短編読み切り


「封 印」


爆発。

船体に走る衝撃。

横倒しになるクルー。

 

 

 

 

ディストーション・ブロックのお陰で被害は最小で済んだ。
しかし・・・・・
偶然が事態を最悪にしていた。

 

「ほえ?いたたた・・・・・・」

そう言いながら起きあがったのは「ホシノ・ルリ」

「何なんですか、一体。」

そう言いながら頭をさすっているのは「ミスマル・ユリカ」

「ひっどーい、艦長、こぶになってるじゃないですかぁ。ルリ、ぷんぷん!」

涙目で頭を抑えつつユリカに抗議するルリ。

「ごめんなさい、ルリさん。不注意でした。」

同じく頭を抑えながら丁寧に謝るユリカ。

 

 

 

 

なんか、変だ・・・・・・

 

 

 

ブリッジに、言いようのない不安が走る。

 

 

 

そこへ。

「ブリッジ!大丈夫か!」

コミュニケのウインドウが開き、アキトが大写しになった。

「あー!アキトさんだ、アキトさんだ!」

そういって、嬉しそうにはしゃぐルリ。

「私の事心配してくれたんですね!
やっぱりアキトさんは私が好き!」

・・・・・・

さすがに絶句するアキト。
そこへ、

「ルリさん、勤務中ですよ!」

たしなめるユリカ。

「はあい。
でも、アキトさんはやっぱり私の王子様だったんですね!
ルリ、嬉しい!」

そう言って、ルリはアキトににっこり笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・性格が入れ替わっている?

 

 

ブリッジクルーの混乱はピークに達した。

 

 

 

 

 

 

幸い。
冷静且つ沈着なユリカの指示で、戦闘は優位に集結した。
しかし、クルーの表情は暗かった。

 

「説明しましょう」

さすがに沈鬱な表情のイネス・フレサンジュが、集まった一同に語った所によると・・・・・

「先の戦闘中の衝撃の際、作戦指揮に熱中していた艦長が席から転落、頭をホシノルリとぶつけたらしいの。
それで、その直後から二人の言動が入れ替わっている。
考えられることはただ一つ。」

そこで言葉を区切るイネス。
その表情は苦渋に満ちていた。

「頭をぶつけたときに、二人の性格が入れ替わったのよ。」

 

科学者としてこんな馬鹿なことをイネスは言いたくなかった。
しかし、他にはなんら原因がない。

 

 

「はい?」

 

一同も目が点になる。

「そんな、漫画でも最近無いわよ?」

ミナトが呆れて言う。

 

「それで、直るのは何時なんですか?」

アキトが聞くと、

「不明です」

イネスはキッパリと言う。
それは当然だろう。
こんな漫画みたいな症例、どうしろというのか。

 

 

「そんなぁ!」

 

 

 

 

 

 

かくして、回復の見通しのないままたんこぶの治療だけ受けて、2人は職場復帰した。
2人とも仕事にはなんら差し支えない。
いや。
むしろユリカの場合は、明らかに仕事の能力が上がった。

 

「ウリバタケさん、先日の破損個所の補修はどうです?」

ユリカがコミュニケでウリバタケに確認する。

「まだかかる。一部の構造材にも歪みが出ていたし・・・・応急処置しか出来ねえが。」

「判りました。
シャクヤクの現在位置から考えて、4時間後には合流が可能です。
それまでの、もしもの戦闘に備えて、外壁の応急補修を優先してください。」

冷静な状況分析、寡黙ながら的確な指示。
これまでもクルーには慕われていたユリカであったが、ここに来て

 

 

 

萌え

 

 

 

が広がっていった。

名家のお嬢様であり、ちょっと世間知らずの、美人でナイスバデーの艦長。
さらに言動も一歩引いた冷静なものになった。
今や、ユリカ人気は整備班を中心に急騰している。

「ねえ、艦長。
最近アキト君を追っかけていないわねぇ。」

ミナトが気になって聞くと、

「私、艦長ですから」

そう言いつつも目線をそらし、少し頬を染めるユリカ。

『う・・・・可愛い・・・・』

周りにいた者全員がグッと来てしまう表情だった。
ちょっと意地悪をしてみたくなったミナトは、メグミと、

「前はあんなにいつもアキトアキトアキト〜だったのに」

「そうですよ。ほとんどストーカー状態で、あれだけ追いかけ回してたのに。」

とユリカを問いつめる。
ユリカは顔を真っ赤にして、

 

「・・・・・バカ」

と呟いた。

 

『か、かわいい!』

 

ジュンなどは卒倒しそうなくらい萌えていた。

 

 

 

 

 

一方。

「アキトさんアキトさんアキトさんアキトさん!」

ルリは暇さえ有ればアキトを追いかけていた。
アキトも、大人であるユリカやメグミ、リョーコ相手なら逃げる事も出来るが、子供であるルリ相手だと逃げるのも可哀想で・・・・・・・
結局まとわりつかれている。
しかし、非常に困った問題があった。
なにせ今のルリはユリカと言動が同じなので、「手料理」を持ってくる。
しかし、過去に於いて料理などしたことのないルリに料理など出来るわけはなく・・・
アキトは(先ほどと同じ理由で)逃げることも捨てることも断ることも出来ず、消し炭とか塩と砂糖を間違えた生焼けハンバーグとか異臭を放つスタミナドリンクとかを胃に流し込むことになった。

「やつれたわね、アキト君・・・・・・」

ミナトが心配そうにアキトに言う。

「なんでオレばかりがこんな目に・・・・・・」

胃痛・胸焼けが慢性化してきたアキト。
このままでは身の破滅であろう。
もっとも、ウリバタケらとっては、

「何言ってやがる」

と妬みのネタになるのだが。

 

 

 

 

「あ、そうだ。
アキト君、良い機会だから、ルリルリに料理教えてあげなさいよ。
そうすれば被害も無くなるし、ルリルリの為にもなるし。」

「そうか!
ありがとうミナトさん!」

善は急げ。

アキトは全速で、今もルリが怪しげな料理をしている厨房へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

厨房では、引きつった笑いを浮かべるホウメイに気が付くことなくルリが創作料理を始めようとしていた。

『テンカワ・・・・・・死ぬんじゃないよ・・・・・』

さすがに弟子が心配になってきたホウメイ。

 

そこに、

「ルリちゃん!」

息を切らしながらアキトが駆け込んできた。

「どうしたんですか?アキトさん。
料理はこれから作るんですよ。
もう少し待ってくださいね。」

呼吸を整えるアキトに、ルリは少し困ったようにそう言う。

ようやく落ち着いたアキトは、深呼吸を1回して、話し始めた。

「ルリちゃん、オレと一緒に料理しようよ。
オレもコックだから、料理を作るの楽しいし、ルリちゃんと一緒に作ったらもっと楽しいと思うんだ。」

歯の浮くような台詞ではある。
しかし、アキトは必死だった。
自分の健康のために。

しばしポカンとアキトを見ていたルリであったが、やがてにっこりと笑い、

「もー、アキトさんはやっぱり私が好き!」

とアキトに抱きついた。

 

 

 

そこにエマージェンシー・コールが鳴り響いた。

 

「エステバリス、発進後ナデシコ周囲に散開!
ウリバタケさん、危険地帯の修理は中止して安全な場所に引き上げてください。
ルリちゃん、急いで戻って、エマージェンシーの確認を!
ミナトさん、緊急時の回避運動はお任せします!」

ユリカがてきぱきと指示を出す。
やがて、ルリがブリッジに戻り・・・・・

 

 

ごつん!

 

 

 

足を滑らせてユリカに思いっきり激突した。


 

 

 

 

 

 

「・・・・・・なんか、変な感じだったんです。
自分のしたことは覚えているし、確かに私のとった行動なんですけど。」

目が覚めた二人は、元に戻っていた。
エマージェンシーの原因は、修理作業の際の事故による誤動作。
被害は、艦長とオペレーターの激突・失神。

 

今、ユリカはイネスに問診を受けていた。

「・・・・・こんな症例は初めてね。
まるで漫画よ。」

話を聞き終わったイネスは、カルテの封印を心に決めていた。

「まあ、なんにしても良かったわよ。
やっぱり、その人らしいのが一番だし。」

「そうですね。
やっぱり、艦長やルリちゃんは、元のままが一番です。」

ミナトの言葉にメグミが応えた。

 

 

が。

 

 

「ルリちゃん、大丈夫かな・・・・」

 

 

 

 

 

 

ルリは、目が覚めると、当たりを見回し、やがて少し考え込み・・・・・・・
顔を真っ赤にして、走って自分の部屋に閉じこもってしまった。
今、アキトが部屋に行っている。

 

 

「ルリちゃん」

アキトが呼びかけても、返事はない。
ルリにしてみれば、自分が一番合わせる顔がないのがアキトであるのだから、返事のしようが無い。

「ルリちゃん、あのさ、オレ、結構楽しかったよ。」

アキトは返事のないままに、ルリに話しかけた。

「ああいうルリちゃんも、可愛かったし。
ルリちゃん、まだ子供なんだから、何も恥ずかしがること無いんだよ。
元々ルリちゃんのせいでもないし。」

相変わらず返事はなかった。

「でもさ、少し残念なんだ・・・・・
せっかくルリちゃんと料理する約束したのに。
あの約束も、もうダメかな・・・・」

 

 

 

やがて。

 

 

 

シューッっという音とともに扉が開き。
中から、顔を赤らめうつむき加減のルリが現れた。

「・・・・・約束、ダメじゃないです。
アキトさん、お料理教えてください。」

小さな声でそう言うと、さらに、

「アキトさん、ごめんなさい。
私・・・・・」

消え入るような声で謝るルリ。
アキトは、そんなルリの頭をなでながら、

「なにも謝ることは無いんだよ。
オレも結構楽しかったからさ。
それじゃ、今日から早速料理を一緒に作ろうか。」

と優しく語りかけた。
ルリはようやくアキトの顔を見て、

「はい。」

そう言って笑った。

 

 

 

 

この事件はルリの公開日誌でも封印され、また厳重に口止めもされたため、決して表に出ることはなかったという。

 


<あとがき>

勢いだけで書きました。

・・・・・・そう言えば、アカツキやエリナは何処に行ったんだろう?(汗)

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