『家猫』




   
  

……………突然ですが……………

私、捕まってます。

その犯人は身動きが取れないよう背中から覆い被さる様にしていて、
逃げれない様にしたまま、私の手のひらを貪る様に弄んでいます。

私は犯人がその行為に夢中になって、力が緩んだ隙に拘束からすばやく抜け出しました。

すると、ようやく脱出できて安心している私に犯人は追っ手を差し向けてきました。

それは大きな球体でした。私に向かって、私の身体ほどのもあるそれが迫ってきます。
   
私はそれを紙一重でかわすと、球体に向かって跳びかかりました。

そして…その球体を叩く!さらに転がっていくところを叩くべし、叩くべし。

しかし、何時まで経ってもその球体にダメージは見られません。さすがの私も疲れが出てきました…

それでも私はそれをやめることは出来ません…ええ、やめられません……
 
というより、やめたく無いんですけど…

だって、私…






今、猫ですし♪
 
…………にゃ!にゃ、にゃ、にゃー!……………にゃあ♪




  
え、何で猫になってるかって?

それは、かくかくしかじかで……………え、『わかんない!』って?

仕方ありませんね、長くなるんですけどいいですか?
   
『長くてもいいから!』って、では初めから説め…じゃ無くて、お話しましょう。

私にもよくわからないんですが…
   
きっかけはおそらく……


それはアキトさんの屋台の片づけを手伝っていた時でした…

すると、一匹の猫が屋台に近づいて来て、鳴き始めました。

「…?お腹すいてるのか?」

アキトさんはそう言うと屋台から、売れ残ったチャーシューを差し出しました。

「ほら、屋台の余り物だけど食うか?」

その猫は、恐る恐る近づくと匂いを嗅ぎ、食べ物だと判ると食べ始めました。

そして食べ終わると猫はまだ欲しいのか、お礼か、アキトさんの指を舐めだしました。

それに対して、アキトさんはくすぐったそうに舐めれながらも、
猫を撫でていました。その時のアキトさんの目はとても優しい目をしていて、
私は猫に向けられているアキトさんの視線を羨ましく思いながら、その光景を見ていました…

そして家に帰って、眠りに付く前に部屋でアキトさんが猫を可愛がっていたのを思い出して、
(あの視線を向けられたい)(私が猫だったら)などと取り留めの無い事を考えながら、
眠りについた夜の事のことでした。その夜、私は変な夢を見たのです。
 
  
   
夢を見ていることに気が付いた私は、ふわふわと空中に浮いている様な状態でした。

そして、周りを見渡すと……

 
猫、ねこ、ネコ、NEKO、CAT、猫がいっぱい…………

辺りには、沢山の猫が浮いていました。「私にしては可愛い夢を見るのね」と思っていた私に向かって、その中の一匹が突然質問してきました。

「何か願い事はあるかね?」 
  
それの質問に対して、私はなんとなく「猫になりたい」と答えました。

「ふむ、猫になると人に戻れるのは満月の晩だけになるがのだが、良いかね?」
 
どうせ夢だと思っていた私は、それに承諾しました。



そして、目が覚めると猫になっていたんです。

(これは現実?それとも夢?)

始めは戸惑っていましたが、どうしようも無いと思った私はとりあえず楽しんでみることにしました。

(慣れてくるとこの身体も面白いですね…)

そんなことを考えながら塀の上から屋根の上に飛び移りながら走ったりしながら
ふらふら歩いていくと、視点が違うせいなのか見るもの全てが新鮮に感じて
楽しかったのですが、その興奮が収まってくるとこれからどうすればいいか?
と、今の状況を冷静に考え始めてしまいました。

どうすれば、猫から戻れるんでしょう…………

もう暗くなってきましたし寝る所を探さないといけませんね……

(でも、猫ってどういう所で寝てるんでしょう?)

でも、まずは………


(お腹が空いてきましたね、どうしましょうか…)


これからどうしようか?猫として生きて行くか?それなら、ペットか野良か?

そんな戻る気があるのか判らないようなことを考えながらトボトボ歩いていると、
何故か道端にぽつんと空っぽのダンボールの箱が落ちてました。

何で、こんな所に落ちてるんでしょう?

まあ、猫になることもあるくらいですからこれ位不思議じゃありませんね。

よくわからない理論で納得した私は何故かそのダンボールが気になり、
気付いた時にはその中に入ってしまっていました。

何で私、ダンボールの箱に入ってるんでしょうか?
 
……でも、この中に入ってたら誰か優しい人が拾って世話してくれないかな…

………………例えば……………アキトさんとか………………………

そんなことを、ぼうっと考えていると、もう随分暗くなっていたのが
急に真っ暗になってしまい、それに驚いて私が顔を上げると…
   
「ん、捨て猫か?」

聞いたことのある、私が聞き間違えるはずの無い声が聞こえました。

「でも、首輪付いてるんだから迷子かな…」

ボサボサの髪で、優しげな顔をしたあの人でした。

私は突然現れたその人に、目を見開いて驚いていると

「………あ!」

私を見ていたその人は何かに気付いたように、小さく叫びました。

「…………」

その後、その人は何か考えながら黙り込んでしまいました。

「にゃー…」

そして、私はそのままその人が立ち去ることを恐れて、小さく鳴き声を上げました。

その人は、しばらく私を見つめると

「うーん、料理人が動物を飼うのは良くないんだけど…」

私を抱き上げて微笑みながら目を合わせるとやさしくこう言いました。

「…家に来るか?」

それに対して私は

「にゃーぁ♪」

即答で返事をしていました。

その鳴き声は自分でも判るくらいに嬉しそうでした。

そして、色々あって今に至るわけです。

……ぁ…アキトさん…そこ…気持ちいいです……


え、何ですか?『色々の所を知りたい!』ですか?

……仕方ありませんね。少しだけですよ。

  
  
アキトさんに抱き抱えられたまま、アキトさんの家に着いた私はさっきまで暗かったので
気付きませんでしたが、昼間に慣れない身体で歩き回っていたせいで随分汚れていたようです。

(小さいことを良いことに狭い所を通ったりしましたからね…)

「お前…かなり汚れてるな」

アキトさんもそれに気付いたようです。

「よし!俺も仕事で汗かいて気持ち悪いし、まずは風呂にしよう!」

こういう時は、決断が早いのかそう決めるとアキトさんはすぐにお風呂場に向かいました。

お風呂場に入って私を降ろすと、アキトさんはいきなり服を脱ぎ始めました。

…アキトさん、そんな急に…って、私は今、猫なんでした。

驚いてる私を他所に、すでにアキトさんは服を脱ぎ終えて、お風呂場のドアを開ける所でした。

「ほら、行くぞ」

私も抱き上げられて、中に一緒に入りました。

「すぐに洗ってやるから、大人しく待ってろよ」

そう言うとアキトさんは、5分も掛からず自分も洗い終えていしまい、私にお湯を掛けてきました。

「動物用のシャンプーが無いけど、大丈夫だろう」

アキトさんがそう言いながらシャンプーを掛けると、私はあっという間に泡だらけになってました。

そして、私を洗うのもあっという間で、気付くとシャワーで泡を流されているところでした。
   
「あ!…お前…目の色だけじゃなくて、毛の色もルリちゃんと同じだったんだな」

アキトさんは汚れが取れて、元の毛の色がわかるようになった私を見てそう驚いていました。

その後は、シャワーを浴びて温まってからお風呂を出ました。

(アキトさんの裸を見てしまいました…) 
   

お風呂から上がり、私を乾かしたアキトさんは

「うん、綺麗になったな」

そう言いながら、私を抱き上げました。

「お前…首輪付いてるんだから飼い猫だよな…」

アキトさんは私の首に付いてる赤いプラスティックの首輪を見ながらそう言いました。

「お前の名前なんて言うんだ?」

「にゃ」 (ルリです)

とりあえず、アキトさんの質問に駄目元で名乗ってみました。

「ふっ、言っても判るはず無いか…」

アキトさんがそう苦笑いするのを、やっぱり通じないのかと落胆していると

「…いつまでも、お前じゃ駄目だよな……」

アキトさんはそう言いながら私の名前を考えて悩みだしました。

「…うーん、思いつかないな……」

アキトさんは、私ごと左右に揺れながら考えていましたが、

「……駄目だ、良い名前思いつかないから、とりあえず……『チビ』って呼ぶか…」

思いつかなかったのか、ギブアップして妥協案を出して来ました。

「にゃ」(それで良いですよ)

私は肯定の意志を込めて、鳴き声をあげました。

「思いついたら、ちゃんとした名前をつけるやるからな。約束だ」

アキトさんは私が嫌がっていないことが判っても、
自分で納得できないのか、私にそう約束してくれました。

「にゃーぉ」(可愛い名前付けてくださいね)

(……アキトさんに付けて貰える、私だけの名前………)



お昼にアキトさんが暇な時は、アキトさんの足の上で撫でて貰いながらお昼寝です。
   
   
気持ち良いです…アキトさんおやすみなさい…ネムネム……


  
「ただいまー」

アキトさんが帰ってきました。何か買い物して来たみたいですね。

「チビ、いいもの買ってきたぞ♪」

そう言うと買い物袋をあさり、何か取り出しました。

「あった、あった、ホレ♪」

な、なんとそれは………………………『ねこじゃらし』でした。

でも、いくら私が猫になっているからってそんな物、気になりませんよ…

そんなことを考えてるのも知らずにアキトさんはねこじゃらしを振りながら、私を誘ってきます。

「ホイ♪ホイホイ♪」

それに対して、私は顔を背けて関心が無いように振舞おうと思いながら…

少しだけならいいかも……………………いえ!駄目です、誘惑に負けてはいけません!

………気にならないっていったら、気にならないんです!

………でも……………チラッ…………チラッ………チラッ……チラッ……………

………………………………………………………………………………………………
  
「にゃっ♪」(我慢できません!)

あっちにふらふら、こっちにふらふら。私はそれを追いかけて右へ左へ動きます。

映像でそうやってる猫を見たときは疑問でしたが、意外に楽しいですね。あ!今度は上下に!

「にゃ、にゃにゃ!うにゃっ!」 
  
「ホレ♪ホレ♪」

私の人としてのプライドがやめろと言っていますが……

やめたくありません!やめなくて良いんです!!

私、今は人じゃありません、猫です♪

……にゃぁ……んにゃ………うにゃにゃにゃ…………………



相手をして欲しかった私は座ってテレビを見ていたアキトさんに、身体をスリスリと摺り寄せました。
   
「チビは甘えん坊だな」

アキトさんが喉下と背中を同時に撫でてくれるのを気持ちよく感じながら、
目をほそめて見上げてみると、アキトさんが優しい目で見ていました。

それが気持ちよくて、もっといっぱい撫でて貰おうと思って仰向けになると、
今度は私のお腹の辺りを撫でてくれます。

気持ちよさに目を閉じていると、そんな私を撫でているアキトさんの手が色んな所に………

あ、アキトさんそこは!そんなところまで!……ああ、そこはダメェェ……………

…………………ふぅ………………(凄かったです…)

これはもう、アキトさんにお嫁にして貰うしかありませんね♪


そんなこんだで暫く経ったある日

「にゃー」(アキトさん遊んでください)

いつものようにアキトさんにじゃれ付いたら…

「…ん、どうしたチビ?」

そう言って、何処か遠くを見遣りながらもゆっくりと撫でてくれました。

…?おかしいですね。いつもなら微笑みながら撫でてくれるのに、
今日はボーっとして心あらずといった感じです。

私は欲張りになったようです。アキトさんの視線が私に向いてないのが寂しい…

それにしてもアキトさん、何か心配事でもあるんでしょうか? 

「いってきまーす」

「にゃぁー」(いってらっしゃい)

アキトさんが屋台を引きに行ってしまいました。何で付いて行かないかって? 

それはアキトさんが屋台で働いている間、私は衛生上問題があるということでお家でお留守番なんです。

お留守番中はやる事が無いので、私はほとんどの時間を丸くなって寝て過ごしています。

そういえば、アキトさんは私がこの家に着てすぐの頃は、普通の時間に帰ってきたのですが、
この頃、アキトさんは帰りが遅いです。無理をしてなければいいのですが…

ガチャ

アキトさんが帰ってきました! 私はすぐにアキトさんの足元に駆け寄ります。

「ん〜、ただいま〜」

アキトさんはだるそうにしながらも抱き上げてくれました。

「にゃー」(おかえりなさい)

「だけど、今日は疲れてるから、遊ぶのは勘弁してね?」

しかし、そう言うとアキトさんは私を降ろすと、すぐに布団に倒れこんで寝てしまいました。

「にゃーぅ」(残念ですね)

   
眠り込んだアキトさんの枕元にちょんと座り込みながら、アキトさんのことを考えていました。

(…アキトさんが何を悩んでいるかわかりませんが…無理はしないで下さいね…)

そしてその夜から、私は少しでもアキトさんの疲れを癒したいという思いを伝えたくて
寝ているアキトさんの目の上をキスをするように舌で舐めることが日課になりました。

さらにその次の日からは、呆けていたり、寂しそうな顔をアキトさんがする度に
アキトさんにじゃれつくのも日課になりました。

しかしそうしながらも、私は何かがを足りないような気がしていました。

 
そんなことが続いていたある日……   
   
いつもは疲れてすぐに眠ってしまうアキトさんが眠らずに起きていました。

膝に乗せた私の背中を撫でながら、ぼうっとしているだけでしたが
アキトさんは私の背中を撫ぜながら、小さな声で話し始めました。

「…最近、会えない娘が居るんだ…」

む、誰でしょう? 私の脳裏に数人の女性の名前が浮かびます。

「前の職場…戦艦だったんだけどな、そこで知り合ってさ…」

「いつも屋台を手伝ってくれてた娘なんだけど……」

「急に行方不明になったらしいんだ」

(なんか、心当たりがあるような…)

「ホシノ・ルリって名前なんだ。綺麗な良い名前だろ?」

…………?……………私ですか?!

「仕事が終わった後とかに、近くを探したりしてたんだけど…」

「……ミスマルのおじさんとかが探してるのに、俺が探したって意味無いよな…はは…」
   
アキトさんはそう言うと、俯いてしまいました。

私はアキトさんが私を心配して探してくれていたことを喜びながらも、
自分の無力さを悔やんでいるアキトさんをなんとかしあげたかった。それでもこの身体では
言葉一つ掛ける事も出来無くてそれが悔しくて、なにかしたいと思っても
今の私には、アキトさんの頬を舐めるくらいのことしかできませんでした。
 
ペロ、ペロ

「……慰めてくれてるのか?……ありがとう……」

私のそんな行為にでも、アキトさんは弱々しくも微笑んでくれました。

「落ち込んでても、しょうがないよな…」

「チビのおかげで少し気持ちが楽になったことだし、もう寝るか」
   
     
アキトさんが眠った後、私はさっきのことを考えていました。

私って、行方不明になったことのなっていたんですか、知りませんでしたね。

少し考えれば、すぐに思いつくことなのに考えることもしなかった。

そして、そんなことも気付かなかった私をアキトさんは心配してくれていた。

それを私、アキトさんに甘えられるこの状況が嬉しくて……

   
そうやって今までの自分の行いに自己嫌悪していると、突然目の前が真っ白になりました。

(…あ!)
  
視界が回復した時、風景が変わっていました。いえ、視点が高くなってます!
何が起こったか確認しようとした私は自分の手を見て驚きました。

(手が元に戻ってる!…身体も!)

いきなり人間に戻って驚いていた私は、ふと窓を見て何が起こったかを漠然と理解しました。

(…そういえば夢で満月の夜には戻るとか言っていた様な…)

アキトさんに私が無事なことを伝えたい。だけど、戻っていられるのは満月の夜だけ。
満月の夜にしか戻れなくてまた心配させるくらいなら教えない方がいい…

だけど…せめて、こうさせて下さい。

私はアキトさんの上半身を脚の上に乗せてから、首に手を回すようにして頭を抱きしめました。

「…ごめんなさいアキトさん、私…自分の事しか考えてなかった…」

そうやっていると猫の時に足りないと思ったものが何か判るような気がしてきました。
     
その気持ちは私の自己満足かもしれない。だけど、猫の立場だけではなく妹のような立場でも
得ることの出来ない、私が求めていたものでした。しかし、やっと気付くことが出来たこの
気持ちを感じることが出来るのは、もうこの瞬間だけだということにも気付き悲しい気持ちになりました。

(猫に戻りたくない!猫に戻ったらアキトさんに甘える事しか出来なくなっちゃう!)

(甘えているだけの関係でいるのは嫌!私はアキトさんと支え合うような関係になりたい!)

悲しみ、後悔、怒り…。多くの感情が私の中に渦を巻き、   
私はやっと自覚することの出来た想いが、もう叶わない事に絶望を感じていました。

   
そうやって、哀しみにくれていた私は聞いたことのある声が聞こえると
共に急に眠気を覚えました。
  
(余計なことをしてしまった様だね。すまなかった。)
   
そんな声を聞きながら、私は眠りに落ちていった。

   

次に目が覚めた時には、自分の部屋のベットの上でした。
  
「……ここは……今までのは……猫になってたのも夢?」

いまいちハッキリしない頭で考えながら、ベットから立ち上がりました。

(部屋は何も変わってませんね…)

そして、日付と時間を確認してみると、今までのことが夢では無かったが分かりました。

状況を確認するために、私は部屋を出てリビングに向かった。

リビングに入ると、ユリカさんが居ました。ユリカさんは私を見て驚くと、

「ルリちゃん!!今までどこに行ってたの!!」

ユリカさん、心配してくれるのは嬉しいんですが……声大きすぎ…。

大きな声で質問しながら抱きついてくるユリカさんを何とか、誤魔化してから、
私の心配してくれていた人が沢山居ると聞き、
帰ってきた事の報告と心配させた事を謝りに回ることにしました。

沢山の人が心配してくれたことを嬉しく思いながら、次々に回っていくと、
とうとう、わざと最後にまわしていた人の所に着いてしまいました。

緊張しながらもドアの前で身だしなみを整えて、ドアをノックしました。

コンコン
ガチャ

ノックすると、ほとんど間をおかずにドアが開きました。

それに驚いた私は、とっさに、

「あの…ご心配をおかけしたみたいで…」

頭を下げながらそう慌てて言いました。
   
そして、顔を上げると……
私が頭を下げている間に、近づいてきたアキトさんが私をおもいっきり抱きしめました。

「ルリちゃん……」

その耳元で聞こえるアキトさんの声に、私は顔は真っ赤になってしまいました。

「…!あ、あの!」

私が慌てている間にも、アキトさんの抱きしめる力が強くなっていきます。

アキトさんに抱き締められていることに幸せを感じていた私ですが
   
「…!痛いです…アキト…さん…」

さすがに苦しくて、そう声に出してしまいました。

「…!ご、ごめん、ルリちゃん!大丈夫?」

アキトさんはそう言ってすぐに、慌てて力を緩めてくれましたが抱き締めたままです。

真っ赤になっていた私は、自分にしたこと気付き驚いているアキトさんに

「それに、嬉しかったですし…」

俯きながらもアキトさんに聞こえるかどうかわからないくらいの声でそう呟いていました。

「…え!」 

それを聞いたアキトさんの反応が気になった私は恐る恐る顔を上げた。

顔を見てみると、今度は真っ赤になったアキトさんが慌てていました。

抱き締めた状態で暫く赤くなっていたアキトさんは、深呼吸で呼吸を整えると
抱き締めていたのを離してから私の両肩に手を置き、真剣な顔になって私に目を合わせながら話し始めた。

「ルリちゃんに言いたい事があるんだ…」 
   
「俺、…………ルリちゃんのことが好きだ!」

「…ルリちゃんが行方不明になって気付いたんだ…」

「俺はルリちゃんと一緒に居たいんだって…」
  
「だから…俺と付き合ってくれないかな?」
 
「………………」

私はアキトさんの思いがけない告白に、思考が停止してしまっていました。
    
  
そうして黙っているのを、拒絶と感じたのかアキトさんは沈んだ声で、

「…ご、ごめんね、急にこんな事を言われても困るだけだよね…」

その後に続く言葉に気付いた私は慌てて、叫びました。

「こんな事言い出したのは俺だけど忘れ「あ!あの!!」…ない……?」
 
アキトさんは急に大きな声を上げた私に驚いていましたが、私はそれに気付かず、
さらにこう問いかけました。

「アキトさん、私まだ子供ですけど、私なんかで良いんですか?」

アキトさんはすぐに質問の意味を理解出来ない様でしたが、理解出来ると、

「…うん!…ルリちゃんじゃないと駄目なんだ!」 

笑顔で応えてくれました。

それに対して私は実感が欲しくて、こうお願いしてしまいました。

「じゃあ、あの……証明してください…」
 
そう言って目を閉じました。

そうして少し経つと、私の顔にアキトさんの顔が近づいてきて………

(…アキトさん……)

   
  
   
  
その後は、アキトさんに私が行方不明になってたことを誤魔化したりして、
私が居なかった間のことを話して貰ったりしているとアキトさんが、
  
「…チビ…」

突然、そう呟きました。

私は自分が呼ばれたと思って、

「はい?」

そう反射的に返事をしていました。

(あ、呼ばれたと思って返事してしまいました…)

「ん、『チビのやつ、どこに行ったのかな…』って言ったんだけど…」

それに対してアキトさんは、聞こえなかったのを聞き返しただけだと勘違いしてくれたようです。

しかし、それにしては様子がおかしいと思ったのか、心配そうに覗き込んで

「…それがどうしたの?」

と質問してきました。

(何か言って、ごまかさ無いと…)

「いえ、なんでもないです。あ、あの、チビって誰ですか?」

「そっか、ルリちゃんが居ない間だったから、知らないか…」

アキトさんは少し考えてから、手振りを交えて話し始めました。

「…えっと、ルリちゃんが居ない間にね。まだこれくらいの小さい猫を飼ってたんだ。
今日の朝に目が覚めた時に、もう居なくなっていてね。探したんだけど見つからなかったんだ。
頭も良かったし、首輪も付いてたから家に帰ったんだと思うんだけど…」

「そいつさ、俺が落ち込んだりしてる時に近寄って来て、じゃれついて来たんだ。
きっと、俺が落ち込んでるのをわかって慰めてくれてたんだと思う」

「チビって言うのは、ちゃんとした名前が思いつくまでの仮の名前だったんだけど…」

そう言うとアキトさんは顔を俯かせて、寂しそうに一言呟きました。

「…ちゃんとした名前つけてやるって、約束したのにな…」

急に落ち込んで黙ってしまったアキトさんに

「その猫、『チビ』って呼んで返事してくれたんですよね?」

「…うん、呼ぶと嬉しそうに近づいてきてくれた…」
 
「なら、それがその子にとっての名前だったんですよ」

気休めにしかならないと思いながらも、元気を出してもらいたくてそう言いました。

「…!そうだね、ルリちゃん」

そんな出任せの様なものでも、アキトさんは嬉しそうに微笑んでくれました。

私はアキトさんの寂しさを和らげる事が出来たのを嬉しく思いながら、
アキトさんに微笑み返しました。

私の微笑みに対して、さらにアキトさんはこう言いながら笑い返してきました。

「俺、ルリちゃんを好きになってよかった」
 
不意をつかれた私は、林檎の様に真っ赤になってしまいました。

    
    

「そうか、あいつが気になったのはルリちゃんに似てたからか…」
   
アキトさんのそんな呟きが聞こえた気がした………  







その後、アキトがチビについて話すのを聞いていたルリは、アキトとお風呂に入った時や
一緒の布団で寝ていた時のことをアキトが話すところになるとそのことを思いだしてしまって、
その度に赤くなっているのをアキトに気付かれてしまい、それを誤魔化すのに大変だったとか……




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あとがき

詰め込み過ぎた・・・。 告白のシーンの所だけでもう一つ別に話が作れるじゃないか・・・。

気を取り直して、こんな物を最後まで読んでいただきありがとうございます。

一人称は初めてなので、上手く表現できたか不安なんですが。
 
実はこの話はある1シーンが書きたくて、書き始めたんですが・・・目立ってない(笑)
  
まあ、そんな事もあるという事で(苦笑)

では、また書くことがあればお会いしましょう。(ぺこり)


b83yrの感想

良いなあ、ルリ猫良いなあ、私も欲しいなあ♪

「やらん」

えっ(汗)

・・・あっ、あの、もしかして私の後で銃らしき物をつき付けて殺気を放ってるのってアキト君?(汗)

「ひとつ間違ってる、銃らしき物じゃない銃そのものだ」

やっぱり(汗)

あっ、あの〜〜、もしかして私に恨みとかあります?(汗)

「あるぞ・・・・ルリちゃんを狙う奴は敵だ・・・」

いっ、いや、そんな地の底から響いてくるような冷たい声で言わなくても(汗)

「余計な事言ってないで、ちゃんと感想を付ける、折角投稿してくださった一夜さんに失礼だろ(にやり)」

えっ、え〜と、まあ、私も技術的な事については所詮は素人なんで、言える事もないんですが、ルリが可愛くてよかったなあと(汗)

・・・・び〜のこの後の運命は、一夜さんが次の作品を投稿してくれた時にわかるかもしれない・・・・

ううっ、私の連載の方で焦らしてるんでアキト君がすっかり黒くなってる・・・(汗)

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