Family Ties
ナデシコを降りてしばらく経ち。
ユリカがルリを連れて家出して。
アキトの家に転がり込んで3人の生活が始まって間もない頃。
『もしかして、ルリちゃんもアキトのこと好きなんじゃ・・・・・』
ユリカがルリの様子に気がついたのは、今朝のことだった。
『なんか、顔を赤くして潤んだ目でアキトのこと見てるし。
時々ため息なんかついてるし。
・・・・・・もし、ルリちゃんもアキトのこと好きだったりしたら、ユリカ、どうしたらいいの?』
そんなことをユリカが考えていると、アキトがルリの方を見つめていた。
『あ、アキトもルリちゃんを見つめている!
・・・・・・ううん、大丈夫。ユリカはアキトとルリちゃんのことを信じているから。
あ、でもでも、もしそうなら・・・・・・』
ユリカの思考がメビウスの輪にはまり込んでいるのに気がつかず。アキトはルリの様子を見て、ルリに顔を近づけていった。
30センチ
20センチ
10センチ
そして、0センチ。
「あ〜〜〜〜!」
ユリカの声が狭い部屋にこだました。
「ルリちゃん、凄い熱じゃないか!
ダメだよ、寝ていないと!」
アキトはおでこで熱を計ったのであった。
「どうした?ユリカ。そんな声出して。」
「え?あ、あはははっ」
汗を拭きながら笑ってごまかすユリカ。
「と、とにかく、え?ルリちゃん、そんなに凄い熱なの?」
そう言って、ルリの額に手を当てる。
「あっ。すっごい熱! 」
そして。
それからが大騒動だった。
あわてて、ルリを雪だるまのように着ぶくれさせるユリカ。
急遽その日の仕込みを中止し、ルリを背負ってイネスの元に走るアキト。
その様子を見て笑う、道中すれ違った人たち。
恥ずかしくて文句を言いたいのだが、さすがに具合が悪くて言えないルリ。
イネスの所に着いたときには3人とも汗まみれだった。
「風邪よ」
大騒ぎした割にはあっさりしたイネスの診断で、ホッとしたアキトとユリカ。
「多分、このところの天候不順で、体に疲労がたまったのね。
生活環境も変わっているし。」
その言葉に、ドキッとなるユリカ。
「まあ、注射を打ってクスリを出して置くから、今日は養生させてあげなさいね。」
帰り道。
行きと同じくルリを背負っているアキトの表情は、明るかった。
「良かったよ。風邪だったなんて。」
反対にユリカの顔は暗かった。
アキトたちの後を数歩遅れてついてきていた。
「どうした?ユリカ。」
アキトが気がついて問いかける。
「・・・・・・」
ユリカは無言のまま、うつむいていた。
「・・・・お前も風邪か?」
アキトが心配そうにユリカの顔をのぞき込む。
ユリカが、小さな声で答え始めた。
「・・・・あのね、もしかしたらルリちゃんの風邪って、私の所為かな?
私が家からルリちゃんも連れてアキトの家に来たりしたから・・・・・・」
先ほどのイネスの説明。
ルリの風邪は、疲労と環境の変化によるもの。
その言葉を、ユリカは気に病んでいた。
アキトも、何も言えない。
自分一人が暮らせればよいと思って借りた狭いボロ部屋。
年頃の女の子には、かなり大変だったのかも・・・・・
そんなことを考えた。すると、アキトの背中で
ふるふる。
ルリが首を振って否定した。
紅潮した顔、熱で潤んだ瞳。
しかし、真剣な表情で。
それを見て。
「うん、そうだな。」
「そうよね。」
今度は3人共が笑顔になり、家路を歩き始めた。
「私がおいしい物をいっぱい作ってあげるから、早く元気になろうね、ルリちゃん!」
笑顔でそう言うユリカに対し――――
ふるふる!
ルリは力一杯首を振って拒絶し、
「それだけは止めてくれ!」
アキトも即座に否定した。
「え〜!なんでぇ〜!?」
結局。
妥協案として、ユリカにリンゴのすり下ろしをさせることにした。
皮むきの段階で、ほぼ全ての指に絆創膏が貼らさったが。
(無論、作業中はなにか変な物を入れないようにと、アキトの監視付きであった)
「はい、ルリちゃん。
食べさせてあげるね。」
そう言ってスプーンをルリの口に運ぼうとするユリカ。
『ユリカが持ってきた』ガラスの器によそおわれたすり下ろしリンゴを見て、一瞬不安げな表情でアキトを見たルリだったが、
こくん
うなずくアキトを見て、安心した表情になる。
無事に食べ終わり。
アキトを表に出して体を拭いて着替えもし。
新しい肌着とシーツで、気分もかなり爽快になってきたルリ。
ふと、ユリカをじっと見つめた。
今、アキトは夕飯の買い物に行った。
ユリカは、洗い物をしている。
それが終わり、ルリの枕元に座ると、
「何かして欲しいことは無い?ルリちゃん。」
そう言って、優しげな瞳でルリを見つめた。
「ユリカが小さいときに風邪引いたときも、亡くなったお母様がそう言ってくれたの。
そうすると、何か安心したの。」
そう言いながら、ルリの布団を優しくポンポンと叩いた。
そのリズムが心地よく。
また薬も効いてきて。
ルリはいつの間にか寝てしまったようであった。アキトが帰ると、布団で気持ちよさそうに寝ているルリと、その枕元で座ったまま寝ているユリカがいた。
「おい!ルリルリは大丈夫か?」
夜。
ウリバタケ、ミナト、ユキナ、メグミ、ホウメイ、ホウメイガールズ・・・・・・
旧ナデシコクルーが、大挙してアキトの家を訪れた。
「しーーーーー」
アキトは口に人差し指を当てて、皆を静かにさせる。
一同が見ると。
仲良く布団で眠り続けるルリとユリカがいた。
「これだけ気持ちよさそうに寝ていれば、大丈夫ね。」
ミナトがホッとしたように言う。
「それにしても、まるで本当の姉妹みたい」
そう言って、皆で笑った。
「それにしても、みんなどうして?」
アキトが不思議に思って聞くと、
「説明しましょう」
新たな訪問者が玄関に現れた。
「いえ・・・・・もう解りましたから、いいです・・・・・・」
「あら、残念ね。」
アキトの言葉に、少しがっかりしたイネスであった。
鼻腔をくすぐる柑橘類の匂いで目が覚めた。
枕元にはいろいろなお見舞い品が有った。
『みんな、きてくれたんですね』
そう思うと、どこかくすぐったい気持ちになった。
横を見ると、いつもの川の字で寝ていたようだ。
一番右がユリカさん、真ん中がアキトさん、そして私。
今日もアキトさんの首には、ユリカさんのアックスボンバーが炸裂していた。
『気の毒ですけど、私の着替えが終わるまでは目が覚めないでくださいね。』
着替えが終わると、頭の中がスッキリしていた。
さあ、起こしましょう。
「アキトさん、ユリカさん、お早うございます。」
「・・・・・ああ、おはよう・・・・・」
息苦しそうにアキト。
「おはよう、ルリちゃん・・・・」
まどろんだままのユリカ。
そして。
二人ともばっと起きあがり。
「もうだいじょうぶなの?」
「だめだよ、無理しちゃ!」
一気に目が覚めたように、ルリに駆け寄る。
「もう大丈夫です。
ご迷惑おかけしました。」
そう言うルリ。
しかし。
「だめだよ。ルリちゃん。」
いきなりルリに、少し怒ったようにいうユリカ。
「え?」
「私たちは家族なんだから、そんな他人行儀な言い方じゃ、ダメ。
ありがとうでいいんだよ。」
そう言って、にっこりと笑った。
ルリは、頬を染め、少しためらいながら、
「・・・・・・ありがとう」
と言った。
朝食が終わり、アキトは仕込みの買い出しに行った。
台所にはユリカとルリ。
二人で、片づけ物をしている。
「でも、本当に昨日はビックリしたよ。
ルリちゃん、なんか熱いまなざしでアキトのこと見てるから。」
そこで、ちょっと頬を赤くし、笑いながら。
「あはははは〜。ユリカ、てっきりルリちゃんがアキトのこと好きになったのかと思っちゃった。」
そう言って頭を掻くユリカ。
そんなユリカをまっすぐに見つめ、
「好きですよ。アキトさんのこと。」
真顔で言うルリ。
「え?!」
硬直するユリカ。
「好きですよ、アキトさんの事。
そして、ユリカさんの事。
2人とも、私の大切な家族です。」
そう言って、少しイタズラっぽい目でユリカを見るルリ。
「あ、あははは・・・・・そうだよね。
ユリカもルリちゃんのこと、大好きだよ。」
多少の汗をかきつつ、笑うユリカの声が響いた。
「ただいま〜」
アキトが帰ってきた。
「さあ、今日もみんなで、頑張ろう!」
<あとがき>(オリジナル)
モトネタ提供は、b83yrさんです。
bさん、ありがとうございました。
もしかしたら、bさんの言っていたイメージと若干違う気もしますが・・・・・(汗)ホンワカした作品にしたかったのですが。如何でしたでしょう?(滝汗)
この話は、アキトたちにとっては小さな事件だと思うんです。
決して、これで一気に家族として進展する事件では有りません。
でも、家族って言うのはこういった「些細な」事件(=思い出)の積み重ねでなっていく物だと思い、この話を書いてみました。なお、タイトルはマイケル・J・フォックスの出演していたアメリカのドラマからです。
「家族の絆」という意味だと思います(いや、英語苦手なので)
<あとがき2>(改訂に当たって)
この話も「いつのまにか」と同じく、当HPで共有させていただいている『コミュニケーション広場』のイベント『明日のNo.1は君だ!1番星キャラクタートーナメント』(4/28(日)〜5/5(日)開催)に投稿した作品です。
当HPへの掲載に当たり、若干の修正をしました。
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