ユートピア・コロニーの居住ブロックの一画に、いつもの休日が訪れる。

「ラピス。・・・またやったんですって?」
「アキト、怖い」
「ふ・・・ふふふ・・・毎週毎週・・・研究を中断して保護者面談・・・」
「姉さん、まあ落ち着いて」
怪しい色の液体が入った注射器を片手に、肩を震わせるイネスを懸命に宥める。
「ならアキト。今度からあなたが行きなさい」
「いや、それは・・・」
「ほら見なさい。あなただって嫌でしょう」
「う・・・」
見かねたルリが口を挟む。
「でもほら、イネスさんも四六時中研究で篭りっぱなしじゃ、良くないですよ?たまの息抜きだと思えば・・・」

「息抜き、ですって?」
注射器よ割れろ、とばかりに握り締めたイネスが顔を上げる。
般若もかくや、である。
イネスのこういう表情を見るようになったのは、4人で暮らすようになってからだ。
それだけラピスの奔放さが度々イネスの実験を中断させている、そういうことだろう。

「・・・私の生きがいであるところの『実験』を中断させられた上、趣味の『説明』まで封印された状況で、あまつさえ他人の事情『説明』を聞かされて最終的には高額な賠償金を支払い、更に『お宅の教育が』などとこの私に向かって説教する低脳教師に頭を下げるこの屈辱が・・・」
じろり、とルリを睨む。
「ルリちゃんは『息抜き』だと、そう言うのね」

イネスの迫力に、ルリ、撤収。
・・・具体的にはアキトの後に隠れてしがみ付くだけ。
ラピスと一緒に。

困り果てたアキトは、いつものようにラピスに言う。
「ラピス、ほら、お前もちゃんと謝らなきゃ。何をしたかわからな・・・いや、何となく、っていうかはっきりわかるけど・・・」
ルリもその応援に回る。
「そうですよ、ラピス。それは、『学校の先生が低レベル』で『今どきベーシックなんてプログラムとは言えない』し『あんなコンピューターいつでもクラックできる』から『つい退屈で政府のサーバーにハッキング』かけるのは、『経験上』よくわかりますが・・・」
「ルリちゃん・・・それは論点が・・・」
「だからと言って、痕跡を残しちゃいけません。だからほら、ちゃんとイネスさんに『説明』なさい。どうやってハッキングしたのか。そうすればイネスさんも次からはこうしなさいって優しく教えてくれますよ?」
「いやだから・・・それは論点が違う・・・」
そこでラピスが余計な一言をはくのも、いつもの休日である。
「イネスのやりかたは・・・MADだから、いや」
「ラピス・・・どこでそんな言葉を・・・」
ちら、とルリを見るが、あらぬ方を向いている。
やれやれ、と肩を落とすアキトの視界に、堪忍袋の緒が切れたイネスが飛び込む。

「ラピスっ!そこに直りなさい!今日という今日は・・・」
「MADなのは事実・・・」
「ラピス!!!」

言い合いを始めた2人を残し、アキトとルリはこそこそと退散する。
どうせ1時間後には空腹に勝てなくなって、どちらからともなく休戦するのだから。

その間に、アキトとルリはすることがある。
家事だ。
アキトは、口論に疲れ果てた2人の空腹を満たすための昼食の準備。
ルリは洗濯に掃除。
リビングのドアには、これが日常になってから防音を施してある。
静かになったキッチンからベランダに出て、眼下に広がる居住区と、地平線まで延びた緑を見渡す。
今日は風も穏やかで、洗濯物もルーフを開けて干せそうだ。
そして、アキトとルリは目を見合わせて笑う。
これもいつものこと。

「騒がしいけれど、幸せな日々、ですよね。アキトさん」
「そうだね。・・・ずっと、こんな日が続くといいね」

ささやかな、願い。
困難な道を歩み、そして切り拓いてきた彼らに。
それは、約束された未来。

アキトは空を見上げる。
傍にルリがいる。
イネスが、そしてラピスがいる。
この空の遥か向こうに、共に戦ってきたナデシコクルーがいる。

自分たちの幸せを、それぞれが求めてきた結果。
それぞれが、見つめてきた未来。
それは決して平坦な道ではなく、けれどその時々の自分に向かい合って踏みしめて来た道。
だから、この先はきっと。

「ずっと・・・こんな日は続くよ。これからも」










『アイちゃん・・・本当に?』
『はい、おばさま。私は未来からボソンジャンプで来ました。だから・・・』



『やはり、歴史は大幅な変更を望まないのか・・・』
『あなた・・・でも、アイちゃんを救えただけでも・・・』
『そうだな。・・・後悔していないか?こんな私と一緒になったことを』
『ふふふ。後悔ならとっくに済ませてるわ。行きましょう、あなた』
『死んでも、私はお前と共にある』
『・・・ありがとう』



『アキト、私一生懸命勉強して早く社会にでるからね。できる限り早く迎えに来るから、その時まで待ってて!』
『姉さん・・・うん、わかった。待ってるよ』



『お願いよ、アキト。私を信じてちょうだい』
『わかった、約束するよ。でも何もなかったら、ちゃんと帰ってから説明してくれるよね?』



『え、と、テンカワ・アキトっス。よろしく』
『ホシノ・ルリ、オペレーターです』



『遅かったわね、アキト』



『おいしかったです。チキンライス』



『私・・・。ホシノ・ルリ。IFS強化体質。自己進化型高度AIのオペレーター・・』
『違うよ。ルリちゃんはただの11歳の女の子。それだけだよ』


『テンカワさん、ルリちゃん、2人で行ってきていいよ』
『へ?』
『え?』



『火星極冠の古代遺跡。初めて出会った場所だよ、ルリちゃん』



『ルリルリも成長したんだね。私たちが手を貸す必要もないくらいに』



『行ってらっしゃい。あなたの守りたいものを守ればいいわ』
『ありがとう。姉さん』



『艦長、あなたにとってナデシコとは何なんですか?』
『大事なものです。私たちが自分らしくあるために』



『あ、あの・・・あ、あれ、あの鐘、鳴らしてみましょう!』
『へ?・・・いいけど・・・どうしたの?』



『も、もしかして、それって・・・あ、あの、アヰノコクハクッテコトデスカ?』
『何か台詞がおかしいわよ。ま、そんなとこね』



『まあ、何だ、ロリコンってのかい?あたしゃ気にしてないからさ』
『な、何言ってんスか!』



『艦長!カトレアがチューリップ撃破に成功!月面を奪回しました!』



『相手は人間だけどね』
『お前は人間と戦うのは嫌なのか?』



『ルリちゃん、俺、ルリちゃんのこと、好きだ』



『私はアキトさんが大好きです』



『そんな・・・どうしてだよっ!お前ら!和平を・・・』



『突然ですが、歌います』



『『説明』して!』



『自分たちのために。地球のためとか、正義のためとか、そんなの止めちゃおうかなって思って』



『どう、ラピス。アキトを助けたいでしょ?』
『・・・うん』



『マス・ドライバー、発射!』
『発射します』




















2199年10月。

木連戦争裁判所は、異例の速さで戦犯の判決を次々に下していった。
草壁は死刑が確定し、北辰もまた、戦争犯罪以外の判決で死刑判決が下され、彼らに付き従った暗殺部隊のメンバーもそれぞれ刑に服している。
司法取引には一切応じず、彼らなりの仁義を貫いた。

地球では、火星大戦時の受注でネルガルがようやく業績回復の兆しを見せ始め、今月14日、アカツキ会長の会見で木連軍からの正式受注が発表された。そのための実験艦『オストリカ』は既に就航している。
アスカ・コーポレーションの業績は相変わらず順調で、ILJAでの研究参入も主導権を握って進めている。
ボソンジャンプはILJAの下、ラピスという制御が外れたために順調に研究が進み、来年6月にスタートする、『ヒサゴ・プラン』の予算も連邦議会で承認された。

火星の緑地化計画は急速に進められ、地球と木連の双方から入植者を受け入れて、産業も発展の一途を辿っている。
和平後に樹立された火星自治政府には、かなりの自治権が認められ、10年計画で完全な国家として主権を確立する計画になっている。

緑の星、赤い大地、そしてガス宙域のコロニー。
それぞれが新しい共同体としての道を歩み始めている。

歴史家は後にこう書くだろう。
曰く、『火星を舞台としたあの戦争は、地球・木連双方の長い憎悪と反発の歴史に終止符を打つ契機でもあったのだ』と。

そこにアスカ・インダストリー所属、AIX-001N機動戦艦ナデシコの名はなくとも。
彼らクルーもまた、新しい人生へ一歩を踏み出している。
ナデシコでの日々を大切な想いとして。
お互いの胸に抱きながら。










そして。





テンカワ・アキト
   火星ユートピア・コロニー在住。市民タワーの洋食屋『森のキッチン』でコックとして勤務。
   ボソンジャンプ実験には、イネスの指示の下で参加している。



ホシノ・ルリ
   火星ユートピア・コロニー在住。ユートピア第1中学校在籍。成績トップ。
   来年度飛び級でユートピア総合大学進学予定。



イネス・フレサンジュ
   火星ユートピア・コロニー在住。アスカ・インダストリー火星研究所所長。
   開発課上級顧問、ILJA理論研究局長その他肩書き色々。ヒラヤマのアタックに辟易中。



ラピス・ラズリ
   火星ユートピア・コロニー在住。ユートピアB-2小学校在籍。
   苦手なもの、イネス。好きなもの、イネス。



ミスマル・ユリカ
   ネルガル重工所属戦艦『オストリカ』艦長。
   結局、『ジュン君は大切なお友達』。



アオイ・ジュン
   ネルガル重工所属戦艦『オストリカ』副長。
   いつか『アオイ・ユリカ』が誕生することを夢見つつ、溜息の毎日。



ウリバタケ・セイヤ
   トウキョウ、オオツカで違法改造屋を営む。酒を呑んでは、
   『てやんでえ!女房がなんでえ』。



ハルカ・ミナト
   オオイソ・シティ在住。オオイソ第4中学校数学科教師として教鞭をふるう。
   『結婚?そうねえ・・・ルリルリより後はいやね』とは本人の談。



メグミ・レイナード
   声優、ラジオのパーソナリティ、レコードデビューと大活躍。
   スクープ記事の常連の座を占めつつあることに本人の自覚はない。



リュウ・ホウメイ
   トウキョウで『日々平穏』を経営。連日盛況。
   月1でナデシコクルーの貸しきり状態となる。



スバル・リョーコ
   連合軍に入隊。第2艦隊特務機動部隊『ライオンズ・シックル隊』隊長。
   入隊した隊員がMになってしまうという噂あり。



アマノ・ヒカル
   漫画家として活躍中。劇画調の絵が一部マニアに大人気。



マキ・イズミ
   現在消息不明。情報筋によればインドの山奥で修行中とか。


























機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




Epilogue Oct,2199

「アキトさん」
「ん?どうしたの?」
「・・・好き」
「え?」
「ううん。何でもないです」











One tale finishes and continues to the following tale.





→ 謝辞

Mono〜の部屋// らいるさんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2








《あとがき》

謝辞、読んで頂けるとありがたいです。

b83yrの感想
 
まだ、らいるさんの謝辞があるんですが、区切りの感想ってことで
ルリ「らいるさん、ご苦労さまでした、ところでび〜さん」
び〜「はい」
ルリ「び〜さんの連載の方はいつ完結するんですか?」
び〜「うっ(硬直)」
び〜「いっ、いやも今回は折角のMonochrome完結って事でその話は(汗)」
ルリ「そうですね、らいるさんに免じて今回はその話題には触れない事にしましょう、では、」
び〜「多くの読者さんが思ったかもしれないMonochrome最大の謎?」
ルリ「らいるさんの執筆ペースがなんであんなに早かったか?です」
 
いや、実はですね、らいるさんは赤くて3倍の人なんです
なんていう使い古されたネタは駄目?
 
ルリ「3倍ですか?、らいるさんの執筆速度はび〜さんの10倍ぐらいありそうにみえますけど」
び〜「うっ、否定できない・・・それに、そっち方面で突っ込み入れられるとは(汗)、ほら、きっとらいるさんは10倍界王拳とか使えるんですよ(汗)、あう、こっちも使い古されたネタだ(汗)」
 
イネス「馬鹿な事いってないで、早く本当の事言いなさい、でないと私が『説明』するわよ」
 
び〜「わ〜〜〜言います、言いますから、説明は勘弁してくださいっ!!お願いします(土下座)」
イネス「・・・・なんか、ムカツク態度だわね・・・・(怒)」
び〜「とっ、ともかく真相を言いましょう、といってもそんなにたいした真相でもないんですが」
 
実は、らいるさん、『Monochrome』の全話を書き上げてから、私のHPに投稿してくれたんです
だから、プロローグが私のHPにアップされた時点で、Monochromeは既にほぼ完成してたんです
ほら、たいした真相じゃ無いでしょ
 
ルリ「でも、これだけの話をちゃんと完結させるってだけでも、たいしたものなんですけど」
イネス「というか、そっちの方が凄いんじゃないかって気もするんだけど」
び〜「実は私もそう思う・・・・私の連載なんて今だに一つも完結してないもんなあ(遠い目)」
イネス「あなたもらいるさんを見習うべきね」
び〜「善処します(汗)」
 
しかし、ラストの感想がこんなんで良いのか?(汗)
 
 らいるさんの→ 謝辞 へ進む

Mono〜の部屋// らいるさんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2

 


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送