いつのまにか

(TV版ホシノ・ルリSS)



ここも周りはバカばっかり。
今までと人間は入れ替わったけど、後は同じ、みんなバカ。

研究所の時もバカばかりだった。
賢そうな顔はしているけど、みんな自分だけの事しか頭にない。
白衣を着て偉そうにしてたけど、中身はみんなバカよね。

ここの人間もみんなバカ。
艦長はあんなだし、クルーはこんなだし。

でも。
あのとき、それまで気にもしていなかった『バカ』の一人がこう言った。

「俺、ロボットで脱出して、艦長連れ戻してくる。
俺、火星を助けたい!
・・・・・・たとえ世界中が戦争しか考えて無くても、
それでも!
もっと何か他に出来ることを・・・・・みんな、みんなそれを探しにここに来たんじゃないの・・・・か・・・・・」

台詞の最後は船が揺れて尻窄み。
オドオドしていて頼りない『バカ』だけど、目が真剣で。
それで、気が付いたら私も一緒になってバカをやっていた。

「マニュアル発進、よーい、どん。」

私も結構バカよね・・・・・・


 



何か気になって、オモイカネにその『バカ』の事を調べて貰った。

テンカワ・アキト

それがあの人の名前らしい。

出港直前になっての、飛び入り参加・・・・・って、お祭りじゃないんだから。
仕事はコック?
たしか、出航の時にエステバリスに乗って・・・・・
そう言えば、あの時もキノコが騒いでいたわね。

何となく気になって、こっそりウインドウを開いた。

あの人は・・・・・・泣いていた。

ヤマダジロウというパイロットの死体にすがりついて。
死者は何も答えてくれないのに。
私は興味を失い、ウインドウを閉じた。



 

今はお昼。
ブリッジは閑散としている。
私はいつもの食事をしながら・・・・・・
ふと、気になってまたウインドウを開いた。

あの人は暗い部屋でアニメを見ていた。
いえ。違う。
アニメを付けながら、ぼーっとしていた。



 

とんだ「侵入者」のお陰でちょっと忙しかったけど。
ようやく落ち着いて、何となくウインドウを開いた。
あの人はイメージルームにいた。
メグミさんと一緒に、落ち込んでいるようだ。
悲しんでも死者は帰ってこないのに。
私には理解できない。

「そうか、俺、甘えてたんだ!」

不意にあの人の目のよどみが消えた。
そして、敵の襲撃があった。



 

戦い方はバカだったけど。
あのときの目をしたあの人が帰ってきた。
整備班のみんなに誉められている。

そして。

あの人の動きが止まった。

そう言えば、いつの間にかメグミさんと艦長がいない。

「オモイカネ、アレは何をしているの?」


キス。


好き会う人間同士がする、親愛を表すための行為。
テンカワさんとメグミさんはキスをした。
メグミさんはテンカワさんが好きらしい。
そして、艦長もテンカワさんが好き。

でも艦長はいつもと変わらない。
テンカワさんのこと、好きじゃないのかな?



「ふやぁ・・・・やっとおわったぁ・・・・・」

「艦長、頭・・・・・・」

艦長が席でのびている。

「はあ・・・・これが艦長・・・・・」

「まだまだお葬式の希望はあるそうですよ。」

艦長が聞いてきたので、私は説明した。

「ああ、冠婚葬祭って言うくらいだから、結婚式も取り仕切るのかな?」

メグミさん、「あなた」が「艦長」にそれを言うんですか?

「うわああああん!」

艦長、泣きながら走っていきました。

「メグミさんって、意地悪ですね」

「そうかな?」

「そうですよ。」

「そうかな?」

「そうですよ。」

「・・・・そっか。意地悪、か・・・・・」

そう言ったメグミさんの表情は「大人」でしたけど。
私は何故か艦長に同情していました。




 

火星で「説明好きのオバサン」が合流して、私は無理矢理変な格好でTVに出させられたけど。
成り行きでチューリップに入って、気が付いたらみんなお休み中。
あれ?艦長がいない。
オモイカネに探して貰うと、艦長とアキトさんが寝ていた。
よく見るとアキトさんは説明オバサンと手をつないで寝ている。

「こんな時に3人で何を・・・・」

何となく私は気持ちがもやもやして・・・・

「艦長、艦長、起きてください。おーい、艦長ー。」

呼びかけながら、思いっきり『あっかんべー』をした。
艦長にはその顔を見られたけれど、別にいいわ。




 

はじめての海。
私はこの船がだんだん好きになっている。
うるさいキノコはいるけれど、ここではみんな私を私として扱ってくれるから。

「はい、ルリルリ。
あんた白いんだから、ちゃんと日焼け止め塗らないとダメよ。」

ミナトさんがそう言って瓶をくれた。

「ありがとう・・・・こう言うの、初めて。
・・・・なんか、うれしい・・・・・」




 

連合軍に組み込まれてからの戦い。
みんなも疲れているけど、何故か最近オモイカネがつらそう。
そう思っていたら・・・・・・

「オモイカネ、ダメ!」

ああ・・・・・・


偉そうな人たちが偉そうに乗り込んできて。
オモイカネを書き換えるって言う。
どうしよう・・・・・・

「艦長。」

「解ってる。この船は私たちの船なんだから。」

そう言って笑った艦長が頼もしかった。
私たちはウリバタケさんに相談した。

「俺もあいつらに好き勝手されるのは気にくわないしな。
ルリルリの珍しい頼みだ。任せておけって!」

私はこの船に乗って、この人達にあえて、本当に良かったと思う。
整備室の端末からオモイカネにアクセスすると、オモイカネは私にすら心を開いてくれなかった。

「オモイカネ、私よ。」

心を閉じたオモイカネが私に差し向けたのは、ゲキガンガーだった。

「やばい!ルリルリ、コイツは強力な自己防衛プログラムだ。
接続を切るぞ!」



「何でゲキガンガーなの?」

「そうだよな。なんでオモイカネがゲキガンガーなんだ?」

艦長とウリバタケさんが首を傾げている。
私には心当たりがあった。
何気なく良く覗いていたアキトさんの生活。
当然オモイカネも一緒に見ていて・・・・・・
アキトさんがいつも見ていたゲキガンガーに、オモイカネがはまったのだろう。
私はのぞきの件は伏せて、事情を説明した。

「なるほどな。とりあえず、コイツに対抗する準備が必要だ。
俺は即席でプログラムを組むから、パイロットを捜してきてくれ。
1時間後に俺の部屋に。」


パイロット。

艦長は当然として、私にも1人しか浮かばなかった。

「なんで俺なんだ?」

「テンカワさんじゃなきゃ、ダメなんです!」


くじけそうにはなってたけど、「アキトさん」のこだわりって、初めて素敵だと思いました。
人を見て素敵と思ってのも初めてかも・・・・・



 

何度調べても解らなかった私の正体。

「私は、誰?」

オモイカネも知らない私の正体。
突然、降って湧いたように今日解った。

・・・・・・姫?

勘弁して・・・・・・

でも、私はやっと自分の事を知ることが出来る。
私は誰なのかを。
私の父と母を。
そして、耳に残る「あの音」を・・・・・

でも、お姫様?私が。


「オモイカネ、お姫様のデータを。」

すぐにウインドウで表示してくれるオモイカネ。

『魔女っ子プリンセス!ナチュラル・ライチ!』

・・・・・・・

「そういうんじゃなくて。」

オモイカネ、だんだん染まってきたんじゃない?この船に。

次にオモイカネが表示したのは、何か胸がときめくような世界だった。

「お姫様には、ナイトか・・・・・」

不思議なことに、私には一人しか浮かびませんでした。
今回は私の我が儘を聞いて貰いましょう。

でもみんな、いくら私たちだけが船を降りるからって、こんなに買い物を頼むことは無いんじゃないですか?
オモイカネが打ち出してくれたメモを見て、さすがに驚きました。


実際に会った父と母は、私の記憶と何か違う。
初めてあったんだから当たり前かも・・・・・・
でも、ならあの記憶は何?
そう聞くと父は、私が生まれた施設の場所を教えてくれた。

ここは平和な町。
戦争の影はない。
みんな楽しそうに遊び、何の悩みも無いみたい。

なら、ナデシコで私たちのやっている事って何なんだろう?


「ルリちゃん、いい時間だし、ここでお昼にしようよ。」

アキトさんが指さすのは大きくて立派なレストラン。

「いえ、もっと普通の所にしましょうよ。
ここ、高いですよ、きっと。」

私がそう言っても、

「何言ってるんだよ。
どうせナデシコにいたら給料使うこと無いんだし、折角ルリちゃんとお出かけなんだから、心配しないで任せときなって!」

そういえば・・・・・・

これって、前にミナトさんが言ってた「デート」なんでしょうか?

「ルリちゃん、どうしたの?
顔が赤いけど、疲れた?」

気が付くとアキトさんが私の顔をのぞき込んでいました。

「いえ、なんでもありません!
さあ、入りましょう!」


コックのおじさんの自慢話。
でも、元祖?本場?

「この町は全部そう。」

思わず呟いてしまう。

嘘で塗り固められた町。
偽りと虚飾で成り立っている。

出てきた料理は、見た目は華やかでおいしそう。

でも・・・・・・・

「不味い!」

頭に来て、私はそう言いました。



アキトさん、ごめんなさい・・・・・
アキトさんを傷つける気は無かったんです。

でも・・・・・守ってくれて、ありがとう。
凄く嬉しかったです。


言いたいことは決まっていたのに。
実際に口に出して言えたのは、

「ごめんなさい。」

だけだった・・・・・



私は作られた人形だった。
機械によって作られ、機械によって育てられた人形。
あの町の事を嘘だなんて言えない。
私の記憶が作られた嘘だった・・・・・・

ぱしゃぱしゃ!

耳に聞こえる懐かしい音。
この音は本当だった!
私は走り出し。
開けられない扉と格闘していると、アキトさんが来てくれた。

ドガ!

アキトさんが蹴り破ってくれて、外に出れた。

まぶしい日差し。

流れる河。

河をさかのぼる魚たち。

この記憶は本当だった。
私は確かにここにいたのだ。


私は私の「本当」を作りたい。
だから、私は「バカばっか」のナデシコに戻った。



 

何だか怪しい空気だけど。
ナデシコの中は「一番星」でいっぱい。
艦長を初めとして、ミナトさん、メグミさん・・・・・
みんな気持ちがそっちに行っているよう。


「ねえ、ルリルリは出ないの?」

衣装のカタログを見ながらミナトさんが聞いてくる。

「いえ、私は興味ないです。」

実際興味ないですし。

「ええ!そんなこと言わないでルリルリも出ようよ。
ほら、これなんか絶対に似合うからさ。」

そう言って見せてくれたカタログは・・・・・・


猫のきぐるみ?


「ミナトさん、これ・・・・・・」

衣装って、仮装なんですか?

「あたしはこれにしようかと思っているのよ。」

そう言ってミナトさんが指さしたのは・・・・・


おすもうさん?


ミナトさん、勝負捨てているんですか?


後でオモイカネが集計したデータを見ると、ホウメイさんとミナトさんが共同であの猫のきぐるみを注文してました。
どうするつもりなんでしょう?




そして、始まりました。「一番星コンテスト」。
みなさん、様々にみなさんらしくて。
あ、ミナトさんの番です。

ミナトさん、そう言う作戦ですか・・・・・

次々に各自の出し物が終わり。
艦長です。
アオイさん、頑張ったんですね。

艦長の歌を聴いている内に、私の中でイライラが始まりました。
「私らしく」
艦長はいいです。
大人で、きれいで、・・・・・・アキトさんと幼なじみで。

でも、私は・・・・・・
ずっと年下。
きっとあの人は私のことを妹かなんかだと思っています。
でも。
せめて、今は負けたくないです、艦長に。
なぜだか解らないけど、そう思った私は、

『オモイカネ、後よろしく。』

大急ぎで準備をしました。


オモイカネ、打ち合わせもしていないのにありがとう。
私は私の思いを全て歌いました。

でも・・・・・・アキトさん、何時からそこにいたんですか!




何であんな事してしまったのか、ちょっと自己嫌悪。

私もだんだんバカになってきたみたい。




<あとがき>(オリジナル)

真神津さんの作品「悩み」を読ませていただきまして。
作中の、「何時からなのか」というのが引き金となって、書きました。
掲示板に投稿するのは初めてですが、結構難しいですね。
タグとか使えないですし。

「Family Ties」と違って、誰が見てもルリSSと言う物を目指して書いてみました(笑)

<あとがき2>(改訂と当HP掲載にあたって)

このSSは、当HPで共有させていただいている『コミュニケーション広場』のイベント『明日のNo.1は君だ!1番星キャラクタートーナメント』(4/28(日)〜5/5(日)開催)の『特設支援用小説掲示板』に投稿した作品です。
自分で非常に気に入ってまして、前から自分のHPにも載せたいと思ってたんです。

今回コミュニケーション広場管理人の大塚さんに確認を取らせていただいた所、何の問題もないとのことでしたので、晴れて載せることにしました。

なお、掲載に当たり、HTML化と若干の修正を行いました。

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