや、大丈夫だよ・・・・」

と答えはするが、誰が見てもアキトの顔色は悪い

「はい、これ飲んでます?」

とルリが差し出した物は

「胃腸薬・・・・」

「はい、昨日は、バレンタインでしたし、多分そんな事になってそうな気がして・・」

「・・・・・・・・・」

しばらく黙っていたアキトでは有ったが

「ありがとう、ルリちゃん!!」

なにか、やたらとジーンと来たらしく,天を仰ぎ感涙している

なにせ、今までの相手は、殺人チョコを食わせるような相手ばかり

男性諸氏は、アキトの苦労も知らずに、『羨ましいぞ、テンカワアキト〜〜』と怨嗟の声をあげる

・・・・ナデシコに乗ってから、初めて一筋の光明が見えた気がした・・・・

後に、アキトはそう語ったという

「あの、胃腸薬ぐらいでそんなに喜ばれても・・・・・・」

ルリに冷静に言われて正気に戻り、正気に戻ったことで、ふと思うアキト

「でも、ルリちゃんなんでこんな事してくれるの?」

「ピースランドの時のお礼です」

「えっ、俺全然役に立たなかったんだけど、ボコボコにされてルリちゃんにみっともない所見せちゃったし(汗っ)」

アキトの中では、『ルリを守ろうとして、逆にボコボコにされた』という嫌な記憶として残っているピースランド

どちらかというと、『みっともない所を見せて、ルリに嫌われたかもしれない』とすら思っていたぐらいだ、あの後のルリの態度も、以前と変わらなかった事もある

実際には、ルリに与えた印象は逆だったのだが

「でも、あの時テンカワさんさんが酷い目に遭ったのは私のせいですから・・・・・」

本当にすまなそうなルリ

「本当は、もっと早くちゃんと謝ろうと思ってたんです、ごめんなさい」

とぺこりと頭を下げる

「いや、気にしてないから、そんな風に謝られても」

むしろ、困ってしまうアキト

「あの、それでテンカワさんの身体の方は大丈夫ですか?」

「あっ、ああ、大丈夫だから、そろそろ厨房にも行かないとならないし」

というアキトではあるが、顔色は悪いまま

「今日はお休みした方が良いんじゃ?、テンカワさん顔色悪いです」

「そうもいかないんだ、厨房の仕事は大変だし、それに・・・・・・」

「それになんです?」

「俺が今日休んじゃたりしたら、ユリカ達のせいみたいで悪いだろ」

「・・・・・ユリカさん達のせいだと思うんですけど・・・」

アキトの人の良さに少々呆れ気味のルリ

「でも、みんな悪気が有った訳じゃないから」

と、被害者だと言うのに庇うアキト

が・・・

「うっ(汗っ)」

突然こみ上げてくる吐き気に、慌てて洗面所に走り・・・・・そんなアキトがゲーゲーとやっているアキトに背中をさするルリ

「はあ、はあ・・・・・ごめんルリちゃん」

「駄目ですよ、そんなん事じゃホウメイさん達にもかえって迷惑です」

と厳しい顔のルリ

「オモイカネ、ホウメイさんを」

とコミュニュケで呼び出し、『今日はテンカワさんを休ませてください』と頼んでみる

『昨日はバレンタインで、艦長達の手作りチョコを』

それだけで理由を察してくれたホウメイはあっさりと休みの許可をくれた

「その分、後で埋め合わせをしてもらうよ」

と付け加える事も忘れなかったが

アキトのような根が真面目なタイプには、ただ休ませるよりも、むしろそう言っておく方が気が楽になる、その辺りは『流石はホウメイさん』という所だろう

実はホウメイさん、今日はそう言う事になるだろうと予測して今日の仕事にはアキトは数に入れないものとして最初から考えていた事は秘密だ(笑)






さて、休む事になったアキトはベットで横になり、その姿を見ているルリ

「テンカワさん、少し聞いて良いですか?」

と尋ねてみる

「俺に答えられる事なら・・・・」

と元気なくアキト

「テンカワさんは誰が好きなんですか?、はっきりとさせておけばこんな事も無くなると思うんですけど」

「誰がって言われても・・・・・・・・・・う〜ん」

と悩んでしまうアキト

誰かをはっきりと選べるほど好きなら、こんなに悩みはしない

嫌いではないが、誰かをはっきりと選べる程好きにはなっていないから悩むのだ

人はアキトの事を優柔不断だと言うが、根が真面目なアキトとしてはそんないい加減な気持ちで女性と付き合う事の方が相手を馬鹿にしているような気がしてしまう

「私にも、チャンスあるのかな・・・・・」

悩んでいるアキトを見ながら、小声で呟いたルリの声はアキトの耳には入らなかった

ルリが、2月14日に何もしなかった事には訳がある

ユリカ達のやっている事をアキトが喜んでいる様には見えなかった・・・・

自分があの輪の中に加わってしまえば、かえってアキトに嫌われそうな気がしたのだ

だが、そうは言ってもやはりアキトの事が心配になる

そして・・・・思い切って尋ねてみれば・・・・悪い予感の通りの事になっていた

そんな事をしている内に、ルリの勤務時間

「テンカワさん、私は仕事に行きますから」

「あっ、うん、色々とありがとうルリちゃん」

そして、出て行くルリ

そして・・・





ピースランドの時はありがとうございました
義理ですけど
市販品ですからちゃんと食べられます
テンカワさんの事だから、しばらくチョコを見るのも嫌かもしれないけど
その時は無理しないで捨てちゃって良いですから




そんなメッセージカードが添えられたルリからのチョコがテーブルの上に置いている事をアキトが気付いた時

二人の関係の最初の一歩

些細な事ながら、アキトがルリを選ぶ事となる最初の一歩が始まる・・・


後書き

2月14日ではなく、15日にアップしたのはこういう訳でした(笑)

まっ『手作りより良く効く市販チョコ』や『本命チョコより効く義理チョコ』だってあるわな

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