未来へと




そして歩き出す 未来へと・・・













ナデシコに戻ってきたユリカは、そのまま自室へと逃げる様に入っていった。

アキトとルリが生きていた事実、二人の関係、アキトの自分への対応、その全てが、ユリカには辛くのしかかっていた。



「アキト・・・ルリちゃん・・・なんで? どうして、私だけ置いていってしまったの・・・」


「ユリカさん、入るわよ? 」


全ての明かりを消したユリカの部屋に、突如イネスが入ってきた。 その手には、何故か酒が握られているが。



「イネスさん・・・イネスさんは知っていたんですか? ルリちゃんとアキトの事・・・」

「二人が無事だったのは、知っているわ。でも・・二人の関係は、今日初めて知ったわ。 これは本当よ? 」


「うそっ! それなら、何でそんなに冷静なんですか? 」


アキトとルリの事で混乱しているのか、ユリカには珍しくイネスに噛み付いてきた。





「そうね・・昔好きな人が、私の目の前で他の人に告白したから・・・って言うのかしらね。

 後は、やっぱり二人が無事に生きている事の方が嬉しかったからね」



「あ・・・ごめんなさい。 イネスさんにとっては、アキトは・・・」


イネスにとっても、アキトは大事な存在である事を思い出したユリカは、大きく頭を下げる。

そんなユリカを見て、イネスは苦笑しながら部屋の食器棚からグラスを二つ取り出した。


「ま、気にする事は無いわ。 私にとっては、もう良い思い出になったから。 で、ユリカさん」

「はい? 」


ユリカが顔を上げると、そこには怪しい笑みを浮かべたイネスがグラスとワインを片手にユリカに近づいてきた。

その、怪しすぎる笑みにユリカは、引きつった笑いを浮かべる事しか出来なかった。



「な、何ですか? イネスさん・・・」

「飲みましょう。 嫌な事は飲んで忘れるに限るわ。 こんな時にはね。 振られたもの同士飲みましょう」

「・・・・・・イネスさん、今日は泣いて良いですか? 今は、どうしても受け入れられそうに無いんです・・・

 アキトとルリちゃんが・・・・」



そう言うと、ユリカはイネスにしがみつき、生まれたばかりの赤ん坊のように泣き出す。

そのユリカを母親が赤ん坊をあやすように、いつまでも自分の胸で泣かせていた。


そして、二人はアキトとルリの事を酒のつまみに、朝方まで語り明かした。 

その時、ユリカの瞳から涙が止まる事は決して無かった。



こうして、アキトとルリとユリカの再会は、幕を閉じた・・・・














「プロスさんよ、わざわざこうして、俺達を呼び出したんだ。 あんたが、これから話す事は俺達が今、もっとも

 聞きたい事なんだろうな? 」


ウリバタケが、尋問する刑事のようにテーブルを叩いて、プロスを威嚇する。

あの研究所襲撃事件から、2ヶ月を経とうとした頃、元ナデシコクルーの主な面々がホウメイの経営する

日々平穏に集まっていた。

その集まりの中心には、集中する視線に少し冷や汗をかいているプロスペクタ―が座っていた。


「そうだよ。 私を含めて皆は、あの事を聞きたいんだよ?」


厨房から、ホウメイが乗り出すように詰め寄る。 


「はいはい、皆さんをお呼びしたのもあの事ですよ。 私も昨日やっとで会長から説明して頂けたので

 細かい事は分かりませんが、私の現在までに分かっているところまで・・・テンカワさんとルリさんの行方ですが・・」


プロスの口から語られた、アキトとルリの行方。 それは、ここに集まった面々が予想していたものとは

大きくかけ離れていた事に、一同は何も言わず只黙ってプロスの話を聞く事しか出来なかった。





「・・・・と言うわけでして、現在、テンカワさんとルリさんは夫婦のような関係にあるようです。
 
 もっとも、会長もそこまで関係が進んでいるとは予想してなかったようですな」



「でも、アキトさんはユリカさんの事を愛しているんじゃないんですか? 火星の後継者の事件の時も

 ユリカさんを助けるために、戦っていたんですよね!? 」


プロスの話している内容に、耐えきれないとばかりにメグミがプロスに食って掛かる。


「やめな! 」


何も言わずに黙っていたウリバタケが、取り乱しているメグミを制するように大きな声でメグミの名前を叫ぶ。



「な、何でそんなに落ち着いているんですか!? アキトさんとルリちゃんは駈け落ちしたようなもんなんですよ?

 よりにもよって、ユリカさんをほったらかしにして・・・酷いと思わないんですか!? 」


「あめぇな。メグミちゃんよぉ・・・好きだけじゃどうにもならねー時だってあるのは分かってるだろう?

 テンカワの奴は、艦長を助けるためにあえて、距離を取ったんだ。 まあ、さすがにルリルリをカミさんにしちまうとは 

 思わなかったがな。 プロスさんよ、テンカワがルリルリを選んだ理由は聞いてないのか? 」



「はぁ・・先程話したとおり、ルリさんの身の安全の為に、テンカワさんが引き取ったまでは聞いておりますが

 理由までは・・・」


ウリバタケの質問に、バツの悪そうに、メガネに手をかけるプロス。


「でも、ルリちゃんはやっぱりアキトさんの事が好きだったんですね。 そうでなければ、アキトさんとは・・・」


ホーメイガールズのサユリが、今聴いた内容を確かめるように喋る。


「ああ、ルリ坊は間違いなくテンカワの事は好きだったさ。けど、こんな形で結ばれたくは無かったはずだよ。

 あの子は、艦長も好きだったんだから。・・・・あの二人もきつかったろうね。」


「・・・・・・そうですね、ルリちゃんやアキトさんが好き好んで、ユリカさんを捨てるはずがありませんよね・・・」



ホウメイの諭すように語る言葉に、メグミは何とか落ち着きを取り戻す事が出来た。

だが、その瞳にはうっすらと涙が垣間見える。 ユリカの今の状況を哀れんだのか、アキトとルリが無事だった事からかは 

誰にも分からなかった。


「でも・・・・・・艦長と再会して、あの二人幸せに生きていけるのでしょうか・・」


プロスが、皆の想いを代表するように、ポツリと呟いた。 あの二人の事だから



「難しいだろうな・・・・だが、俺は幸せになって欲しいって思ってるんだ。 あの二人は、普通の幸せさえ

 満足に手に入らなかったんだからな。 わりぃ・・・・艦長の事がどうでも良いって訳じゃないんだがな」


ウリバタケのめったに見せない真剣な表情と言葉に、誰も何も言う事は無かった・・・




「うりぴ〜、随分真面目な話をしてるねぇ〜。イズミ」

「テンカワ・アキト・・・胸の大きい女性にはアキトる〜〜」

「あ、そう言う事か・・・あの疑惑はやっぱり本当だったんだねぇ〜」


集まりから少し離れたところで、ヒカルとイズミがアキトに関するある疑惑について、話し合っていた。

その後、日々平穏ではアキトが特殊な趣味を持った人間だとと言う方向で、結論が出る事となった。









「そっか、アキト君とルリルリは無事だったんだ」

「ごめんなさい、ミナトさん。 今まで黙っていて・・・・」


ミナトの家で、ユキナが今回起きた事件をミナトに全て説明していた。 本来は、ミナトも日々平穏で話を聞くつもり

だったのだがユキナが、自分の口から説明すると教皇に言い張った為、家でユキナの話を聞く事となった。


「気にしなくて良いわよ。 だって、ジュン君もユキナも二人の事を心配して黙っていたんでしょう?

 ユキナと同じ立場だったら、きっと私も同じ事をするからそんなに暗い顔をしないの。

 いつもの元気なユキナは何処いったの? 」


「だって・・・ユリカさんの事を考えると、やっぱり黙っているべきじゃなかったのかなって思うから・・・」


告白された内容に、怒るどころか優しい笑みを浮かべるミナトに対して、ユキナは全く視線をあわそうとしなかった。



「そうねぇ・・・ユリカさんの事は心配ね。 でもね、こればかりはどうしようもないと思うの。

 アキト君もルリルリも、ユリカさんの事を嫌いだから離れた訳じゃないでしょう? 」


「そうだけど・・・また、昔みたいに3人が暮らせる事が出来るのかなって、思うから・・・」


まだ、顔を上げようとしないユキナを優しく抱きしめる。


「そうなれば一番良いけどね・・・・・・・・でも」


ユキナを抱きしめる力をさらに強めるミナト。 その瞳には、うっすらと涙が溜まっていた。

抱きしめられたユキナも、ミナトが力をこめた意味が何となくだが、理解していた。


そう、二人が思い描く光景は、もう戻ってこない事は分かっていた。 だが、願わずにいられなかった。


3人が、昔のように暮らす事を・・・・・












「そうか。 二人は無事だったか。 すまなかったね、アカツキ君。 君に全てを押し付けるような形になってしまって」


「別に、気にする必要は無いですよ。 ネルガルにとっても、今回のテンカワ君の襲撃は好都合でしたからね。

 ま、いつまでも軍にでかい顔されるのが嫌だったから、ついでですよ。 ついで」



現在、ネルガルの会長室に、珍しい客が訪れていた。 まず、ここに来る可能性は限りなくゼロとも言える人物の訪問に 

最初は、アカツキも警戒していたが彼の独特の雰囲気に、警戒を解きソファーでのんびりとした様子で話し合っていた。

その横では、ツキオミとエリナが二人の会話を見守っていたが、アカツキとその男の会話の内容は

完全にプライベートな物になっていたため、ツキオミは退屈そうにしていたがエリナは、一言も聞き逃そうとしないように

じっと二人の姿を見守っていた。



「でも、軍はあの研究所の事で世間から叩かれまくっているのに、こんな所でお茶しても大丈夫なんですか? ミスマル提督」


「忙しいがね。 せめて、二人の手助けをしてくれた影の功労者に一言お礼が言いたかったんでね。 

 ツキオミ君、秋山君が合いたがっていたぞ? 今度会いにいったらどうだね? 」


「ええ・・・ですが、私には会う資格はありませんよ」


突然、自分に話を振られた事に退屈そうにしていたツキオミは、珍しくも驚いた顔を見せるが


「何を言うかね。 ネルガルが火星の後継者に襲撃された時にした演説は見事だったじゃないか。 隣にいた秋山君も

 君は変わっていないと、泣いて喜んでいたぞ? 」


「そうですか。 まあ・・・考えておきます」


苦笑しながら、ミスマルに答えを返しながら、何処か居心地が悪くなったように体を動かすツキオミ。



「しかし、軍の上層部に火星の後継者の関係者がいたとは・・・迂闊だった。 もっと、早く気付けばこんな事にならんかった

 ろうに。 ユリカにはすまない事をしてしまった・・・」


「ま、確かに、艦長は可哀想だけどしかたないでしょ。 全ての人間が幸せになるなんて、そんな漫画みたいな事は

 無理だったんだし、二人が幸せに暮らせているだけでも良かったと考えるべきじゃ? 」



今回の事件で、もっとも傷ついているであろう愛娘の事を考えると、眉間にしわを寄せ泣きそうなコウイチロウに対して

アカツキは、さほど気にする事無く答える。



「ふぅ・・・本当に君は噂通り、良い人か悪い人か分からんな」

「ありゃ、きついな。 提督も」


視線を合わせた二人の顔には、自然と笑みがこぼれていた。 その様子を見守っているエリナには、二人が古い頃からの知り合いの

様に見えた。



「ちょっと、いいですか? 今回、会長とツキオミが手助けしていたのは分かりましたけど、提督も今回の件に関わって

 いらっしゃったんですか? 」


エリナは、まさか提督まで関わっていたとは思っていなかった為か、少し強い口調でコウイチロウに質問する。

まさか、ユリカの実の父親であるコウイチロウまでもが、今回の件に関わっているとは信じがたい事だった。

ユリカが、ああなるのはエリナでさえも容易に予想つく。 なのに、当のユリカを残しルリだけをアキトの元へ

向かわせたコウイチロウの真意がエリナには理解できなかった。


エリナの質問に、笑みを浮かべていたコウイチロウの顔が悲痛な面持ちに変わって行く。



「ああ、アキト君の元へ行く様にルリ君を後押ししたのは、私だ。

 君も知っているだろう? あのアキト君は、もう昔のアキト君ではない。 あの頃のユリカでは、彼を支えきれる

 とは思えなかったんだよ。 だが、ルリ君ならアキト君を苦しめる事無く、支えてくるだろうと考えてね」




ユリカの事をもっとも理解している筈の、コウイチロウの口からユリカを否定している発言が出てきた事に

エリナ達は、驚きを隠せなかった。

コウイチロウの、普段ユリカに接する姿を見ていれば、彼女のあの能天気と言える性格は、父親であるコウイチロウの

影響だと考えるべきだろう。 いや、二人を見た全ての者がそう確信したはずだ。


 
「そうですか・・・・」
  
「すまないね。 私が不甲斐ないばかりに」

「まったく、提督もエリナ君もそんな暗い顔しないの。 今は今、昔は昔。 あの二人はもうナデシコに乗っていた

 二人じゃないんだから。 ま、艦長を慰めるのはエリナ君にでも任せておきましょ」


場の雰囲気を和ませようとしたのか、アカツキが話題を変える。


「どう言う意味ですか? 」

「いやね、何でもイネスさんが艦長を慰めてるみたいなんだけどね。 慰めるなら、振られたもの同士がいいかな? 

 何て思ったから」


「アカツキ君!! あんたねぇ!! 」


アカツキの言葉に、エリナは会長としてアカツキに接している仮面を脱ぎ捨て、普段みせるヒステリックな声を出しながら詰め寄る。


「んじゃ、僕はこの辺で〜」

「待ちなさい! アカツキ君! 」


逃げて行くアカツキを、エリナは凄まじい剣幕と共に会長室を後にした。

そして、部屋の主がいない会長室にツキオミとコウイチロウが残される事となった。


「やれやれ。 あの二人には困ったもんだ」

「いやいや、喧嘩するほど仲が良いと昔から言うもんだよ。 ところで、ツキオミ君、聞きたい事があるのだが」

「なんでしょうか? 」


部屋を出ていったアカツキ達を、飽きれて眺めていたツキオミの傍にコウイチロウが真剣な顔つきで

近づいてきた。 


「君は見たのかね? 」

「は? 何をですか? 」

「アカツキ君からは聞いてるよ。 君がアキト君とルリ君の子供を助けたんだろう? で、どうだったかね?

 二人にそっくりだったかね? 写真は写したかね? 」


「いえ・・・写しておりませんが」

「なんとぉ!? ツキオミ君、アキト君達が何処にいるのか知っているのだろう? 頼む! 赤ん坊の顔を見たいんだ。

 写真を撮ってきてくれ! ああ、二人に会えるなら、赤ん坊におじいちゃんと呼んでもらいたい〜〜」



「・・・・・・・・・・」


ツキオミは今までのコウイチロウの発言から、人として、父親として改めて尊敬したのだが

その考えは脆くも崩れ去り、二度とその考えが改まれる事はなかった。




「二人とも、幸せに暮らせよ・・・」


自分の世界に入りこむコウイチロウを横に、ツキオミはそう呟く事しか出来なかった。











「遅いな・・・ルリはまだなのか? 」



あの事件後、アキト達は住んでいた町に戻る事無く別の土地へと移り住んでいた。

この場所は、昔ながらの田舎とも言える場所だった。 人口の大半は、老人が住んでいたが

アキト達が移り住んだ時も、住人は何も詮索せずに快く出迎えてくれた。



現在、アキトはある場所にルリやラピスと来ていたのだが、準備が終わらない様子のルリに少し苛立ちを隠せない

アキトの姿が、待合室で見れた。



「あ〜〜〜テンカワさん、会場の準備はもうすぐで終わるそうです・・・」


何故か疲れた顔をした青年が、退屈そうにしていたアキトに話しかけてきた。


「そうか、それにしてもどうしたんだ? そんなに疲れた顔をして。 彼女に何かされたのか? 」

「あんな、性根の腐った奴なんか彼女なんかじゃないやい! 」


アキトの言葉に、青年は大きな声で反論する。 その青年は、以前アキト達が住んでいた町で名物

とまで言われたカップルの片割れだった。



「まあ、喧嘩するほど仲が良いというからな。 そんなに恥かしがっていると、みんなに笑われるぞ? 」

「違うのに〜〜〜〜〜〜〜〜〜! 」


アキトの言葉に、泣きながら否定するしか出来ない青年であった。 そもそも、彼がここにいるのには

アキト達よりも先にここに移り住んでいたからだが、どうにも彼女との関係は進呈してないようだ。

青年は必死に、彼女との関係を否定しているようだが・・・



その時、奥の方からラピスがアキト達の元へと走ってきた。


「ラピス〜〜。 ここは走り回っては行けないって言っただろ? 」


自分の胸に飛びつくように、走りよってきたラピスを難なく抱えるアキトは、両手でラピスの顔を挟み込むようにして

じっと顔を見つめる。


「ごめんなさい・・・でも、もうすぐでルリの準備が終わるから、早く知らせたくて・・・・」


そう言いながらも、アキトの胸に顔をうずめるラピスの顔には反省の色は伺えなかった。

アキトはそんなラピスを仕方がない奴だと、内心呟いた。 イネスにある事を吹きこまれて以来、ラピスはアキトに対してかなり

積極的にアプローチするようになっていた。 その姿は、昔のラピスからは想像できないほど表情も豊かになっていた為

あまり強く言えないアキトであった。 



「そっか、次からは気をつけろよ? ルリが五月蝿いから」

「分かってる。 そうだ、これ服の中に入っていたって衣装係の人が言ってたよ」


ラピスはポケットの中から、手紙をアキトに手渡した。


「これ・・・イネスさんからか・・・」


手紙に書かれていたよけいな説明書きを見るなり、アキトは即座にイネスと分かった。

そこには、イネスがどれだけユリカを慰めるのに大変だったか、事細かく書かれいる部分にアキトは石の様に固まってしまう。


「どうしたの? 」

「・・・・・・・・・何でもない。 何でもないよ・・・・」


ラピスの質問に、自分に言い聞かせるような口調でアキトは手紙を読みながら答える。 


「これ、ルリは知っているのか? 」

「まだ知らないよ」


「いいか? この手紙の事は決して誰にも言っては行けないぞ? ラピスもお前も、解くにルリにはな」


ラピスと青年は、アキトのただならぬ雰囲気に黙って首を縦に振る事しか出来なかった。

その険しい表情から、何か良からぬ事が書かれていたとは思ってもいなかった二人は、手紙の内容を改めて読み返す

アキトを黙って見つめていた。


「・・・・俺のせいなのか? 二人がそんな関係になるなんて・・・・」 


そう呟く事しか出来ないアキトだった。





「テンカワさん、ルリちゃんの準備できましたよ〜」


重々しい空気の中、一人の女性がアキト達の元にやってきた。


「げっ!? 後、よろしく〜」


女性の姿を確認した青年は、足早にその場を去ろうとするがラピスが足を引っ掛けた為に、逃げ遅れる事となってしまった。


「うう、ラピスちゃん酷い・・・」

「責任とんないと駄目だよ」

「何もしてないのに〜〜」


「もう! いつまでも往生際悪いわねぇ。 貴方は私のそばにいないと駄目なんだからね! あ・な・た」


怪しいと言える表現がぴったりな笑顔を浮かべながら、女性は青年を奥の部屋につれて行く。


「んじゃ、私達も着替えてきますから。 写真撮影は、テンカワさん達だけで良いですよ。

「何で、私まで連れてゆく〜! そこは女性用の着替える場所でしょう〜〜」

「気にしない、気にしない」


抵抗する男性を、その細い体からは想像できない力で女性は引きずっていった。



「さて、行くか」

「うん」


二人のやり取りを、特に気にする事無くアキトとラピスはルリがいるであろう部屋へと向かっていった。




「あ、アキト」

「綺麗・・・いいな、私も着たいな」


ラピスは、ルリの姿にため息をつくように感想を述べるが、アキトは何も言わずにルリを見つめていた。


「あの・・・やっぱり似合いませんか? 」

「いや、何て言うかルリには、白が良く似合うって思ってね。 うん、凄く良く似合うよ」


アキトの答えに、ルリは普段見せないとっておきの笑みをアキトに見せる。


「それでは、写真撮影をしましょうか。 部屋は出て右の方ですよ」


ルリの服の着付けをしていた中年女性が、アキト達を部屋の外へと誘導する。

ラピスは、その中年女性の後ろに離れないように歩いているが、アキトとルリはゆっくりとその後に続く。


「アキト・・本当に良いんですか? 」

「何が? 」


ルリの何処か不安そうな顔つきに、アキトは不思議そうな顔で見つめ返す。



「だって、ユリカさんと結婚式を挙げたのに・・・」

「そっか、ルリはそれを気にしていたのか。 でも、気にする事ないよ、そのウェディングドレスはユリカ達からの

 プレゼントだからね。 手紙に書いてあったよ、『いつまでも変わらない親友へ』ってね」


「そうだったんですか・・・」


ユリカという名前を聞き、ルリは不意に肩を震わせる。 ユリカが自分にどんな気持ちでウェディングドレスを送ったのか

しかもルリの相手が、自分の夫の筈のアキト言う事を考えると、手紙に書いてあったその言葉にルリは

感謝をすると同時に、一生掛けても癒えないであろう傷をユリカに負わせた事を思うと、涙が溢れてくるのを

止められなかった。


「ルリ、泣いちゃ駄目だよ。 せっかくの化粧が台無しになるだろ」

「ごめんなさい、でも、ユリカさんの事を思うと・・・」


アキトが手渡してくれたハンカチで、涙をそっと拭くルリの肩を、自分に引き寄せるアキト。


「ルリ・・・ムツミがもう少し大きくなったら、ユリカに会いに行ってみる? 」

「え? 」

「まあ、世の中がボソンジャンパーにとってもう少し住みやすくなっていたら・・・だけどね」

「はい、その時にはちゃんと挨拶しましょうね。 アキト・・・」


お互いの意思を確認したかのように、しっかりと手を握る二人。


「パパ、ママ・・・」


先程まで、撮影質で眠っていたムツミが撮影室の扉の前で二人を待っていた。


「起きていたの? ごめんね、寂しかった? 」


ルリが抱きしめてやると、強く抱きしめ返すムツミ。 何も言わずにいるが寂しかったのだろう。


「それにしても、ムツミもどんどん大きくなっているな。 俺達は別に代わっていないのに・・・」

「そうですか? 私は、アキトとこうなるなんて前は思ってもいませんでしたけど?・・・・・・・・そういえば」


アキトの言葉に、今の自分達の状況を見ると何も変わっていないに筈はないと思うルリだが、不意にある事に気付く。



「どうした、ルリ?」

「このドレスって・・・サイズはアキトが教えたんですか? 」

「いや・・俺は、イネスさん達には連絡してないけど? 」


ルリが、何を言いたいのか理解できないアキトは只首を傾げるばかりだった。 そもそも、サイズがどうかしたのか?

アキトの頭の中には、クエスチョンマークだけが浮かび上がるだけで、答えが見つからなかった。


「あの手紙の『今までも変わらない親友へ』って・・・私に対するあてつけだったんでしょうか・・・」

「あ・・・・」


ルリがそう言った時に、アキトはルリが何を言いたいのか理解できた。

今、ルリが着ているドレスは、ちゃんとサイズを図った様にルリの体に合っていた。 しかし、考えてみればイネス達が

現在のルリの体のサイズを知っているはずがない。


つまり・・・ルリは、アキトがつれて行く前から全く体型が変わっていないと言う事である。


「あのさ・・・ムツミも生んだのに、体型が変わらないのは良い事だと思うんだけど・・・」


何を言えば良いのか、分からないアキトはとりあえず思いついた事を言うのだが、それが不味かった。


「ええ・・そうですね。 どうせ、私は幼児体型ですよ」


いじけた様に、ルリはムツミと一緒に撮影室へと入ってゆく。 その姿を、アキトは自分の不甲斐なさに後悔するばかりだった。

その後、撮影した写真には昔のように冷たい表情を見せるルリと、苦笑いをするアキトの姿が収まっていた。




「アキトは気にしないんですか? その私の体型・・・」

「あのさ、俺はそんな事気にしないって」

「やっぱり、あの噂は本当だったようですね。 アキトはロリコンだと言う事は・・・」

「な、何でそうなるの・・・」

「アキトは胸が小さい方が好きなんだ・・・じゃ、私も良いよね? 」

「おいおい・・・ラピス、なに言ってるんだよ? 」

「ラピスに手を出したら、駄目ですよ? 私と結婚したんですから」


二人の言葉に、泣いて否定する事しか出来ないアキトだった。 

その涙は、結婚式が終わる時まで止まる事はなかったという。 


だが、この結婚式から1年後アキト達の家族が二人に増えた事により、アキトのロリコン疑惑は確定する事となった。











「ジュンちゃんも、知っていたんだね。 アキト達の事」

「ごめん、二人の安全の為でもあるけど、何よりユリカの事が・・・」


ナデシコC内を、ブリッジに向かって歩いて行くユリカとジュン。 あれから、2ヶ月経っている為か

最近のユリカは落ち着きを取り戻していた。 そのユリカを見て、ジュンは自分もアキトの事を知っていた事を

この時、告白した。



「気にしなくて良いよ。 あれから、良く考えたんだけどやっぱり、仕方なかったんだなって思うんだよね。

 だから・・・今は二人が幸せに生きていてくれれば良いと思うの。 イネスさんからの受け売りだけど」


そう言って笑う、ユリカにジュンは申し訳ないと思うばかりだった。 だが、それと同時にユリカが大きく成長した事を

嬉しくも思った。




「ねえ、ジュン君」

「何? 」

「いつか、アキトとルリちゃんに会えるかな? 」

「・・・・・・・・そうだね、いつかきっと・・・いや、また合えるさ。 だから、元気出して!」

「うん、ありがと。 そうだ、今日は新しいクルーが来るんだよね? 」

「そうだけど? 」


ブリッジの扉前で、何かを思いついたように話すユリカ。 だが、ジュンは何を思いついたのか分からなかった。


「じゃ、久し振りにあれをやろうかな? 」

「あれって、まさかユリカ・・・」


止めようとしたジュンにお構いなしに、ユリカはブリッジへと入ってゆく。

すでに、ブリッジには新しいクルー達がユリカ達を待っていた。


「新人のみなさ〜ん、私がナデシコCの艦長、ミスマル・ユリカです! ブイッ! 」

「「「ブイ・・?」」」


艦長がブリッジに入ってきたと思ったら、いきなりのあの発言に新しいクルー達は、あっけに取られてしまった。

その周りにでは、久し振りにあの発言を聞けたサブロウタ達は、笑ってユリカを見つめるだけであった。


「ユリカ・・・せっかく艦長らしくなったのに、これじゃ全て水の泡だよ・・・」

「何言ってすんかぁ。 艦長はあれがないと艦長とは言えないでしょ? 良いんじゃないっすか? 」


落ち込むジュンに、サブロウタは笑いながらジュンに話しかける。


「そうかな? これで良いのかなぁ・・・」

「そんなもんですよ」



新人に元気良く話しかけるユリカを見て、本当にこれで良かったのだろうか? そう思うジュンではあったが

いつか再会するであろうアキト達の事を思うと、元気なユリカの方が良いのでは? とも思ったりした。



「君は、エステバリス隊に配属されるんだ? 隊長のリョーコさんは口は悪いけど、頑張ってね? それから、君が・・・・・・」






こうして、人は未来へと歩き出す・・・

それぞれの思いを胸に・・・いつか再会できるであろう友の事を思いながら・・・

今は、辛くとも少しづつ歩いてゆけば、その未来は決して暗くはないのだから・・・・








未来の為に










どうも、KANKOです。 はい、やっとで完結いたしました。

このお話が、初めての連載と相成りましたが、いやはや思っていたよりも大変でした。

只、終わってみれば反省と言う言葉ばかりが駆け巡っており、改めて自分の未熟さを痛感いたしました。(笑)

私のような未熟者のSSを読んでいただいた皆様には、本当に申し訳なく思っております。

これからも、向上心を忘れる事無く書きつづけていきたいと思っています。

皆さんに、楽しんで頂けるSSを書ける事を願いつつ・・・それでは、ここまで読んで頂いてありがとうございました。


2002.9.24 KANKO

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