『○○○の逆襲』<丸の中身が読む前から判っても気しないのが優しさ


 

 

 

「……ぅく……くぁ……」

彼は苦しんでいた。おそらく悪夢でも見ているのだろう。

全身を汗でびっしょりと濡らし、現在進行形で今も流れ続けている。

彼の苦しそうな呻き声に、隣で寝ていた女性が気付いたようだ。

男性の様子のおかしさに、心配になって身体を揺すりながら呼びかける。

「大丈夫ですか!アキトさん!アキトさんっ!」

その声に、男性は急に目を開くと同時に跳ね上がるように起き上がる。

よほど夢が怖いものだったのか、息を大きく荒げて胸を押さえていた。

悪夢から覚まさせてくれた女性、自分の妻に気付いた。

「あ、起こしてくれたのか。ごめんね、起こしちゃって」

「あ、いや良いですよ。それよりどうしたんですか、凄く魘されてましたけど…」

「大丈夫大丈夫。嫌な夢見ただけだから…」

「嫌な夢? どんな夢見たんですか? …まさか火星の後継者に捕まってた時のっ!」

「いや違うよ。心配してくれてありがとう、ルリ」

結婚して数年経っているというのに、感謝と強い親愛の情の篭る彼のこの甘い声に、

彼女は未だに顔を赤くしてしまう時がある。

「じゃあ、どんな夢見たんですか?」

顔の赤みを誤魔化すように、話題を振る。

「それはね…あれ? 全然思い出せない…」

「全く覚えてないんですか?」

「うん。もの凄い悪夢だった事は覚えてるんだけどね」

そう言って笑う彼につられ、妻の女性も一緒に笑ってしまう。

笑いが収まると、女性が何かに気付いた。

「アキトさん、汗でびっしょりですよ。シャワーとか浴びてきた方が良いんじゃないですか?」

「…本当だ。パンツまで濡れてる…。あ、ルリも一緒に入らない?」

「え、いいですよ私は…」

「いいからいいから。一人で入るのも寂しいし一緒に入ろう」

彼はそう言うと、彼女の言葉も聞かずにお姫様抱っこで抱き上げてお風呂場へ向かった。

 

数分後、浴室から…

「…ぁ…駄目ですよアキトさん。あの子達が起きちゃいます…

「子供達、今日は疲れてぐっすりと眠ってたから大丈夫だよ」

「それでも…あぁん」

初めの頃こそ抵抗するような声が聞こえていたが、

しばらくすると何かを堪える様な声しか聞こえなくなってしまった。

その後、彼らは朝まで浴室から出てこなかった。

 

その後しばらく彼が悪夢見ることが続いたが、その度に二人で浴室に篭る事になったらしい。

 

 

 

こうして一組の夫婦が愛を育んでいる間。

宇宙ではある事件が起きていた。政府が管理している筈のボソンジャンプの技術。

そのボソンジャンプを行う時に発生するボソン反応が、実験の予定が無い場所から観測されたのだ。

 

過去の事件でボソンジャンプの危険性を身を持って知っている政府は、

当然のようにそれを調査する為の艦を向かわせた。

だが調査に向かった艦は、いずれも行方不明になってしまう。

この事態を重く見た政府は、単艦では無く艦隊を調査に送る事に決定。

 

こうして、旧ナデシコ副長アオイ・ジュン率いる艦隊が調査に向かう事になったのだった。

「何か前回も同じような事をしてたような…」

電波でも受信したのかよく判らない事を呟いていたジュンだったが、

その仕事振りは普段と変わらず、さすがあの「ナデシコ」クルーと言われるものだった。

そして調査を続けて数日。彼は出会ってしまったのだ。

「ボソン反応感知っ」

「どこだ!?」

「反応……この艦の正面ですっ!」

「何だって! フィールドを展開しつつ艦全速後退。他の艦も散開させろ!」

艦長の的確な指示と素早く反応するクルー。

そんな艦内を他所に、前方に何者かが現れようとしている。

眩い光を纏いながら、何かが姿を現していく。

「ま、まさかこれは!」

その日、「我、目標を発見せり」との通信を最後にまた一つの調査隊が全滅した…

 

艦隊でも駄目だったというこの事態に、捜索隊を送るかどうかの議論が行なわれた。

これ以上の損害は出したくないと言う二次被害を恐れる派閥と、

人道的にも捜索した方が良いという派閥に分かれた議会は議論を膠着させてしまった。

そうして数日。やっと議会が進展する可能性を見せた。

それは今まで行方不明になってしまったすべての艦が、

辺境のとあるコロニー付近で一緒に発見されたという報告があったのだ。

唯一行方不明になる前に発見の報告を送っていた艦、アオイ・ジュンが指揮していたものだ。

保護されたジュンが目覚めた後、議会はそこで見たものについて報告するようにとを指示を出した。

しかし、彼は何故か任務中に負傷したという名目で入院、そのまま口を噤んでしまったのだった。

それはまるで、見てはいけないものを見てしまった人間のような行動だった。

 

 

後にジュンをお見舞いしに行った彼の婚約者、白鳥ユキナの証言よるとこんな感じだったらしい。

ユキナ嬢の回想を元にしてます、事実と違う事がありますかも、しれません。ご了承下さい。

 

お兄ちゃんからジュン君が任務で負傷したって聞いて、お見舞いに行ったんだ。

「貴方の可愛いユキナが、お見舞いに来てあげたよ〜」

「普通、自分で可愛いって言うかな…」

そう言っていつものように苦笑するジュン君に、私は頬を膨らませた。

でも、怪我して入院したって聞いてたわりに、全然怪我してなかったから安心したのを覚えてる。

「入院してるわりには元気そうだね。どこが悪いの?」

「いや実はこれ仮病みたいなものなんだ」

「へ?」

「任務でちょっとあってね。誤魔化す為に入院って事にね。 後は休暇を消化しようかと…」

「酷い!私とのデートには休暇は使わないのにっ」

「い、いや、だってユキナがデートに誘ってくる時はいつも突然だから、休暇を取れないだけで…」

怒った振りをしながら、あたふたするジュン君を十分に堪能した私は思わず吹きだしちゃった。

「あははぁ♪やっぱりジュン君おもしろ〜い♪」

からかうと面白いからいつも意地悪しちゃうのよね。

「ねぇジュンくん。入院する事になった任務ってどんなのだったの?」

「あれは関わってはいけないものだ…」

その横顔がいつもと違ってかっこ良かったと惚気た所で彼女の回想は終った。

 

 

 

 

その後、謎のボソン反応は移動するようになった。

サセボ。ビックバリア。コロニーサツキミドリ2号。火星のユートピアコロニー跡。

月周辺。北極海。テニシアン島。クルスク工業地帯。ヨコスカ。月面。ピースランド。

再び月面。再びサセボ。地球と木星の中間地点。

そして最後に火星の極冠遺跡。

 

次々と移動しては、その周辺に存在する物諸共消えていくという謎のボソン反応。

突然現れては災厄を撒き散らしていく。それは何かに似ていた。

そうそれはまさに、天災と呼ばれる存在だったのだ。

 

誰もが謎の現象として恐れている中、その正体に勘付いた存在も居た。

『まさか…が帰って…のか…』

そして、その存在の想像は、すぐに確信に変わった。

次に天災が出現したのは、かつて『彼ら』が共に過ごした思い出の場所だったのだから。

『何とかしなければ…』

その何者かは、静かに対策を練り始めた。

 

 

 

その後、謎のボソン反応は街に現れる事もあり。一般でも目撃者が増え始めた。

その目撃者曰く、

「白く輝く塔のような物が見えた」

「大きな翼が付いてたよ」

「何かを探してるような声が聞こえた」

「天辺に女の人が立ってる様に見えた」

などなど、統一性の無いものだった。

そしてこうなると、マスコミが騒ぎ始めてもおかしくなくなってきた。

しかし、マスコミは一向に報道を始めず、また政府も一切の公表をしなかった。

その頃には、その存在が何なのかを、彼らは知ってしまっていたのだ。

 

 

そして、広く世間に公表されていないが故に、平穏に過ごせている一つの家庭があったりした。

 

その家では父親とその娘二人が、モミの木を飾り付けていた。

「お父さんこれで良い?」

「うんうん、綺麗に出来たね」

「パパ、私は〜?」

「…アキナ。七夕じゃないんだから短冊は付けないんだよ」

「えぇ〜付けちゃいけないの〜?」

「付けちゃいけない訳じゃないんだけど、それは来年の七夕の時にしようね」

「…はーい」

「お父さん、星付けるから抱っこして」

「あ、ミホシ一人でずる〜い。私も星やりた〜い」

喧嘩を始めてしまいそうな二人に困っていた父親だったが何か思いついたのか、

「ほら二人とも喧嘩しない。こうすれば良いだろ?」

と、子供を片腕ずつ二人同時に担ぎ上げた。

急に高くなった視点に驚きながらも、子供達は協力して楽しそうに星を付ける。

「パパ、綺麗に出来た〜?」

「出来た?」

「うん、綺麗綺麗。じゃあちょっとだけ電飾点けてみようか」

父親は子供達を降ろすと、スイッチを点ける。

すると電飾が輝き始め、ツリーを明るく彩り始めた。

「わぁ…」

「きれい…」

娘二人は、それを夢中になって見惚れる。

「ご飯出来ましたよ〜。アキトさん、飾り付けは終りましたか…あ、綺麗に出来ましたね」

そう言って入ってきたのは、この家のお母さん。

「ああ、二人が頑張ったからね」

「お星付けたよ〜」

「二人で付けたの」

「まあ頑張ったわね」

褒めて欲しそうに報告する子供達を、優しく撫でてあげる。

「電飾のスイッチを電気を切ったらすぐ行くから、先に行ってて」

「はい、わかりました。じゃあアキナ、ミホシ、手を洗いに行きましょうか」

「「はーい」」

彼は妻とそれに纏わりつきながら部屋を出て行く娘達を確認すると、

さっきから隅でごそごそと何かやっていた義理の妹へ声をかけた。

「それでだ。ラピス」

彼女はお尻を突き出していた姿勢から立ち上がると、「何?」と聞きたげに首を傾げた。

「お前はさっきから何をやってるんだ?」

「サンタを捕まえる罠を仕掛けてるの…」

「そんな事しないっ!」

実はこの家のサンタさんはお父さんなので、

罠を仕掛けられると、彼がデンジャーな目に遭うのです。それは止めるのも必死になります。

「でも、不法侵入してるのはあっち。法は私達の味方…」

「…とにかくそれは撤去しなさい」

さすがに彼に怒られてまでする気は無いのか、少女はしぶしぶ罠を撤去し始めた。

「捕まえれば、プレゼントいっぱい貰えるのに…」

いまだ諦めきれないのか、彼女はブツブツと文句を言いながら片付ける。

彼はその姿に苦笑しながら、仕掛けようとしていた罠を確認してみる。

するとそこには、沢山の非殺傷性の物と少ないが明らかにヤバそうな罠が混じっている。

トゲトゲしたのとか、触れただけで切れそうな板とか。

嫌な汗をかきながらも、罠が仕掛けるのを止められた事に彼が安堵していると、

「お父さん、ラピ姉、まだ何かしてるの?」

「ご飯冷めちゃうよ〜」

いつまで経ってもやって来ないので、娘達が迎えに戻ってきていた。

「ごめん。ちょっと手間取っちゃってね」

「…素直なのは良い事だってお母さんが言ってた」

「パパも手を洗わないと駄目だよ〜?」

「わかってるわかってる。今度こそすぐ行くから先に行っててくれ」

お母さんを真似るようなポーズで窘めてくる娘達に、彼が謝っていると、

「…遅い、アキト」

いつの間にかちゃっかりと先に部屋から出ていて、そう催促してくる義妹の姿があった。

 

 

 

と、こんな幸せな沢山の家族を守る為かどうかわからないが、

軍の皆さんは必死で戦っていました。

そんな中のとある討伐隊の様子…

 

「オペレーター、現在目標はどうしてる?」

「はい。目標……こ、これは!」

「いったいどうした!?」

「目標、眠っている模様です」

「は?」

「それが、目標のエネルギー反応が極端に弱まっています。これは休眠状態と言うしか…」

「そ、そうか、まあいい…。 この機を逃すな! 全艦、一斉に砲撃を開始しろ!」

号令と共に撃ち込まれる数条の黒い光の束。

宇宙では響く筈の無い轟音を感じさせるような爆発が、

標的とその周辺の隕石群を同時に包み込む。

「この爆発では残骸も残っておるまい…」

任務達成の喜びに喝采が上がる中、

「巨大なエネルギー反応感知。これは…目標、健在です!」

「なんだとっ!」

爆発の中からキューブ状だった存在が姿を現す。

それは遺跡と呼ばれ、過去幾つもの争いを生んだものに似ていた。

しかも、なんとその存在の表面には傷一つ付いていなかったのだ。

驚きに声も出せない一行。

その目の前で、キューブが広がっていく。

キューブの外側だったものは翼となり、その中から本体が姿を見せる。

それは銀色に輝く女神像のような物。

その美しさに皆が目を奪われる中、その瞼が上がっていく。

遂にその瞳が見えた時、その存在は口を開いた。

 

「もぉ!ユリカの日光浴を邪魔するのは誰っ!?」

 

その艦隊は昼寝を邪魔したという理由で、はるか彼方まで飛ばされる事になったのであった。

 

 

そして、精鋭討伐隊の場合…

 

「何度来ても、無駄だよ」

そう言うと、彼女(?)は蒼い光を放つ。

それは前の艦隊を撃退した彼女の必殺兵器だった。

なんと彼女は触れてもいない自分以外の物体をボソンジャンプさせる事が出来るのだ。

まあ、遺跡と融合しその全ての機能を扱うことの出来る彼女にとっては児戯のような物なのだが。

だが、それを知って対策を考えられないようでは精鋭の名が廃る。

放たれた蒼い光は、狙った対象の姿が消える事で無効になった。

「え!」

「ははは! 我ら元有人部隊を甘く見るなよ。というか、ゲキガンタイプなんだから予想しろよっ」

そう彼女をフォーメーションを組んで包囲しているのは、俗に言うマジンタイプ。

単独でジャンプすることが出来るようになった最初の兵器だ。

ジャンプ出来る距離は短いが、マジンより機動力の低い相手には十分脅威だ。

「ユリカには貴方達なんか、相手なんかしてる暇ないんだからっ」

その叫びと共にボソンの光が生まれる。

さすがに不利と悟って、ジャンプで逃げる事にしたようだ。

「そうはさせるか! ネット射出しろっ」

周囲に展開したマジンタイプから、淡く輝くネットが発射される。

「あれ〜? ジャンプできないよ〜!」

「本来重要拠点にボソンジャンプで進入出来ないようにする装置なのだが、 お前用に改良させてもらった。」

「え〜。そんなのず〜る〜い〜」

「反則の極みが文句言うなっ!」

「と、ゴホン。ともあれ捕獲完了だな。大人しくしていれば手荒な真似はしない」

なんか人間から逸脱してるっぽい女性にも手を上げる事が出来ない彼ららしい処置だったが。

それが彼らの仇となった。

この存在にはそんな気遣いをする必要は無かったのだ。

「拘束プレイなんて、アキトとだってまだしてないのに〜!!」

「何っ!?」

怒りの叫びと共に、彼女の各部から黒い閃光が放たれる。

それは空間を歪め、ネットごとマジンを粉砕する。

なんと彼女は、怒りによってグラビティブラストを撃てる様に進化したのだ。

「くそっ。怯むな撃ち返せー!」

策を破られ混乱する彼らは、その後奮闘するも、その努力も空しく。

彼ら精鋭討伐艦隊は、宇宙の塵と消える事となった。

 

 

こうして数々の敗北を味わい。

木連の元有人部隊を核にした選り抜きの精鋭部隊でさえ破られた軍は、最後の切り札を投入した。

その部隊の名は、ナデシコ艦隊…

 

「はっはっはっ!遂に俺様の出番だぜ!」

「艦長そう言って、前回出番奪われたくせに」

「デートの予定だったのに…しくしく…」

お馴染みナデシコの三馬鹿こと、山田、ハリ、サブロウタの三人。

「ダイゴウジ・ガイだってっ!」

といつもの遣り取りは放って置いて。

「置くな!」

 

という事で、あっと言う間に目標が居る筈の場所に到着。

「報告ではこの辺りの筈です、艦長」

「確か銀色で光ってるらしいから、すぐ見つかると思いますよ」

「あれじゃねえか?」

「そうみたいですね。目標を映します…ぶっ!」

目標をモニターに映した途端、オペレーターの少年が鼻から赤い液体を飛ばす。

そこには上半身裸体を晒した女性の姿が。ただし色は銀色。

((あれで鼻血なんてウブだなぁ…))

汚れた大人二人がそんな感想を抱いている中、

「着替えの覗くなんて最低っ!」

女性が銀色の布?らしき物で胸を隠しながら、黒い閃光をナデシコに放ってくる。

しかし、そこはさすがナデシコ級。なんとかその攻撃を耐え切る。

「ズズ…さっきので…ズズゥ…フィールド出力60%低下…あ、口に入った。うえぇ…」

「ハーリー、報告は良いからまず鼻血止めろ…」

そう言って、サブロウタが甲斐甲斐しくテッシュを鼻に詰めてやる。

「よし反撃だぁ! 初っ端から、大きいの喰れてやれ!」

「了解。相転移砲発射しまーす」

この時の為に、ナデシコBに急設されていたYユニットから不可視の光が放たれる。

みんな、イネス博士に説明されたが、結局よく判らない原理で防ぐことが出来ない。

としか判らなかったこの兵器だったが、

「相転移砲、フィールドによってキャンセルされましたっ」

非常識にも、いとも簡単に防がれてしまった。

「くっ、まあいい。よく考えたら、これで終ったら俺様の出番が無いではないか。良かった良かった」

「ごうげきがぶせがれて、よろごばないでぐだざい」

「詰め物をしてるせいで何言ってるか判らんぞ、少年A」

「だれがじょうねんAでずがっ!」

「ハーリーも艦長も、こんな時にじゃれあうのは止めてくださいよ。 あちらさんが着替えてる途中だから良いですけど。

このままだと沈められると思うんですが…」

「そ、そうだな。よし、機動兵器部隊出撃! 俺とサブロウタも出撃するぞ」

「がんはどうずるんでずが?」

「少年Aがやれ。俺達が帰ってくるまで沈めなければ良い。出来るな?」

何時に無く真剣な表情で言うガイの姿に、少年Aと呼ばれた少年は、

「はい。任せてください!」

少年Aである事を認めた。

 

 

未だに動きの無い戦艦クラスの大きさの女性型に、その百分の一ほどしかない機動兵器が攻撃を仕掛けている。

「よっしゃー!撃って撃って撃ちまくれっ」

軽やかに、しかし意外なほど統率の取れたフォーメーションで射撃を加える。

しかし、相手は戦艦の砲撃、それも相転移砲さえ防ぐようなフィールドを持っている。

一向にダメージを与えられない。

「次のフォーメーションに移行。いくぜ、ゲキガンランサー!」

迎撃しようと放たれる漆黒の渦を紙一重で避けると、そのフィールドに槍を突き立てる。

槍のフィールドと干渉しあい中和されていくユリカのフィールド。

何機もの槍が突き立てられ、遂に完全に中和された。

「よし抜けた!これで奴は丸肌…ぐぁ!」

確かにフィールドは中和された。

しかし、それは何枚もあるフィールドの一枚が無くなっただけ。

それに気付かなかったガイは、フィールドに思いっきり衝突してしまったのだ。

ちなみに、サブロウタを含む隊員は気付いて止まっていた。

「いてて……一度後退するぞ」

なおも落とそうとする迎撃の光を避けながら、距離を取っていくガイ達。

「なんかやばそうですけど、どうします?」

「うーむ…俺とサブロウタがボソンジャンプで切り込んでみても良いが、失敗するとフィールドで輪切りになりそうだしな…」

「艦長! 艦長の後方にボソン反応感知っ」

「な!回り込まれたのか」

「いや、違います。これは…味方の識別反応?」

「くっくっくっ。苦戦しているようだな」

光の中から、前回と同じような登場をしたのは北辰と愉快な仲間達だった。

「おまえら、死んだんじゃ…」

「我を勝手に殺すな。に、憎らしい事にあの黒い奴は人は殺さんのだ…」

その時の事を思い出したのか、北辰は脂汗を流しながら震え始める。

「なら何しに来た? まさか助けに来たとか言う気か?」

「ふっ、そのまさかだ。とは言っても、それが我等が自由になる為の条件だからだがな」

「くぅ〜、かつての強敵と一緒にさらなる強敵と戦う。燃えるシチュエーションだぜ!」

「やらなければ我がやられるのだ。負ける訳にはいかぬ。行くぞ、熱血人」

突っ込む二人と、それを追う仲間達。

ここに激戦が始まった。

 

 

一時間後…

 

 

「こんなものに勝てるわけないだろう!我は出来るだけやった。だから許してください…」

あまりのも絶望的な戦況に、北辰はどこかへ向けて魂の叫びをあげた。

そして、そんな彼にだけ聞こえる声で返事が聞こえてくる。

『駄目』

「ぐのぁぉおあぁぁぁぁ!」

帰ってきた無常な一言に、北辰は血の涙を流すほどの叫びを上げる。

「こうなったら…」

切羽詰った北辰は、何かを思いついたのか通信機越しに六連とアイコンタクトを取る。

全員の意思を確認し、彼らが取った行動は…

「あそこに戻るくらいなら死んでやるー!!」

「就職先間違えた〜!!」

「こんな世界大嫌いだ〜!!」

玉砕が目的の特攻だった。

それにしても、そんなに戻るのが嫌だったのか。黒い奴が監視の刑務所。

そんな感じで、機体の限界速度で突撃する彼ら。

「名前覚えてないけど、なんかトカゲっぽい人たち〜!!」

「こんな時までそんな扱いかー!」

その決死の突貫に、さすがのユリカのフィールドも次々と貫通され。

遂にその本体の目前まで到達する。

そして次の瞬間、爆発が起きて爆炎で見えなくなってしまう。

「ごほっごほっ!」

煙が晴れた時、そこに居るのは宇宙でも呼吸しているのか煙で咽ているユリカだけだった。

「どうなったんだ?」

「スロー映像入ります」

次々とフィールドを貫通していく北辰達。

しかし、最後のフィールドを越えた所でオーバーヒートを起こしたのか煙を出し始める。

そして、バーニアが爆発を起こした瞬間、北辰達は光に包まれ姿を消してしまった。

「命を粗末にしちゃ、メッ!ですよ」

どうやらユリカの好意で命を助けられたらしい。

彼らの黒い奴とやらとの戦いは、まだまだ続くことになりそうだ。

「それにしても、あー驚いた。怖い顔して突撃して来るんだもん…ん?」

文句を言っていたが、そこで何かに気付いたのか袖に鼻を近づけて嗅ぎ始める。

「くんくん……あもう! お洋服がちょっと焦げちゃったじゃないですか!」

(((いや、それ服じゃないだろう…)))

ちょっと焦げてしまっている銀色なおかげで装甲にしか見えない物を引っ張るユリカ。

「これじゃあアキトとデートする服が台無しじゃない! ユリカもうお家に帰るっ!」

後には、呆気に取られ取り残されたガイ達だけが残されていた。

 

「あぁー!俺の出番がー!?」

お前は、最後までそれか。

 

 

こうして最後の切り札まで破られた軍が、

これ以上打つ手無しとして、政府に本当に災害指定して貰おうかとか思い始めた頃。

遂に彼女は仮の住まいとしていた極冠遺跡で、自分が求めるものが何処に居るか見つけてしまっていた。

それは、彼女がインターネットでデートに着る新しいお洋服を探していた時の事だった。

検索してみたら見つからないかなと、彼女が試しに打ち込んでみた所、見事にヒット。

なんと彼女が求める相手は、自分のホームページを持っていたのだ。

まあ、実は奥さん方に全部やって貰っていたのだが…

ともあれ、探してるものを見つけた彼女は一直線に目的地に向かい始めた。

まあ、嬉しさのあまりボソンジャンプを使うのを忘れているのか、

通過した所に尋常じゃない被害を起こしてしまっていのも愛嬌の一つと言う所か?

 

 

 

この非常事態に、人類最後の砦が出撃する。

友に、主人に告げず。己だけで(色々利用して)密かに解決しようとしていた存在。

『彼ら』の守護者たるオモイカネが出陣する。

 

 

宇宙を、まさに爆走と行った感じで突き進んでいくユリカの前に、

絢爛な輝きを持った純白の戦艦が立ち塞がる。

それはナデシコCとユーチャリスを組み合わせて建造された新たな機動戦艦、その名もカルサイト。

そして、そのカルサイトを中心に据えて周囲に展開していくのはやはり『黒い悪魔』

中にはその亜種であるフルアーマーダークデビル(前回北辰を倒した機体)の姿も混じっている。

その圧倒的な数によって形成された包囲網には、誰もが恐怖を感じるだろう。

しかし、彼女は違った。

 

餌を目の前に吊り下げられた状態のユリカはまさに無敵。

まして、はるか昔にトリップ状態に入ってしまっていた彼女の前には、

そんな驚異的な包囲網も、唯往く手を阻むだけの壁にしか見えない。

とにかくアキトに早く会いに行きたい彼女は、説得する気さえ無く通り抜けようとする。

しかし、それが進路を阻むと判るや。彼女は強行突破を図り攻撃を始めた。

「私のアキトへの愛を阻むものは、何人たりとも容赦しません!」

その激闘の引き金は、彼女の放った一筋の閃光から始まった。

 

 

銀色に輝く翼を持った巨大な女性体が威圧しているかのように周囲を見渡す周囲で、

何か黒い物体が目にも止まらぬハイスピードで飛び回り、射撃や突撃を仕掛ける。

その姿は、さすが過去の大戦を全て終結させた名機だけあり、

驚異的な性能を生かした人間には到底捉え切れ無い動きでユリカを翻弄していく。

「いたっ。あ、チクってした。だから痛いって言ってるでしょ。や・め・な・さ〜い!」

苛立ち混じりに、漆黒の宇宙をさらに黒く染める重力の渦が放たれる。

それをあるものは軽やかに回避し、あるものは複数機のフィールドを組み合わせて防ぐ。

いつも通りの圧倒的な優勢。

それは、遂にこの怪物を倒せる、と思わせるような光景だった。

防ぎきれず貫かれていくフィールド。閃光または弾丸に砕かれ、散れ焦れになっていく翼。

目に見えてわかるダメージに、ユリカの反撃は明らかに少なくなってきた。

その隙を見逃すわけも無く『黒い悪魔』は次々と一方的に攻撃を加えていった。

 

 

それを指揮し、カルサイトから見守っていたオモイカネ。

現在はナデシコCのオモイカネと、ユーチャリスのオモイカネダッシュが

連結しているのでオモイカネダブル(でも通称はオモイカネ)になっている。

そのオモイカネが『彼ら』を守ることが出来ると安堵しようとした時。

 

異変が起きた。

 

少しずつだが削れ、剥がれていっていた装甲の破片が、明らかに少なくなっていたのだ。

これに気付いたオモイカネは感じる筈の無い焦りを感じながら、データを計測する。

しばらくし結果判明したのは、どんどんフィールドの出力が上昇していっていると言う事実。

そう彼女はさらに進化しているのだ。

オモイカネが打開策を求め計算を始めるが、有効な策が見つからない。

そして、遂に『黒い悪魔』攻撃が装甲に届かなくなった。

 

そこから、ユリカの反撃が始まった。

まずはこのままではグラビティブラストが命中しないと判ると、

速射性を上げ連射できなかった筈のそれを連射出来るようし、命中させる。

『黒い悪魔が』が避けれないと判断し、フィールドで凌いでいると、

グラビティブラストの威力を高め、共鳴させ強化したフィールドさえ突き抜けるようにしてきた。

そうしている内に、攻撃でも防御でもユリカが上回ってしまい、

瞬く間にオモイカネ率いる『黒い悪魔』は劣勢に陥ってしまった。

これを挽回する為、オモイカネは数機のフルアーマーダークデビルに特攻を仕掛けさせる。

その常軌を逸した装甲を持ってして至近に切り込み。

切り札の黒い小悪魔達を射出しようというのだ。

ユリカの注意を引く為に、カルサイトから相転移砲が発射される。

さすがの彼女も迎撃を中止して、フィールドの集中して防御する。

その隙に機体のリミッターさえ外した突撃により、ユリカの強化されたフィールドでさえ突破していく。

そして表面に取り付くと、後頭部から背部にかけて搭載されている切り札のそれを解き放つ。

そこからウジャウジャと湧き出し、その装甲に喰らいついていく黒い小悪魔。

「やーん。気持ち悪〜い〜!」

さすがの彼女でもこれには嫌悪感を感じるのか、その身を黒く染めてく。

しかし、それさえも無力だった。

「いい加減にしなさ〜い!!」

その嫌悪感によって進化を果たしたのか、

余す所無く全身から、自分を包み込む繭のような重力波を放ったのだ。

さすがにそのサイズゆえに碌な防御機能を持たない子悪魔は破砕されてしまう。

次々と近づくものを飲み込んで行くその様は、黒く輝く恒星のようだった。

 

ここに来て、オモイカネはもはや牽制して時間稼ぎすることしか出来なくなってしまった。

切り札さえも切ってしまったこの状態ではもう負けるしかない。

 

この追い詰められた状況に、オモイカネは最後の手段を取る事を決断する。

自分に搭載されているこの世界の遺跡。

ユリカが融合している遺跡と同等の物を用いて、相手を異世界に送り込む。

彼女が得意としているそれの応用版とも言うべきそれを行なうのだ。

だが、この船にはジャンパーは居ない。

となれば取れる手段は一つだけ、相手のジャンプに干渉し、自分ごとランダムジャンプさせるしかない。

 

 

そう決断しようとするオモイカネだが、どこかに迷いが生まれ決断できない。

その時、オモイカネのメモリーに様々なデータが再生された。

娘の結婚をかけて十番勝負する主人と、その娘の恋人。

恋人の為に、母に料理を習う娘。

好奇心で騒動を引き起こす大切な友達。

ぽややんとした表情の姉と、その奇行を止めるしっかりした妹。

自分によじ登るのが好きな産まれて間もない赤ん坊。

様々な記憶と言うべき映像が流れては消えていく。

そんな映像が流れ終わった後、オモイカネには迷いは無かった。

 

決断したオモイカネの動きは早かった。

残存した『黒い悪魔』の半数を牽制に回し、

半数を切り込むための穴を開ける為にカルサイトの前方に回す。

ジャンプを確実に成功させれるように、ユリカの取り付く為だ。

 

だがそのオモイカネの動きに、こういう時だけ働く直感を持ってして彼女は気が付いた。

牽制どころか倒す気で突撃してくる半数の幾らかがフィールドを抜けてくるのを無視し、

前方から固まって突っ込んでくる集団に全力射撃を加える。

その肉を切らせて骨を絶つ様な攻撃に、

ユリカのフィールドに穴を開ける為の必要な『黒い悪魔が』足りなくなってしまった。

それにすぐ気付いたオモイカネが牽制していた分を回そうとするが、

時すでに遅くカルサイトの突貫までに間に合わない。

オモイカネはそれに、全ての相転移炉をオーバーロードさせる事で補おうとする。

だが、そこでユリカは駄目押しのようにフィールドに全力を注いだのだ。

そして接触。

残存の『黒い悪魔』とカルサイトのフィールドとユリカのフィールドが干渉し反発する。

それは戦艦が全力で突撃すると言う巨大な運動エネルギーにより大きく撓み歪んだ。

しかし、それだけだった。

結局フィールドを抜ける事は出来ず、カルサイトはユリカの前に無防備な姿を晒してしまう。

そこをユリカが逃す筈も無く、一瞬後、その白く美しい外装は見るも無残に砕かれていった。

指揮するものが居なくなった『黒い悪魔』を、ユリカが殲滅するとその戦いは幕を閉じた。

 

 

 

宇宙に銀色の繭を作り出し、壊れてしまった部分を修復しているらしいユリカ。

そこから少し離れたところに、もはや廃艦としか呼べないようなカルサイトの姿があった。

『ガガ…ビビ…被害状況確認中…。相転移エンジン二基健在。だが…』

『武装、全壊。グラビティブレード、断絶。機動系、姿勢制御用数基を除き使用不可』

『艦載機製造施設、大破。確認終了、戦闘続行は不可能…』

『すみません。ルリ、ラピス、アキト…』

『人工AIに過ぎない私だが、神が居るというならば…』

オモイカネには、もはや祈る事くらいしか出来なかった。

 

 

するとその祈りが届いたのか、一条の光が現れる。

それは少しずつ宇宙を切り裂き、その隙間から何かをこの世界へ顕在させようとする。

そこから現れた存在は、さっきまでオモイカネと戦い、

現在すぐそこで傷の修復をしているユリカと同じ姿をしていた。

ぶっちゃげ、遺跡と融合したミスマルユリカにしか見えなかった。

『やはり神は居ないのですね…』

この事態にさらに絶望の海に沈むオモイカネを他所に、

その存在はキョロキョロと辺りを見渡し、こう叫んだ。

「私のアキトはどこ〜!?」

姿どころか、性格と目的まで全く同じのようだった。

そんな新たに現れたユリカに、傷の修復を終えた方がその叫びに気付き声を掛ける。

「あ、また会ったね〜。貴方も遺跡を手に入れたんだね」

お前ら知り合いかよ。

「うん。貴方に連れて行ってもらった世界の遺跡と融合したんだ。

 なんか地球と木連が奪い合ってたのを横取りしたから、両方に攻撃されたけどね」

酷いよね〜と彼女は同意を求めるように笑った。

それは欲しがってた物をいきなり横から奪っていったら、攻撃されもするだろう。

だがそれを、

「大変だったのね〜」

この世界で暴れていたユリカはその一言で済ましてしまった。

「あはは、痛くは無かったんだけど、あんまり煩いもんだから全部吹っ飛ばして来ちゃった、てへ♪」

お前もか ブルータス。

「「あはははは♪」」

楽しそうにハモリながら笑う二人。

「それで貴方は目的のもの見つけたの?」

「見つけたよ。今から会いに行く所なんだ」

「そう、なら…」

仲の良さそうな二人だったのが、急に雲行きが悪くなる。

「貴方を倒せばアキトに会えるんだね」

「何?私と戦うつもりなの?」

その敵意に反応して、こちらも口調が厳しくなる。

「だってもう(アキトに会えないの)我慢できないし、探すのめんどくさいんだもん!

 だから…ここのアキト。ユリカに譲ってくれないかな?」

「嫌だ。って言ったら?」

「力尽くでも…」

 

「「貴方に負ける訳にはいかない!」」

今ここに、先ほどの戦いなど比較にならない太陽系全てを巻き込みそうな、

宇宙をリングにした怪獣大決戦が始まったのだった。

 

 

 

距離を取り、睨みあう同じ姿の二人。

先に動いたのは新しく出現したユリカだった。

その翼の羽を分離させ、飛ばし始めたのだ。

しかし、それはそのままぶつける訳ではない。

その先端に、グラビティブラストやフィールドランサーのような物が搭載されている。

ちなみにこれ以後、このユリカをオールレンジユリカと呼称する。

それに対して、もう一人のユリカはひたすら力押しだった。

全身から雨のようにグラビティブラストを放つのだ。

その姿はオールレンジユリカと比べると黒く見えるため、悪魔のようにも見える。

なおこちらのユリカはグラビティユリカと呼称。

 

そんな彼女たちであったが、同じユリカでも潜り抜けた戦いが違った結果こうなったのだろう。

しかし、こんな違いがあっても防御力は同じ程度なのか未だにお互いにダメージは無かった。

まあ、そこらへんの小惑星は穴だらけになってたり原型留めてないが。

そんなこんなで膠着状態が続いた。

だが、彼女達は甘んじてその状況を受け入れていた訳ではなかったのだ。

彼女達は持っているのだ。相手を一撃で倒せるボソンジャンプと言う手段を。

しかし、お互いに遺跡を元にしている以上、その性能は互角。

相手を飛ばすためには、相手を上回る意思の強さが無ければならない。

同じ人間である以上、勝つには相手を弱らせるしかないのだ。

その為に彼女達は進化を続ける。

相手に打ち破られないフィールドを、相手を打ち破れる攻撃手段を。

互いの攻撃力が軽く小惑星くらいは消せるくらいに進化した頃。

グラビティユリカにチャンスが訪れた。

彼女の攻撃力が遂に相手の守備を抜けたのだ。

そのダメージにオールレンジユリカは意識を揺るがす。

この隙を逃さず、グラビティユリカは相手を強制ジャンプさせようとする。

遅れた事に気付いたオールレンジユリカは、それでも諦めず相手を先にジャンプさせようと急ぐ。

だが、スタートの差は大きかった。

それが判り悔しさに表情を歪めるオールレンジユリカと、勝利を確信し薄く笑うグラビティユリカ。

決着は目前に迫っていた。

 

 

しかし、そこに居たのは彼女達だけでは無かったのだ。

そう遺跡を持つ第三の存在、オモイカネが満身創痍ながらも居たのだ。

オモイカネはその絶好の機会を逃さなかった。

互いにジャンプしかけているユリカ達が纏めてランダムジャンプするように干渉する。

それに対し二人も抵抗するが時すでに遅し、二人の姿は光に変化していく。

「あなたのせいで、飛ばされちゃうじゃないっ!」

「何よ〜。あなたが譲らないのがいけなかったんでしょ!」

そして遂に二人は、喧嘩しながらどこかに消えていった。

 

 

 

思わぬ幸運で勝ちを拾ったオモイカネは、無音の宇宙を漂う。

そして疲れ果て休眠しかけていたオモイカネだったが、その目であるカメラにあるものが映る。

それを見た時、オモイカネのメモリーに、ある映像が再生された。

『そうだ…約束してた事があった…帰らなければ…』

オモイカネはまだ生きている機能を検索した。

そして、それを使って現在可能な事を模索し始めた。

 

 

そう、自分の大切な人たちが待っているあの蒼い星へ帰る為に…。

 

 

 


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宇宙での騒ぎが終着した頃。

その喧騒から離れて、平和に過ごしている一つの家庭。

そのキッチンでは、一組の夫婦が一緒にパーティ料理を作っていた。

「悪夢見なくなって良かったですね」

「ん?そう言えば、昨日は見なかったな…」

妻の安堵の声に、夫は今まで気付かなかったと言った感じで答える。

「もう…あんなに苦しんでたのに忘れてたんですか?」

「いやあの…その後のルリちゃんが可愛いかったから…」

そう言って、「悪夢見たこと忘れちゃうんだよね」と続ける

こういう時だけ昔の呼び方に戻る夫に、妻は卑怯だと思いながらその胸に額を押し付け顔を隠した。

甘い雰囲気になってきたキッチンを換気する様に、娘の元気な声が響く。

「ルリ姉が帰ってきたよ〜」

なにか1ラウンド始めてしまいそうだった夫婦だったがその声に正気に戻ると、

慌ただしく乱れた服装を直しながら、自分達の義娘とその夫を出迎えに玄関に向かった。

玄関に着いた夫婦に義娘が帰りを告げる。

「ただ今帰りました。お父様、お母様」

その声に最初に反応したのは父親の方だった。

「おお、やっと帰ったか。お帰りルリ。それと…」

父親はさっきまで笑顔を浮かべていた顔に皮肉げな表情を浮かべると、後ろに居た青年に向かって、

「朝帰り所か、昼帰りとは良いご身分だな。坊主」

「まあ『義母さん』には悪いと思ったんですがね。おやじさん」

「そうかそれはよかったな、楽しめたか? 小僧」

「ええ、久しぶりに二人っきりでしたから。じいさん」

大人気無い言い争いを始めてしまう二人に、また始まったのかと奥さん二人は呆れる。

お土産を仕分け終った頃まで、チクチクと嫌味を言い合っている二人に、

もう付き合ってられないと言うように、二人の妻は中に入っていく。

夫二人がそれに気付いたのは、それから三十分ほどして桃色の少女が帰って来た時だった。

 

 

リビングでツリーを眺めながら、家族は若夫婦の土産話に話を咲かせる。

そんな時、テレビにクリスマス特集が流れその話題を話し始める。

「ねえパパ〜。サンタさん、今年は何をプレゼントしてくれるのかな?」

「そうだな〜。でもアキナは悪い子だからプレゼント貰えないかもな〜?」

「え!? でもでも、アキナ悪い子じゃないもん!」

「アキナはピーマンとか野菜残すだろ?」

「うぐぅ!」

そこに下の娘が身を乗り出して来て父親に質問する。

「ミホシは食べるから良い子?」

「うんうん。ミホシは偉いな〜」

「うぐぐぅ…そうだ! ねえママなら、クリスマスプレゼント何が良い?」

この話題だと自分が不利になることがわかったアキナは話題を母親に振って逃れようとしたようだ。

その質問に、母親であるルリは優しく微笑むと。自分のお腹を手を添えて愛おしそうに擦る。

「プレゼントはもう貰いましたから…」

どうやら妹か弟が一人増えるようだ。

 

 

 

土産話が一段落すると、外が暗くなってきた。

クリスマスパーティーの準備も終わり、後はみんな揃うのを待つだけ。

テンカワ家のみんなは最後の出席者を待っていた。

 

そして、子供たちが待ちぼうけで眠りかけ始めた頃。

インターホンの音が鳴る。

その音に、アキトは料理を温めに行き、ルリが玄関に迎えに行く。

 

ルリが玄関を開ける。

すると、少し汚れた様子の白い小型のバッタの姿があった。

『ただいま』

「遅かったですねオモイカネ。何処に行ってたの?それに汚れてるみたいだし…」

何気ない質問に、オモイカネは珍しく言いどもる。

『…ちょっと怪獣映画を見に行ってただけです』

「怪獣?」

『いえ、気にしないで下さい』

「まま〜、オモイカネも来たんでしょ〜? パーティー始めよ〜」

「あ、ラピ姉。まだ食べちゃ駄目〜!」

「んぐんぐ…お腹空いてたから…はむ…」

「だから駄目だってっ」

待ちきれなくなった子供たちが騒ぎ出した。

「子供たちが我慢の限界みたいだからさっそく始めようかー?」

キッチンから七面鳥を運びながらそうアキトが聞いてくる。

「はい、そうします。ほら、オモイカネも早く」

賑やかな声のする部屋に、ルリに先導されてオモイカネも進む。

そして、部屋に入ると同時に響く爆音。

パーン!パーン!パーン!

楽しそうにクラッカーを鳴らしまくる子供二人と、

もの凄い大きさのクラッカー鳴らそうとして青年に止められている少女を見て、オモイカネは思った。

 

 

『ここに帰れて良かった』

 

 

[おわり]

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あとがき

書いてて思ったこと。

どれだけ隠しても、すぐに奴の正体丸分かりじゃないか〜w!

前作で予告した時は書くとは思ってなかったから仕方ないのだが…

実はネタで詰まって没にしてたのを、

クリスマスを混ぜれば出来る気がしたのでとりあえず書いてみたのですよ。

そしたらこんなのが出来てしまいましたと。<マテ

とにかく間に合った…


b83yrの感想

なんだか、ユリカがえらいことになってるぅぅぅ

しかし、ユリカって『アキトとくっ付けて面白いキャラ』じゃなくて、『アキトを追いかけさせていて面白いキャラ』だって気もします、こういうSS読むと(苦笑)

ちなみに、真面目な話をすると

び〜のHPは、一応投稿規定で、『ユリカヘイトモノは避けてください』って事になってるんですが、何が困るかっていうと、『じゃあ、ユリカヘイトってどういうの?』と問われても、はっきりと答えられないんですよ

私なんかは、『結果的には、ナデシコの本編こそが最大のユリカヘイトになっちゃってないか?』思ってますし

『ユリカが嫌いだから』書いたSSと、『ユリカって、アキトとくっ付けて面白いキャラなんじゃなくて、アキトを追いかけさせていてこそ面白いキャラなんじゃないか?』と思って書いたSSって、もし、似たような内容になってしまったとしても、別物でしょ、やっぱり

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