普通なら、自分の誕生日という物は嬉しい事が多いのだが、育った環境や性格等々によっては、そうでない人もいる

「お父さん、なんでうちではお母さんの誕生日のお祝いをしないの?」

「それは・・・・・・」

娘に聞かれ、返答に困るアキト

「まあ・・・・・色々と大人の事情があるんだよ」

と、誤魔化そうとするが

「もしかして・・・・・・・・・お店が上手くいってなくて、生活が苦しいとか?」

娘は、本当に心配そう

「いっ、いや、それはない、それはないから」

実際、アキトの店は、中々順調である

大儲け出来るほどの店でもないが、食っていくのに困る程でも無い

では何故?


Misunderstanding


話は、昔の事へとさかのぼる

「そういえば、ルリちゃんの誕生日は、7月7日だったよね?」

「私は・・・・・・・誕生日のお祝いをしてもらっても、嬉しくないです・・・」

間髪居れずに、答えるルリ

「えっ、なんで?」

とは言いつつ、ルリの性格なら、「誕生日など、祝ってもらっても無駄だ」とそんな風に答えるかもしれないと、アキトも予想はしていたのだが

なにか、何時ものルリと違う、妙な違和感を感じる

・・・・なんだろう? この違和感は?

と思いつつも、

「でも、折角の誕生日なんだから、君に何かプレゼントぐらいするよ、流石にあんまり高い物はムうっ(汗)」

最後まで、台詞を言うのよりも先に、きっと睨みつけられるアキト

「私は、要らないと言っているんですっ、プレゼントなんかも欲しくありませんっ!!」

ルリは完全に、怒りの形相

・・・ルリちゃん・・・どうしてこんなに?(汗っ)

違和感の正体・・・・・それは

普段のルリの、「冷たい」イメージに反し、今日はやけに「熱く」なっている事

それだけではなく

なにか、「影」のようなものを感じるのだ

ルリとアキトが付き合い始めて、最初のルリの誕生日、アキトはそれなりに気合を入れていた

やはり、付き合い始めた相手には、それなりに良い所を見せたいのは、男の人情というもの

それが、まさか、こんなにルリが怒るとは

「あっ、あの、ルリちゃん、何か誕生日に嫌な思い出でも?(汗っ)」

またも、睨みつけられるアキト

「・・・・・・・良いですよね、誕生日が誕生日の人は・・・」

そのまま、プイッとどこかへ行ってしまう

・・・誕生日が誕生日の人・・・どういう意味なんだ?・・・・・・・・

立ち去るルリの後姿を眺めながら、その意味が解らず一人取り残されたアキトは、呆然としていた


 


・・・しまった、私、とんでもないことを・・・・

ルリはルリで、しばらく後に冷静になった後に激しく後悔していた

アキトに悪気があった訳ではない、それは、解る

解るが・・・・

今まで、誕生日の事など、気にした事など無かった

7月7日・・・・・・ネルガルの研究者達が決めた、「暫定」の誕生日

自分の本当の誕生日など、知りはしない

はっきり言って、『製造年月日』とでもした方が、実態に合ってるような気すらする

だが、どうでも良かったのだ、以前ならば

テンカワアキトと付き合うようになってから、『自分は普通の人とは違う』事を身に沁みる事が何度もあった

いつしか、その『違い』が怖くなっていたルリ、いつかそれは・・・・『普通の人』に過ぎないアキトを自分から遠ざけてしまうのではないか? と

その恐怖がルリをいらつかせ・・・・・・傍から見ている分には、『そんな事をすれば、かえって逆効果だ』 と言われてしまうような行動をとってしまう事が、最近は多くなっている

解っているのだ、ルリ自身にも、今回も、素直に喜べば良かっただけの話

それなのに・・・・

「・・・・・・・・私の・・・・・・馬鹿・・・・・・・」


 


アキトは、アカツキの所に相談に来ていた

過去のルリのことは、アキトは良く知らない

むしろ、ネルガルの会長の方が、知っているのではないか? と思ったのだ

「ルリ君の事?、知っている事なら答えられるけど」

「あの、ルリちゃんって、昔、誕生日に嫌な事でもあったのかな?」

「ルリ君ねえ、嫌な思い出かどうかは知らないけど、良い思い出も無いんじゃない」

「良い思いでが無い?」

怪訝そうなアキト

「君なら、解りそうなモノなんだけど・・・・」

アカツキは、少し口ごもる

「君は・・・・・・・ご両親を子供の頃に亡くされたんだろ、その後の誕生日は、どんな気持ちだった?」

「あっ・・・・・・・・」

一番祝って欲しい人が欠けた誕生日・・・・

「そっか・・・・・・・俺・・・・・・・・」

アキトは、ルリにはなにか自分と似たものがあると感じていた・・・それなのに・・・

沈んでしまうアキト、とはいえ、ルリの気持ちとは、まだズレがある

ルリは、そんな事を気にした事は無いのだ、『アキトだからこそ』あんな反応になってしまった事に、当のアキトが気づいていない

とまあ、シリアスな過去があったりもするのだが・・・・

 

既に、二人には結婚して子供もいる

今更、『過去の事で自分からアキトの気持ちが離れていってしまう事』などルリは心配していない

『過去の事』ではなく、『過去を気にしすぎて、ルリ自身がおかしくなる』事で、かえってアキトの気持ちが自分から離れていってしまう事も、今は良く解っている

今ならば、誕生日を祝ってもらっても、全くなんの問題も無いのであるが・・・

最初の誕生日の事を気にしてしまったアキトとしては、ここまで、一度もルリの誕生日を祝うに祝えなかった

とはいえ、娘に『私も、ふつうのおうちみたいに、お母さんのおたんじょうびパーティーしたい』と言われてしまえば・・・・

アキトは、困ってしまう

・・・・・ルリ怒るかなぁ?・・・・

痴話げんかも夫婦げんかも、何回もしはしたが・・・・こういう場合に怒るのと、けんかになってしまって怒るのとでは、やはり何かが違うのだ

とはいえ、娘の願いはかなえてやりたい・・・

そして、意を決して誕生日の事を話せば・・・・・

「あっ、いいですよ」と、あっさりとした返事、いや、むしろ、嬉しそう

拍子抜けしてしまう、アキト

そんな様子をみて、怪訝そうなルリ

「どうしたんです? 、そんなにほっとしたような顔して?」

「いっ、いや、だって、昔ルリの誕生日の話したら、凄く怒った事あったし・・・」

いまでも、「ルリの気持ちを傷つけてしまって事」として、アキトはずっと気にしてした

「あ・・・・・・ごめんなさい、あの時は・・・」

実は、ルリの方も気にしていたのだ

あの後、誕生日になっても、アキトは何も言い出さず・・・

・・・アキトさんは、内心では怒っているのではないのか? 私は、嫌われてしまったのかもしれない・・・

と、自分の誕生日が近づく度に恐れていた

恐怖から開放されたのは、結婚してから

そして、結婚してから後は、育児等々忙しい事も多く、そんな事など、半分忘れかけていた

そして、その歳から、ルリの誕生日を祝えるようになるのだが、アキトの誤解は、このまま続くのである

『ルリは、アキトが自分から離れていく事を恐れて怒った』のだと言う事が解らず・・・・・

その後も、何回かの夫婦げんかの原因になるのだが・・・・

それでも、二人はなんだかんだと幸せだった

多少の誤解などあっても、くっつく二人はくっつくものだし、幸せにもなれるのである(笑)


後書き

誕生日ネタ、尽きてるぞぉぉぉぉぉぉ、マジ苦しくなってるぅぅぅぅぅ

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